セグメンテーションにおけるラベル数と精度の関係
セグメンテーションモデルの学習において、ラベルの種類が精度に与える影響は大きいです。本記事では、「物体Aのみをラベル付けした場合、IoUがゼロだったが、物体Aと物体Bをラベル付けするとIoUが80%で飽和した」という現象について考察します。
1. 背景の扱いが改善された
物体Aのみをラベル付けした場合、学習データは「物体A」か「背景」の2クラスになります。このとき、
- 背景の多様性が十分に学習されない
- 背景と物体Aを誤分類する可能性が高くなる
といった問題が生じます。
一方、物体Aと物体Bをラベル付けすると、ネットワークは「物体A」「物体B」「背景」の3クラスを学習することになり、背景をより明確に識別する必要が生じるため、学習が進みやすくなります。
2. データのバランスが改善された
物体Aのみのラベル付けでは、学習データのクラス分布が偏る可能性があります。
例えば、物体Aの面積が画像全体の10%しかない場合、90%が背景クラスとなり、「背景 vs 物体A」の分類が極端に不均衡になり、学習が進みにくくなります。
物体Bを追加することで、
- クラス間のバランスが改善し、ネットワークが学習しやすくなる
- 物体Aと物体Bの共通特徴や違いを学習することで、精度が向上する
といった効果が期待できます。
3. 特徴学習の多様性が増した
物体Aのみを学習した場合、ネットワークは物体Aの特徴しか学習できず、次のような問題が発生します。
- 物体Aに似た背景部分を誤分類しやすくなる
- ネットワークの表現力が限定される
物体Bを追加することで、ネットワークはより多様な特徴を学習する必要が生じ、以下の効果が得られます。
- 物体Aの識別能力が向上する
- 類似した特徴を持つ背景との違いを学習できる
4. 損失関数の最適化がしやすくなった
セグメンテーションモデルの学習では、損失関数の勾配が適切に流れることが重要です。
- 物体Aのみを学習すると、勾配の流れが偏り、学習が停滞する可能性がある
- 物体Bを追加すると、異なるクラス間の境界を学習する機会が増え、損失関数が適切に最適化されやすくなる
これにより、物体AのIoU向上にもつながる可能性があります。
5. ネットワークの活性化が適切になった
1つのクラスのみを学習すると、ネットワークの一部のフィルタしか活性化されず、以下の問題が生じます。
- 表現力が制限され、学習が進まない
物体Bを追加することで、より多くのフィルタが活性化し、ネットワークの表現力が向上するため、結果的に物体Aの認識性能も自然に向上する可能性があります。
まとめ
ラベルの種類を増やすことで、以下の要因が組み合わさり、物体AのIoUが向上したと考えられます。
- 背景の識別能力が向上し、誤分類が減少する
- クラスバランスが改善され、学習が進みやすくなる
- 多様な特徴を学習することで、モデルの識別能力が向上する
- 損失関数の最適化がしやすくなり、学習の進行がスムーズになる
- ネットワークの活性化が適切に行われ、表現力が向上する
セグメンテーションの学習においては、ラベルの設定がモデルの性能に大きく影響を与えるため、データアノテーションの戦略も重要な要素となります。