はじめに
前回は、異なるNW間での通信を可能にするための技術としてルーティングプロトコルであるOSPFを扱いました。今回は、そのようなルーティングプロトコルを内蔵するルータのなかでも、特にファーストホップルータ(デフォルトゲートウェイ)の冗長化技術であるHSRPについて解説したいと思います!
HSRPとは
端的に言えば、物理的に複数台存在するファーストホップルータを論理的に1台に見せることで、L3機器の冗長化を行う技術です。前回解説したダイナミックルーティングであるOSPFも、経路を自動で切り替えられるためL3機器の冗長化を行うことができる技術ですが、これらが異なるのは対象とする機器がファーストホップルータかその先に存在するルータかという部分です。
イメージとしては一般的なルータの冗長化にはOSPF、ファーストホップルータの部分だけにHSRPを使うような形になると思います。では、HSRPがどのような動作をするかについてより詳しく見ていきましょう!
HSRPの肝はIP/MACアドレスの仮想化!
先ほど、HSRPは「物理的に複数存在するファーストホップルータを論理的に1台に見せる」ものだと説明しましたが、より正確に表現すると「同一ネットワーク上に存在する複数の異なるL3インターフェースを仮想的に1つに見せることでデフォルトゲートウェイを冗長化する」技術です。つまり、複数の異なるインターフェースに同じ仮想IPアドレスや仮想MACアドレスを割り当てることが可能です。
では、このような技術があるとゲートウェイに対してどのようなメリットがあるのでしょうか?その答えは、各エンドポイントのデフォルトゲートウェイのIPアドレス設定を変更せずに、冗長化が可能になるということです!このことについて、HSRPを設定しないケースと設定するケースを通して見ていきましょう!
HSRPを設定しない場合
私たちが扱うエンドデバイス(PCやサーバなど)では、あらかじめデフォルトゲートウェイのIPアドレス設定を行っています。
このような状況下で、もしそのゲートウェイが壊れてしまったらどうなるでしょうか?
冗長化ルータ(Router 1)が存在していても、そのルータがデフォルトゲートウェイとして設定されていないため、NW外部との通信ができなくなってしまいます。もしも、NW外部と通信したい場合はエンドデバイスのデートウェイ設定を変更しなければいけません。これでは面倒です!
HSRPを設定する場合
では、HSRPを用いて、2つのルータのインターフェースに同じ仮想IPアドレスを割り当てた場合はどうでしょうか?
この場合片方のゲートウェイが壊れたとしても、元の設定を引き継ぎつつ、もう片方のルータを用いてNW外部と通信することが可能となります。このことがHSRPの最大のメリットとなるわけです!
HSRPの中身を見てみよう!
ここまでで、HSRPを用いる利点についてはわかりました。ここからは、どのように本機能が動いているかを確認してみましょう!動作の大まかな流れは以下のようになります。
- ルータ間でHelloパケットを交換する
- ActiveルータとStandbyルータを決める
- 個々のルータが役割を全うする
それぞれについて、以下から簡単に説明します。
1. ルータ間でHelloパケットを交換する
LAN内のルータ間でHelloパケットの交換を行います。この時の宛先アドレスはマルチキャストアドレスである224.0.0.2となります。このHelloパケットの送受信を行うことによってLAN内の他のルータを検知します。
2. ActiveルータとStandbyルータを決める
LAN内で複数のルータが見つかったら、その中からActiveルータとStandbyルータを選出します。これらの選出方法は以下のようになります。
- HSRPプライオリティの値が最も大きいルータをActiveルータにする
- HSRPプライオリティの値が2番目に大きいルータをStandbyルータにする
- HSRPプライオリティが同一の場合、HSRPが動作しているインターフェースのIPアドレスをもとにして選出される
3. 個々のルータが役割を全うする
ここまでで、ActiveルータとStandbyルータが決まりました。そうすると、それぞれのルータは自身に与えられた役割を全うします。特にActiveルータが、ARP応答やパケット転送を行います。このときに用いるアドレスは仮想IPアドレス・仮想MACアドレスです。、また、StandbyルータがActiveルータの障害検知や役割、仮想アドレスの引き継ぎを行います。このようにしてゲートウェイ冗長化を可能にします。
ここまでがHSRP内部動作の概説になります!
これまで出てきた冗長化プロトコルを整理しよう!
本パートまでで、冗長化を可能とするプロトコルとしてSTP、OSPF、HSRPの3つを紹介しました。これらがごちゃごちゃにならないように、特徴をまとめておきます!
まとめ
今回の内容をまとめると以下のようになります。
- HSRPはファーストホップルータの冗長化技術である
- HSRPでは、同一ネットワーク上に存在する複数の異なるL3インターフェースを仮想的に1つに見せる
- HSRPでは、複数の異なるインターフェースに同じ仮想IPアドレスや仮想MACアドレスを割り当てる
- 冗長化する対象によって用いるプロトコルが異なる