はじめに
with QAエンジニアの@Kiyou77です。
自分はスクラムの経験がないのですが、先日Professional Scrum Master™ Iを受験しまして、無事に合格することができました。
今回は受験を決めてから合格するまでで、自分が考えたことなどを書きたいと思います。
この記事で書いたこと
- なぜスクラム未経験で認定資格を受験しようと思ったのか
- どうやって勉強したか
- 勉強~合格してみて思ったこと
この記事で言及しないこと
- PSMと他の認定資格との詳細な比較
- PSMの受験方法
以下の記事などで既に詳しく書かれている方がいらっしゃいますので、当記事では扱いません。
Professional Scrum Master™とはなにか
Professional Scrum Master™はScrum.orgが提供しているスクラムマスターの認定資格です。
Scrum.orgはスクラムの共同開発者であり、スクラムの基本的な考えをまとめた「スクラムガイド」の著者であるKen Schwaberが立ち上げた団体で、スクラムに関する様々な学習コンテンツや認定資格を提供しているのですが、そのうちの1つがPSMというわけです。
スクラムマスターの認定資格としては、PSM以外にもCertified Scrum Master®やLicensed Scrum Masterなどがあります。上に貼ったリンクで詳しく比較されているため、ここではあまり詳しい違いを書きません。
色々とある認定資格の中で、自分がなぜ PSM を選択したかというと、ひとえに「安いから」が理由です。
ほかの認定資格は研修が必須となっていて、研修費込みで最低でも20万円はかかります。
自分はスクラム未経験で、この先スクラムを経験するかどうかも定かではない中で、興味はありつつも20万円はシンプルに高く、手が出せないなあと思っていました。そんな中、日本語対応こそされていないものの、研修も更新も必要ない$200で受験できるPSMの存在を知りました。
研修不要なぶんいくらかハードルは高く、日本語対応されていなかったり、問題数が80問に合格ラインが正答率85%と、他より水準が高かったりします。とはいえ言語はGoogle翻訳を使ってよいと書かれてあるし、水準の高さはその分がんばった証明になる……と考えると、むしろ良いでは? とそう思い、自分はPSMを受けることにしました。
(先の記事などでは受験料は$150と紹介されていますが、どうも値上げしたようで$200 になっていました。悲しい……。日本円にすると受験料は3万円ほどになりました。円安……。それでも研修で数十万かかるのと比べたら破格の安さなので、問題ありません。べつにないてないです)
なぜスクラム未経験で認定資格を受験しようと思ったのか
前提として、自分はスクラム未経験のQAエンジニアです。しかし、QA関連の記事を読んでいると、よく「QAとスクラムマスターはよく似ている」と書かれているのを見かけることがあります。
QAは品質、スクラムマスターはスクラムのフレームワーク、それぞれ責務を負うところは明確に異なっています。なぜそのように言われるのでしょうか?
アジャイル開発において、テストに対して次のような考え方があります。
最後にテストする よりも ずっとテストし続ける
バグの発見 よりも バグの防止
機能性をチェックする よりも チームが理解している価値をテストする
システムを破壊する よりも 最高のシステムを構築する
テスターの責任 よりも 品質に対するチームの責任Agile Testing Condensed Japanese Edition より テストマニフェスト
Janet Gregory, Lisa Crispin, 風間 裕也 訳(2021)
「品質とは行為ではなく、習慣である」とたびたび言われるように、アジャイル開発における品質とはテストという一回いっかいの行為によるものではなく、行為の枠組み、考え方や思想を経て作られるものなのです。
そしてQAはこれを決してひとりでは実現できません。開発チーム全体で実践する必要があり、そのためアジャイル開発におけるQAには対話的なスタンスが求められます。
他方、スクラムもまた、次のような形で説明されます。
スクラムとは、複雑な問題に対応する適応型のソリューションを通じて、⼈々、チーム、組織 が価値を⽣み出すための軽量級フレームワークである。
「スクラムガイド スクラム公式ガイド:ゲームのルール」よりスクラムの定義
Ken Schwaber, Jeff Sutherland, ⾓ 征典ほか 訳(2020)
スクラムマスターが責務を負うスクラムも、ルールではなくフレームワークと説明されます。スクラムもまた、スクラムガイドに書かれたやり方を単に守ればよいというものではありません。なぜそれが大切なのかを理解した上で尊重してもらう必要のある、考え方や思想、実践の枠組みなのです。
そして、上で引用したスクラムガイドにおいても、スクラムマスターの具体的なアクションは「~を助言する」「~を理解してもらう」と徹底して対話的なスタンスで書かれています。
QAとスクラムマスターは、実現したいものこそ異なるものの、実現したいもののあり方と、そのために求められるスタンスが似ているのではないかと考えられます。
互いに似ているなら、スクラムマスターの考え方を学ぶことはQAをやる上でも参考になるだろうと思われました。逆にQAとしてのスキルがスクラムマスターに活かせるのではないかとも思います。
もちろん、そうした相乗効果だけでなく、単に自分のキャリアを広げるという意味でも、スクラムマスターの知識はメリットになります。
そしてなにより、現在withがよりアジャイルな開発体制に向かうべく変化しつつある、というのが一番の理由です。スクラムおよびスクラムマスターについて学習することでそこに貢献したい! と思い、このタイミングで学習を始めました。
どうやって学習したか
基本的な学習方法については、やっぱり最初に紹介した記事に書かれてあるのを参考にしていただけたらと思います。以下はあくまで自分の場合どうだったかの紹介です。
学習資料としては、まずすべての基本となるスクラムガイド日本語版と、
あとPSMは英語で受ける必要があるので英語版に目を通しました。
(Google翻訳は使えるけど、訳語が怪しい場合もあるので原文に当たれたほうがよいと思う)
加えて以下の2冊の書籍を参考に読みました。実際の時系列的には、スクラムガイドよりも先にこちらを読んでいます。
またアウトプットには、以下の2つのサイトを使いました。
Scrum Openは公式が出している模試です。本番で出題されるのと同じ問題もたくさんあるので、問題と回答を全て覚えるくらい繰り返し受けると良いです。しかし問題数がそれほど多くないので、他の問題集も併用したほうがよいでしょう。
追加の問題集はなんでもよいといえばよいのですが、スクラムガイド2020年版に対応していない問題も多いため注意が必要です。上記2つ目のサイトが2020年版に対応していたので、こちらを2周ほどしました。
関連書籍などは事前に読んでいた上で、試験に向けた学習期間は3週間ほどです。Scrum Openを初めて受けた時点での正答率は80%でした。スクラムの経験がないことを踏まえると高めかもですが、そもそも4択なので上振れただけと思います。
選択問題なので、覚えてしまえば大丈夫だなぁと思って繰り返し問題を解きました。とはいえ単に暗記するのではなく、その問題が出されることの意味を考える必要があります。
選択問題は「どれが正解か」と同じだけ「どれが間違いか」が意味を持ちます。「ここが間違われやすい、ここを覚えてほしい!」という問題制作者からのメッセージなので、それを汲み取りながら正解の選択肢だけでなく不正解の選択肢も記憶することを意識しました。
数回繰り返すと、どちらのサイトでも95%の正答率を出せるようになったので、たぶん大丈夫だなと感じて受験に踏み切りました。そのタイミングで受験料が$200に値上げされていることを知って、流石に衝撃というか、落ちたらどうしよう……の不安に勢いを殺されかけましたが、「ええいままよ」で受験し、なんとか正答率90%(80問中72問正解)を取って合格したというわけです。
勉強~合格してみて思ったこと
PSM Iは基礎的な知識を問うもので、スクラムマスターというよりはスクラムそのものについて多く出題されます。そのため、練習問題を解いていてもスクラムマスターについて詳しくなっている実感はあまりありませんでした。
その状態で受験し、練習問題では出てこなかったスクラムマスターについての実践的な問題がいくつか出題され、ウッとなりました。勉強した基礎的な知識を基に、自分なりに回答しましたが、上に貼った成績にもある通り、足りない部分はまだまだあります。
スクラムマスターはスクラムチームだけでなく、組織に対しても働きかける責務があります。スクラムはスクラムチームだけが機能すればよいというわけではありませんし、スクラムチームの障害を取り除くだけでも、組織に協力を仰ぐ必要が出てきます。そうした全方位的なマネジメントの具体的なイメージはまだまだ掴めていないというのには、受験を経てようやく気が付き始めました。
また、これを言うと元も子もないですが、やはり経験なしにPSMに合格したとしても、それ自体は大したことではないと思っています。
知識も当然に重要です。しかし、理論的に言えばスクラムは経験主義に基づいて作られているので、知識よりもずっと経験が大事です。認定資格は、本来はちゃんと経験を積んだ人が、それを外的に証明するために取得するものなんじゃないかなと自分は考えます。それで言えば自分は何の経験もないため、認定資格はただの見栄えの良い「ガワ」でしかありません。
それでも、自分が資格を取得したかったのはReadyの姿勢を示せるからと思ったからです。
「経験はないです! でも自分、いつでもいけます!」というわけです。
弊社ではスクラムは採用されていませんが、スクラムやるかも、という話は今まさに議論されているところです。そこにPSMを取得した人が出てくれば、スクラム採用の後押しくらいにはなると思ってます。
QAとして本当の品質に向き合うために、スクラムやアジャイルの考え方はとても魅力的です。自分なりに出来ることをやって、少しでも環境を動かしていきたいと思います。
そのようなわけで、研修不要で受けられる スクラムマスターの認定資格PSM Iの取得は大変お勧めです。
スクラムが導入されていない企業で、数十万の研修にはなかなか踏み切れない……でもスクラムに興味がある、スクラムを経験したい! という自分と同じような方がいらっしゃったら、ぜひ挑戦してみてください。