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Go言語: http.Client のコネクション管理 (HTTP/1.x)

Last updated at Posted at 2020-06-15

この記事について

net/http パッケージの Client は内部で TCP コネクションプールを持ち、コネクションのキャッシュ・再利用を行う。リクエスト送信時は、プール内に空きコネクションがあればそれを利用する。

そのため、Client は何度も作るのではなく使いまわした方がよい。この記事ではそのコネクションプールの仕組みについてまとめる。

なお、HTTP/1.x と HTTP/2 では TCP コネクションの使い方が全く異なるため、HTTP/1.x ついてのみ記載する。

  • 対象の Go バージョン: 1.14.4

まとめ

  • http.Client 内でコネクションプールを管理しているのは http.Transport
  • Transport は、以下の connectMethodKey の単位でコネクションを管理する
    • つまり、connectMethodKey が同じになるリクエストは同じコネクションプールを使う
type connectMethodKey struct {
    proxy, scheme, addr string
    onlyH1              bool
}
  • http.Transport でのコネクションプール関連パラメータは以下の通り。
パラメータ名 説明
MaxIdleConns Transport 全体で保持できる空きコネクション総数。DefaultTransport では 100 にセットされる。
MaxIdleConnsPerHost connectMethodKey ごとに保持できる空きコネクション総数。デフォルト値は 2。
MaxConnsPerHost connectMethodKey ごとのコネクション総数 (使用中・空き・接続中のものを含む)。デフォルト値は 0 (制限無しの意味)。
IdleConnTimeout 空きコネクションとして保持できる最長時間。DefaultTransport では 90秒にセットされる。

詳細

初めに Transport について

Client は Do()メソッドの呼び出しによりリクエストを送信するが、実際にTCPコネクションを張って(つまり Dial して)、リクエストの送受信を行うのは RoundTripper インターフェースを実装したオブジェクトである。

type Client struct {
    // Transport specifies the mechanism by which individual
    // HTTP requests are made.
    // If nil, DefaultTransport is used.
    Transport RoundTripper
    // ...
}

net/http では RoundTripper として Transport という構造体が実装されており、この Transport が TCP コネクションを管理するコネクションプールを持っている。

なお、Client へ明示的に RoundTripper が指定されなければデフォルトとして、以下の DefaultTransport が使われる。

go/src/net/http/transport.go
var DefaultTransport RoundTripper = &Transport{
	Proxy: ProxyFromEnvironment,
	DialContext: (&net.Dialer{
		Timeout:   30 * time.Second,
		KeepAlive: 30 * time.Second,
		DualStack: true,
	}).DialContext,
	ForceAttemptHTTP2:     true,
	MaxIdleConns:          100,
	IdleConnTimeout:       90 * time.Second,
	TLSHandshakeTimeout:   10 * time.Second,
	ExpectContinueTimeout: 1 * time.Second,
}

コネクション管理

コネクションの識別

Transport はリクエストの宛先ごとにコネクションプールを持つ。異なるリクエストでも以下の4つの値が同じであれば、それぞれ同じ宛先とみなされて同一のコネクションプールを使用する。

  • Proxy の URL
  • HTTP のスキーム (http or https)
  • アドレス (192.168.1.1:8080など)
  • HTTP/1 が必須かのフラグ ※WebSocketへのUpgradeなどは HTTP/1 が必須

これらは具体的には以下の connectMethodKey で表現される。つまり connectMethodKey が同じリクエストであれば、同じコネクションプールを使う。

go/src/net/http/transport.go
type connectMethodKey struct {
	proxy, scheme, addr string
	onlyH1              bool
}

コネクションプールとコネクション

Transport は、この connectMethodKey をキーとして各種のキュー、リストを管理している。これがコネクションプールの実体になる。

以下に Transport でコネクションプールを構成する変数を抜粋:

go/src/net/http/transport.go
type Transport struct {
    idleConn     map[connectMethodKey][]*persistConn    // 宛先ごとの空きのTCPコネクションの一覧
    idleConnWait map[connectMethodKey]wantConnQueue     // 宛先ごとのコネクション取得待ちのキュー
    idleLRU      connLRU                                // Transport 全体での空きコネクション一覧
    connsPerHost     map[connectMethodKey]int           // 宛先ごとのコネクション数
    connsPerHostWait map[connectMethodKey]wantConnQueue // 宛先ごとの Dial 順番待ちのキュー
    // ...
}

persistConn は net/http 内部で1つのコネクションを表す構造体で、素の net.Conn をラップしている。なお、1つの persistConn ごとに送信用(writeLoop)と受信用(readLoop)の2つの goroutine が動く。

go/src/net/http/transport.go
// persistConn wraps a connection, usually a persistent one
// (but may be used for non-keep-alive requests as well)
type persistConn struct {
    t         *Transport          // このコネクションの管理元の Transport
    cacheKey  connectMethodKey    // 上記記載の connectMethodKey
    conn      net.Conn            // 素の net.Conn
    br        *bufio.Reader       // conn をラップした受信用バッファ
    bw        *bufio.Writer       // conn をラップした送信用バッファ   
    writech   chan writeRequest   // リクエスト送信チャネル。writeLoop() が監視していて、リクエストを送信する。
    reqch     chan requestAndChan // レスポンス受信方法を伝えるチャネル。readLoop() が見る。
}

http.Transport でのコネクションプール関連パラメータ

コネクションプールに関連するパラメータを以下に記載。

パラメータ名 説明
MaxIdleConns Transport 全体で保持できる空きコネクション総数。DefaultTransport では 100 にセットされる。
MaxIdleConnsPerHost connectMethodKey ごとに保持できる空きコネクション総数。デフォルト値は 2。
MaxConnsPerHost connectMethodKey ごとのコネクション総数 (使用中・空き・接続中のものを含む)。デフォルト値は 0 (制限無しの意味)。
IdleConnTimeout 空きコネクションとして保持できる最長時間。DefaultTransport では 90秒にセットされる。

TCP コネクション~リクエストの送受信までの流れ

Client.Do() を呼んだ後の、TCPコネクションの確立・取得~リクエストの送受信までの流れをざっと記載する。

なお、[XXX]と表記しているのは Transport のソースコード go/src/net/http/transport.go 中の関数名。

(1) Transport での処理に入る

  • Client.Do() の延長で Transport.roundTrip() に入る
  • Proxy サーバーのURLや、HTTP/1.x が必須かどうかの情報を取得 [connectMethodForRequest]
    ※ これらはリクエストの送信や、connectMethodKey の生成に必要

(2) Keep-Alive が有効かチェック

  • もし Transport.DisableKeepAlives が true なら、HTTP Keep-Alive が無効なのでコネクションプールを利用せず、新規に Dial する [getConn, queueForIdleConn]
    ⇒ (4) へ行く

(3) 同一宛先への空きコネクションがあるか Transport.idleConn をチェック
まず、リクエストの宛先(connectMethodKey)用の空きコネクションがあるか Transport.idleConn をチェックする。 [queueForIdleConn]

  • ある場合
    • コネクションを取得し、Transport.IdleConn からは削除
    • リクエストの送信に進む
      ⇒ (5) へ行く
  • 無い場合
    • 空きコネクションを順番に待つためのキュー Transport.idleConnWait にエントリを追加
    • それと同時に、自身で新たなコネクションの確立を試みる
      ⇒ (4) へ行く

(4) 新規コネクションの確立を試みる
自分で Dial してコネクションを確立しようとする。ただ、コネクション数の上限(MaxConnsPerHost)に達している場合は Dial するための順番待ちのキューに入る。[queueForDial]

  • 以下の条件に合う場合は、Dial して新規コネクションを張る。
    • Transport.MaxConnsPerHost が 0 (つまり無制限)
    • 現在の同一宛先の合計コネクション数が Transport.MaxConnsPerHost より少ない場合
  • それ以外の場合は、Dial するための順番待ちキュー Transport.connsPerHostWait にエントリを追加
  • 空きコネクションが出来るか、自分で Dial 出来るようになるか、どちらか早い方で取得したコネクションを獲得

(5) 取得したコネクションを用いて、リクエストを送信する
コネクションを取得できたので、Transport.roundTrip() から各コネクションへリクエストを送信する。 [Transport.roundTrip, persistConn.roundTrip, persistConn.writeLoop]

  • リクエストを各コネクション(persistConn)ごとの送信チャネル persistConn.writech に追加
  • 送信チャネルを監視している goroutine(writeLoop) がリクエストを送信する

(6) レスポンスの取得とコネクションの解放
サーバーからレスポンスを受信したらそれを上位に渡して、コネクションを次のリクエストに使えるよう解放する。[persistConn.writeLoop, Transport.tryPutIdleConn]

  • コネクションからのデータ受信を監視してる goroutine(readLoop) が、レスポンスを受信
  • 受信後、空きコネクション待ちキュー Transport.idleConnWait で待ってるリクエストがあれば、それにコネクションを引き渡す
  • 待ちリクエストが無ければ、空きTCPコネクション一覧 Transport.idleConn にコネクションを追加
    • この時、空きTCPコネクション数が MaxIdleConnsPerHost を超えていれば追加しない。
    • Transport 全体の空きコネクション総数(idleLRU)が MaxIdleConns を超えていたら、一番古いコネクションをクローズする

コネクションの Timeout と Close

コネクションプールに入っている空きコネクションにはタイムアウトがあり、未使用状態の時間が Transport.IdleConnTimeout 以上になるとクローズされる。この値は DefaultTransport では90秒である。

また、明示的にコネクションをクローズしたい時は Transport.CloseIdleConnections() が使える。この関数はすべての空きコネクションをクローズする。

試してみた

MaxConnsPerHost の変更

同一宛先あたりの最大コネクション数を示す MaxConnsPerHost の値を変えながら、1つの http.Client に対して、3つの goroutine から一斉に同一宛先にリクエストを送る。

1. MaxConnsPerHost = 0 の場合 (0 はデフォルト値で制限なしの意味)

http.Client はこのように作成。

cli := &http.Client{}

結果:
「空きのコネクションが無い、かつ、MaxConnsPerHostの制限無し」なので、それぞれの goroutine から Dial されて、3つのTCPコネクションが張られる。

01.PNG

2. MaxConnsPerHost = 1 の場合 (同一宛先あたり、同時に1コネクションしか張れない)

http.Client はこのように作成。

cli := &http.Client{
    Transport: &http.Transport{
        MaxConnsPerHost: 1,
    },
}

結果:
「コネクションは1個しか張れない」状態なので、最初の goroutine だけが新規コネクションを張り、2~3個目の goroutine はそのコネクションが空くのを順番に待ってリクエストを送る。

02.PNG

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