この記事では、YouTubeの講演録を参考に、「組織効力感」という概念とその重要性、そしてどのように高めていくかについてまとめます。
私が直近チーム運営をしていく中で、最も重要視している概念です。
自分の備忘録的にも、残しておこうと思います
組織効力感とは?
「組織効力感」とは、「自分たちなら成し遂げられる」という、チームとしての自信や「いけるんじゃないか」という感覚を指します。これは、個人が自分自身の能力に対して持つ「自己効力感」(自分なら成し遂げられる) とは異なる概念です。
- 自己効力感: 自分なら成し遂げられる
- 組織効力感: 自分たち(このチーム、この会社、この仲間)なら成し遂げられる
例えば、スラムダンクの湘北高校バスケ部が「湘北ならできる」と感じる状態 や、ワールドカップ・WBCで「日本ならいける」という感覚 が組織効力感の例として挙げられます。
なぜ組織効力感が重要なのか?
組織効力感は、特に困難な状況や目標達成の「踊り場」を迎えた際に、チームが諦めずに粘り強く取り組む(しぶとさ)ために重要です。
組織効力感がない場合、以下のような問題が発生する可能性があります。
- 事業や部署が踊り場を迎えた際に、「こういう状況だし無理な気がする」「この場所にいていいのか」と感じ、停滞または後退してしまう。
- 優秀な人材が個人としては高い自己効力感を持っていても、「自分なら何でもできるけど、この会社でやる必要はない」と感じ、組織から離れてしまう。
- 自己効力感の高い人材が一人抜けることで、「あの挑戦的な人が辞めたということは潮目か」となり、芋づる式に他の人材も辞めてしまう可能性がある。
- 事業が潰れる前に、まず組織が潰れている状態になることがある。これは特にスタートアップで見られることがある現象です。
逆に、組織効力感があれば、「こういう状況だけど、この会社、この仲間とならまだまだいける気がする」となり、「いけるんじゃないか」という感覚が生まれます。これは若手人材の育成や定着にも繋がると考えられています。上司が諦めない姿勢を見せることも、組織の雰囲気に大きく影響します。
組織効力感を高めるには?
組織効力感を高めるための方法はいくつかあります。研究で示唆されている方法や、タスクアセスメントというフレームワークの考え方があります。
研究から示唆される方法
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集団的達成経験(みんなで成功体験を積む):
- チームや部署で目標を達成する経験を共有すること
- 悲観的になりがちな状況でも、過去を振り返り「1年前はこれができなかったのに、今はできるようになった」 といった進歩を認識すること
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チームの強みの情報流通量を増やす:
- チームメンバーがお互いの強みを認識し、それが組織内で共有されている状態を作る
- 「隣のチームのあの人も、〇〇さんのここが良いと言っていた」 といった情報が流れることで、「この会社には、自分の良い部分を見てくれている人がいっぱいいる」という感覚を生み出す
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貢献可能性の自覚(自分が貢献すればチームが勝てるという状態):
- 自分がチームの目標達成や勝利にどのように貢献できるか、その役割が明確になっている状態を作る
- 「〇〇さんはこの部分が得意だから、ここを頑張ってほしい。〇〇さんがこれをやってくれると、このビジョン達成に繋がるので、いてくれて本当に良かった」 といった声かけを行い、貢献可能性の自覚を高める
- スラムダンクの桜木花道に、最初は「リバウンドだけは全国区だぞ」 と伝え、その後「このシュートを決めることが勝利に繋がる」 と伝えたのは、貢献可能性の自覚を高める良い例
これは「小さな能力 大きな主役」という考え方にも通じます。たとえ一部の能力でも、そこで頑張ればチームの勝利に繋がることを明確に伝えることで、メンバーは動きやすくなります。対義語は、ベテラン社員などが持つ「大きな能力 小さな主役」で、能力があるのに活躍の場が与えられず塩漬けになっている状態です。
タスクアセスメントの4要素
チーム全員のエフィカシー(効力感)を高めるためのフレームワークとして、「タスクアセスメント」の考え方があります。これは、提示されたタスクに対して人々がどのように認知するかを捉えるものです。以下の4つの要素がぐるぐる回ることで、チームのエフィカシーが高まると考えられています。
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効力感(エフィカシー):
- 提示されたタスクに対して、「やれる気がするか」「これを自分たちが努力したら成果が出るか」という直感的な感覚
- 新しい難しいタスクなどを渡された際、「これは無理だ」と感じるか、「俺らが本気出せばいけるかも」と感じるか
「行ける気がしない」という感情に一時停止し、なぜそう感じるのか、その理由(リソース、期間など)を丁寧に紐解き、解消していくことも重要です。これを無視してハウツーだけ伝えても、チームのテンションは下がってしまいます。
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影響感(How-toが適切か):
- タスクを遂行するための方法(ハウツー)が、意図された成果を生み出せるかどうかという感覚
- 「既存顧客だけで予算達成せよ」「新規開拓のみで達成せよ」「このやり方でやれ」 など、示された方法が現実的か、効果的かについてチームがどう感じるか
やり方が合っていても、次の自己決定感が伴わないとモチベーションは上がらないという研究結果もあります。
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自己決定感(自分たちで意思決定できたか):
- タスクに対して、自分自身やチームが心の底から「よし、やろう」と意思決定できたかどうか
- 上司に言われたから、納期が来たからやっている、という状態では自己決定感はない
- タスクに対して、自分自身やチームが心の底から「よし、やろう」と意思決定できたかどうか
「課題はこうだけど、解決策はみんなで考えて一度提案してみて」 のように、ハウツーについて議論させる機会を設けることで、自己決定感が湧きやすくなります。個人ではなく、チームで話し合って決めることが重要です。
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有意味感(タスクの目的や価値が個人のやりたいことに合致するか):
- タスクの目的や価値が、チームメンバーそれぞれのキャリアや価値観、やりたいことにどれだけ合致しているか
- 単に報酬(給与)だけでなく、仕事を通じて得られる「真なる報酬の価値」 として、タスクに意味を見出せるか
自分たちでタスクに意味付けをしたり、上司がメンバーやチームの価値観とタスクの関連性を明示してあげること が重要です。
これらの4つの要素がポジティブな状態で回ることで、チームの組織効力感が高まり、次のタスクにも高いエフィカシーで取り組めるようになります。しかし、多くの会社では、効力感を確認せず、ハウツーを示し、自己決定を伴わず、有意味感も不明確なままタスクが進んでしまいがちです。
組織効力感を高めるための組織的な取り組み
組織効力感を高めるためには、個人的な努力だけでなく、組織全体での共通認識や仕組み作りが重要です。
- 組織としての共通言語化: 組織全体で組織効力感などの概念を共有し、共通言語を持つことが、誤解や軋轢を防ぎ、取り組みを進める上で重要である
- 理論を現場に合わせて噛み砕いて導入する: 学術的な理論をそのまま導入しようとすると現場がアレルギー反応を起こす可能性があります。現場で起きている現象と理論を結びつけ、具体的な例(帰納法的アプローチ)を交えて説明することで、浸透しやすくさせる
- パッチワーク的なマネジメントを避ける: 他社の成功事例(例:Netflixの率直なフィードバック)を安易に表面だけ真似る(パッチワーク的に導入する)と、その背景にある文化や前提が異なり、うまく機能しない可能性があります。組織のOS(オペレーティングシステム)に合った形で、体系的に導入する
- ミドルマネージャーの役割: 会社は小さな宇宙(小宇宙)の集合体であり、現場に近いミドルマネージャーが自分の管轄する範囲(小宇宙)を変えることが、会社全体の変革に繋がる可能性があります。トップは変なことをしないようにし、ミドルマネージャーが人を育てることに注力することが有効である
- 組織リテラシーの向上: 日本人全体の組織に関する知識や理解度を高めることが、組織全体の改善につながるという考え方もあります。最低限の理論を学ぶことで、組織運営における事故を防ぐ効果が期待できる
- ネットワーク型マネジメント: マネージャーが一人で成果管理、人材管理、組織成長管理の全てを抱え込むのではなく、自分自身が教えられないことは他の人に聞くように促すなど、組織内のネットワークを活用したマネジメントが有効です。これはマネージャー自身のストレス軽減にも繋がる
関連する概念
組織効力感と関連して、理解しておきたい概念がいくつかあります。
- 心理的安全性: 心理的安全性は捉えにくい概念ですが、自己効力感と関連して考えると分かりやすい場合があります。また、自然と踏み込んでいい、挑戦していいという雰囲気は、心理的安全性とも近しい概念です。心理的柔軟性が、心理的安全性を高める要因の一つと考えられている
- 組織社会化: 新しいメンバーが組織に受け入れられ、馴染んでいくための取り組みやプロセスです。特に中途社員は「結果を出さなければ信頼されないジレンマ」 に陥りやすく、最初から信頼してあげること や、社内のネットワーク構築 が重要です。オンボーディング期間を1年程度に延長し、コミュニティとしてノウハウ共有を行うことも有効と提言されています。組織社会化の理論を体系的に学ぶことも有効である
- リアリティショック: 組織に馴染む過程で生じる、理想と現実のギャップによるストレスです。ロールモデルストレス(尊敬する人と自分を比べすぎて落ち込む現象) など、いくつかの類型があり、それらを認識し、対処法(例:メンターやマネージャーが自身の失敗談を話す) を知っておくことが、メンバーが潰れない仕組みを作る上で重要である
- 経験学習: 経験を振り返り、そこから学びを得るプロセスです。経験学習における問いかけ(例:「3ヶ月前はこれができなかったのに、今はできている。なぜだと思うか?」「コツは?」)は、達成経験や社会的説得(プロセスを褒める)を通じて自己効力感を高めるのに有効である、
- ジョブクラフティング: 自分自身で仕事内容や意味合いをより良く変えていく技術です。タスククラフティング(仕事の範囲を広げる)、認知クラフティング(仕事の意味合いを捉え直す)、関係性クラフティング(仕事における人間関係を変える) などがあります。尊敬する人物ならどう考えるかをシミュレーションすることも有効なアプローチである
- アンラーニングと心理的柔軟性: 過去の成功体験やポリシースタンスに囚われず、状況に応じて学び直し、考え方や行動を変化させる能力です。オーセンティックリーダーシップ(自分らしさを貫く)だけでは、状況に適応できず失敗する可能性があります。自分の当たり前が当たり前ではないと認識し、状況に応じて変わっていく心理的柔軟性が根本にあることが重要です。転職や部署異動といった形式的な変化だけでなく、それを支える心理的柔軟性や理論が重要である
継続的な学習の重要性
組織やマネジメントは、常に新しい価値観や人材が入ってくるため、「完成する」ことはありません。特定の世代(例:Z世代)の育成に悩む人は、次の世代(例:α世代)の育成にも悩む可能性が高いです。
「うちの会社(私)のマネジメントは正しい」という前提を捨て、新しい論文や情報を常に取り入れ、学習し続ける姿勢が不可欠です。一度学んで終わりではなく、人間は常に「癖ができ続けている」存在なので、学び続けること自体が重要です。
自分自身のマネジメントスタイルに加えて、他者の良い部分を取り入れたり、様々なマネジメントスタイルを持つ人材を組織内に配置したり といった、ネットワーク型の考え方も有効です。
まとめ
組織効力感は、チームが目標を達成し、困難を乗り越え、人材を定着させる上で非常に重要な要素です。自己効力感との違いを理解し、集団的達成経験、強みの情報共有、貢献可能性の自覚、そしてタスクアセスメントの4要素(効力感、影響感、自己決定感、有意味感) を意識して働きかけることが、組織効力感を高める鍵となります。
そのためには、経営陣を含む組織全体での共通認識と体系的な取り組み、そしてマネージャー1人ひとりが心理的柔軟性を持ち、継続的に学習し続ける姿勢 が不可欠です。