はじめに
動機
群の作用は、どの教科書を見ても結構わかりにくいな、と思います。さほど重要な部分でなければ読み飛ばせば良いんですが、環上の加群(体だと代わりにベクトル空間と呼ぶ)やガロア理論(有名なのだと$n( >=5)$次方程式がべき根で解けない証明とか)とかにも関連する部分は多い1し、群の作用と徹底的に向き合うことが大事なのではないか、と思えてきました。そこで、理解したことをまとめていきます。
Note) 参考図書については、主には、[1]を参考にしていますが、他の本もチラチラと見ていますので、全リストについては、末尾をごらんください。
結論
- 群の作用を知ることで、群について成り立つ性質や環上の加群を深く理解することができるよ。
対象者
-
プログラミング言語で実装しよう、的なコーナーは一切ないです。純粋に数学との向き合い。
-
逆に、代数学やってて環上の加群の箇所から読むのがきつくなった人(なぜ、こういうものを定義するのか、よくわからない)とか、類等式やシローの定理の証明を理解するのがきついとかいう人は得られるものは結構あるかなぁ、と思います。
前提知識
- 群の定義とか、群に関連する超基本的な用語を知っているとかかなぁ。「正規部分群」とか「準同型」とか言葉くらいは知っていないと、この記事を読み通すのは難しいかもしれません。
注意事項2
- 群論のどの教科書を見ても書いてある用語については、定義していない箇所があるかもしれません。(なので、self-containedではありません) とは言っても今のところ、定義せずに用いている用語としては、部分群、正規部分群、群の準同型、同型くらいかな。
%%ベクトル
\def\vec#1{\mathbf #1}
%\def\v#1{\mbox{\boldmath $#1$}}
\def\vone{\vec{1}}
%%トレース
\newcommand{\tr}[1]{#1^\mathrm{T}}
\def\trace{\mathop{\rm tr}}
\def\rank{\mathop{\rm rank}}
\def\Ker{\mathop{\rm Ker}}
%%対角化
%集合関連
\def\N{\mathbb{N}}
\def\bedr{\hfill $\Box$}
\def\R{\mathbb{R}}
\def\Z{\mathbb{Z}}
\def\C{\mathbb{C}}
\def\T{\mathop{\rm T}}
\def\H{\mathop{\rm H}}
\def\elig{{\rm Elig}}
\def\wx{\widetilde x}
\def\defspace{$\vspace*{0.5mm}$}
\def\E{\mathop{\rm E}}
\def\any{\forall}
\def\card#1{\mathrm{card}\,#1}
\def\abs#1{ \left| #1 \right| }
\def\Pow{\mathscr{P}}
% 作用
\def\Aut{\mathrm{Aut}}
\def\End{\mathrm{End}}
\def\Inn{\mathrm{Inn}}
\def\Stab{\mathrm{Stab}}
\def\Orb{\mathrm{Orb}}
\def\Cent{\mathrm{Z}}
\def\Norm{\mathrm{N}}
\def\Ad{\mathrm{Ad}}
\def\Exp{\mathrm{e}}
%虚数
\def\inum{\mathrm{i}}
\def\Re{\mathop{\rm Re}}
\def\Im{\mathop{\rm Im}}
%微分関連
\def\d{\raisebox{1pt}[0pt][0pt]{\text{$\mathop{\rm d}$}}}
準備
群の定義、同値類、同値関係、部分群、部分群による同値関係、剰余類、ラグランジュの定理の説明です。群の定義については、作用のお話をするときに参照するので、一度目を通してください。それ以外の概念については、一般的な教科書通りの説明なので、大丈夫そうなら本編におすすみください。
同値類
同値類の理解のためには、同値関係の理解が必須です。同値関係や同値類そのものは群論に関係なく定義される概念であることに注意してください3。(群論が絡んでくると、ラグランジュの定理とか、準同型定理とかもっと実のある定理が言えるっていうだけです)
同値関係
集合$A$上の同値関係とは、集合$A$上の二項関係($\sim$で普通は中置記法)(下記にもあるように、$A \times A$の部分集合)で反射律、対称律、推移律を満たすものを指します。書き下すと、
- $\forall x \in A$で$x \sim x$が成立すること(反射律)
- $\forall x, y \in A$で$x \sim y \Rightarrow y \sim x$が成立すること(対称律)
- $\forall x, y, z \in A$で$x \sim y, x \sim z \Rightarrow x \sim z$が成立すること(推移律)
ここで、二項関係 は$A\times B$上の部分集合と定義されます。この定義はいろんな教科書で載っているがちょっとわかりにくいので、二項関係を写像$f$
f \colon A \times B \rightarrow \{ 0, 1\}
と定義しても良いです。なぜなら、写像と部分集合が一対一に対応するから。下の定義だと、「$a \in A$と $b \in B$は関係あるということ」$ \leftrightarrows f(a,b) = 1$で対応づくので、より直感的な定義だと思います。
また、$x, y \in A$とし、$A$上に同値関係$x \sim y$を導入することで、$x$の同値類を以下のように定義します:
C(x) = \left\{ y \in A \mid x \sim y \right\}
同値類は$A$の部分集合であることに注意してください。また、同値類の全体の集合を$A/\sim$とします。これを同値関係による商といいます(なので、同値関係による商の元は同値類(集合)です)
Note) $C(x) =C(y) \leftrightarrows x \sim y$ です。よく、well-definedであることを確かめる必要があるとか証明のときに書いてたりしますが、(本来、$x$にかかわらず定義されているはずの)$C(x)$の中に$(x)$が陽に出てきているので、剰余類に絡んだ定義をする時は、$x$にかかわらず定義されたものなんだよってことを示す必要があります。
Note) ラッセルの逆理とか聞いたことある人は、同値関係による商って集合の集合やけど本当に集合として扱っていいん?って一瞬思うけど、各元$x \in A$から$C(x)$を構成しているので、$A/\sim$は集合の族とみなせて、置換公理(集合論的公理論の公理の一つ)を用いれば4、同値関係による商は集合であると正当化できます。
同値類が重要なのは、$A$上に同値関係を導入することによって、集合$A$を直和分割できるからです。つまり、
$$A = \coprod_x C(x)$$
上式のキーポイントは、すべての同値類の元の個数の和と$A$の元の和が等しいというところ。$\forall a \in A$は、必ず$A$上の同値関係により構成された、どれかの同値類に一意に属しています。(つまり、2つの同値類に同時に属す元は存在しません。)
最後に、各同値類の元の個数は同じとは限りません。(なんで言ったかというと、ラグランジュの定理と作用の節でこの事実を確認するため)
Note) 同値類$C$の「表に出ている」$x$は同値類$C$の代表元といいます。$G$が有限ならば、$x$の定めかたに何の問題もないのですが、$G$が有限でない時、同値類も無限個ある可能性があり、その場合、$x$の構成方法に疑問が生じます(無限なのに、どうやって、各代表元$x$を割り当てるんだという主張)。 大体の本では、$x$の構成方法がわからずとも各同値類の代表元を定める方法が存在するということを、選択公理を用いて正当化します(よく、「この本では選択公理を認める」とかいう但し書きが書かれてあったり)。選択公理とは、以下のようなものです:
選出公理
集合$\Lambda$(有限集合とは限らない), 集合族$(A_{\lambda})_{\lambda \in \Lambda}$として、写像$a$
\begin{aligned}
a : \Lambda &\rightarrow A_{\lambda} \\
\lambda &\mapsto a_{\lambda} (\in A_{\lambda})
\end{aligned}
が存在する。(各集合$A_{\lambda}$から、元$a_{\lambda}$を選び出せる)
ポイントとして、選出公理は、写像$a$の具体的な構成方法がよくわからずとも、存在するっていう事実のみを正当化できる点にあります5。各同値類
( C_{\lambda})_{\lambda \in \Lambda}
に対して、元$g_{\lambda}$を選び出せるという感じでつかいます。
群の定義
作用の定義と比較するために、$X$を集合として、演算$\psi$を写像$\psi \colon X \times X \rightarrow X$と定義し、演算を明示的に用いて群を定義します。
定義(群)
$G$を空集合でない集合とする。**群$G$**とは、$G$上に以下の条件を満たす演算$\psi \colon G \times G \rightarrow G$が定義されていること:
1.$\exists e \in G, \forall a \in G$に対し、$\psi(a, e) = \psi(e,a) = a$(単位元$e$の存在)
2. $\forall a \in G$に対し、$\exists b \in G$で、$\psi(a, b) = \psi(b, a) = e$となる(逆元$b$の存在)
3. $\forall a, b, c \in G$に対し、$\psi(\psi(a,b), c) = \psi(a, \psi(b,c))$が成立(結合法則)
普通の群論の教科書は、演算$\psi$を明示的に書きあらわすことなく、$\psi(a, b)$を$ab$と書きます。(実は作用$\phi$を定義するときも、普通$\phi$を明示的に書かないのだ!!) このメリットしては、式が見やすくなることです。例えば、3の条件は
- $\forall a, b, c \in G$に対し、$(ab)c = a(bc)$が成立
となり、結合法則なりたつんだな6、ってことがぱっと見て分かります。本記事も、自明である場合は演算$\psi$を明示的に書きませんが、頭に入れて読み進めてください。7
部分群における同値関係
特に、集合$G$が群の構造を持ち、$H \subset G$が部分群のときは、$G$上の同値関係$x \sim y(x, y \in G)$を$yx^{-1} \in H$と定義することで(これが同値関係の定義を満たしているかは、本来ならばちゃんと確認する必要がある!)、同値類とか、同値関係による商を作成することができます。
この場合、同値類を**(右)剰余類**といい、($C(x)$の代わりに)$Hx$と書きます。また同値関係による商を($G/\sim$の代わりに)$H \backslash G$と書きます。(右)剰余類については式変形により、
\begin{equation}
\begin{aligned}
Hx &= \left\{ y \mid x \sim y \right\} \\
&= \left\{ y \mid y = hx, \forall h \in H \right\} \\
&= \left\{ hx \mid \forall h \in H \right\}
\end{aligned}
\end{equation}
のため、$Hx$と便宜的に表記できることに注意します。
Note) 普通は、$x \sim y(x, y \in G)$を$x^{-1}y \in H$と定義して、左剰余類を$G/H$と定義するのを先にする本が多いけれど、今回は「軌道」などの群の作用の話を絡めたかったので、右剰余類を定義してます。
ラグランジュの定理
$G$上に同値関係を定義すると、$G$を直和分割できますが、部分群における同値関係では、それ以上にもうちょっと強い性質が成り立ちます:
ラグランジュの定理
集合$X$の元の個数を$\abs{X}$と表すことにすると、$H$が群$G$の部分群として、
\abs{G} = \abs{H\backslash G} \abs{H}
が成り立つ。
証明) $\forall x \in G$に対し、$\abs{Hx} = \abs{H}$が言えれば良いですが、
\begin{aligned}
f \colon H &\rightarrow Hx \\
h &\mapsto hx
\end{aligned}
は全単射であるため、$\abs{Hx} = \abs{H}$となります。あとは、直和分割$G = \coprod_{x\in G} Hx$と合わせて、上の等式が成り立ちます。
この定理の本質は、部分群$H$を用いて、同値関係を定義すれば、特別に、各同値類の元の個数がすべて同じになるという点です。このことは、軌道-安定化群定理の節でも使います。
ここまでで準備が終わりましたので、いよいよ群の作用と向き合うことにします。
本題
作用の定義
さて、準備にて、多少長ったらしい形で群を定義しました。そのわけとしては、作用の定義との対比を感じて欲しかったからです。
定義(左作用)
写像$\phi : G \times X \rightarrow X$が群$G$の集合$X$への左作用とは、写像$\phi$が以下の条件を満たしていること:
- $\forall x \in X$に対し、$\phi(1_G, x) = x$
- $\forall g,h \in G, x \in X$に対し、$\phi(g, \phi(h,x)) = \phi(gh, x)$(右辺の$g$と$h$の間には、演算$G \times G \rightarrow G$が入っていることに注意。)
これも、よく$\phi$を明示的に記さずに$\phi(g, x)$を$g \cdot x$とか、$\cdot$さえも書かずに$gx$と書き表します。そのとき、条件1は$1_G x = x$なので、群の単位元の条件に似ている。条件2は、
- $\forall g,h \in G, x \in X$に対し、$g(hx) = (gh)x$
のようにあたかも結合法則のように見えます。
ここで、群$G$上の演算と作用がどっちか見分けつかなくなるんじゃない?って思うかもしれません。しかし、$G$上の演算は定義域が$G \times G$ですが、群$G$の集合$X$への作用は定義域が$G \times X$だから、間違うことはないのです。($g, h \in G, x \in X$として、$gh$は$G$上の演算が入っていて、$gx$だと、群$G$の集合$X$への左作用を暗に用いている)
とはいえ、集合$X = G$として(右側の$G$を群構造の入っていない集合だと思って)、作用を考える場合がある(共役による作用とか)ので、かなりしっかり両者の違いを意識した方が良いです。本記事についても、どっちで定義されているか、ぱっとみてわからん場合は、$G$上の演算$\psi$と群$G$の集合$X$への(左)作用$\phi$を意識して使い分けることとします。
軌道-安定化群定理
この節では作用一般について成り立つ定理(軌道-安定化群定理)を説明していきます。次の節で個別の作用について検討していきますが、本節で述べた定理は一般的に成り立つことに注意してください。
群$G$の集合$X$への作用を定義すれば、$X$上の同値関係および、$G$上の同値関係を後述のように定めた上で、$X$の同値類の元と$G$の同値類(集合)が一対一に対応するようにできます。(軌道-安定化群定理)。($G$の集合自体と$X$の元が対応することに注意。) (あと、少し先走って言うと、もし、作用が共役による作用ならば、類等式が成り立ちます(後述。利用シーンとしては群の性質を調べるときとか))
- まず、$X$上の同値関係を定義するために、$x \in X$の$G$による軌道を定義します($\phi$は群$G$の集合$X$への左作用):
定義(軌道)
$x \in X$のとき、$x \in X$の$G$による軌道 $\Orb_G(x)$を
\begin{equation}
\Orb_G(x) = \left\{ \phi(g, x) \in X \mid g \in G \right\}
\end{equation}
と定義する。($\Orb$はOrbit(軌道)の略です)
Tips) なんか、右剰余類$Hx$とどことなく似てますが、実は、作用$\phi \colon H \times G \rightarrow G$を$G$上の演算の定義域$G \times G$を$H \times G$に制限したものとして定義したとき(作用の条件1,2をもちろん満たします。)、$x \in G$の$H$による右剰余類と$x \in X$の$H$による軌道は同じ集合となります。これも詳しいことは個々の作用について検討するときに触れたいと思います。
このとき、$x$と$y$の軌道が等しいことを$X$上の同値関係と定義します。つまり、
x \sim y \leftrightarrows \Orb_G(x) = \Orb_G(y)
と定義します。
Note) この定義で本当に同値関係かどうかを確かめる必要があります。$\Orb_{G}(x) = \Orb_G(y)$と$y \in \Orb_G(x)$が同値ということを示すことが一番のキーポイントです。
このとき、同値類$C(x)$の定義は、
\begin{equation}
\begin{aligned}
C(x) &= \left\{ y \in X \mid y \sim x \right\} \\
&= \left\{ y \in X \mid \forall y \in \Orb_G(x) \right\} \\
&= \Orb_G(x)
\end{aligned}
\end{equation}
なので、軌道$\Orb_G(x)$は$x \in X$の同値類となります。(この事実は、作用の各論でも何回か用います)
- また、$G$上の同値関係を定義するために、$x \in X$の**安定化群$\Stab_G(x)$**を定義します.($\phi$は群$G$の集合$X$への左作用とします)
定義(安定化群)
$x \in X$のとき、$x \in X$の安定化群 $\Stab_G(x)$を
\begin{equation}
\Stab_G(x) = \left\{ g \in G \mid \phi(g, x) = x \right\} (\subset G)
\end{equation}
と定義する。($\Stab$はstabilizer(安定化)の略)
安定化群$\Stab_G(x)$は$G$の部分群なので(証明は簡単なので略)、$\forall g_1, g_2 \in G$として$G$上の同値関係を
g_1 \sim g_2 \leftrightarrows g_1^{-1}g_2 \in \Stab_G(x)
と定義することで、$g \in G$の(左)剰余類$g \Stab_G(x)$と同値関係による商$G / \Stab_G(x)$を定義できます。
$G$の部分群によって誘導された同値関係なので、剰余類の元の個数に関して、ラグランジュの定理$|G \backslash \Stab_G(x)| = \dfrac{|G|}{|\mathrm{Stab}_G(x)|}$を満たすことに注意して下さい。つまり、
G = \coprod_{g \in G} \Stab_G(x)
で、それぞれの剰余類の元の個数は全て等しいことが言えます。($X$上の同値類$\mathrm{Orb}_G(\cdot)$に関してはそれぞれの同値類の元の個数が一般的に同じとは限りません。(準備の同値類の節の末文を参照)
さて、これで準備が終わったので、以下の定理を述べることができます。(この定理は$X$の同値類の元と$G$の同値類(集合)が一対一に対応することを述べてることを思い出す)
軌道-安定化群定理
$G$の同値関係による商$G/\Stab_G(x)$と$x$の$G$による軌道$\Orb_G(x)$は一対一に対応する。つまり、以下で定めた写像$f$が全単射になる。
\begin{aligned}
f : G/\mathrm{Stab}_G(x) &\rightarrow \Orb_G(x) \\
\phantom{f : }g \mathrm{Stab}_G(x) &\mapsto \phi(g,x)
\end{aligned}
(証明)
省略([1]のp.93を参照のこと)
軌道-安定化定理とラグランジュの定理(これは、部分群があればいつでも成り立つ式でした。今回は$\Stab_G(x)$が$G$の部分群ですよね。)を合わせて、
\abs{G} = \abs{\Stab_G(x)} \abs{\Orb_G(x)}
が成り立ちます。(この式から言えるのは、$\abs{\Stab_G(x)}$, $\abs{\Orb_G(x)}$はともに$\abs{G}$の約数であるということです。)
作用についての各論
ここから説明することは、各作用について成り立つ定理やら式やらです。もともとややこしい話の上に新規に用語を定義するので、ややこしさが倍増します。ということで、これからやろうとすることを表形式でまとめておきました。(知らない定義があると思いますが、その都度説明します。)
|群|集合|作用|軌道 |安定化群|
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---
| 群$G$ | 集合$X$| $G$の$X$への作用$\phi$ | $\Orb_G(x)$ | $\Stab_G(x)$ |
| 群$G$| $G$ | $G$上の演算$\psi$ | $G$ | $1_G$ |
| 部分群$H\subset G$| $G$ |$G$上の演算 |$x \in G$の右剰余類| (軌道-安定化群定理)|
| 自己同型群$\Aut(G)$| $G$ |$\Aut(G)$の$G$への作用 | $G$ | 恒等写像のみ{id}|
| 群$G$ | $G$ | 共役による作用$\phi_{\Ad}$|$x \in G$の共役類|$x \in G$の中心化群$\Cent_G(x)$|
| 群$G$ | 集合$X$の冪集合$\mathscr{P}(X)$ | $\phi$から引き起こされた作用| $\Orb_G(W)$ $(W \in \Pow(X))$ | $\Stab_G(W)$ |
| 群$G$ | $G$の冪集合$\Pow(G)$ | $\psi$から引き起こされた作用| $\Orb_G(H)$ $(H \in \Pow(G))$ | ($\mid H\mid$$(H \in \Pow(G))$の約数) |
|群$G$| $G$の冪集合$\Pow(G)$ | $\phi_{\mathrm{Ad}}$から引き起こされた作用|$H \in \Pow(G)$の共役類|正規化群$\Norm_G(H)$|
ということですでに、ひぇ〜っていう感じなんですが、1番目の一般的な事項は説明済みなので,
2番目から順に、粛々と進んでいきたいと思います (といいつつ、共役による作用と共役による作用から引き起こされた作用が本丸で、あとは2つの作用について説明するためにシームレスに入っていけるようにくわえたものです)
群の群への(左からの)積による作用
写像$\phi$を以下のように定義すると、これは、群$G$の集合$G$への作用になります:
\begin{aligned}
\phi \colon G \times G &\rightarrow G \\
g , x &\mapsto \psi(g,x)
\end{aligned}
ここで、$\psi : G \times G \rightarrow G$は$G$上の演算です。(つまり、作用を演算と同一視します。) 作用であることは、ちゃんと作用の条件を満たしているか確認する必要があります(が、作用の条件1,2はそれぞれ、単位元、結合法則のことを言っているのであり、成り立つことはほぼほぼ自明です)
このとき、$\forall x \in G$とに対して、軌道$\Orb_G(x) = G$となり、安定化群$\Stab_G(x) = 1_G$となります($1_G$は単位元のみの自明な群です)。なぜなら、軌道$\Orb_G(x)$については、$\forall g_1 \in G$に対して、$\exists g_2 \in G$で$g_1 = \psi(g_2, g)$が成立するからであり、安定化群$\Stab_G(x)$については、$\psi(g_1,g) = g$が成り立つ$g_1 \in G$はというと、$g_1=e$しかありません。
Tips) 展望の部分で上の作用をもうちょっと一般化したものに対して興味深いことを考えていきます。
部分群の群への(左からの)積による作用
部分群$H \subset G$とします。写像$\phi$を以下のように定義すると、これは、部分群$H$の集合$G$への作用になります:
\begin{aligned}
\phi \colon H \times G &\rightarrow G \\
g , x &\mapsto \psi(g,x)
\end{aligned}
つまり,G上の演算$\psi$の定義域を$H \times G \subset G \times G$に制限すれば良いです。
このとき、ちらとお話ししたように、$Hx$は、$x \in G$の部分群$H$による右剰余類としてみることができるし、$x \in X$の群$H$による軌道と見ることができます。このこととラグランジュの定理と合わせると、軌道の元はすべて同じ個数であると言えます(ついてこれてない方は、[準備 > 部分群における同値関係]を参照のこと。ラグランジュの定理についてかいてあります)。
Note) この事実は他の作用に関しては当てはまりませんので、ちょっと注意です。
自己同型群の群への写像による作用
$G$の自己同型群とは、同型全体の写像の集合$X$に群の演算を加えたものです。
群の演算は、群$G$上の演算を$\psi$として、
\begin{aligned}
\psi_{\Aut} : X \times X &\rightarrow X \\
(f_g, f_h) &\mapsto f_{\psi(g,h)}
\end{aligned}
と取ると、同型全体の写像の集合$X$は群となります。この群を自己同型群というのでした。群の表記としては$\Aut{G}$とよく書いたりします。
$G$の自己同型群を$\Aut{G}$とします。写像$\phi$を以下のように定義すると、これは、自己同型群$\Aut{G}$の群$G$への作用になります:
\begin{aligned}
\phi \colon \Aut{G} \times G &\rightarrow G \\
f \qquad, x &\mapsto f(x)
\end{aligned}
共役による作用
ここからちょっとややこしくなります。まずは、共役の定義をしておきます:
定義(共役)
写像$i_g$を以下のように定義する:
\begin{aligned}
i_g \colon G &\rightarrow G \\
h &\mapsto ghg^{-1}
\end{aligned}
このとき、$h1, h2 \in G$が共役であるとは、$\exists g \in G$があって、$i_g(h_2) = h_1$が成立することである。
$H$が$G$の正規部分群であることと、$H = i_g(H)$が成立することが同値であることが言えます。これは、正規部分群の定義から自明です。
このとき、写像$\phi_{\Ad}$を以下のように定義すると、これは、群$G$の集合$G$への作用になります:
\begin{aligned}
\phi_{\Ad} \colon G \times G &\rightarrow G \\
g , x &\mapsto i_g(x)
\end{aligned}
この作用$\phi_{\Ad}$を特別に群$G$の共役による作用と言います。
また、共役による作用のとき、同値類$C(x)$を共役類と言います。
共役による作用では、言えることがたくさんあります:
- 軌道$\Orb_G(x)$は共役類$C(x)$と同値
- 安定化群$\Stab_G(x)$は中心化群$\Cent_G(x)$と同値。
- 類等式($\abs{G} = \sum \abs{C(x)}$)
一番目に関しては、共役類は同値類のことなので、軌道と共役類が同じであることは問題ないでしょう。
2番目に関しては、安定化群と中心化群の式変形より、簡単にわかります:
安定化群に関しては、
\begin{aligned}
\Stab_G(x) &= \left\{ g \in G \mid \phi_{\Ad}(g, x) = x \right\} \\
&= \left\{ g \in G \mid gxg^{-1} = x \right\} \\
\end{aligned}
および、中心化群に関しては、
\begin{aligned}
\Cent_G(x) &= \left\{ g \in G \mid gx = xg \right\} \\
&= \left\{ g \in G \mid gxg^{-1} = x \right\}
\end{aligned}
でいいですね。
3番目に関しても簡単で、$G$の直和分割と、2の結果を用います:
\begin{aligned}
G &= \coprod_{x \in G} g\Stab_G(x) \\
&= \coprod_{x \in G} C(x) \\
\therefore \abs{G} &= \sum \abs{C(x)}
\end{aligned}
群の集合への(左からの)積による作用から引き起こされた作用
次もややこしいです(笑)
集合$X$の冪集合$\Pow(X)$とします。非常にややこしいですが、冪集合は「集合の集合」なので、元として$Y \subset X$を持ちます。($Y$は集合$X$から見ると(部分)集合なのですが、冪集合から見たとき、元として振舞います)
このとき、写像$\phi_X$を以下のように定義します:($\phi$は群$G$の集合$X$への(左)作用とします。)
\begin{aligned}
\phi_{\Ad} \colon G \times \Pow(X) &\rightarrow \mathscr{P}(X) \\
g \qquad, Y \, &\mapsto \left\{ \phi(g,x) \mid \forall x \in Y \right\} (\subset X)
\end{aligned}
この作用$\phi_{X}$を特別に$G$の*部分集合の集合$Y \subset \Pow(X)$*への左からの積による作用と言います。
具体例については[1, p.106]などをみてください。
群の群への(左からの)積による作用から引き起こされた作用
どんどんいきましょ〜 群$G$を集合だと思った時の冪集合$\Pow(G)$とします。
このとき、写像$\phi_G$を以下のように定義します:($\psi$は群$G$の集合$G$への(左)作用とします。)
\begin{aligned}
\phi_{G} \colon G \times \Pow(G) &\rightarrow \mathscr{P}(G) \\
g \qquad, H \, &\mapsto \left\{ \psi(g,h) \mid \forall h \in H \right\} (\subset G)
\end{aligned}
この作用$\phi_{G}$を特別に$G$の部分集合の集合$\Pow(G)$への左からの積による作用と言います。実は、集合($G$の部分群とは限らない!) $S \subset \Pow(G)$の安定化群の元の個数$\abs{\Stab_G(S)}$は軌道-安定化群定理から、$\abs{G}$の約数ですが、実は$\abs{S}$の約数でもあります。
Note) 上記の証明をしますが、ややこしいので、気に成らない方は飛ばしてください([1]の教科書の命題の証明(p.106)を理解するのに半日くらい(いや、1日くらい?)時間かかったので、自分の備忘録としても残しておきます):
$H = \Stab_G(S)$とします。安定化群$H$は$G$の部分群であるため、$H$の$S$への作用
\begin{aligned}
\phi \colon H \times S &\rightarrow S \\
h \quad, s \, &\mapsto hs (= \psi(h,s) \subset S)
\end{aligned}
が定義できます。(これはちゃんと作用の条件を満たします。$\psi$の定義域$G \times S$を$H \times S$に制限したものを$H$の$S$の作用とすれば、安定化群の$S$で演算が閉じている事実と合わせれば良いです) ここで、$s_1, s_2 \in S$とし、$S$上の同値関係を$s_1 \sim s_2 \leftrightarrows \Orb_H(s_1) = \Orb_H(s_2)$とすれば、($G$上の同値関係を$S$上に制限しただけなので、同値関係の条件を満たします)、直和分割の等式
$$S = \coprod_{s \in S} \Orb_H(s)$$
が成立します。
ここで、$H$は$S$の安定化群
H = \Stab_G(S) = \left\{ g \in G \mid gS = S \right\}
であるため、
\begin{aligned}
\Stab_G(S)S &= S \\
HS &= S
\end{aligned}
が成り立ちます。($HS$は$hs$($\forall h \in H, \forall s \in S$)の形をしたもの全体の集合です)
つまり、$\forall s \in S$に対して$Hs \subset S$が成り立ちます。ここで、同値類$Hs$は$s \in S$の$H$による軌道$\Orb_H(s)$と同値であることを思い出すと、軌道$\Orb_H(s)$の元は全て$S$内にあります。
また、$H$が$G$の部分群なので、$\forall x \in G$に対して、同値類$Hx$の元の個数は等しいのでした。この事実は$\forall s \in S (\subset G)$でも成り立つ(すべての$G$について成り立つということは、$G$の部分集合である$S$でも当然成り立つよね)ので、同値類$Hs$の元の個数は全て等しいということが言えます。なので、$\abs{Hs} = \abs{H}$です。
直和分割の等式にこの事実を当てはめると、
$$\abs{S} = \sum \abs{H}$$
となり、$\abs{H}$が$\abs{S}$の約数であることが証明できました!!8
共役による作用から引き起こされた作用
ラストです。
このとき、写像$\Phi_{\Ad}$を以下のように定義します:($\phi_{\Ad}$は共役による作用とします。)
\begin{aligned}
\Phi_{\Ad} \colon G \times \mathscr{P}(G) &\rightarrow \mathscr{P}(G) \\
g \qquad, H \, &\mapsto \left\{\phi_{\Ad}(h,g) \mid h \in H \right\}( = gHg^{-1} \subset G)
\end{aligned}
直前二つと同じ感覚で定義できます。
この作用についても、共役による作用と同様にいろんなことが言えます。最初にまとめておくと、
- 部分群$H$の共役類の定義($H= i_g(H) \leftrightarrows H$と$gHg^{-1}$は共役)
- $H$が正規部分群であることと、$H = i_g(H)$であることが同値ということ
- $H$が正規部分群であることと、正規化群$\Norm_G(H) = G$が同値。
- 軌道$\Orb_G(H)$は、$H$の共役類と等しい
- 安定化群$\Stab_G(H)$は正規化群$\Norm_G(H)$と等しい。
という感じです。
上から順番に。
1番目は元に限らず、集合(部分群)に対しても共役類というのを定義した、ということを言っています。ここで、共役類は部分群を元とする集合です。
2番目は、正規部分群の定義(部分群$H \in G$に対し、$\forall h \in H, \forall g \in G$で$ghg^{-1} \in H$が成立する)と、$gHg^{-1} = H$が同値であるということから従います。
"$H$の共役類の個数が一つ => $H$が正規部分群" みたいな流れでよく使います。(シローの定理から、$p$を素数として、群$G$の全てのシロー$p$部分群は共役であるが、共役類の個数が1つしかないので、その部分群は正規部分群みたいな使い方をしたりする)
3,5番目ですが、正規化群$\Norm_G(H)$を
\Norm_G(H) = \left\{ g \in G \mid gHg^{-1} = H \right\}
と定義すると、
$\forall g \in G, gHg^{-1} = H$は$i_g(H) = H$から、$H$が正規部分群であるということと同値です。
さらに、$\Stab_G(H)$の定義は$\Norm_G(H)$のそれと全く同じであるため、5番目も成り立ちます。
最後に4番目ですが、
\begin{aligned}
\Orb_G(H) &= \left\{ \Phi_{\Ad}(g, H) \mid \forall g \in G \right\} \\
&= \left\{ gHg^{-1} \mid \forall g \in G \right\} \\
&= \left\{ i_g(H) \mid \forall g \in G \right\}
\end{aligned}
より、軌道$\Orb_G(H)$は、$H$の共役類と等しいということが成り立ちます。
これで作用については、一通り網羅しました。疲れた (本当は、可解群やべき零群についてもまとめたかったのですが、内容をつなげることができませんでした)
この先
環上の加群
今までの話は、単位元、逆元と結合法則から成り立つ種々の定理について、つらつらと述べてきました。他の法則として、交換法則がありますが、交換法則が成り立つ群は可換群というのでした9。しかし、まだ出てきていない法則「分配法則」があります。そこでの主役が環上の加群というものに当たります。
今まで、作用を受ける集合が群構造をもつ集合である例を結構上げてきました。つまり、$M, G$を群として、作用$\phi$
\phi : M \times G \rightarrow G
を考えてきました。ここに、分配法則を入れてみます。
まず、定義域$M \times G$の第一引数を固定して、$m \in M$を取り、
\begin{aligned}
\phi_m \colon G &\rightarrow G \\
x &\mapsto \phi(m,x)
\end{aligned}
と定義します。$\phi_m$は全単射となります。全射については、任意の$x \in G$に対して、$m^{-1}x (= \phi(m^{-1}, x))\in G$を引数とすることで、$\phi_m(m^{-1}x) = x$が成り立ちますし、単射については、$\forall x,y \in G$に対して、$\phi_m(x) = \phi_m(y)$の右側に$m^{-1} \in M$を作用させれば、$x = y$が成り立ちます。
Note) この性質自体は$G$が群構造を入れていなくても(つまり、一般の作用に対して)成り立ちます。
ここからどう分配法則を入れるのでしょう?$\phi_m$をじっと見ると、分配法則っぽいもの
\phi_m(xy) = \phi_m(x) \phi_m(y)
が成り立てば、結構うれしいんじゃないか、と考えてみます10。
$G$が可換群ならば、上式は
$$\phi_m(x+y) = \phi_m(x) + \phi_m(y)$$
となるので、より分配法則っぽく見えます。
上式$\phi_m(xy) = \phi_m(x) \phi_m(y)$は$\phi_m$が$G$の準同型写像である、といっているにすぎません。(実は、全単射なので、$\phi_m$は同型写像です) ただ、$\forall m \in M$について成り立つことを要請したいです。こういう背景を把握した上で、環上の加群を導入すると、話がかなりスムースに理解できるかな、と思いました。
環$A$上の加群$M$($A$加群という)とは、環$A$の可換群$M$による作用に分配法則を加味したものを指します。正確に説明すると、可換群$M$があって、分配法則を$M$に導入したい。そのとき、環$A$の力を借りて、以下のような条件を満たす写像$\phi$を定義することにより、分配法則が$M$に定義できます:
-
$\phi$を以下のような写像とする:
\begin{aligned} \phi : A \times M &\rightarrow M \\ (a, x) &\mapsto \phi(a,x) \end{aligned}
$\phi$が環$A$の$M$への作用であること(これは、$A$が加法群(可換群)と思い、$M$をただの集合とみなすことにして、$A$の$M$への作用を定義すればよい)
2. $\forall a,b \in A, \forall x ,x_1, x_2 \in M$について、分配法則
\begin{aligned}
\phi(a+b, x) &= \phi(a, x) + \phi(b, x) \\
\phi(a, x_1 + x_2) &= \phi(a, x_1) + \phi(a, x_2)
\end{aligned}
が成り立つこと。
例によって、参考書によっては、(記号の乱用だが)$\phi(a, x) \in M$を$a \cdot x \in M$とか、$\cdot$も省いてしまって$ax \in M$と書いたりします。上記の式を書き直すと、
\begin{aligned}
(a+b)x &= ax + bx \\
a(x_1+x_2) &= a x_1 + a x_2
\end{aligned}
と書けます。こう書くと上式の2番目は、$\forall a \in A$を写像$M \rightarrow M$とみなせば、確かに分配法則ですな。
特に$A$が体$K$のとき、$A$加群のことを$K$上のベクトル空間と言います。なので、環$A$上の加群$M$($A$加群)はベクトル空間の一般化と言えるでしょう。
ベクトル空間といえば、線形代数だと一次独立とか基底に関して調べるみたいなことをやったと思いますが、$A$加群についても似たことをやったりします。特に、基底(の有限部分集合)が$A$加群$M$を生成するときに$M$は**$A$上有限生成な加群**と言います(有限であることがポイント)。平たく言うと、いつでも有限な個数の元で$\forall m \in M$を表現できるわけです。で、有限集合で加群を生成できるという条件を持っていると、いろいろ数学的に良い性質を導けます。それは、また別でまとめられればいいかなぁ、と11。
Note) もう一つの方向性があって、$\phi_m(xy) = \phi_m(x)\phi_m(y)$($\forall m \in M$について、$\phi_m$が$G$の準同型写像である)が成り立つようなものを定義しちゃえばいいじゃん、と考えます。いきなり定義から。
定義($\Sigma$群と作用域)
$\Sigma$を集合(群構造を持つとは限らない), $G$を群として、写像$\psi_{\Sigma}$
\begin{aligned}
\psi_{\Sigma} \colon \Sigma \times G &\rightarrow G \\
\tau, g &\mapsto \tau(g)
\end{aligned}
が定義されていて、$\tau \in \Sigma$, $x,y \in G$について、$\psi_{\Sigma}(\tau, xy) = \psi_{\Sigma}(\tau, x)\psi_{\Sigma}(\tau, y)$が成り立つ時、$\Sigma$は$G$に作用されているといい、$\Sigma$を作用域、$G$を$\Sigma$群という12。
$\Aut_M(G)$を$\phi_m$($\forall m \in M$)全体の集合として、$\phi_m \in \Aut_M(G)$について、上記の$\Sigma$を$\Aut_M(G)$とすれば、$\psi_{\Sigma}(\phi_m, x) \triangleq \phi_m(x)$で、$G$は$\Aut_M(G)$群です。($\Sigma$はただの集合でも良いです。例えば、上記で定義した$\Aut_M(G)$自体を$\Sigma$と取り替えても良いですし、$\Aut_M(G)$の任意の部分集合を$\Sigma$としても成り立ちます。) これで、作用域を定義することで、作用$\phi$に分配法則を考慮したものを考えることができました。
実は、作用域を$G \rightarrow G$の恒等写像のみからなる集合とすれば、$\Sigma$群は普通の群となります。その点で、$\Sigma$群は群の拡張概念でもあります。
同様に、自己同型群の群への写像による作用も$\Aut(G)$を作用域と見ることにより、$\Aut(G)$群と見ることもできるし、さらには、加群だって、環$A$を作用域と見て、$A$加群で定義されている写像を$\psi_{\Sigma}$とすれば良いです($A$加群を一般化したとも言える)。
いままで、異なる取り扱いをしていた加群も群もひっくるめて一般化できるなんて! ここまでで既にうれしいのですが、さらにうれしいことに、$\Sigma$群で成り立つ定理(Krull-Remak-Schmidtの定理)が成り立ち、単因子論(応用例として、線形代数のJordan標準形とか)の見通しがよくなったりで、かなり便利そうな概念です(まだ、自分のレベルがそこまで追いついていないため、深い話はできませんが..)
ガロア理論との関連
絶対長くなりそうなので、別で書く...
コメント
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kobitoめっちゃ落ちる..
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working mathematician
でもないので、変な解釈とか証明とかあったらご指摘ください。 -
texを思い出すのにまぁちょうどよかったかも。texこういう風に書いたらいいよ〜 ってのもご指摘いただければありがたいです。(ちなみに、qiitaではmarkdownをurlの末尾に
.md
とつけると見れるみたいです。http://help.qiita.com/ja/articles/qiita-show-raw-body 参照。)
参考文献
[1] 代数学1 群論入門 ... 行間の少ない良書だと思いますが、欲を言えば、もう少し各用語との関連性を表とかでまとめてくれるページがあったらよかった。
[2] 代数学2 環と体とガロア理論 .. 環上の加群の話。
[3] 加群十話―代数学入門 .. 準同型や環上の加群が分配法則と結びついてる的な話はこの本を参考にしました。
[4] 群論 (岩波基礎数学選書) $\Sigma$群やKrull-Remak-Schmidtの定理を参照しました
-
ガロア理論との関連性は別で回します。 ↩
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そもそも、qiitaで数学のみの記事ってどうなんでしょう、とかありますが、細かいことは気にしない。やっぱり、レンダリングの面で便利だし。結構重くなるけど。(一応、圏論とかの記事を書くときのリファレンスとして利用するつもりではいる...) ↩
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ここはあんまり自信がない.. ↩
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交換法則も成り立てば、可換群。分配法則については展望のところで詳し目に取り上げます ↩
-
といいつつかなり明示的に書いた ↩
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この記事を書いた発端は、もともとこの証明がややこしく、わかったと思ったら、あれ、わからんぞの繰り返しだったので、メモっとかないと無限ループや!、と思ったからです。 ↩
-
交換法則に関連する概念として、交換子群や可解群を足がかりとして、話をつなげてみることはできるなぁ、と思いました。 ↩
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うれしいというのは、数学コミュニティの中では、展望のありそう、という意味で使われる、と勝手に思っている。大学院時代でのときのホットワード(というんだっけ?)だった ↩
-
よく出てくるイデアルや多項式環は環上の加群です。加群をしっかり知ることでこれらの性質も深く理解することができます。 ↩
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[4]だと、$G \times \Sigma \rightarrow G$で定義していますけど、作用の話とかと絡めたいので、定義域の第一引数と第二引数を交換した形で書きました。 ↩