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Physics Lab.Advent Calendar 2023

Day 13

ローレンツ群の連結成分の個数

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はじめに

多くの物理の教科書でローレンツ群の連結成分の個数は4個であると述べられていますが、残念ながら議論は不十分です。ほとんどの本の議論はローレンツ変換$x\mapsto\Lambda x$が

{\Lambda^0}_0\geq1,{\Lambda^0}_0\leq-1

のいずれかを満たし、また

\det\Lambda=\pm1

が成り立つことを示すことで、ローレンツ群の連結成分の個数が4個だと主張しています。しかしこれは、連結成分の個数が4個以上であることしか主張していません。もし$\Lambda$が追加の条件で分離されているなら、連結成分が8個になってしまう可能性もあるでしょう。

この記事では、ローレンツ群の連結成分の個数が4個であることをある程度厳密1に示します。

ローレンツ群

まずはローレンツ変換の定義から始めます。ローレンツ変換とは、線形変換$x^\mu\mapsto x'^\mu={\Lambda^\mu}_\nu x^\nu$であって、

\eta_{\mu\nu}x^\mu x^\nu=\eta_{\mu\nu}{x'}^\mu{x'}^\nu

を満たすものです2。ローレンツ変換を全て集めた集合をローレンツ群と呼びます。ここで

    \eta_{\mu\nu}{x'}^\mu{x'}^\nu=\eta_{\mu\nu}{\Lambda^\mu}_\rho{\Lambda^\nu}_\sigma x^\rho x^\sigma

なので、これが$\eta_{\rho\sigma}x^\rho x^\sigma$と等しいためには

    \eta_{\mu\nu}{\Lambda^\mu}_\rho{\Lambda^\nu}_\sigma=\eta_{\rho\sigma}

が満たされていればよいです。${\Lambda^\mu}_\nu,\eta_{\mu\nu}$を成分とする行列をそれぞれ$\Lambda,\eta$とすれば、ローレンツ変換の条件は行列で

    \Lambda^T\eta\Lambda=\eta

と書けます。両辺の行列式を取ることで、

    (\det\Lambda)^2=1

が成り立つので、

    \det\Lambda=\pm1

を得ます。

また$\eta_{\mu\nu}{\Lambda^\mu}_\rho{\Lambda^\nu}_\sigma=\eta_{\rho\sigma}$で$\rho=\sigma=0$とすると

    -1=-({\Lambda^0}_0)^2+({\Lambda^1}_0)^2+({\Lambda^2}_0)^2+({\Lambda^3}_0)^2

となるので、

\begin{align*}
    ({\Lambda^0}_0)^2&=1+({\Lambda^1}_0)^2+({\Lambda^2}_0)^2+({\Lambda^3}_0)^2\\
    &\geq1
\end{align*}

も成り立ちます。よって、${\Lambda^0}_0\geq1$あるいは${\Lambda^0}_0\leq-1$が成り立つことになります。

ローレンツ群の連結成分

以下の4つの変換はすべてローレンツ変換です。

これらの変換はそれぞれ${\Lambda^0}_0\geq1,{\Lambda^0}_0\leq-1$と$\det\Lambda=\pm1$の4つの場合の全てを尽くしています。よって、ローレンツ群には少なくとも4つの連結成分があります。

連結成分とは何かを軽く説明します。ローレンツ群の連結成分とは、その中の任意の2つの変換が連続的にパラメータ付けられた変換の集合、つまり曲線でつなげるようなローレンツ群の(最大の)部分集合のことを言います3

${\Lambda^0}_0\geq1,{\Lambda^0}_0\leq-1$および$\det\Lambda=+1,\det\Lambda=-1$という条件は$\Lambda$に微小ローレンツ変換をかけても変わりません。よってローレンツ群の4つの部分集合

\begin{align*}
S_1&=\{{\Lambda^0}_0\geq+1,\det\Lambda=+1\},\quad S_2=\{{\Lambda^0}_0\geq+1,\det\Lambda=-1\}\\
S_3&=\{{\Lambda^0}_0\leq-1,\det\Lambda=-1\},\quad S_4=\{{\Lambda^0}_0\leq-1,\det\Lambda=+1\}
\end{align*}

は連結成分の候補になります。このとき以下の4つの変換

{\mathcal{I}^\mu}_\nu=\begin{pmatrix}
    1 & 0 & 0 & 0\\
    0 & 1 & 0 & 0\\
    0 & 0 & 1 & 0\\
    0 & 0 & 0 & 1
\end{pmatrix},\quad
{\mathcal{P}^\mu}_\nu=\begin{pmatrix}
    1 & 0 & 0 & 0\\
    0 & -1 & 0 & 0\\
    0 & 0 & -1 & 0\\
    0 & 0 & 0 & -1
\end{pmatrix}
{\mathcal{T}^\mu}_\nu=\begin{pmatrix}
    -1 & 0 & 0 & 0\\
    0 & 1 & 0 & 0\\
    0 & 0 & 1 & 0\\
    0 & 0 & 0 & 1
\end{pmatrix},\quad
{(\mathcal{P}\mathcal{T})^\mu}_\nu=\begin{pmatrix}
    -1 & 0 & 0 & 0\\
    0 & -1 & 0 & 0\\
    0 & 0 & -1 & 0\\
    0 & 0 & 0 & -1
\end{pmatrix}

はそれぞれ$S_1,S_2,S_3,S_4$の元なので、$S_1,S_2,S_3,S_4$はどれも空ではありません。しかしまだこれらの集合が連結であることは示していないので、連結成分が4つであるとは言えません。

$S_1$の元に$\mathcal{P},\mathcal{T},\mathcal{PT}$をかけるとそれぞれ$S_2,S_3,S_4$の元になり、もう一度同じものをかけると元に戻るので、$S_1,S_2,S_3,S_4$の元は1対1に対応しています。よって$S_1$が連結であることを示せば$S_2,S_3,S_4$も連結であり、ローレンツ群の連結成分が4つであることが証明できます。

恒等変換$\mathcal{I}$を含む集合$S_1$はローレンツ群の部分群であり、本義ローレンツ群と呼ばれます。また本義ローレンツ群$S_1$の元は本義ローレンツ変換と呼ばれます4。以下では本義ローレンツ変換について議論します。

本義ローレンツ群が連結であることの証明

本義ローレンツ群$S_1$が連結であることを示します。このために、任意の本義ローレンツ変換$\Lambda$がブースト$B$と空間回転$R$によって

\Lambda=BR

と書けることを示します。まずブーストと空間回転とは何か説明します。

ブースト

ブーストとは、3元ベクトル$\def\bm#1{{\boldsymbol #1}}\bm{v}$によって

B(\bm{v})=\begin{pmatrix}
\sqrt{1+|\bm{v}|^2}&\bm{v}^T\\
\bm{v}&I+\left(\sqrt{1+|\bm{v}|^2}-1\right)\dfrac{\bm{v}\bm{v}^T}{|\bm{v}|^2}
\end{pmatrix}

と書かれる本義ローレンツ変換のことです。ただし$I$は$3\times3$の単位行列です。

このとき$\bm{e}=\bm{v}/|\bm{v}|$と置くと、

B(\bm{e}\sinh\eta)B(\bm{e}\sinh\eta')=B(\bm{e}\sinh(\eta+\eta'))

が成り立ちます。

有限のブースト$B(\bm{v})$は曲線

c(t)=B\left(t\bm{v}\right),\quad 0\leq t\leq1

で恒等変換とつながっています。

空間回転

空間回転は回転軸の方向を向き、大きさが回転角度であるようなベクトル$\bm{\theta}$によって$R(\bm\theta)$と表すことができ、$\bm{\theta},\bm{\theta}'$が平行なら

R(\bm\theta)R(\bm\theta')=R(\bm\theta+\bm\theta')

が成り立ちます。

有限の空間回転$R(\bm\theta)$は曲線

c(t)=R\left(t\bm\theta\right),\quad 0\leq t\leq1

で恒等変換とつながっています。

証明

$k^\mu=(1,0,0,0)$とすると、

\bar\Lambda=B(\bm{k}_\Lambda)^{-1}\Lambda

という変換は$k^\mu$を不変に保ちます。ただし$\bm{k}_\Lambda$は$\Lambda k$の空間成分であり、${\Lambda^0}_0\geq+1$から

(\Lambda k)^0=\sqrt{1+|\bm{k}_\Lambda|^2}

であることが保証されています5

よって、静止したものを静止したままにするので、直感的に$\bar\Lambda$は空間回転です。$\bar\Lambda$が空間回転であることを実際に示します。$\overline\Lambda$は$k^\mu$を不変に保つことから、何らかの3元ベクトル$\bm{V}$と$3\times3$行列$P$によって

\bar\Lambda=\begin{pmatrix}
    1&\bm{V}^T\\
    0&P
\end{pmatrix}

と書くことができます。これをローレンツ変換の条件$\eta=\bar\Lambda^T\eta\bar\Lambda$に代入すると、

\begin{align*}
\begin{pmatrix}
    -1&0\\
    0&I
\end{pmatrix}&=
\begin{pmatrix}
    1&0\\
    \bm{V}&P^T
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
    -1&0\\
    0&I
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
    1&\bm{V}^T\\
    0&P
\end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix}
    1&0\\
    \bm{V}&P^T
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
    -1&-\bm{V}^T\\
    0&P
\end{pmatrix}\\
&=
\begin{pmatrix}
    -1&-\bm{V}^T\\
    -\bm{V}&-\bm{V}\bm{V}^T+P^TP
\end{pmatrix}
\end{align*}

が成り立つので、

\bm{V}=0,\quad P^TP=I

となります。このとき$\det\bar\Lambda=+1$より6$\det P=1$であり、$\bar\Lambda$は空間回転$R$です。よって$\Lambda$はブーストと空間回転の積

\Lambda=B(\bm{k}_\Lambda)R

で書くことができ、ブーストと空間回転は恒等変換と曲線でつながっているので$\Lambda$も恒等変換と曲線でつながっています。よって$S_1$は連結です。

おわりに

ローレンツ群の連結成分が4個であると述べている文献は多くありますが、本義ローレンツ群が連結であることを示しているものは少ないと思います。本来はこのような議論を行う必要があります。

  1. 物理で納得できるくらいの厳密さで示します。この記事のアイデアを数学的に厳密な形で表すのは容易でしょう。

  2. この記事では、計量$\eta_{\mu\nu}$の符号を$(-,+,+,+)$とします。

  3. これは厳密には弧状連結成分の定義ですが、多様体の弧状連結成分と連結成分は一致するので問題ありません。

  4. 本義ローレンツ変換のことを単にローレンツ変換と呼ぶこともあります。

  5. ${\Lambda^0}_0\leq-1$だと$(\Lambda k)^0=-\sqrt{1+|\bm{k}_\Lambda|^2}$より$(\bar\Lambda k)^\mu=(-1,0,0,0)\neq k^\mu$となってしまいます。

  6. $\Lambda,B(\bm{k}_\Lambda)\in S_1$と$S_1$はローレンツ群の部分群であることから$\bar\Lambda=B(\bm{k}_\Lambda)^{-1}\Lambda\in S_1$です。

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