新型コロナウイルスが猛威を奮って2回目の夏が来ました。皆様、体調にお気をつけて。
新型コロナウイルス感染症の拡大指標の一つに実効再生産数があります。よくテレビでもその数値が報道されていたりもしますね。この数値は 1 を境に、1以上だと感染者数が増加傾向に、逆に1未満だと減少傾向にあることを表します。実効再生産数を算出するには結構な計算をする必要があります。と言っても R のソースコードが公開されているので、入力する数値さえ揃えばあとはプログラムを走らせれば結果は出ます。しかしながら、揃える数値は感染者をほとんど全数把握できている前提で設定されているので、昨今のような市中感染が広がっている状況下では入力する数値を揃えることも困難になります。
そこで、厳密ではないにせよ、ある程度の指標となり得る簡易実行再生産数というものがあります。こちらはパラメータさえ決めてしまえば、残りの変数は新規感染者数だけになるため、日々の新規感染者数に応じて簡易実行再生産数を計算し、モニタリングすることが可能になります。
簡易実行再生産数
簡易実行再生産数 Rt は次の式で表されます1。
R_t = \frac{\sum_{k=0}^6 d_k}{\sum_{k=g}^{g+6} d_k}
ここで、 dk は k 日前の新規感染者数(k=0は今日)、g は既存患者が他の人に移して感染するまでの時間(=世代時間)です。分母は直近一週間の新規感染者数、分子は1世代時間前の新規感染者数になります。試しに今日時点(2021/8/14)の東京都の簡易実行再生産数を計算してみましょう。東京都の新規感染者数はこちらから参照できます。
8/14 | 8/13 | 8/12 | 8/11 | 8/10 | 8/9 | 8/8 | 8/7 | 8/6 | 8/5 | 8/4 | 8/3 | 8/2 |
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5094 | 5773 | 4989 | 4200 | 2612 | 2884 | 4066 | 4566 | 4515 | 5042 | 4166 | 3709 | 2195 |
これを元に、世代時間 g = 5 として計算してみましょう。
R_t = \frac{5094+5773+4989+4200+2612+2884+4066}{2884+4066+4566+4515+5042+4166+3709}=\frac{29618}{28948}=1.023...
となり、 1.02 という値が得られました。1以上なので、まだ収束しなさそうですね...
未来の簡易実行再生産数を予測する
さて、簡易実行再生産数 Rt であれば、世代時間さえ決めてしまえば、あとは四則演算で求めることができるのがわかりました。ただし、求めた Rt は現時点での瞬間値であるため、今後の動向を把握するにはちょっと心許ないです。ところで、Googleは新規感染者数の予測値を公開しています。そこで、Googleの予測した新規感染者数を使って Rt を出せば、Rt の予測値を計算できそうです。
8/14 時点で公開されている Google のデータを用いて、各都道府県の簡易実行再生産数をまとめてみました2。Google の予測値は実測値の反映が若干遅いことに注意です(このデータでの実測値の最新は 8/11 になっている)。
これをみると、お盆の時期に1を超える地域がありますが、8月末頃になると1を下回っている地域がほとんど、つまり予測の新規感染者数は減少傾向にありますね。現実もそのようにうまくいってくれると良いですが...
まとめ
- 簡易実行再生産数の計算式の紹介をしました。
- 実際の東京都のデータを使って計算してみました。
- Google の感染者数の予測値を使って、簡易実行再生産数を計算しました。
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ここではこちらの論文に基づいた計算式を使っています。簡易計算式は他にも提案されており、例えば東洋経済ONLINEでは異なる式が利用されています。 ↩
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世代時間 g = 5 としています。最近流行しているデルタ株の世代時間はもっと短いことが予想されるため、ここでの値はあくまでも参考値としてご覧ください。 ↩