あけましておめでとうございます。
この記事は、FOSS4G Advent Calendar 2023の10日目の内容のはずなのですが、なぜ新年の挨拶をしているのでしょう。
世の中、不思議なことが多いですね…。
2023年はCode for History飛躍の年(当会例年比)
今年は…というか年越えてから書いたせいで便利な言い方が使いにくいわ…2023年は、私のCode for History活動の飛躍の年でした。
といっても、起業したりしてるわけではないので、飽くまで当会例年比活躍できたということですが…。
また、活躍できた一方で、奈良や館林などでの調査や歴史研究、FOSS4GライブラリであるMaplatシリーズの開発など、会としての基礎体力造り的な活動は例年比では下火になってしまった反省もあります。
インプット的活動とアウトプット的活動のうち、アウトプットの多かった1年だった感じでしょうか。
来年はまたちょっとインプット側に復帰して、出せるものを増やさないと自分の中が空になった感ありますが、2023年(一部は2022年後半まで含め)、何をやってきたか振り返ろうと思います。
研究成果の論文や口頭発表
Code for HistoryはFOSS4Gである古地図/絵地図ビューアMaplatの開発を含め、歴史研究のためにIT技術も駆使して問題を解決する団体であることを標榜しています。
個人的に歴史/民俗×地図の技術は今後来ると思っていて、FOSS4G界隈でも奈良文化財研究所/MIERUNEさんの文化財総覧WebGIS、故谷先生の今昔マップ on the web、今アドベントカレンダー@gisさんの歴史シミュレーションGIS、NIIの歴史GIS関連の諸活動、一緒に協力し合っている[石仏情報学会]のみんなで石仏調査など、多くの取り組みがあります。その中でもCode for Historyは、レポジトリやライブラリなど、歴史研究ツールとしてのIT技術を整備、開発するだけではなく、実際にITを活かした歴史研究の結果を出したいと考えている点に特色があると思っています。2022年以降の、そのような論文/口頭発表の成果を紹介します。
論文・研究ノートなど
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絵図・地誌から解き明かす重要文化財の来歴-奈良・称名寺薬師如来立像の来歴と高畑鬼界ヶ島に関する調査-
2022年11月、地理交流広場第5号(同人誌)、地理屋交流会&みんなで地理プラーザ!編
奈良の江戸期の古地図に残された謎の地物記載をきっかけに、室町~明治までの地誌を読み解いて、かつてあったが忘れられかけていた古い薬師堂の存在を掘り起こし、そこにあった薬師如来像が、室町以降に売却などを通じて奈良町中の南東から北西に安置場所を移動し、最終的に菖蒲池町の称名寺に安置されたのち、現在は国の重要文化財として奈良国立博物館に寄託されていることをつきとめました。 -
地誌・絵図を活用した地方鎮守社の歴史復元-奈良・京終天神社とその周辺の歴史検証-
2023年2月、地理交流広場第6号(同人誌)、地理屋交流会&みんなで地理プラーザ!編
奈良の京終地域に存在する、奈良時代に遡る由緒を持つとされる飛鳥神社について、その由緒が誤っており、実際には室町時代頃以降京終に存在した天神社と、江戸初期に勧請された富士権現社が、大火事の後に合祀されたことに由来する可能性を指摘しました。さらに、戦後奈良時代に遡る由緒が創作された経緯について考察しました。 -
邑楽館林での「シベ」地形調査と考察
2023年3月、群馬歴史民俗第44号、群馬歴史民俗研究会編
館林城築城伝説ともつながる館林市の宵稲荷神社が別名シベの稲荷と呼ばれることに着目し、邑楽館林地域に多数ある「シベ」地名の地形を、国土地理院DEM情報や地図アート研究所の干渉色標高図、現地踏破調査結果、先行研究などを考察し、地形から名づけられた可能性を指摘しました。また、現在は館林市街中にあり、周辺小字は「シベ」と呼ばれていない宵稲荷地域も、かつては広域にシベと呼ばれていて、館林築城以後に城下町町名で地名が上書きされた可能性を指摘しました。 -
石造物調査情報に関するオープンデータ構築の検討-群馬県館林市域における取り組みを例に-
2023年3月、群馬学研究・KURUMA第1号、群馬学センター編
館林市内の50年前の石造物悉皆調査をベースとして、石造物の所在再確認調査と調査データのオープンデータ化、それにともなう課題と解決方法などについて報告しました。
口頭発表
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奈良の地誌研究における、最新の判明事項と研究の諸問題(資料)
2023年3月、奈良女子大学 第36回なら学研究会
論文でも述べた鬼界ヶ島薬師堂、京終天神社由緒の話題に加え、現在調査中の東大寺の文使地蔵に関する調査の話題などを話し、このような奈良における地誌研究における問題点と解決策についても話しました。 -
歴史民俗研究に活用できるGIS-地図知識の紹介を中心に-(資料)
2023年3月、群馬歴史民俗研究会 第123回例会
研究成果ではありませんが、シベ地名地形調査にも用いたGISの利用法の歴史民俗研究分野での活用法について、非常に概観レベルながら話す機会をいただきました。 -
人文学分野における地域資料情報収集を目的とした市民参加型共通プラットフォームの検討(担当部分資料)
2023年6月、JAPAN OPEN SCIENCE SUMMIT 2023
やまがたアーカイブ(後述)などでMaplatを活用いただいている合同会社AMANEの堀井様にお誘いを受け、人文学研究における地域資料情報収集の基盤となる市民参加型共通プラットフォームの意義や具体的な構築イメージ・運用想定などについて議論する場にパネラーとして参加いたしました。
ここ数年で貯めてきた、自分の中で出せる話題をかなり出し切った感があるため、2024年以降は追加で様々なインプットに戻らないとこれ以上アウトプットするのは無理感もありますが、引き続き結果を出せるよう、以後も活動していきたいと思っております。
研究、学問成果発表への協力活動
もちろん、自分自身の活動だけではなく、他者の活動への協力なども行っております。
やはり2022年後半から2023年の間の間の活動をまとめます。
益田市立歴史文化交流館での中世武士団による灌漑遺跡/施設情報表示システム開発に協力
2022年初春に、有限会社CR-ASSISTさんとCode for History、および協力関係にある何人かの個人が集まって、国立歴史民俗博物館の企画展示である、中世武士団―地域に生きた武家の領主―における、灌漑施設/遺跡のビジュアル化システムを開発し、提供しました。
歴博の展示としては同企画展の間で終了しましたが、同じシステム+コンテンツを、益田市に新設される益田市立歴史文化交流館「れきしーな」に納入しよう、というクラウドファンディングが実施され、成立したことにより本システムが、2023年より常設展示として同館に展示されることになりました。
ぜひ同館を訪れることがあればご覧になってください。
また、近日Webでも公開されるプロジェクトが走る予定もありますので、もし公開されればネットでもご覧ください。
この灌漑遺跡/施設情報表示システムは、データを差し替えればコンテンツを変更できるようになっているため、同様の案件に展開することも検討しています。
今現在、Code for Historyと親しく付き合わせていただいている先には、邑楽館林の大谷休泊による灌漑伝説とその遺構や、玉村の世界かんがい施設遺産に登録された天狗岩用水などがある群馬、同じく世界かんがい施設遺産に登録された山形五堰がある山形などがありますので、そういったところでも活用していただければいいなと考えています。
また、歴博案件ではそれほど歪んだ古地図などを扱わなかったため、このシステムはMaplatを使わずLeafletを使って構築していますが、群馬や山形とはMaplat関連繋がっているため、Maplatとの連携も進める予定でおります。
ご興味のある方はぜひご連絡ください。
山形アーカイブでのMaplat採用
山形大学や山形大学附属博物館などが共同で作成した、山形県内の史料のデジタルアーカイブ「山形アーカイブ」での地図関連資料のデータビューアとして、有限会社AMANE様に間に立って紹介いただいて、Code for Historyの開発している古地図ビューア、Maplatを採用していただき、山形アーカイブのMaplatや山形五堰まち歩きマップとして公開いただきました。
またこれらの地図サイトで活用いただいただけでなく、年2回山形市七日町地区で開催されるイベント「ななはく!ソーレ」(2月)「ななはく!ルーナ」(9月)に招待していただいたり、「山形五堰」まちあるきイベントを実施していただいたりもしています。
また、山形大学の小幡准教授には、Maplatの地図マッピング作業を、実際に作業し議論しながら動画配信するという新たな試み、も行っていただきました。
実際に作業しながら議論することにより、今後のMaplatに必要な機能など多くの気づきもいただき、よい機会であったと感じました。
引き続き、山形アーカイブに協力し、新しい山形の歴史の魅せ方を模索したいと思っています。
「大和郡山タイムトリップマップ」へのMaplat採用
大和郡山歴史同好会様が作成された、大和郡山タイムトリップマップに、Maplatを採用していただきました。
多くの後援や協賛をいただき、またコンテンツもこだわりが素晴らしく、昨日の提案などもいただき、とてもよい開発になりました。
大和郡山歴史同好会様ではこのサイトを利用した街歩きイベント「大和郡山タイムトリップツアー」なども開催いただき、大和郡山観光にフル活用いただいています。
Maplatの機能開発
いろいろアウトプットとして成果を出せた1年ではありましたが、Maplatそのものの開発は追加機能も案件で要求いただいたものを除いては少なく、比較的停滞した1年でした。
しかし、いろいろな利用例を経て要件が溜まることにより、次に開発すべきものもうっすらと見えてまいりました。
2024年は、未来の案件をアウトプットするためのインプットともいうべき、開発や調査などに2023年よりも力を割きたいと思っています。
今考えている新しい機能などをちょっと出しいたします。
正確な地図を歪ませずに重ねる機能の開発
元々、Maplatは不正確な地図を正確な地図に重ね合わせる技術として開発しましたが、一方でながらく、正確な地図は正確な地図として扱われるべきというドグマに陥っていました。
つまり、元地図がUTMや平面直角などの場合は、それをGoogle Mercator(EPSD:3857)ベースのWMTSに変換し、その上で扱うべきと考えていました。
しかし、地域の歴史マップや観光マップなどでも、UTMや平面直角などを元にして作られているものは多くあり、それらは正確な地図であっても、美麗に見えるようピクセルレベルのデザインにこだわって作られています。
それを、たとえ微妙であっても投影変換してデザインを汚すのは、よくないのではないかと考え始めました。
既存のMaplatと同様に、正確な地図同士でも、歪めずに重ね合わせることは、Maplatと同じ考え方で可能です。
また、昔から測量を行っている友人などに、測量法に基づいた平面直角などでの図像が、そのままGoogle Mercatorなどに変換されて正確な地図のように扱われているのに疑問を感じるという話も聞きました。
もちろん、投影変換するべき時にはすることが必要ですが、しなくても正確な地図は正確な地図として扱えるソリューションは必要な気がします。
そのようなユースケースに対応できる機能を開発しようと考えています。
その際には、一般的な投影法対応だけではなく、
- 私自身が過去明らかにしたJapan City Planのような特殊な投影系への対応(現状テスト実装サンプル)
- 過去にGeoアクティビティフェスタで優秀賞をいただいた、GCPから最適な投影系を自動判定するような機能の提供
- 今昔マップ on the webや関東迅速測図のような古地図WMTSデータは、俯瞰で見るにはいいのですが、街歩きなどで使おうとすると、個々の道路位置が大きくずれていたりがストレスになる場合もあります。そのようなところを、Maplatの原理で微調整できる機能などもつけようと考えています。(現状テスト実装サンプル)
にも挑戦したいと思っています。
OpenLayersの拡張としての実装
MaplatはOpenLayersをプレゼンテーションの基礎技術として開発していますが、APIは独自設計となっているため、とっつきにくくなっています。
しかし、OpenLayersには非線形な座標変換でも定義して投影変換をしてくれるAPIがあるため、それを拡張することで、OpenLayersの拡張としてMaplatの一部の機能が提供できることがわかりました。
そこで、OpenLayersのAPIを拡張としてMaplatを再定義し、その上で新しいOpanLayers拡張APIを組み合わせて旧MaplatのAPIでも動く後方互換性維持を行って、OpenLayersを使い慣れた人とこれまでのMaplatを使い慣れた人、共に使いやすくなるような機能の再編を行います。(現状テスト実装サンプル)
同相変換機能のさらなるブラッシュアップ
Maplatの座標変換の特徴は、エラーの発生していない三角網分割を維持する限りは、座標定義域全体で座標系間の変換を連続かつ1対1、つまり同相で変換できるところにあります。
が、これまでは、同相ではあるものの、三角網の辺をまたぐ場所の変換で、変換の微分が定義できない問題がありました。
しかし、三角網の辺をまたいでも微分が定義できるような変換を実現できる手法を考案しましたので、実装できるようにしたいと思います。
もっとも、原理的に考案できたものの、計算量は大きくなるため現実的な重さで変換計算できなくなる可能性もあり、その場合対応をあきらめる可能性もあります。
IIIFによる画像、メタデータ提供への対応
群馬、山形など、研究者コミュニティに利用いただく事例が増えているMaplatですが、文化財のデジタルアーカイブでの画像、メタデータ提供仕様標準である、IIIFへの対応が以前から提案されていました。
実際、2023年12月のじんもんこんでも、「IIIFを用いた前近代絵図の比較支援ツールの開発」と題した東京大学中村覚先生の発表の中で、MaplatはIIIFに対応していないのが残念、という反応をいただいています。
そこで、IIIFへの対応を優先順位を上げることにしました。
既に、参考実装レベルではありますが、IIIFの画像APIはテスト実装できました。(サンプル画像は京都大学貴重資料デジタルアーカイブの『大隅國熊毛郡種子嶋沿海圖』)
今後、できるだけ早くMaplatの実実装に反映できるようにしたいと思っています。
新メンバーの参加
これまで、Code for Historyの活動は多くの協力者に支えていただいてきました。
本記事で挙げたCR-ASSIST様、AMANE様、山形の研究者の皆様、群馬の研究者の皆様、奈良の研究者の皆様、石仏情報学会の皆様、地理交流広場の方々、大和郡山歴史同好会などに加え、デザイニウム様やウェブインパクト様、ロケージング様、歴たび舎様、立命館大学文学部地理学教室様、大阪市立大学(当時)様、またJavaScriptの実装やマッピングなどを案件など毎に引き受けてくれた友人たちに支えられて活動を続けられてきました。
これまで皆様が支えてくださったことに感謝いたします。
しかし、これまではスポットでつながる形での協力で、Code for Historyのメンバーとして明確に所属意識をもって協力してくれる人はいませんでしたが、2023年のはじめよりCode for Historyの新メンバーが参加してくださいました。
ブランドマネージャとして協力してくださる、大阪の谷浦さんです。
営業やWeb企画など様々な経験をもとに、技術者の私では気づかない様々なブランドイメージ展開の提案をしてくださいます。
ジオ展2023では、Code for Historyブースのデザインや、プレゼン発表者として参加してくださいました。
パワー2倍になってますます勢いのついているCode for Historyです。
以上、2023年の活動について紹介いたしました。
2024年もどうぞCode for Historyをよろしくお願いいたします。