概要
- 『エンジニアのためのためのマネジメント入門』の読書メモ。
- Kindle版で読了。文章に色付けができたり、注釈をすぐ読めるので便利。
- エンジニアリングマネージャーを目指している方、マネジメントについて学びたい方に購入して読んでもらいたい。
4章 「組織のマネジメント」
概要
1. 組織の基本型とその特性
2. 組織にヒエラルキーが作られる理由
3. 組織とシステムの関係性
4. 分業と社内政治とは何か
5. ステークホルダーとの関わり方
1. 組織の基本型とその特性
-
組織とは
- 組織という括りに企業も含まれる。
- 企業とは営利の目的で継続的・計画的に、同種の経済行為をする組織体。
- 組織の3要素
1. 協働意識 2. 目的 3. 伝達
Barnard, 1968, pp.85-95
-
組織の基本型
【3つの基本型】 機能別組織 事業部制組織 マトリクス組織
沼上, 2004, pp.25-34
- 機能別組織
- 機能によって組織を分割。
- 研究開発や営業などの機能を重視。
- 事業部制組織
- 自律的に存続できる単位で分割。
- マーケットへの適応を重視。
- マトリクス組織
- 分割する軸を複数にしたもの。
- バランス重視。
- 機能別組織
-
オーガニグラフ
- 組織の実態を表現する手法 (Mintzberg, 1999, pp.87-95)
- 組織図からは、フォーマルな組織構造しかわからない。
- 部署間の関連や権限、人のネットワークなど、反映されていない情報が数多くある。
- インフォーマルな組織構造こそが、組織の実態になる。
2. 組織にヒエラルキーが作られる理由
- 例外案件を適切に対処するため。
- 不確実なマーケットと、不確実な人間を扱う組織では、標準プロセスでは処理できない例外案件が必ず発生する。
- コミュニケーションチャネルの最適化と経路の固定化を行い、無駄なコミュニケーションを減らせるツールになる。
- 例外案件はチーム外の人とコミュニケーションを必要とする。
- 組織の人数が増えるにつれて、コミュニケーションコスト量は指数関数的に増える。
- ヒエラルキーの発達が望ましくない理由
- すべてのプロセスがヒエラルキーに依存して、意思決定の遅れなどを招いてしまう。
3. 組織とシステムの関係性
- システムの観点から組織を眺めると、いくつもの共通項が見つかる。
- コンウェイの法則
- システムを設計する組織は、その構造をそっくりまねた構造の設計を生み出してしまう。
- SoEとSoR
- システムと組織構造の関係を表す1つの例。
- SoE (System of Engagement)
- toCサービスなどの変化の激しいマーケットを相手にする。
- SoR (System of Record)
- 基幹システムなどに安定した稼働を提供。
- 組織とソフトウェアの類似点
- 例)組織の分割をソフトウェア設計で言い換える。
コンポーネントの分割 - チームの分割。関心の分離。 コンポーネントの責務 - チームの責務。単一責任の原則。 インターフェースの定義 - 会議体、連絡方法の定義。
- 例)組織の分割をソフトウェア設計で言い換える。
- 組織のデバッグ
- 組織におけるバグのほとんどは、人と人とのコミュニケーションによって発生する。
- ソフトウェアと同様にデバッグができる。
- 組織におけるバグのほとんどは、人と人とのコミュニケーションによって発生する。
- 組織は人から成る
- マネージャーには組織としての視座が必要。
- 視座とは
- 物事を認知する立場のこと。
- 視座を上げることは、関心の範囲(自らが認知できる範囲)を広げることになる。
- マネージャーとして活動することが、視座を上げる一歩めになる。
4. 分業と社内政治とは何か
- 分業が作り出す作業
1. 調整 チーム間のリエゾン(連絡や仲介をする調整役)が必要になる。 2. 統合 インテグレーション(各チームのプロセスと成果物を統合する役割)が必要になる。 ※マネージャーが上記の役割を担うだけではなく、チームが担えるようにしたり、選任のスタッフを配置することも可能。
- 内向きと外向きのマネジメント
内向き: チームマネジメント 外向き: リエゾンとインテグレーション ※マネージャーは内向きと、外向きのマネジメントに携わる。
5. ステークホルダーとの関わり方
- ステークホルダーとは
- 個人から組織までをも含む利害関係者。
- ステークホルダー・マネジメントとは
- ステークホルダーエンゲージメント(ステークホルダーとの関係を築き、期待や関心について把握すること)をマネジメントすること。
- 5段階のプロセス(PMBOK®ガイド)
特定: ステークホルダーが誰か理解する。 理解と分析: ステークホルダーの考えや情報を押さえる。 優先順位づけ: 分析にもとづいて優先度の高いステークホルダーを特定する。 エンゲージメント: 優先度の高いステークホルダーを中心に、ステークホルダーと関わり、要求や期待を引き出す。 監視: ステークホルダー全体との関係についての変化を追う。
- 社内政治と呼ばれる何か
- 政治的なものとは
- 味方と敵の区別(Scmitt, 2022, p.119)
- 対処法
- 社内政治を否定しないこと。
- 政治的なものとは
- 交渉という名の対話
- ステークホルダー・マネジメントや社内政治の対処をすると必要になってくるもの。
- 交渉のステップ
1. BATNA(Best Alternative To Negotiated Agreement)を準備する。 2. RV(Reservation Value)を計算する。 3. 相手のBATNAを見極める。 4. 相手のRVを集計する。 5. ZOPA(Zone Of Possible)を計算する。 6. 合意案を形成する。 【大切なこと】 交渉は勝つか負けるかのゼロサムゲームではない。 交渉の落としどころを見つけてWin-Winの関係を築くこと。
5章 「戦略実現のためのマネジメント」
概要
1. 戦略について
2. 内部環境と外部環境の分析方法
3. 戦略の実行方法としての予算と目標
4. 組織デザインの考え方
5. 意思決定とは何か
1. 戦略について
- 戦略とは
- 長期的・全体的展望に立った闘争の準備・計画・運用の方法 (大辞林)
- 企業における戦略とは
- 組織がビジョンへ到達するための道筋。
- 企業の戦略 (琴坂, 2018, p.37)
全社戦略 市場参入や他社との協業などを検討する。 事業戦略 市場調査をしてプロダクト差別化の計画を作成する。 機能戦略 マーケットの技術動向を捉えて技術導入計画を作成する。
- 戦略プランニング
- 組織がビジョンに到達するための指針や方法、計画などを作成するプロセスのこと。
- 戦略フレームワークを使って闇雲に始めてしまわないこと。
- 計画的戦略と創発的戦略 (Mintzberg, 2013, pp.12-13)
2. 内部環境と外部環境の分析方法
- 内部環境と外部環境
内部環境 組織の内側に存在する組織の行動に影響を与えうる要因すべて。 外部環境 組織の外側に存在する組織の行動に影響を与えうる要因すべて。
- 2つの理論
RBV理論 (Resource Based View) リソース(人材、技術、知識、ブランド)の投入により産出したアウトプットを分析して、リソースから 競争優位の源泉を見つける。 【FW】 VRIOフレームワーク、バリューチェーンなど。 SCP理論 (Structure Conduct Performance) 産出したアウトプットとマーケットを分析して、マーケットにおける競争優位性を見つける。 【FW】 ファイブフォース分析、戦略グループなど。
- ケイパビリティとメトリクス
- ケイパビリティとは
- さまざまなリソースを組み合わせ直して活用する組織能力
- DORAチームが実施した研究
1. 継続的デリバリ 2. アーキテクチャ 3. 製品とプロセス 4. リーン思考にもとづく管理と監視 5. 組織文化 ※24個のケイパビリティが5つのカテゴリーに分類される。
- ケイパビリティとは
- メトリクス
- 4つの指標
デプロイの頻度 変更のリードタイム 変更障害率 サービス復元時間 ※メトリクスを用いることで、ケイパビリティを可視化できる。
- 4つの指標
- 組織文化の醸成
- 組織文化とは
- 企業の従業員が持つ共通の価値観や信念、行動規範のこと。
- 組織文化の変革
- 人が自ら変わらざるを得ない状況を作り出す。
- 8段階の変革プロセス (Kotter, 2002, pp.42-45)
1. 危機意識を生み出す 組織に対して十分な危機感を盛り上げる。 2. 変革推進のための連帯を生み出す 変革を推進するためのチームを作り、チームが変革プロジェクトをリードする。 3. ビジョンと戦略を作る ビジョンを達成するための方法を戦略として表明する。 4. ビジョンの周知徹底 メッセージングやコミュニケーションを徹底する。 5. 従業員の自発を促す 自発的な取り組みの阻害要因を排除する。 6. 短期的成長を出す 短期的成果により、変革が価値を生む証拠になり、変革反対者の勢いを削げる。 7. 成果を生かしてさらなる変革を推進する 変革反対者も残り続けるため、変革の手を休めてならない。 8. 新しい方法を文化に定着させる 文化として定着させなければ、元どおりになってしまう。
- 組織文化とは
- 組織の知識
-
組織の知識は、組織に属する個人の知識を源泉とする。
-
形式知と暗黙知
- 形式知
- マニュアルや技術文書など。
- 暗黙知
- 個人的な体験や信念など。
- 形式知
-
組織的知識創造
- 形式知と暗黙知の知識変換が、双方に行われることで、知識が創造されること。
野中・竹内(1996, pp.93-95)
- SECIモデル
共同化 個人の暗黙知からグループの暗黙知を想像すること。 表出化 暗黙知から形式知を創造すること。 連結化 個人の形式知から体系的な形式知を想像すること。 内面化 形式知から暗黙知を創造すること。
- エンジニアリング組織の知識創造
- Scrum、スウォーミング、モブワークなど。
-
3. 戦略の実行方法としての予算と目標
- 戦略の実行とは
- 何を測るかという指標を決め、具体的な目標を作ること。
戦略実行の流れ 戦略 → 目標・予算 → 実行 → 測定・評価 → 戦略に戻る
- 何を測るかという指標を決め、具体的な目標を作ること。
- 予算と指標の測定
- 企業会計について
- 管理会計
- 未来に視点を置いた会計。
【主な指標】 変動費 売上に比例して発生する費用。 固定費 売上の増減に関わらず時間とともに発生する費用。 限界利益 売上高から変動費を引いたもの。 損益分岐点 利益がゼロになる売上高のこと。 損益分岐点 = 固定費 / (1 - ( 変動費 / 売上高 ))
- 未来に視点を置いた会計。
- 財務会計
- 過去に視点を置いた会計。
- 国際財務報告基準に代表されるような会計基準に従って、すべての企業が同じ運営方針になっている。
- 財務三表
損益計算書(Profit and Loss Statement) 収益から費用を差し引くことで利益を算出する。 貸借対照表(Balance Sheet) 正味財産を計算する。 キャッシュフロー計画書(Cash flow Statement) お金の流れを計算する。
- 企業会計とエンジニアリング
- 管理会計
- エンジニアリングに関する費用を変動費と固定費に分けて管理する。
変動費 ソフトウェア開発における業務委託費用、インフラストラクチャ費用など。 固定費 エンジニアの人件費、開発ツール費用、ソフトウェアライセンス費用など。
- エンジニアリングに関する費用を変動費と固定費に分けて管理する。
- 財務会計
- 「研究開発費等に係る会計基準」などによって、研究開発およびソフトウェア開発の会計基準が定められている。
- ソフトウェアの目的によって費用あるいは資産として会計処理をすることになる。
- 管理会計
- 管理会計
- 企業会計について
- 目標によるマネジメント
- MBOの語源
- Management by Objective and Self-Control
- 目標と自己管理によるマネジメント
- 自ら目標を設定して遂行することで、主体性が発揮されて大きな成果を上げるようになるとかんがえられている。
- 3つの目標によるマネジメント手法
- 目標管理制度
- 個人目標を組織的に運用する。
- 目標設定、目標運用、目標評価の3つからなる。
- SMARTの法則(Doran, 1981, pp.35-36)
Specific 明確であること。 Measurable 計測可能であること。 Assignable 誰がやるのか割り当て可能であること。 Realistic 達成可能であること。 Time-related 期限が明確であること。
- 目標の運用
- マネージャーが自己管理のサポートを週1 ~ 月1回の短いサイクルで行う。
- OKR
- Objectives and Key resultsの略。
- Objectives
- 野心的でワクワクするような定性的目標を1つ立てる。
- Key Results
- 達成可能であるが、高難易度になる数値目標を3つほど定める。
- 経営から各部門、チームからチームメンバーまでのObjectivesを連鎖させる。
- KPIマネジメント
- Key Performance Indicatorの略。
- KGIまでのプロセスをCSFが表し、CSFを数値化したもの。
- KGIとは
- 最終的な数値目標であり、組織のビジョンや目標を定量化した指標。
- CSF
- KGIの達成にクリティカルヒットする要因。
- KPIを軸にPDCAサイクルを回し、運用も行う。
- Key Performance Indicatorの略。
- 目標管理制度
- MBOの語源
- ビジョンによるマネジメント
- ミッション単体では機能しないため、ミッションやバリューが必要。
ビジョン 将来のありたい姿。理想像。 ミッション 企業が果たすべき使命。存在意義。 バリュー 組織の価値観。
- ビジョンコミュニケーション
- ビジョンを伝えるためのメッセージングやコミュニケーションのこと。
- メッセージ経路
- 直接的メッセージング
- 全社集会、対話、メールなど。
- 間接的メッセージング
- 人づてに伝える、メディアの取材記事、社内ドキュメントなど。
- 直接的メッセージング
- ミッション単体では機能しないため、ミッションやバリューが必要。
4. 組織デザインの考え方
- 組織デザインとは
- 従業員一人ひとりの能力を最大限に発揮して、目標・予算など戦略の実行ができる組織構造を考えること。
- 人員配置も考える必要がある。
- 戦略を実行するためのチームを作る方法
- 目標からチームを作る。
- 目標を達成するのに最適なチームを作れる。
- チームの立ち上げに時間を要する。
- 既存チームの目標を変更する。
- 機能するチームをすぐに作れる。
- 目標に対して最適な人員配置にならないことがある。
- 目標からチームを作る。
- チームの適正人数
- 単純で専門性が低い業務
- チーム人数を多くできる。
- 複雑で専門性が高い業務
- チーム人数を少ないほうがよい。
- チーム内のコミュニケーションを必要とするため。
- マネージャーがマネジメントできる人数に限界がある(スパン・オブ・コントロール)
- チーム人数を少ないほうがよい。
- 単純で専門性が低い業務
- エンジニアリングチームのデザイン
- コンポーネントチーム
- 効率よく開発ができる。
- 例外案件や、コミュニケーションコストが発生することでリードタイムが長くなる。
- フィーチャーチーム
- 機能開発におけるコミュニケーションコストとリードタイムが少ない。
- 専門外の技術領域にも踏み込むので、リソース効率が悪くなる。
- 逆コンウェイ作戦
- システム設計をもとに組織を組成する考え方。
- コンポーネントチーム
5. 意思決定とは何か
- 複数の案から1つを選択すること。
- 今ある最良の選択を即座に決断することを求められている。
- 投資した時間と意思決定による結果の良し悪しは相関関係ではない。
- 意思決定を行わないことも、意思決定をしていることになる。
- 権限責任一致の原則
- 職務を履行するための権限がなければ、責任を果たすことができないこと。
- 自身の権限と責任を認識し、上司との議論を通して共通認識を作ることで高速に意思決定ができるようになる。
印象に残った文章
P.145
例外案件の発生は、チームの中はもちろんですが、チームとチームが関わる組織の隙間でも多く発生します。
P.149
エンジニアリングマネージャーは、単にシステムを開発するチームのマネジメントをするのではなく、組織と戦略、そしてシステムを設計しなければなりません。
P.159 - 160
関与するステークホルダーを特定して優先順位をつけるためには、図や表にマッピングしてその関係性を可視化するのが有効です。これを関係者と一緒に進めることで、関係者間での認識が擦り合うだけではなく、多角的な視点を持って「特定」と「理解と分析」ができるようになるでしょう。
P.162
社内政治に向き合い、社内に味方を作り、時には敵と取引をして、敵を味方にしていくことが大切になるでしょう。
P.174
企業に根付く伝統や習慣に囲まれて暮らして過ごすと、人々は似かよったものへと同質化していきます。
P.194
本人が腹落ちをしている目標は、目標達成の意欲が強くなりパフォーマンスを向上させます。
P.202
ビジョンは描くだけではなく、語らなければなりません。