3
1

More than 3 years have passed since last update.

技術書典9ドタバタ出典記〜20日で本『音楽と数理』を書いたはなし

Last updated at Posted at 2020-10-04

概要

2020年9月12日〜9月22日までオンラインで開催された「技術書典9」に今回初めて参加して、およそ20日間で1冊の本『音楽と数理』を書き上げて、出典したドタバタの顛末を、記録としてまとめておきたいと思います。

この記事の内容は、既に弊サークル ZENKEI AI FORUM の月1イベント ZOOM LIVE の9月30日で話した内容、およびそこで使ったスライドをベースにしたものです。
ZENKEI_AI_FORUM_zoom_20200930-books-1280x720.png

20201003-qiita-01.png

目次

(とても長くなりました。読みたいところだけでも読んでください。)

20201003-qiita-02.png

時系列

私は会社の活動の一環として、しかし業務というよりは地域貢献的な活動として ZENKEI AI FORUM というコミュニティの運営などやってます。「技術書典」という活動は知識として知っていましたが(そもそも出不精なこともあり)東京開催ということで「あぁ、楽しそうにやっているな」くらいの認識でした。ZENKEI AI FORUM も先般のコロナの状況を鑑み、4月からは完全オンライン化し ZOOM LIVE の形式で活動していました。月1で開催しているこのイベントの8月26日(水)の会でメンバーの一人の古川さんが「私は本を書きたいんです」と言ったことが、今回のドタバタの始まりでした。

「起承転結」

20200929-calendar.png

私自身「本を書く」ということにはずっと興味があって「技術書典」という活動も知っていましたが、先に述べた通り、具体的に「本を書いて出典しよう」と思い立ったのは8月も終わりのことでした。その時点で調べてみたところ、ちょうど「技術書典9」という、初めての公式オンライン開催のイベントが2020年9月12日〜9月22日の期間開催されるということを知り、あれよあれよという間に、気付いたら参加することになってました。

ということで、ここから怒涛の1ヶ月が始まるのですが、以下、4つのフェーズ「起承転結」に分けて、そのドタバタ振りをまとめていきます。

20200929-calendar-01.png

8月26日の ZENKEI AI FORUM のイベントが終わった後、「技術書典」について調べてちょうど「技術書典9」の募集期間中であることが分かりました。詳しく見てみると、コロナの影響から今回メインのイベントとしては初めてオンライン開催になること、出典料はかからないこと、従って電子版のみで参加する場合は出典者に金銭的なリスクがないことが分かりました。ですが締め切りが8月31日まで、つまりこの時点で残り5日。しかしイベントの詳細を更によく読むと、本の登録はイベント開催直前でよいらしく、つまり9月10日が一応の締め切りということで、2週間(も)ある、と。ということで、弊サークル ZENKEI AI FORUM からも参加しよう、ということになりました。(しかし、他のメンバーは現実的な人だったようで、実際に執筆に取りかかったのは古川さんと私の2名でした。)

私は平日は普通に仕事をしているので、サークル登録は週末8月29日(土)に済ませました。滑り込みセーフですね。

このスケジュール、普通なら焦るところですが、私は元々研究者稼業をやっていて、技術ネタは手持ちでいくつか頭の中にあって、それを文字に起こすだけでいいやと甘くみていました。実際に記録をみてみると週末の8月30日(日)は(まだ)モヤモヤと構想を練ってただけ、翌火曜9月2日になってもまだ1文字も書いてなかったようです。それでも水曜日からは、やっとアフターファイブ作家モードに入ったようです。

以上、「起承転結」の「起」でした。

20200929-calendar-02.png

甘い見立てで状況を直視していなかった訳ですが、このツケは当然のように降ってきます。最初の週末で進捗が思ったほどなく、平日に戻ってアフターファイブ作家モードになると当然もっと進捗がなく、そこから外挿して「このままじゃマズい」と認識し始めた、ということです。冷静に考えてれば始めから分かり切っていたことですが。

記憶が曖昧ですが、そもそも私が「技術書典」という活動を知ったきっかけの一つは、iOS 関係の技術情報に詳しい堤修一さんの情報だったと思います。今回、実際に自分たちが参加するに当たって改めてネットをググって以下のブログ記事に行き当たりました。

shu223-01.png
全体的に、技術書典初心者にはとてもためになる情報ですが、「承」フェーズの私に一番刺さった言葉は

印刷代の割増を恐れずギリギリまで書く
締切間際のあの集中力と決断力はプライスレスです。

このメッセージに背中を押され、この時点で私の頭の中から「締め切り9月10日」は完全に消えました。好きで書くもの、内容に不満があるならそんなもの書くに値しない、ということですね。内容に集中して、とにかく書きたいものを書き切る決心がつきました。

とは言え、ツイッターを見ていると、キチンとした人たちが「脱稿」「販売開始」と言っているのを目にすると、どんどん焦ってきます。気持ちを維持するために、原稿の書けている部分からチラ見せしたり

一度原稿を紙に出して(プリンターのない家なので、コンビニにUSB持っていってコピー機で印刷、1枚10円)赤入れして、絶望して、現実逃避的に表紙のデザインをしたりしてました。

今その時のツイートなど振り返ると、悪戦苦闘していますね。

そんな中、運営の方が出す予定の本

も説明文に我々と同様に遅れていると書いてあるのを見て、同じ仲間がいる、頑張ろうという気持ちになりました。

正直に書きます。技術書典のオンラインマーケットをつくるのに忙しくて開催当日に完成しませんでした。
いつもよりも薄くなりそうですが9月22日の最終日までにRTA※します。
※RTAはゲームのスタートからクリアまでの所要時間を競うプレイスタイルです。

RTA というのは「リアル・タイム・アタック」私の苦手なタイプのゲームですね(ゲーム一般、苦手ですが)。

ということで、先の堤さんのアドバイスと合わせて、ここは内容にフォーカスして、イベント終了までに(!)完成させようと、気持ちを立て直しました。

以上、「起承転結」の「承」でした。

転ぶ

20200929-calendar-03.png

過ぎたもの(イベントのスタート)は仕方ない、できることにフォーカスしよう、と頭では分かっていても、100%時間を使える週末も終わってしまい、アフターファイブ作家モードに戻り、現実に直面しますよね。その結果もっと頑張ることになりますよね。睡眠時間が今削れる唯一のリソースですよね。完全に悪循環に入ってます。(これでも先日『欠乏の行動経済学』という本を読んで「そうだそうだ、トンネリングがいけないんだ、スラックを作らなければいけないんだ」と思ったばかりだったんですが。)

そんな状況の元、出来てないながらも宣伝したいという気持ちと、自分のモティベーションを維持するためにチラ見せを継続していたツイートを時系列で並べてみました。

ここの『先行公開【コラム】その2』と『先行公開【コラム】その3』の間にあるギャップ、実はここで私がとうとう寝不足でダウンしてしまいました。文字通り「転び」ました。

その前の9月15日(火)の夕方のツイート(先行公開【コラム】その1)に

「体力限界なんでまず先に寝て、夜中に復活(予定)」

とある通り、この夜は10時頃からまず2時間寝て(2時間で起きてしまって)そこからアフターファイブ作家モード始動して、気付くと朝。そのまま(寝ないで)9月16日(水)のサラリーマンモード始動しました。が、もう若くないので、案の定、夕方4時過ぎにダウン。会社は早退扱いにしてもらってその後17時間寝てしまいました。(そもそも仕事に影響を出さないというのが、今回の執筆活動の1つの目標だったのですが、完全に失敗です。)起きたら翌9月17日(木)の朝10時、これは無理と思って会社は休むことにして、一旦リフレッシュすることにしました。『欠乏の行動経済学』を見るまでもなく、睡眠は大事ですので、良い子はまねをしないようにしましょう!

午後になって、手元の原稿を改めて見直して、未完成の部分は諦めて全部カットする決断をしました。この状態で虚心になって改めて全体を見返してみて、それでも1本のストーリーとして成立していると自分でも思えたので、気を取り直してこの形で速攻でまとめて、校正を済ませて、完成させることにしました。

ということで、翌日9月18日(金)なんとか週末を迎える前にマーケットに並ぶことができました。(私よりも修羅場度合いは低かったようですが、時を同じくして、というか私より一歩先に弊サークルの記念すべき1冊目として古川さんの『ゼロからはじめるAI』も無事、販売開始できました。)

このように書くと復活後はスムーズに行った感じですが、「『音楽と数理』完成!」ツイートにこぼしているように、復活した木曜の夜「もう徹夜はしない」と誓ったその日のうちに、結局、朝の5時まで粘ってました…

もう徹夜せず仕上げると言ってましたが結局午前5時…言ってること違うけど、とりあえず電子版アップして審査待ち、印刷もオンライン入稿済(お金も払った)全部はじめてで大きな間違いしてそう…その後3時間寝ました

言い訳ですが、どうしても紙の本が欲しい、というかこれまでの努力のほとんどは紙の本への執念だったこともあり、原稿完成の後、初めての印刷所への見積もり、お金の支払い、入稿作業とかやってたら、朝になってました。もうしません。

以上、「起承転結」の「転」で、思いっきり転けた(けど、なんとか起き上がった)はなしでした。

20200929-calendar-04.png

以上のように「起承転」と怒涛の日々でしたが、終わりよければ全てよし、というイベント最後の二日間。大きく出遅れて、紙の本も作ったので初期投資も発生し、元手が取れるかどうか心配でした。自分なりに宣伝活動もやり(結局、不特定多数のオーディエンスへの宣伝はツイッターの一択なんですね)

その効果があったのか関係なかったのかいまいち分かりませんが、月曜日の夕方の時点でなんとかトントンまで行けて、ほっとしました。(売り上げなどに関しては、後ほど詳しくまとめます。)

オンライン開催の今回、これまでのイベントの情報をネットで見てて、会場で出展者が自分の紙の本を見て感動してたり、買った人が紙の本を「戦利品」としてツイートしてるのをみて「あぁ、今回はこういうのができないんだよな」と思ってました。が、月曜に日光企画さんから「明日、配達します」との知らせが来ました。最終日に技術書典の倉庫に納品するスケジュールになっていて、100冊印刷したうちの20冊を自宅に送るように手配していたものが実際に明日、イベントが終わる前に届くことに気付きました(オレはなんでも後になって気付くんだな)。以下、感動のツイート3連発。

開封動画はこちらです。

ということで、なんとかかんとか大団円を迎えられました。また、ここまでたどり着く過程で「技術書典」というイベント自体の偉大さを、当事者としてひしひしと感じてきました。マジ、本気で、真っ当なことをまっすぐやっていると。そのことについても、最後の方でまとめます。

以上、「起承転結」の「結」、丸く収まって、終わりよければ全てよしでした。

本を書く〜技術的なはなし

ここまでは、今回の私たちの出来事を時間の流れに沿って(それがいかに無謀なチャレンジだったかということを)まとめてきました。(始める前にこの状況が分かっていたら、多分やってなかっただろうなと思います。しかし一方で、この結果として得られたものを考えると、ちょっと無謀だったけどやってよかったとも思います。)

ここからは、具体的に本を書く、本を作るというプロセスについて(ドタバタの側面は脇に置いて)まとめていきたいと思います。

何で書くか、本文編

「技術書典」ですから、書くものは「技術書」になります。私は元々、物理の研究者をやっていた身なので、普通に LaTeX を使いました。とはいえ日本語まわりについてはそもそもあまり詳しくなく、特にここ20年近くは文字通り触っていないので、今回、一通りセットアップする必要がありました。これに関しては以下で改めてまとめることにして、最初に、今ふつうに技術書を書こうと思っている人がいたとして、どういう選択肢があるのか眺めてみます。

以上の3つが、私の見たところ今日技術書を書く時のツールの選択肢かなと思います。

LaTeX は、歴史や蓄積された情報、安定性などから、やはりイチオシです。ただし習熟に関するコストが高いことは否めないと思います。

Re:VIEW は(きちんと使わないで言っていることなので、間違っていたらすみません)表面的にはマークダウンで(Qiita やいろんなブログサイトのように)簡単に文書が書ける出版用のツールで、その裏では LaTeX が使われていて、結果、出力の品質などは LaTeX と同じか、あるいはテンプレートやスタイルなど、むしろ、よりこなれていたりします。

3つ目に挙げた Jupyter Book は(これもきちんと使わないで言っていることなので、間違っていたらすみません)アナウンスされたのはつい最近で、 Jupyter Notebook をベースに出版用に最適化したものだと思っています。機械学習、深層学習でほぼデファクト・スタンダードの Jupyter Notebook ですが、プラグインにより LaTeX で数式も書けて、AI 関係のノートの記録などに重宝しています。もし私が、技術的に新しいものという視点で挑戦しようと思ったら、これを使ってみたかもしれません。(今回は先に書いた通り、スケジュールがめちゃくちゃだったので、無理でしたが。)

ということで、以下では今回私が執筆した環境の説明を(浦島太郎的なセンスで)まとめていきます。

今、日本語で LaTeX を書くということ

私の今のメインのコンピュータは Macbook Pro (2012 Retina) です(もういい加減、古いですね)。今回、ここに日本語の LaTeX 環境を構築する必要がありました。(実際には、去年の冬に、日本語で LaTeX 熱が上がった時があって、その時のセットアップです。)歴史的な理由で、オープンソース系のパッケージツールは MacPorts を使っていますが、最近は何事にも不精になっていて、LaTeX 環境もできれば1つのパッケージでドーンと入れて終わり、みたいなのがいいなと思ってました。調べると、以下のサイトに行き当たりました。

20200929-tex-alchemist-online.png
ここの手順に従えば、日本語の文書を LaTeX で書いて PDF に書き出せるところまで環境設定ができました。2020年の今は MacTex 2020 というのが既に出ているようで、アップデートか何かやらないといけないのかな?私は今回は時間がタイトだったので(以下省略)。

この MacTex には TeXShop という IDE も含まれているようですが、私は1990年代からの old-timer なので Emacs で tex のソースを書いて、ターミナルから

$ uplatex source.tex
$ uplatex source.tex (必要に応じて連打)
$ dvipdfmx source
$ open source.pdf (Preview.appでプレビュー)

とやってました。(面倒といえば面倒ですが、ここを効率化しようということがより面倒ということで。)本当なら最低でも使い慣れた AUCTeX 環境くらい Emacs にセットアップすべきだったんですが、今回はそれもパスしました。

で、浦島太郎ネタ、おじさんネタですが、この uplatex というもの、今回初めて見ました。これまでは platex を使ってましたね。これ何かなと思って調べたら、

なんと日本語の TeX が(LaTeX が) Unicode で書ける、と。自分の浦島太郎な認識を思い知ると同時に、ちょっと感動しました。2020年になって、ようやく、日本のコンピュータの世界は SJIS の呪縛から逃れられたのですね。(とはいえ、この辺は1ユーザーとしていろんな人の努力の上で暮らしてきた人間なので、本当のところはよく分かってないのですが。)

さて日本語で LaTeX を書こうと思ったら、私の時代は奥村さんの「美文書作成入門」が定番でした。今回、自分の本を日本語で美しい組版にしようと思って本棚を引っ掻き回していたら、その奥村本がなぜか2冊も出てきました。

20200929-okumura-01.JPG
20200929-okumura-02.JPG
奥付をみると「平成9年 (1997年)」と「平成13年 (2001年)」でした。どうやら初版と改訂版(第2版)だったようです。どうりで、みんなが見てる本とは違うわけだ。いや、ソースコードとかを LaTeX に入れる時、普通 verbatim 環境だろうと思ってたんですが、世間的には listings パッケージ (The Listings Package) を使うみたいで、そんなことオレの奥村本に出てないぞって叫んでました。みなさんは最新の「美文書作成入門」を買いましょう(今調べたら、なんと第7版になっているんですね)。

何で書くか、表紙編

紙の本を印刷しようと思ったら、表紙もきちんと作る必要があります。印刷所への入稿のフォーマットは基本的には PSD という Adobe の超有名なソフト「Photoshop」形式になっています。表紙の原稿は出来上がりの状態ではなく、最終的には裁断される余白も含めた広めの領域で作ったものをアップする必要があり、そのためのテンプレートが各印刷所さんから提供されています。これも PSD (や ESP)になっています。

日曜作家の身分で今回のイベントのためだけに(サブスクリプションで安くなったとはいえ)Photoshop を購入するかどうかは結構悩みどころです。普段使わないツールは基本的なことをするにも時間がかかったりもします。それもあって使い慣れたオープンソースの GIMP で原稿を作ってる人いないかなと思ってググってみたら、いらっしゃいました。

そうですよね、できるはずですよね。この方も今回私がお願いしようとしている日光企画さんで実際に印刷されたようで、安心しました。ポイントをまとめておくと、

  • 1) テンプレ (EPS) をダウンロード
  • 2) GIMP で読み込む
  • 3) DPI を 350 に設定
  • 4) 作画
  • 5) PNG で出力
  • 6) ImageMagick で CYMK の TIFF に

入稿は私の場合も記事の通り CYMK の TIFF で大丈夫でした。

本を書く〜内容的なはなし

ここまでは「本を書く」ときのツールのはなしをまとめてきました。ここからは「本を書く」ときの内容のはなし、私が頭の中にフワフワと考えていたことを、どういう過程で文章にし、1本のストーリーにまとめて、一冊の本に仕上げたのかを、実例としてまとめておきます。一般化できる内容ではないと思いますが、どんな風に作業を進めたのかという具体的な話は、よく考えるとなかなか明からさまに書いている人も居ないかなと思ったので、何か書きたいけどどうやって書くんだろうと思っている人の助けになればと思って。

本を書く、内容編

私の場合、幸いなことに(?)長い間、研究者としてあれこれ考えてきた歴史があり、なんからの形にまとまったものは論文になり、試行錯誤の途中のものはノートに残っていたり、学問的に価値はないけれど実用上役に立ちそうなものはオープンソースのプログラムとして公開したり、ネタとしてブログに書いたり、外には出していないけど頭の片隅にあったり、そういうストックはそれなりにあります。

今回いろいろ調べていたら、この辺りのことについて私自身が2年前に『研究者のエゴと無私の間』というブログを書いていました。
20200929-ichiki.png
元研究者として、論文未満の、しかし何かしら意味のある結果を、何らかの形で世の中のために残すことに意味はあるのか、どうやって残せばいいのか、みたいな気持ちを書き殴った文章ですね。

手持ちのネタ

8月末の時点で、9月中旬のイベントに間に合わせるための「技術書」のネタとして考えたとき、私の頭にはすぐに以下の3つのネタが浮かびました。

  • WaoN ネタ
    世間に言いたいことは phase vocoder を使った改良点
  • 2体の厳密解ネタ
    low-Reynolds-number flowの中の2つの球の相互作用の厳密解のはなし
    カナダの恩師 David Jeffrey さんから託された課題
    有理数計算ライブラリ GMP をガンガン使った実例は希少価値があるだろう
  • 多重局展開ネタ
    FMM は FFT と共に20世紀10大アルゴリズムに選ばれたもの
    数学苦手、コンピュータ得意な人によるコロンブスの卵的アプローチ

「WaoNネタ」に決定

このネタを選んだ理由は、3つの中で一番オーディエンスが広いかなと思ったこと。そして、最近の ZENKEI AI FORUM の5月末のイベントで「音ネタ」を紹介したとき、無理やり自分の開発したソフトの紹介として「音について」「WaoNについて」「フェイズ・ボコーダーのデモ」をはなしたこともありました。

最初の構想

まだ1行も書いていない段階での、脳内での構想(妄想)は、以下のようなものでした。

  • はじめに - 人間はどうやって音楽を把握しているのか?
  • フーリエ変換のはなし
  • スペクトログラム
  • 音程を取り出す
  • 音程とスピード
  • フェイズ・ボコーダー
  • 既存の研究
  • WaoN で使ってるアルゴリズム
  • まとめ - その他のアプローチ、統計と AI

一応、 ZENKEI AI FORUM というサークルとしての参加なので、なんとか AI との関連は入れたいと思っていました。この流れだと自然につながる形でうまく繋がりそうで一安心。あとこの部分は以前 Qiita に投稿した内容

を使えるな、と思いました。(1セクション、完成!)

タイトル思案(試案)

執筆には、自分の気持ちをどう上げていくか、高い状態で維持するかが大事だと思います。同人誌の執筆は(個人で書く場合は特に)誰に頼まれたわけでもないので、決定的だと思います。私の場合、今回はこの意味で、最初にタイトルを決めてみました。内容の概要は先に書いた通りなので、まず

  • 音楽への数理的アプローチ

という、そのまま普通に文字にしてみました。もちろんこれでは何もインパクトも面白味もありません。短く簡潔にしたかったので、極限まで削って

  • 音楽と数理

というタイトルが思いつきました。これが結構気に入りました。しかしこれはあまりに一般的で漠然としすぎているので、なにかサブタイトルを考えて、最終的に

  • 音楽と数理 才能にたよらない耳コピ

に行き着きました。比較的迷いなく出てきました。

ここで『音楽と数理』というフレーズが(かっこいいけど)あまりにも普遍的だったので心配になってでググってみました。その結果、書籍としては3つほどヒットしました。

ということで、既存の書籍との重複はない模様なので、正式に『音楽と数理 才能にたよらない耳コピ』というタイトルに決定しました。

アイデア出し

ここまでで、タイトルは決まり、内容の項目も出てきました。しかし一冊の本として成立させるためには、一本のストーリーにする必要があります。(もちろん、共同執筆で、複数のショート・ストーリーが連続する形式もありですが、私としては今回は一本の完結したストーリーの本を書きたいと思ってました。)そのとき、項目の間を埋めるアイデアやイメージがパーツとして必要だなと思って、それらのアイデア出しをしました。(以下のまとめはテーマごとにまとめていますが、それぞれ考えていた時間は前後しています。)

アイデア〜音

  • この本でのターゲット設定音響は落とす
  • マイクで取った電気信号、スピーカーに渡す電気信号(耳で検知したシグナル、センサーとしての人体)
  • ゼロの周りを常にずーっとウロウロする値(株価とか、そういうものとは違うよね、と)
  • それは、振動の重ね合わせで表現しようというセンスが フーリエ級数(フーリエ変換)

アイデア〜フーリエ変換への導入

  • 音(上の「音」)
  • シンセサイザー(AM)
  • FM
  • スペアナ(パワースペクトルから WaoN バージョン1)
  • グライコ(フェイズボコーダーで戻ってくる)
  • そしてフーリエ変換

アイデア〜コラム(小ネタ)

  • センサーとしての人体(ログスケール)
    音(耳)
    色(目)-HDR とか log - lut とか
    痛みとかも、多分
  • AM と FMシンセサイザーとラジオ
  • コンピュータの性能向上(ムーアの法則)と物理モデリング
    シンセサイザー(音響)
    コンピュータグラフィクス

アイデア〜4つの分野のフュージョン

  • 文字、文章、文学、ストーリーテリング
  • 数学、数式、理論、ロジック
  • 音楽、楽器、楽譜、ミュージック
  • 計算、実践、コンピュータ、プログラミング

このアイデアは、結果として私の「文字」と「音楽」のレベルの低さと、執筆時間の短さから深めることができず、「音楽」の内容を「ポエム」的に表現することで、「3つの分野を行き来する」という形でまとめることになりました。

『音楽と数理』最終的な目次

以上のプロセスを経て、実際にセクションごとに執筆していきながら、順序を入れ替えたり、試行錯誤した結果、最終的に以下のような構成に落ち着きました。予想以上に全ての話がきれいに一本のストーリーの上に乗ってくれたと思います。

20200929-toc.png

本を書く、表紙編

今回の出版プロジェクトは、完全に個人プロジェクトでした。(同じサークルで参加した古川さんも、一人で頑張って一冊に仕上げました。)ということは、表紙のデザインも自分でやる、ということになります。時系列を追った時に言いましたが、私が表紙をデザインしたのは比較的早い段階で、本文がまだ半分くらいしかできてない時に、現実逃避的にやったものです。

まず最終的な表紙をお見せします。日光企画さんへの入稿原稿です。

music-and-math-cover_92.png

いいですよね。自分ではとても気に入っています。(1つの点を除いて…このことは、以下でお話しします。)

構想、アイデア

このデザインに置いて一番気をつけたのは、マーケットページのサムネでタイトルが読めることでした。私の本はイベント開催日の9月12日に間に合いませんでした。これはチャンスを大きく損なってしまったことになりますが、同時に、実際の売り場であるマーケットページがどのように見えるのか、事前に分かるし、それに対応することが可能になるというアドバンテージもありました。今回、オープンしたばかりのマーケットページを見て、お客さん目線で見た時に一番気になったのは、サムネール画像で本の内容、もっというと本のタイトルすらよく分からないものがたくさんあった、ということでした。実際の紙の上でのデザインよりも、サムネールという小さいサイズでの可読性を優先しようと思って、デザインしました。

20200929-cover-design_closeup.jpg

タイトルが漢字4文字(プラス「と」)なので、そのシンプルさを強調しようと思って、あれこれレイアウトを遊んでみました。最終的には左下のイメージに近いものになりました。

基本カラーは黄色

表紙の印刷はカラーです。(電子版は印刷のカラー/モノクロにはよりませんが。)本の印象を一番特徴つけるのは基調となる色だと思っていました。この基本カラー、私は今回、執筆する前から「黄色」一本に決まっていました。理由は、最近の私の考えに大きな影響を与えた本、瀧本哲史氏による『君に友だちはいらない』です。この本、アマゾンで見ると七人の侍の白黒の写真ベースの表紙ですが、これはカバーで、このカバーを外すとハードカバーの表面はきれいな黄色、しおり紐も同色のきれいな黄色で、とても印象に残っていました。なので、デザインする前から、基調となる色は黄色に決まっていました。

20200929-yellow-01.JPG

直前にインスパイアされた絵

そんな風に思いながら執筆にヒーヒー言っていたころ、多分 Facebook のタイムラインだったと思いますが Sonny Rollins のアルバムのカバーの写真が流れてきました。 "East Broadway Run Down" というアルバムです。

sonny-rollins.png

これが「黄色」ベースで、シンプルで、しかし味わいがあり、かっこいい。やっぱりこれだな、と確信しました。(ちなみに私がホーン・プレーヤーに詳しくないのがバレバレなんですが、このアルバムは新譜でその宣伝で流れてきたものだと思い込んでいましたが、ググってみたら1966年のアルバムなんですね。私の生まれる前です。)

似てる?(古川さんの指摘)

現実逃避で書き上げた表紙の絵を、サークルの掲示板にアップしたら、古川さんから「この本へのリスペクトですか」とのコメントが来ました。恩田陸『蜜蜂と遠雷』という本。恩田陸は、私も名前は知っていて気になってましたが一冊も読んだことありませんでした。アマゾンに行ってみたら、表紙の絵が出てきました。

onda-riku-hachimitsu-to-enrai.jpg

うん、確かに言われてみれば似ていますね。「この本へのリスペクトですね」と言われたのも分かります。でも私の表紙デザインは私のオリジナルです😀。

今回いい機会だと思って、この本を早速注文してみました。文庫本は上下2分冊で表紙も二つに分かれてて似てなかったので、わざわざ単行本を購入しました。で、程なく届きました。アマゾンさん(というか配送の方々)いつもありがとうございます。
onda-riku-01.JPG
だけど、なんか違う…と思ったら、これ、すごく太い「帯」でした。

ということで「帯」を取って、拙著と並べてみました(不遜にも)。こうしてみると確かに似てますね。タイトルの漢字四文字の配列、それと著者名。私の方にはサブタイトルが(余分に)入ってますが。
onda-riku-02.JPG

1つの心残り

なんでも自分でやる精神の、自作表紙デザイン、結構うまく行ったと思ってて満足していますが、1つだけ心残りなことがあります。

20200928-cover-regret-01.png

20200928-cover-regret-02.png

20200928-cover-regret-03.png

目立とうと思ってやったつもりはありませんでした。遅れて出典したことも相まって、マーケットのトップに行くたびに目に入ってきたと思います。目障りだと思った皆さま、すみませんでした。

ちなみにこれが現在のマーケットのトップページのスクリーンショットです。

techbookfest-market-current.png

ということで、例えば次回「技術書典10」に出す本では著者名ちっちゃくするかな、とも考えましたが、今の構想では『数理三部作』みたいなイメージなので(先に書いたように、パッと手持ちのネタ3つあるので…全部書く気なのか、というツッコミもあるでしょうが)表紙も統一性が必要だと思うので、もしかしたらしばらくでかい著者名で行くかもしれません。(できれば、次回はきちんと締め切り守って、皆さんの本の間に埋もれるようにはしたいなと思っています。)

『音楽と数理』で伝えたかったこと

ここまでで、執筆前の構想から、執筆の流れを解説してきました。ここでは、最終的にできあがった本を改めて見ることで、一体私はこの本を書くことで何を伝えようとしてたのか、振り返っています。

技術的なこと

『音楽と数理』は第一に「技術書典」というイベントに技術書として書いた本です。技術的にみんなに伝えたいことがあって書いたものです。それは何だったのか、改めて振り返ると、以下のようになるかなと思います。

  • phase vocoder という技術について
    これあんまり素人には知られてない気がする
  • ハーモニー・ラブ
    最近 Jacob Collier がドーンと打ち出していて
    私も自分の「ハーモニー・ラブ」を再確認した
  • 音楽はすばらしい
    ということを自分なりに言ってみたかった
  • 分野の枠に囚われず、自由に遊ぶこと
    音楽だけでなく、コンピュータも、数学もミックスしたところ

これらは具体的に、技術的な内容として、直接的にこの本で伝えたかった内容です。しかし書いている途中で、もう少し一般的な、別な言い方をすると「ポエム」的なテーマが、自然に浮かび上がってきました。

表テーマ

takimoto.png

これは執筆の前半、大まかな構想が固まりつつある段階で第1章『はじめに』を書いている時に頭に浮かんできたことで、またこれ以前に ZENKEI AI FORUM のあり方についてしばらく考えてきたこととも呼応する内容で、この本の中でも「表テーマ」と明示的に書きましたが、1つのメッセージです。

  • 瀧本哲史『君に友だちはいらない
  • 自分で考える力(武器)
  • 秘密結社 - 「仲間」の大切さ
    「仲間」は「似たもの同士」ではない
    「仲間」は少数精鋭、適材適所、役割分担
    1つの目標を目指す
  • 人間として(個人として)コモディティ化しないということ

裏テーマ

books-for-education.png

こちらは執筆段階の比較的後半になって、本の構成がほぼ固まり、自分自身の(それこそ小学生の頃からの)過去を振り返りながら、ふと、そもそもこの本に書いている内容は学校で学んだことでもないし、プロとして極めてきたこととも外れるけど、しかし(それ故に?)たのしいくて素晴らしいものだな、と思い至った、そういう意味でのこの本の「裏テーマ」というべきメッセージです。

  • アマチュアであることの自由とその力
    (行き過ぎた専門性の限界)
  • 独学の素朴さと底力
    (学校や教育システムの限界)

教育に関しては、私が最近感化された本が2冊あります。

前者『Making Learning Whole (David Perkins)』は、私が ZENKEI AI FORUM をはじめるきっかけになった fast.ai の Jeremy Howard がその教育方針みたいなものとして紹介していた本です。学校教育で行われるボトムアップ式に対して、トップダウン式というか、野球をやりたい子供に、運動力学やボールの流体力学を教えることから始めるのではなく、まずグローブとボールをもってグラウンドに連れて行き実際に野球をプレイさせる、そういう実践的な教育のはなしです。

後者は似たような話を、より専門的に、学問として議論している本です。私も一冊手元持っているのですが(字が小さくて…)なかなか読み切れていません。そんな人のために、松岡正剛が松岡正剛流にまとめたものが『千夜千冊』で読めます(おすすめです)。

このように、これまで漠然と考えていたことが今回の執筆活動を通して、私の中でいろいろと明確になってきたと思います。と同時に、この「アマチュア性」「独学精神」は、実は今回初めて参加した「技術書典」というイベント自体にも当てはまるコンセプトだなと感じ、自分の中で全てが1つにきれいに収まった気がしました。とても深い納得感があります。

まとめ

  • 【表】サークル、コミュニティ、仲間、有志
  • 【裏】アマチュア最高、独学最高
  • これは「技術書典」と底通する精神だと気づく
  • 「技術書典」最高!

購入者のみなさまに感謝!

ここまでは精神的な面でとても大きな満足感を得られたという話をしてきました。しかし一方で「技術書典」はオープンソースのフリーで使っていいソフトではなく、きちんと値札のついた本を頒布するビジネスでもあります。最後になりましたが、今回の『音楽と数理』のビジネス面でのはなしも、まとめておこうと思います。

印刷冊数、値付け

いちき『音楽と数理』

今回初参加であり、スケジュール的にもタイトで、あれこれ比較検討する余裕もなく、今回のイベントの公式バックアップ印刷所になっている日光企画さんに、最初からお願いすることは決めていました。実際、過去の技術書典の情報をググっていると日光企画さんの情報が沢山上がってきたこともありました。ただし、時系列のところでも書いた通り、執筆が遅れていたため、割引などは最初から諦めていました。

  • 印刷代(100冊)など: - 51,470 円

値付け

マーケットにアップする時に、値段を決めなければなりません。私たちの場合、前年の実績などない状態なので、悩みどころです。最低価格が500円であること、これまでの「技術書典」の情報をググって感じた相場感(10ページ100円、50ページくらいで500円、100ページいったら1,000円もあり、みたいな)、あとここまでの(予想以上の)苦労から、電子版は1,000円で、電子+紙版を1,500円にするか2,000円にしちゃうか…と悩んでました。

執筆の遅れにより、マーケットが既にオープンしていて、他の本の値段などが事前に分かりました。手短にみてみた感じだと、電子版は最低価格の500円のものも多かったのですが、1,000円のものも比較的たくさん出ていました。電子+紙版の方は、電子版と同じ値段のものもありましたが(一部?一冊?電子版より安い値付けのものもありましたね)いくらか値段が高く設定されているものが多かったです。ですが2,000円を超えるものは数がずっと少なかったです。

そうこう悩んでた時、先に紹介した堤さんのブログ記事『技術書でご飯は食べられるのか? #技術書典 (2018-10-09)』のさっき引用した部分のすぐ次に、
shu223-01.png

安売りしない
…しかしこのMetal入門、いまでも日本語では唯一のMetalのまとまった情報源で、非常にニッチな本なので、いくら安かろうがいらない人はいらないし、欲しい人は高くても買うという類のものです。なんせ代わりがないので。数は出ないけど高くても売れる、ニッチというのは弱みでもあり強みでもあるのです。

という言葉をみて、そうだよな、と思いました。市場に迎合するなら商業誌で書けばいいわけで、同人誌というのは、そもそも、自分が書きたいものを書いて、それを読みたい人がいたら、それを買ってくれて読んでくれる、そもそもそういうものだと。ということで、最初考えていた通りの値付けでアップすることにしました。

  • 電子版: 1,000 円
  • 電子+紙版: 2,000 円

ダウンロード数、売り上げ

ということで、私たちサークルの9月18日(金)から5日間のダウンロード数、売り上げを紹介します。

古川さん『ゼロからはじめるAI』

弊サークル ZENKEI AI FORUM の記念すべき一冊目、今回は無料版としての公開でした。

  • 電子版(無料): 290冊

いちき『音楽と数理』

  • 印刷代(100冊)など経費: - 51,470円
  • 電子版(1,000円): 93冊(売上 93,000円)
  • 電子+紙版(2,000円): 30冊(売上 57,000円)
  • 収支: + 98,530円

イベント期間中は近視眼的になっていて、印刷代の回収ができるのかとか、それが達成された後は売り上げが上がることに純粋に喜んでいましたが、イベントも終わりひと段落し、改めて123人の人が拙著を買ってくれたという事実に、ふと我に返って、感動と共に、購入者のみなさまに改めて感謝の気持ちでいっぱいです!ありがとうございました。

購入していただいた方のコメントや写真

あまりに嬉しすぎて、ツイッターでコメント見るたびにリプライ返すうざい著者になってました。迷惑だった皆様には申し訳ありませんでした。でも、まだまだ嬉しすぎるので、私の把握している範囲で今回購入していただいたみなさまに、改めて、お礼を言いたいと思います。

music-and-math-thanks-01.png

music-and-math-thanks-02.png

music-and-math-thanks-03.png

music-and-math-thanks-04.png

music-and-math-thanks-05.png

技術書典に感謝!!

techbookfest9.png

  • コロナに負けない
    (コロナで大変な印刷会社への愛)
  • 新人(私たち)への敷居の低さ
  • 出典者への負担の低さ
    (売り上げの高いところからフェアに取る)
  • 購入者への負担の低さ
    (送料無料)
  • 持続的な活動

技術書典10!

「技術書典9」クロージング・ライブの中で、次回「技術書典10」は12月にオンラインで開催とアナウンスされました。
techbookfest10.png
正直、次までに半年くらい時間があるだろうと思ってたので焦りますね。

みなさんも、思いの丈を本にして、世の中に売り出しましょう!

【付録1】『音楽と数理』のトレンドが来たか?

2020年9月にドタバタとまとめた拙著『音楽と数理』ですが、その前後の世間のニュースから、もしかしたら私が30年近くニッチに研究してたこのテーマに、気づかないうちに世間が追いついてきたのかもしれません。そんな出来事を2つ、勝手に結び付けて、紹介します。

「耳コピ」の風が吹いている

コンピュータ周りの音関係の情報の老舗といえば藤本健さんですが、9月の『藤本健のDigital Audio Laboratory』の記事『866回 音を楽譜にする“耳コピ”はここまで来た。AI自動採譜の最前線』で大々的に「耳コピ」が取り上げられていました。
fujimoto-01.png

「独学」の風が吹いている

「技術書典9」も無事に終わってひと段落ついていたら、拙著をみごとに解説、宣伝していただいた tomo_makes さんが『独学大全』という本が近々刊行されるという著者(読書猿さん)のツイートをリツイートしてました。
dokugaku-pptx.png

「アマチュア最高、独学最高」の私としても見逃すことができない本ということで、早速予約注文したところ、無事9月30日に届きました。
dokugaku-tweet.png

見ると(10月3日現在)アマゾンの「仕事術・整理法」カテゴリーで1位、現在品切れで2020年10月19日に入荷予定とのことです。世の中「独学」の風も吹きはじめたようです。うれしいことだと思います。

【付録2】『音楽と数理』で取り上げた「素敵なハーモニー」

『音楽と数理」の中で「譜面になってない、どうしても耳コピしたい、素敵なハーモニー」の1つの例として Bill Evans の黄金トリオ(ベースが Scott LaFaro)の Village Vanguard でのライブ録音のアルバム "Sunday at the Village Vanguard" の収録曲の1つ、 Cole Porter 作曲の超有名なスタンダード “All of You” の Theme 出だしのコードの部分を紹介しました。そこでは

Bill Evans のコピー譜は巷にたくさん出てますが(そしてかなりの数コレクションしていますが)、ぼくの知る限り "All of You" は同人誌 "Letter from Evans" に載ったものだけで(それもテーマ部分はリードシートだけ)それ以外は目にしたことがありません。

と書きました。ここで述べた "Letter from Evans" (LEF) の記事というのは

  • “Letter from Evans”Vol. V, No. 4, p.30(by Steve Weidenhofer)

のことです。
20200929-LFE-01.jpg
20200929-LFE-02.jpg

この LFE というのは Win Hinkle 氏により刊行されていた同人雑誌で、一部、オンラインでも見ることができます。

私はずっとこの雑誌の存在を知っていましたが、日本にいて手に入れられませんでした。最初にアメリカに住んだ時(1997年から2年間)まずしたことのうちの1つが、この Win Hinkle さんのところにチェックを送って Back Issues を手に入れることでした。上の写真は私の手元にあるコピーです。

さて、この "All of You" の音源を新 waon で解析した結果は『音楽と数理』の図 7.3 と 7.4 に載せました。
Figs7-2_and_7-3-allofyou.png

この結果、というより、それ以前に採譜の試行錯誤をしていた頃のノートですが、手で(自分の耳で)余分な音を落として譜面に書き出したものが、以下の写真です。
20200929-all-of-you-transcription.jpg

これ、先日の ZENKEI AI FORUM ZOOM LIVE の冒頭で弾いたように、実際に音を出してみると、結構とれているように思いました。(今回、久しぶりに弾いてみました。)で思ったんですが、この音の並びを「音楽理論」的に解説してくれる人、いらっしゃいませんか?耳コピできても、これではコピーしかできなくて、応用できませんよね。まだまだ私の音楽修行は続くようです。

【宣伝】まだ『音楽と数理』売ってます!

「技術書典9」がすごいなと思ったことの1つですが、イベントが終わった後も、電子版については継続的にマーケットはオープンしていて、購入が可能です。この記事を見て内容に興味を持たれた方は、是非、覗いてみてください。

また紙版も、上に書いた通り今回100冊印刷して、30冊が売れました。100冊のうち20冊は自宅の方に送ってもらったので、今回「技術書典9」に入れた本は80冊でした。残った50冊は技術書典さんとBOOTHさんの「ダイレクト入庫」サービスを使って、BOOTHで継続販売の予定です。(10月3日現在、入庫作業中とのことです。同人誌のこと全体に初めての体験なのですが、1冊1冊ポリ袋に梱包していただけるのですね。いろいろと感動することが多いです。)もうしばらくお待ちください。
【付記】10月6日(水) BOOTH さんの入庫作業が完了し、物理本の販売もスタートしました。(技術書典は運営のすばらしい仕組みにより物理本は送料無料でしたが BOOTH だと400円くらいかかるみたいなので、その分値段下げました。)

それから、弊サークル ZENKEI AI FORUM からの記念すべき1冊目、古川さん著『ゼロからはじめるAI』も引き続き電子版無料頒布中です。こちらもよろしくおねがいします。

3
1
2

Register as a new user and use Qiita more conveniently

  1. You get articles that match your needs
  2. You can efficiently read back useful information
  3. You can use dark theme
What you can do with signing up
3
1