この記事はVoicy Advent Calendar 2020の13日目の記事です。
前日はy_katsumuraの「採用から組織開発は始まっている 〜エントリーマネジメントの重要性〜」です。
明日はyuji0316の「Goのジェネリクス先取り入門2」です。
こんにちは。内閣府・地域活性化伝道師の善井 靖です。
Voicyでは、地域コンテンツ開発を外部専門家という立場でサポートしています。
2004年から地域再生に関わっており、全国各地を出張行脚しながら、十六年来に及ぶ地域創生活動で到達した、「人が動く時。それは、情報ではなく、感情で動く。」という概念「感情価値向上のマーケティング活動=Emotional Value」について記載します。
地域創生は、一過性の仕掛けでは無理で、持続性継続性の検証が不可欠です。地域創生施策が自立的に発展していくには、「Emotional Value」の5つの要素が必要であり、この要素を満たした時、「その地を訪問する者」は、その地に「自分だけの場所・自分らしさ」を見出し、その地にリピートし、贔屓となっていく方程式が成立します。
それがEmotional Value=感情的価値創造です。
バーンド・H・シュミットによって、ユーザーの経験価値に着目したマーケティング及び、経験価値を重視して消費者の経験を刺激するマーケティング・経験価値マーケティング(experiential marketing)が提唱され、SENSE(感覚)やFEEL(喜怒哀楽)、THINK(考える)、ACT(行動する)そしてRELATE(他社との交流)という5つの経験領域から、情緒的・主観的な方法を主張するものであり、ポストモダン・マーケティングの代表的研究となりました。
「Emotional Value」では、経験価値マーケティングの思考を発展させ、ユーザー(顧客)の感情価値の向上に視点を置き、次のように定義します。
・SENSE
五感を通して感覚に訴求する経験価値
・FEEL
顧客の内面にある感情を刺激する経験価値
・THINK
顧客の創造力を引き出す経験価値
・PASSION
新たな発見により顧客の情熱を引き出す経験価値
・RELATE
集団や文化との関わりによる経験価値
私が提唱する、Emotional Value=感情的価値創造とは、顧客=ユーザーが欲求に至る感情を導き出し、事業目標の到達まで、感情的価値を継続・増幅させるスパイラル・マーケティングの実践であり、継続される観光地域づくりにおいては、その地に「自分だけの場所・自分らしさ」を見出し、その地にリピートし、贔屓となっていくことをゴールとして活動します。
Emotional Valueの象徴的な出来事が、宮城県の女川町でありました。震災後、人気グループ・ももいろクローバーZが女川町を継続的に訪問。東京ドームを満杯にする彼女たちが、地元の災害FMに出演し、200人で一杯になる会場でライブをします。「みんな、友達だから、ガンバロー!」幾度となく女川町に通うももクロの姿勢にファンも連携し、また、地元では「ももくろ笹かま」が商品開発されバカ売れ!ももクロファンは、定期的に女川町を訪問し、地元民との交流が生まれ、絶望の状況からも前向きに明日を向いて生きる女川町の皆様の姿に感動し、自主的にふるさと納税が始まりました。結果、ももクロが居なくなっても、ファンと地元民との交流が継続しています。
この出来事を、Emotional Valueの5つの要素に落としてみると、下図のようになります。
ももクロ×女川町の事例は、見事に5つの要素が当てはまっています。
もう一つの事例を見てみましょう。2010年から3年に一度開催されている、瀬戸内国際芸術祭。島の住人と世界中からの来訪者の交流により島々の活力を取り戻し、島の伝統文化や美しい自然を生かした現代美術を通して瀬戸内海の魅力を世界に向けて発信し、地球上のすべての地域の「希望の海」となることを目指している現代美術の国際芸術祭。
芸術祭は、瀬戸内の島々を中心とした各地に展示される美術作品、アーティストや劇団・楽団などによるイベント、地元伝統芸能・祭事と連携したイベントなどで構成され、105日間の開催で、直島、豊島、女木島、男木島、小豆島、大島、犬島等の瀬戸内海の島々に延べ約94万人が来場するイベントです。県外からの訪問者が多く、地域に落ちる経済効果が大きいことも、瀬戸内国際芸術祭の特徴の一つで、3年毎に継続発展している成功事例です。
この出来事を、Emotional Valueの5つの要素に落としてみると、下図のようになります。
このように、成功する地域づくり、永続発展する地方創生には、Emotional Valueの5つの要素が確実に当てはまります。
では、リピーターの多い場所の観点から、EmotionalValueの方程式で見てみます。
このように、リピーターが多い場所にも、EmotionalValueの5つの要素が確実に当てはまります。特に、PASSIONと、RELATEの2つの要素に当てはまるかがポイントです。PASSION とRELATの2つの要素が用意された「地域づくり」は、顧客=ユーザーが、「自分だけの場所」を見つけ、「自分らしさ」を見出し、その場所にリピートして贔屓となっていきます。
「Emotional Value」の5つの要素を、より分かりやすく、具体的に表記してみると下図のようになります。
整理すると、訪問者がリピートする・贔屓になる「地域づくり」には、PASSIONと、RELATEの2つの要素に当てはまるかがポイントで
〇自分だけの場所
〇自分らしさの発見
の要素が不可欠である事が、お判りいただけたかと思います。
その裏付けのデータとして、リクルート社が「旅行先の選択理由」を初回訪問者とリピーターにヒアリングした調査が下図です。情報接点(旅人は、どこからの情報で、その場を選んだか?)の問いに対して、リピーターが、その場に向かう理由は、圧倒的に「なじみ」であることがわかります。
観光地域づくりにおいて、リピーターは「なじみ」を求めて帰ってくることを、「観光地域づくり」の現場は見落としています。初回訪問者の獲得には、プロモーション活動が必要です。前出のリクルート社調査でも初回訪問者は、情報接点の一番が「テレビや雑誌などで話題になっていたから」、二番が「クチコミなどで評判が良かったから」で、プロモーション活動の結果、その「旅行先」が選択されたとします。問題は、初回訪問者が再度リピートされる仕掛けを「観光地域づくり」として用意しているかです。
毎回「一見さん」ばかり、ドバっときてドバっと帰る観光地は、時代の変化とともに、勢いを失ってきました。初回訪問者が、その場所に触れ、その土地の人々のおもてなしに触れ、「また、行きたい」と思える「自分だけの場所」を用意していくことが、「観光地域づくり」にとって重要です。
さて、2020年。コロナ禍という無尽蔵の事態に、世界は翻弄されています。
コロナ禍での影響による売り上げ減の多い順で、
一、飲食
二、アパレル
三、観光(宿泊)
だそうです。私の友人たちの飲食や観光宿泊業にも影響大きく、日々再生に向けて必死の格闘に取り組んでいらっしゃいます。
私自身も令和2年度に予定されていた自治体の観光再生アドバイザー案件が8自治体ほど予定されていましたが、「全て、中止」となりました。自治体の皆様からすると「観光再生の前に、住民の生活保全が第一」となり、未来に向けた観光地域づくりは後回しになったのが、2020年です。
そんな中、政府が押し出してきた施策に「テレワーク」と「ワーケーション」があります。
「テレワーク」とは、情報通信技術を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことです。※「tele = 離れた所」と「work = 働く」をあわせた造語
テレワークは働く場所によって、自宅利用型テレワーク(在宅勤務)、モバイルワーク、施設利用型テレワーク(サテライトオフィス勤務など)の3つに分けられます。
「ワーケーション」とは、「ワーク」(労働)と「バケーション」(休暇)を組み合わせた造語で、観光地やリゾート地でテレワーク(リモートワーク)を活用しながら、働きながら休暇をとる過ごし方を言います。在宅勤務やレンタルオフィスでのテレワークとは区別され、働き方改革と新型コロナウイルス感染症の流行に伴う「新しい日常」の奨励の一環として位置づけられています。
9月には人材派遣大手のパソナグループが東京にある本社の主要機能を兵庫県の淡路島に移すと発表。営業、人事部門などの社員約1200人を2024年5月末までに段階的に移すとの大胆な計画が話題になりました。リゾート地にサテライトオフィスを設けるIT企業も登場しており、コロナ禍で東京一極集中は企業にとってリスクになるとの認識が広まり、地方回帰の機運が高まりつつあるようです。現在進みつつある「日本型ワーケーション」を分類すると大きく下記の三種類に分類されます。
では具体的にどのような事例が進んでいるのかを個人的視点で抽出しました。
上記は今日現在可視化できる民間の「ワーケーション」への取り組み事例で、今後益々積極的に活動が進んでいくと思われます。根拠は、政府機関が令和3年度予算において、補助金・交付金で「テレワーク」「ワーケーション」を推進しようとしています。その中から大きなものを二つ紹介すると、
①内閣府・地方創生テレワーク交付金(仮称) 150億円(新規)
新型コロナウイルス感染症の拡大を契機にテレワークが普及し、地方移住への関心が高まるなど国民の意識・行動の変容が見られることを踏まえ、魅力あるしごとを地方につくり出すとともに、東京圏への一極集中是正を図るため、新たな交付金を創設し、地方創生テレワークの推進により地方への新たなひとの流れを創出する地方公共団体の取組を支援する。 https://www.cao.go.jp/yosan/soshiki/r03/gaiyou_r03.pdf
この地方創生テレワーク交付金は、自治体向け交付金として、地方への新たなひとの流れを創出する地方公共団体の取組の支援でサテライトオフィスの整備等にお金が使えます。つまりハードインフラの整備ができます。
②観光庁・「誘客多角化等のための魅力的な滞在コンテンツ造成」における実施事業の公募 令和2年度100億予算・採択500件前後
訪日外国人旅行者6,000万人時代を見据えると、我が国の観光地において、より幅広い国や地域から来訪する観光客を受け入れる基盤を速やかに整備していくことが必要です。また、新型コロナウイルス感染症の影響により、従来の生活様式から変化が急速に進んでおり、これからは、国内外の観光客が安心して観光を楽しむことができるよう、地域が一体となって新たな生活様式に沿った旅行スタイルに対応した着地整備を行っていくことが重要です。
こうした観点を踏まえ、観光庁では、地方公共団体、観光地域づくり法人(DMO)等が観光イベント・観光資源をより安全で集客力の高いものへと磨き上げるために実施する実証事業を公募し、これらの実証事業の支援を行うことを通じて、我が国における誘客多角化等のための魅力的な滞在コンテンツ造成に向けた取組の方向性の調査・検証を行います。https://www.mlit.go.jp/kankocho/topics08_000147.html
この「誘客多角化等のための魅力的な滞在コンテンツ造成」については、定額で2000万円が全国各地のDMOや協議会、民間事業者に配布され、現在事業推進の最中でありますが、次年度も同等の施策が出るものと予測されており、金額は1500-2000万円規模だがソフト事業の推進に充てられます。
このように我が国の施策が大きく「テレワーク」「ワーケーション」を推進していく中で、DXをいかに組み込んでいくか?が、IT並びにコンテンツ産業にとっての課題です。
Voicyでは、ユーザー向けアプリの新規リリースに合わせ、「ワーケーションに関するアンケート」を実施しましたので、調査データの一部をご紹介します。
上記のように、「テレワーク」においては、68.4%が興味あり。「ワーケーション」においては、56%が興味ありと返答しています。
また、「ワーケーション情報チャンネルがあったら聴きますか?」の問いに対して、Voicyリスナーの61.1%が聞くと答えています。
この結果を受けVoicyでは「ワーケーション情報チャンネル」の早期開設に向けて検討に入っています。
現在のところ、音声プットフォームを提供するVoicyにおいて地方自治体でチャンネルを開設しているのは、長野県伊那市の一自治体しか事例がありません。長野県伊那市「ローカルとつながる伊那ラジオ」:https://voicy.jp/channel/1196
長野県伊那市様は何故Voicyにチャンネルを開設したのか? 一番の狙いは、移住定住の促進です。都市部の移住・定住関心層に、音声で継続的に情報を発信し、オンラインセミナーの参加者をVoicyチャンネルに誘導。イベント後も継続して聴いてもらい、伊那市のファン作り醸成に繋げていっています。
Voicy社の取り組みとして「テレワーク」「ワーケーション」におけるDXの導入事例をご紹介しました。
今後、益々「テレワーク」「ワーケーション」が推進されていく中で、最も大切なことは何か?
訪問する場所に、訪問者が、
〇自分だけの場所
〇自分らしさの発見
を見出せるか?
その場所に「なじみ」を見出すことができるのか?
どんなにテクノロジーが進化しても、最後は「感情を動かす、人とのつながり」がアフターコロナを見据えた地域づくりの分岐点であることを、最後に述べさせて頂き私の投稿を〆させていただきます。
善井 靖 (内閣府・地域活性化伝道師) https://note.com/yoshiiyasushi/n/n90b7c652dd10