はじめに
IPv4/IPv6 ネットワークの自動設定を支える Dynamic Host Configuration Protocol(DHCP)は、家庭の Wi‑Fi ルータからデータセンタ、クラウド VPC に至るまで不可欠なインフラです。本記事では、DHCP の概要と使い方を復習しつつ、
- 個人向け小規模ネットワーク(住宅・SOHO の Wi‑Fi)
- 企業やキャンパスなど中大規模ネットワーク
の設計・運用差異を 3,500 文字程度で整理します。
1. DHCP とは
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役割: IP アドレス、サブネットマスク、デフォルトゲートウェイ、DNS サーバなどをクライアントへ自動配布し、手動設定ミスと運用コストを削減。
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プロトコル種別: UDP 67/68 番ポート、ブロードキャスト/ユニキャスト併用。
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基本フロー (DORA)
- Discover: クライアントが 0.0.0.0 からブロードキャストで「誰か IP くれませんか?」
- Offer: サーバが利用可能な IP と各種オプションを提示
- Request: クライアントが希望 IP を宣言し取得要求
- Ack: サーバが確定通知しリーススタート
2. DHCP の構成要素
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サーバ: isc‑dhcpd、dnsmasq、Windows DHCP、Cisco IOS 等が代表例。
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クライアント: OS 内蔵の dhclient、systemd‑networkd、NetworkManager、モバイル OS のスタックなど。
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リレーエージェント: ルータや L3 スイッチが Option 82 を付加し、異なるサブネットへユニキャスト転送。
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主要オプション:
- Option 1: Subnet Mask
- Option 3: Router
- Option 6: DNS
- Option 15: Domain‑Name
- Option 43/60: ベンダ固有情報(VoIP 電話の自動プロビジョニングなど)
3. 小規模 Wi‑Fi ネットワークでの DHCP
3.1 一体型ホームルータ
- 多くは AP・NAT・DHCP が統合された SoC。GUI でメインプールを 192.168.x.0/24 に設定し、範囲は .2–.254 がデフォルト。
- リース時間は 24h–7d 程度。短くすると再認証が増え接続切れ要因になる。
3.2 典型的設定手順
- 管理画面で DHCP サーバ機能を有効化。
- IP プール範囲を決定(例 192.168.10.100–150)。
- 予約アドレス (Static DHCP) で NAS・プリンタを固定。
3.3 運用のポイント
- IP 衝突防止: LAN 内で手動固定 IP を併用する場合、プール外レンジへ配置。
- UPnP 自動ポート開放: 安易に有効化すると脆弱性露呈。必要最低限で。
- ファーム更新: DHCP Daemon の脆弱性修正は FW 更新でしか対処できない。定期確認必須。
3.4 典型的トラブルと対策
- APIPA 169.254.x.x: サーバ不達 ⇒ ルータ再起動 or LAN ケーブル断線確認。
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リース枯渇: IoT 機器の増加で
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上限 253 台に到達。サブネット拡張または不要機器削除。
4. 中大規模ネットワークでの DHCP
4.1 サブネット分割とリレー
- フロア / VLAN ごとに
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以上を割当。DHCP サーバはデータセンタに集約し、各 L3 デバイスで ip helper‑address を設定。 - Option 82 (Circuit‑ID, Remote‑ID) でどのスイッチ/ポート配下か特定し、きめ細かいアドレス配布と監査を実施。
4.2 可用性とプール設計
- 冗長構成: DHCP フェイルオーバープロトコル (isc‑dhcpd)、Windows DHCP failover、Infoblox Grid など。
- プール分割 (Split‑Scope): 80/20 ルールで 2 台にアドレス分散し障害時も枯渇を防止。
4.3 IPAM 連携と動的 DNS
- 多拠点でのアドレス一元管理は IPAM (BlueCat, Men&Mice) が事実上必須。
- 更新時に DDNS (RFC2136) 連携しホスト名 → IP がリアルタイム同期。
4.4 セキュリティ
- DHCP Snooping: 信頼ポートのみ Offer/ACK を許可、Rogue サーバ対策。
- 802.1X + MAB: 認証後に VLAN 割当、DHCP リース開始を連携。
- ACL/ファイアウォール: DHCP レイヤではなく L4/7 で業務アプリを制御。
4.5 大規模 Wi‑Fi
- コントローラベース WLAN では VLAN プールと DHCP リレーで数万端末に対応。
- Fast‑Secure Roaming(機器移動時の再アドレス不要)には同一 L3 ドメイン設計が鍵。
5. 小規模と中大規模の違い総括
5.1 スコープとアドレス管理
- 小規模:
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1 つ+予約数件で運用可。 - 中大規模: マルチプール + IPAM が前提。VLAN 広告と紐付け必須。
5.2 可用性
- 小規模: ルータ 1 台障害=ネット全停止が許容範囲。
- 中大規模: デュアルサーバ + Anycast VIP など高可用設計。
5.3 ログと監査
- 小規模: Syslog 任意。問題時にコンシューマ機器を再起動。
- 中大規模: GDPR/JSOX 対応で 7 年アーカイブ、SIEM 連携が常態化。
5.4 自動化 / API
- 小規模: 手動 GUI が主流。
- 中大規模: REST API, Ansible モジュール, Terraform Provider でスコープ追加や予約を IaC 化。
6. まとめ
DHCP は単なる IP 配布役を超え、アドレス管理・ネットワークアイデンティティ・セキュリティ制御の要へと進化しています。小規模 Wi‑Fi 環境ではシンプル運用で十分ですが、中大規模ネットワークではリレー、冗長化、IPAM、動的 DNS、監査ログまで統合したエコシステムが不可欠です。
Key Takeaway : DHCP の設計範囲はネットワーク規模とビジネス要件で大きく変わる。上流設計段階で「アドレス割当ポリシー」「可用性」「自動化戦略」を合意形成しておくことで、後工程の運用コストと障害リスクを最小化できます。