第３章 ブロックチェーンの基本機能
本章では、ブロックチェーンの基本的な機能について取り上げます。スマートコントラクト、トークン、マルチシグ、スワップなど、ブロックチェーン上で実行される機能がどのように構成され、どのような利点を持つかを詳細に説明します。これにより、ブロックチェーンが単なる取引記録の技術にとどまらず、複雑な契約や資産管理に応用されることを理解できます。
3-1.アカウント
「アカウント」は、ブロックチェーンの基本機能の一つであり、ブロックチェーン上で取引や操作を行う主体を表す概念です。ブロックチェーンの分散型ネットワークでは、各参加者が独立して取引を行い、他のノードと通信するために「アカウント」が必要です。アカウントは、ブロックチェーン上でデジタル資産の管理や取引の送受信、さらにはスマートコントラクトの実行に至るまで、多くの機能を担います。
ここでは、アカウントの構造や種類、役割、そしてブロックチェーン上でどのように管理されるかについて詳しく論じます。
アカウントの基本構造
ブロックチェーンにおけるアカウントは、一般的に公開鍵暗号方式に基づいています。各アカウントは、公開鍵と秘密鍵のペアによって管理されます。これにより、アカウントの所有者は秘密鍵を使用して自分のアカウントからトランザクションを発行し、他のノードは公開鍵を使ってその取引の正当性を検証します。
公開鍵と秘密鍵
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公開鍵：公開鍵は、ネットワーク上で他のノードに公開される情報です。ブロックチェーン上では、公開鍵をハッシュ化して「アカウントアドレス」として使用します。このアドレスは、他のユーザーが送金先として利用できるアカウントの識別子となります。
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秘密鍵：秘密鍵はアカウントの所有者だけが保持する情報であり、取引の署名や資産の管理に用いられます。秘密鍵が漏洩すると、そのアカウントが不正に利用されるリスクがあるため、セキュリティ上非常に重要です。
アカウントの基本的な操作は、この公開鍵と秘密鍵のペアを利用して行われます。所有者は自分のアカウントから資産を送る際に、秘密鍵を使って取引に署名し、他のノードがその署名を検証して取引の正当性を確認します。公開鍵は、誰でもアクセスできるため、他のユーザーが取引を送信するために利用します。
アカウントの種類
ブロックチェーンには、いくつかの異なるタイプのアカウントがあります。最も基本的なものは「外部所有アカウント（Externally Owned Account, EOA）」と「コントラクトアカウント」の2種類です。
1. 外部所有アカウント（Externally Owned Account, EOA）
外部所有アカウントは、個人や企業がブロックチェーン上で資産を管理し、取引を行うための基本的なアカウントです。EOAは、一般的に次のような特徴を持っています：
- 所有者が秘密鍵を管理：EOAは、所有者自身が秘密鍵を持ち、それを使ってトランザクションに署名します。
- スマートコントラクトの実行には関与しない：EOA自体は、スマートコントラクトのようなプログラムを保持せず、単純に取引の送受信を行います。
EOAはビットコインやイーサリアムなどの暗号通貨を扱う際に最も一般的に使用されるアカウントです。
2. コントラクトアカウント
コントラクトアカウントは、スマートコントラクト（自動的に実行されるプログラム）を保持するアカウントです。このアカウントは、スマートコントラクトが保存され、ブロックチェーン上で自動的にトリガーされる一種のプログラム的アカウントです。
- コードによって制御される：コントラクトアカウントは、コード（スマートコントラクト）に基づいて動作します。外部のEOAからトランザクションを送信することで、スマートコントラクトが実行されます。
- 秘密鍵を持たない：コントラクトアカウント自体は秘密鍵を持たず、外部からの操作によってのみトリガーされます。
コントラクトアカウントは、主に複雑なビジネスロジックや自動化された取引を行う際に利用され、分散型アプリケーション（DApps）の基盤として重要です。
アカウントの役割
ブロックチェーンにおけるアカウントは、さまざまな役割を果たしています。具体的には、以下のような機能を提供します。
1. 資産の管理
ブロックチェーン上のデジタル資産（暗号通貨やトークン）は、すべてアカウントに紐づけられています。ユーザーは自分のアカウントにある資産を他のアカウントに送金することができ、その履歴はブロックチェーン上に記録され、誰でも確認することが可能です。
アカウントは、自分が所有する資産の残高を管理するためのツールでもあり、取引履歴や保有資産の状況を確認することができます。
2. 取引の送受信
ブロックチェーンで行われるすべての取引は、アカウントを通じて行われます。ユーザーは自分のアカウントから他のアカウントへ暗号通貨を送金したり、スマートコントラクトに対して関数を実行したりします。各取引は、アカウント間で発生し、全ノードでその取引が検証されます。
このため、アカウントはブロックチェーンネットワークにおいて、取引の主体として機能し、ネットワーク内でのやり取りを支える役割を担います。
3. スマートコントラクトの実行
特にコントラクトアカウントは、ブロックチェーン上での自動化されたビジネスプロセスの実行に不可欠です。スマートコントラクトは、特定の条件が満たされたときに自動的に実行されるプログラムであり、そのためにはアカウントがトリガーとなる必要があります。
たとえば、ある条件が成立した場合に支払いを行う自動契約や、デジタル投票システムのようなシステムがアカウントを通じて機能します。アカウントがこれらの契約を管理し、信頼性のある処理を実現します。
アカウントのセキュリティ
アカウントはブロックチェーンの安全性において中心的な役割を果たしますが、セキュリティ上のリスクも伴います。アカウントのセキュリティは主に秘密鍵の管理に依存しており、以下のようなリスクがあります：
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秘密鍵の盗難：秘密鍵が盗まれると、攻撃者はそのアカウントの資産を自由に操作することができてしまいます。これは、物理的な盗難やフィッシング詐欺、マルウェアなどによって発生する可能性があります。
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パスフレーズの紛失：多くのブロックチェーンアカウントは、パスフレーズを使って秘密鍵を生成しますが、パスフレーズを紛失するとアカウントへのアクセスを永久に失うリスクがあります。ブロックチェーンは非中央集権的であるため、復旧手続きが存在しないことがほとんどです。
このため、アカウントの所有者は秘密鍵の適切な管理、ウォレットの保護、多要素認証の利用など、セキュリティ対策を講じる必要があります。
アカウントとブロックチェーンの透明性
ブロックチェーンの特徴の一つは、すべての取引履歴が公開され、誰でもアクセスできるという透明性です。アカウントの取引履歴も例外ではなく、全てのユーザーは他のアカウントの取引履歴を確認できます。
ただし、この透明性は匿名性を
損なう可能性もあります。例えば、アカウントが特定の個人や団体に関連付けられると、そのアカウントの取引が誰でも追跡できてしまうというリスクが生じます。これを避けるために、多くのユーザーはプライバシー強化機能を持つブロックチェーン（MoneroやZcashなど）を利用することがあります。
結論
アカウントは、ブロックチェーン技術の中心的な要素であり、取引の管理、資産の保有、スマートコントラクトの実行など、あらゆる機能を支えています。公開鍵暗号方式によるセキュリティ、トランザクションの透明性、スマートコントラクトとの連携といった特徴を持ち、ブロックチェーン上での活動を可能にします。
しかし、秘密鍵の管理やプライバシー保護といったセキュリティ面の課題も存在するため、アカウントを運用する際には慎重な対策が求められます。ブロックチェーンがますます普及する中で、アカウントの仕組みとその管理方法の理解は、個人や企業が安全かつ効率的にこの技術を活用するための鍵となるでしょう。
バックナンバー
はじめに
第１章 既存システムの仕組みと制約
第２章 P2Pネットワークと電子署名
2-1.P2Pネットワーク
2-2.電子署名
2-3.改ざん耐性
2-4.コンセンサス