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History TechAdvent Calendar 2024

Day 10

身近な石造物文化財などの現状を容易に未来に残せるようになっています - フォトグラメトリ、3DGS -

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悉皆調査の追調査 - 6年前には経緯度と写真しか価値付加できなかった -

私が奈良館林で石造物調査を始めたのは、50年前に悉皆調査された石仏調査本があるにも関わらず、現状との突合せが行われてこなかったため、あるものは失われ、あるものは移動し、あるものは風化してどれが対応する主体かわからなくなってしまっていることを危惧してのものでした1
50年前の調査は刻銘判読やサイズの計測なども行っており、非常に貴重なものですが、一方で写真は全体の1%ほどにしか付随しておらず、位置も地図は不正確な模式図、住所は小字レベルでしか記されておらず、経緯度などもないので、今追調査をしておかなければ突合せが困難になると思われました。

そこで6年ほど前から、奈良や館林の活動を始めたのですが、この活動を始めたころの技術は、当然ながら50年前より圧倒的に高い調査技術が個人でも使えるようになっていました。
50年前の調査と突合せ、その上で次の50年後の調査でも対応付けができるように、石造物を個別に特定できる経緯度や写真を価値付加することを目指しました。

始めた時点では、3次元情報などさらにリッチな情報は、完全に次世代に整備してもらう想定でした。
50年前の調査でも写真や経緯度という概念はあったわけですが、個人で容易に使いこなせるものではなかったがゆえに調査に付加されませんでした。
それと同様に、6年前でも3次元データという概念はありましたが、それが民間で自由に容易に使える状況になるのはまだまだ先だと思っていました。
それゆえ今の時代で加えられる情報を残して、さらに新しい情報を加えられる次の時代に情報を引き継ごうと思ったのです。

約2年後の2020年にはiPhone12 Proが発売され、初めて個人の携帯デバイスに3Dデータの生成が落ちてきました。
私も当然即買いしましたが、データを作成してみるときれいな3Dモデルを作ろうと思えば10分以上費やすわりにモデルの解像度は低く、3次元モデルを残したい動機の1つでもあった刻銘の凹凸を残して未来の解読を期待する目的にも役立ちそうになかったので、結局あまり使いませんでした。
全部の石造物ではなく、重要な石造物だけピンポイントでモデル作成するか、というくらいの温度でした。

今、3Dデータ生成は個人の手に落ちてきた

しかしそれからたった4年後の今、3Dデータ作成は完全に個人の手に落ちてきました。
それも、昔ながらの3Dポリゴン形式だけではなく、もっと映画のように、その場のシーンをそのまま残すような技術(3DGS: 3D Gaussian Splatting)が登場しています2
そのそれぞれの技術で、館林のお地蔵様を3D化したデータを、以下に公開しています。

館林市・堀工おくまん地蔵尊
https://code4history.dev/3dViewer/

左が従来の3Dポリゴンモデル、右が3DGSモデルです。
どちらも普通に、上下左右視点自由にぐりぐり動かせます。
これだけのデータを作るのに、どちらのデータ形式でも1分かからなかったと思います。
Pokemon GOの会社、Nianticが公開している、Scaniverseというスマホアプリがこれを実現しており、これ1つで3Dポリゴンモデル、3DGSモデルのどちらでも、短時間で生成してくれます。
データサイズだけは相応にあるのだけが厄介ですが、本当に一文化財一3Dデータが現実味を帯びてくる状態になっています。

足りない部分を補完する技術もある

もちろん、まだ問題もあります。
iPhone12のLiDARによる3Dモデル化で、刻銘が解読できるほどの解像度はないのが問題と述べましたが、Scaniverseでの3D化も、刻銘は読み取れないかその視点ではより問題な状況ではあります。
しかし、それは10分近くもかけて追加のコンテキストが十分に得られないのが問題だったのであって、1分弱でデータ化でき、さらに3DGSでは周辺のリアルな環境という追加のコンテキストまで得られるようになったわけなので、これは十分に意味のあることです。
今後、さらにデータ化の速度はあがっていくことも期待できます。

刻銘判読に関しては、今はそれに特化した別の技術として、「ひかり拓本」という技術も出てきています。
こちらの技術も今はまだ1つ処理するのに5分くらいはかかるようであり、またテキスト起こしなども必要になるので全文化財に遍く行えるといった状況にはまだなっていないと思いますが、前の記事で書いた通り、くずし字認識も生成AIとの組み合わせで翻刻、口語訳が容易になったように、技術の組み合わせが今後解決してくれることでしょう。

Scaniverseで3D生成のために使っているフォトグラメトリという技術には、厳密にいうと写真の組み合わせをAIで処理して3D空間を生成するため、現実世界と基準長さを擦り合わせる仕組みが存在せず、リアルではあるけれど実際の正確な大きさがわからないデータができてしまい、利用法によっては価値の少ない3Dデータになってしまう問題もあるようです。
しかし、そのような問題も、写真だけではなく同時にLiDARも取得することによって、正確な位置/距離関係で取得された点群に、3DGSを対応付けるような技術もあるようです。これはまだ専門の業者3に頼まなければいけないような技術のようですが、このような技術も、いずれは一般人の手元に降りてくるでしょう。

面白い時代になってきたと思います。
引き継いできた過去を、今生きている時代を未来に引き継ぐために、どんどん記録を残していきましょう。

  1. 正確に言うと、奈良と館林で取り組んだきっかけは少し違うのですが

  2. 詳しい説明は、別の記事に委ねます。

  3. このような技術を扱う人と一緒に仕事をしたことがあるので、存在は知っているのですが、記事を書く際にググってみましたが具体的な技術名はわかりませんでした。その時一緒に仕事をした人の所属する、こちらの会社こちらの会社などに相談すると、対応できるのではないかと思います。

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