本の紹介記事です。プロダクト開発のための開発手法や技術書についてではなく、論文執筆についてのHowTo本の紹介です。
なぜあなたは論文が書けないのか?/佐藤雅昭
なぜ読んだのか
note記事「働きながら情報系の大学院を修了したby父」で紹介されていたことがきっかけです。(尊敬しました。)
先行開発組織にいるのに、現部署に移ってから論文はおろか学会発表すらしていません。前部署でも論文はほとんど経験がありません。かと言って、開発した技術が事業化しているわけでもない。
開発技術の価値をお客様に早く提案する(PoC)、アカデミックに技術開発を深堀して発信する、どっちも中途半端でもやもやしてました。前者についてはコツコツ開発しています。ビジネスの判断は自分だけでコントロールできません。
後者については、割と自分でコントロールできる領域ですが、現組織では論文を出している人など一人もおらず、またコロナで学会発表もオンラインになったためモチベーションも下がっていました。そんな中、上述の記事で紹介されていた本著を手に取ってみました。
本の紹介
全4章構成で、特に「なぜ論文を書くのか?」というモチベーションにフォーカスされています。
- プロローグ:なぜあなたは論文を書くのか?
- 論文を書き始められない要因
- 論文を書く前のこと
- 論文を書くときのこと
- 論文を書いた後のこと
論文を書き始めることに抵抗がある人は、2章までが特に重要。
3章は論文で”イイタイコト”を定めてブレずにそれに向かって書いていくのか、
4章は書き終わってからAcceptされるまでにモチベーションを保って活動続けるための方法が記載されている。
論文に対して抵抗ある人が気軽に読めるように、本著はさらっと読みやすく作られています。
プロダクト開発のノウハウが学べるわけではないので、その観点ではお勧めしません。各章、問いかけるような見出しになっているので、目次を読んで部分的にでも自分に当てはまると思った方には、良いきっかけを与える1冊かもしれません。
気になった点
論文を書く目的は?
キャリアのため?成果のため?博士号のため?やらされて書く論文は苦行です。なんとなく書きたい、書いた方がよさそうと思っているが、まず「どうなりたいか」を考えす必要があります。
核となるデータが集まれば論文を書き始める
プロダクト開発のように明確な目的のために開発するだけでなく、研究開発をしながらアウトプットのイメージをしていくことも多いと思います。研究開発では、核となるデータや事象が出てきた時点で論文を書き始める必要があります。ここで重要だと思った点は2点あります。
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ストーリーを描くことが重要
”ストーリー”というのは一つのキーワードです。3段論法で作っていくなど、具体的な組み立て方は本著にも記載されていますが、データ(材料)からストーリーを展開する考え方の癖をつけたいと思いました。ストーリーを組み上げる作業は単純作業ではなく「知的作業」なので、まとまった時間を確保するようにしてしっかり考えます。 -
完璧を求めすぎない
完璧なデータを集める必要はなく、核となるデータでストーリーが描ければ、まずは最初の半歩を踏み出していき、その中で必要な材料があればまた集めるだけです。データを綺麗見見せたり、論文を読んだりするのは「単純作業」なので、small stepを踏んでいけば進みます。
論文のテーマに即した文献に目を通したか?モデル論文を3本程度見つけているのか?
論文を読むのが苦手な私にとっては耳の痛い内容でした。英語に抵抗があるのであれば翻訳機能に頼ればいいですし、全部完璧に理解して読む必要はないです。「できたらやる」ではなかなか行動できないので、時間を確保する仕組みを作って、文献を読んでいく必要があります。
その他
2章までの中から取り上げましたが、3章以降も参考になりました。論文を書いていくうちに何が言いたかったのかぐちゃぐちゃになっていった経験がある(めっちゃよくある)ので、一つのイイタイコト(=この本では北極星とも表現されてました)に向かって組み立てていくためのコツを、一つ一つ分解して記載されていました。
4章では、論文を書き終わった後の長い闘いで心が折れないように、という内容が記載されており、昔、研究室の先輩、Reviewerにキレたり心折れたりしてたな~と思い出しながら読みました。
まとめ
とにかく、モチベーションをしっかりと確認すること。
如何に最初の半歩を軽く踏み出すかも重要ですが、その後も論文がAcceptされるまでは根気のいる作業です。コントロールできない他人(上司、指導教官、Reviewer)ともやり取りする必要がありますし、書き終わった後も根気強く進めなければAcceptまでたどり着かないです。その時に、モチベーションを保てるように普段から「どうなりたいか」考え続けたいと思いました。
さいごに(ポエム)
「なぜやるか」が最重要だと思いました。
現業では、PC稼働時間をモニタして業務時間が管理されており、増えたタスクを残業で処理することができません。今のタスクに追加で論文を書くとなると、プライベートの時間を割いてコソコソ論文を書いていくことになります。
「今の会社で働く中で、本当にそこまでして論文を書く必要があるのだろうか?」の問いに対しては「いや、ない」という結論に至りそうですが、自分のキャリアを見通して論文が必要かどうかを考えて、もし必要なら業務の中で論文を書けるように環境を整える努力も必要だと思いました。