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電流ベクトル制御PMSMの目的関数の検討

Last updated at Posted at 2016-03-21

#概要
電流ベクトル制御PMSMモータの設計を最適化する際にどのような評価項目を目的関数にすべきか検討する。

#PMSM
永久磁石同期モータ(Permanetnt Magnet Synchronous Motor)の略称。モータなので回転する部分(ロータ)と固定されている部分(ステータ)がある。ロータに永久磁石、ステータにロータを回すための磁場を発生させる電流を流す巻線コイルが配置されたような構造になっている。PMSMのロータの中には磁石が1つ以上配置されており、ここでは各磁石のN極とS極が大まかに決まっているとして、磁石のN極からS極、S極からN極に向かって磁束線が描かれているとする。その磁束線のN極からS極、S極からN極というループの数(ロータ単体を空気中において磁束線を描いた時の大まかな輪の数)を極対数と呼び、ここでは極対数を $P_n$ とする。

#電流ベクトル制御
PMSMのロータをうまいこと回転させるためにはステータの巻線コイルで発生させる磁場ベクトルを制御する必要がある。電流の位相を制御することで磁場ベクトルを制御することを電流ベクトル制御と呼ぶ。一見、電流ベクトル制御という言葉からは空間に分布する電流の向きを制御することを想像してしまうがあくまでもステータ側で発生させる磁場ベクトルの向きを電流の位相で制御することを意味することに注意。電流ベクトル制御とは、「電流(位相を制御することで磁場の空間分布)ベクトル(を)制御(すること)」くらいに理解しておくと良さそう。

#d軸q軸
PMSMの駆動時にロータが角速度 $\omega $ で回転しているとする。電流ベクトル制御では、その回転するロータの磁石が発生させる大まかな磁場の向きを基準にしてステータの巻線コイルが発生させる磁場の向きを決めている電流の位相( $\beta$ と呼ぶ)を制御する。回転するロータの磁石が作る大まかな磁場の向きのうちロータに張った円筒座標の動径方向の正の向きを揃う方向をd軸とし、d軸から正方向に回転するロータの磁石が作る大まかな磁場の向きのうちロータに張った円筒座標の動径方向の負の向きを揃う方向とd軸のなす角の半分の角度の向きをq軸とする。ざっくりとしたイメージとしてはロータから磁場が動径方向に出る向きをd軸、d軸から出た磁場がロータに入っていく向きとd軸のなす角の半分の角度(ロータからの磁場の出入りが最も少ない方向)をq軸と思えば良い。

#d軸q軸インダクタンス及び電流
上記のようにd軸q軸方向が決まったので、d軸q軸方向に磁場を発生させるためのステータの巻線コイルを流れる電流をそれぞれd軸q軸電流と分離することができ、それぞれ $i_q, i_d$ とする。また同様にステータの巻線コイルで発生させた磁束をd軸q軸に $\Psi_d, \Psi_q $ と分離することができ、それらd軸q軸の電流と磁束よりd軸q軸ごとの磁束の通し易さとしてd軸q軸インダクタンス $L_d, L_q$ を求めることができる。磁束はインダクタンスと電流の積として $\Psi = L(i) i$ という関係で結ばれている。

#ステータの巻線コイルの相数
PMSMの駆動のためにステータの巻線コイルに電圧をかけて電流を流して磁場を発生させてロータを回転させる。PMSMでは、ある位相の電圧で駆動した巻線コイルの1つのことを相と呼び、駆動する電圧の位相が異なるごとに相を区別し、少なくとも1相以上のステータの巻線コイルでロータに磁場をかけて駆動していく。ここでは相数を $o$ 相とする。ここでは各相ごとのコイルの抵抗は等しく $R$ とする。

#磁石鎖交磁束
ステータの各相巻線コイルに鎖交するロータの磁石磁束のことを磁石鎖交磁束と呼び、ロータの回転中の磁石磁束の最大振幅を $\Psi_m$ と表す。

#d軸q軸電圧方程式
PMSMをインバータから電圧で駆動しているとし、そのd軸q軸電圧を$v_d, v_q$とする。その場合の電圧方程式は下記である。

\begin{pmatrix}
 v_d \\
 v_q
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
 R+\frac{d}{dt} L_d & -\omega L_q \\
 \omega L_d & R+\frac{d}{dt} L_q
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
 i_d \\
 i_q
\end{pmatrix}
+
\begin{pmatrix}
 0 \\
 \sqrt{\frac{o}{2}} \omega \Psi_m
\end{pmatrix}

#トルク
PMSMのトルク $T$ はd軸q軸インダクタンス及び電流、コイル相数、磁石鎖交磁束の最大振幅を用いて次のように表せる。

T = \sqrt{\frac{o}{2}}P_n \Psi_m i_q + P_n (L_d - L_q) i_d i_q 

#効率
PMSMの効率を求めるには損失を求める必要がある。入力電力は $W$ とする。コイルを流れる電流によるジュール損失による損失を銅損 $W_{copper}$ と呼ぶ。ロータ及びステータ及び磁石を鎖交する磁束の時間変化によりファラデーの電磁誘導の法則より磁束を打ち消す向きに誘導起電力が生じオームの法則により電流が流れその流れた電流のジュール損失を渦電流損失と呼ぶ。ロータ及びステータを鎖交する磁束が変化することで磁性体内部のヒステリシスの変化に伴う損失をヒステリシス損失と呼ぶ。渦電流損とヒステリシス損失の和を鉄損 $W_{iron}$ と呼ぶ。効率 $\eta $は銅損 $W_{copper}$ と鉄損 $W_{iron}$ を用いて次のように求まる。

\eta = \left(1 - \frac{W_{copper}+W_{iron}}{W}\right)\times 100

#インバータ電流及び電圧制限
PMSMを駆動する電流及び電圧の上限値を $I_{max}, V_{max}$ とすると、d軸q軸の電流及び電圧に次のような制限がかかる。

\sqrt{i_d^2 + i_q^2} \leq I_{max}\\
\sqrt{v_d^2 + v_q^2} \leq V_{max}

ここでは電圧の制限式は簡単のために誘起電圧の制限で置き換える。誘起電圧の制限とは、ステータの巻線コイルに鎖交する磁束の時間変化によって生じる誘起電圧がインバータの電圧の上限値から電流の上限値と抵抗の積を引いた値より小さい場合、コイルに電流を流すことができずステータの巻線コイルに電流を流すことができずロータを回転させられなくなる制限のことである。

\omega\sqrt{(\sqrt{o/2} \Psi_m + L_d i_d)^2 + (L_q i_q)^2} \leq V_{max} - RI_{max}

#運転範囲
上記のようにインバータの電圧及び電流に制限がある状況でロータの角速度を大きくしていくと上記の誘起電圧の制限によりロータを回転させられなくなる。そのようなPMSMのロータを回転させられなくなるような角速度の上限までの角速度の範囲のことを運転範囲と呼ぶ。上記のインバータ電流及び電圧制限範囲内で運転範囲を決めるパラメータとして最小 $d$ 軸鎖交磁束を磁石鎖交磁束 $\sqrt{o/2}\Psi_m$ で規格化したパラメータ $\gamma$ がある。$\gamma $ が正だと、運転範囲に制限が生じる代わりに最大トルクが上がり、負だと運転範囲の制限がなくなる代わりに最大トルクが下がる。バランス的には $\gamma$ は0に近いのが望ましいと考えれる。

\gamma = 1 - \frac{L_d I_{max}}{\sqrt{o/2} \Psi_m}

#トルクリプル
PMSMの騒音の原因のひとつとしてモータ形状に起因するロータ回転中のトルクの上下変化(トルクリプル)が考えれる。トルクリプル $\delta T$ は機械角 $\theta$ についてのトルクの最大最小値から次のように求まる。おそらく実際の騒音評価としては他の目的関数も考慮する必要がある。

\delta T = {\rm max}_{\theta} T - {\rm min}_{\theta} T

#材料コスト
PMSMの材料コスト(モータの原材料費) $C$ はモータを構成する各部品 $j$ の材料kg単価 $c_j$ と 体積 $V_j$及び密度 $\rho_j$ 積の合計で次のように表せる。部品体積はモータ形状に依存するため、高い材料単価の部品は形状を検討する必要がある。また材料自体を単価の高いものから安いものへ変更することでも材料コストの削減を図れる。

C = \sum_j c_j \rho_j V_j

#目的関数
上記よりPMSMの設計の最適化のための目的関数として次の項目が考えられる。

  1. T を最大
  2. $\eta$ を最大
  3. $|\gamma |$ を最小
  4. $\delta T$ を最小
  5. $C$ を最小
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