0
0

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?

More than 1 year has passed since last update.

光圧について:その2

Last updated at Posted at 2022-04-03

1. 前回までの流れ

前回の記事「光圧について:その1」では、物質に働く光圧の一般的な表式を導出しました。
具体的には、電場の複素振幅を$\boldsymbol{E}(\boldsymbol{r},\boldsymbol{k})$、誘起分極を$\boldsymbol{P}(\boldsymbol{r},\boldsymbol{k})$とすると

\frac{1}{2}\text{Re}[\int d\boldsymbol{r}((\nabla \boldsymbol{E^*}(\boldsymbol{r},\boldsymbol{k}))\cdot \boldsymbol{P}(\boldsymbol{r},\boldsymbol{k}))]

でしたね。
この式から直感的に、物質に働く光圧の正体とは電場により誘起された分極が感じる力のことで、力の方向は空間に生成された電場勾配に従う、という話でしたね。

最終的に光圧を用いて物質が捕捉されるシミュレーションを行うために、今回の記事では上記の光圧の一般的な表式を近似していきます。
ただし、近似過程では対象物質や集光したレーザー光を単純な模型に仮定します。
というのは、画面をスクロールしていただけたらわかりますように、この単純化された模型の理論式でさえボリューミーで、他の模型を取り扱う場合も大幅には導出過程が変わらないからです。
それでは、近似内容についてみていきましょう。

                                                                                      

2. どう近似するか?

前回の記事で、離散双極子近似の話をしました。
離散双極子近似の話を簡単に思い出すと、用いた物質内での無数の粗視化領域の分極から、生成される電場$\boldsymbol{E}(\boldsymbol{r},\boldsymbol{k})$を計算するというのが計算コストを要するということでした。

ここで、次の戦略を立てます。
物質は無数の粗視化領域から成るのではなく、単一の粗視化領域として考える。
計算屋からみると、離散化した粗視化領域の分極由来の電場成分を計算するコストが膨大なので、粗視化領域の数を小さくしたこと、に相当します。
それって、対象物質のメッシュ数を減らして、その極限をとっただけじゃん。
その通りです。
ただ、そのような近似で実際の物理現象を説明することに成功しています。
もちろん、この近似はいつでも成立するわけではないです。
対象物質内部で電場の空間的な変化が無視できるときに成立します。
すなわち、物質の代表長さを$d$とすると、$|\boldsymbol{k}|d<<1$の場合に成立します。
これは、だいたい光の1波長分の長さと比較して、物質のサイズが非常に小さいということを意味しています。

このような近似方法で、物質を取り扱う方法を双極子近似といいます。
物質を単一の双極子として近似的に取り扱う、という意味です。
また、以下から物質を球として近似して取り扱います。
それでは、以上の話を仮定した上で光圧の一般的な表式を近似していきましょう。

3. 光圧の理論式の近似

上述したように、対象物質は球として考えます。
したがって、以下から物質を粒子という呼び名で統一します。
集光したレーザー光により、分極した粒子を単一の双極子として取り扱った場合における誘起双極子を$\boldsymbol{p}$、粒子の複素分極率$\alpha$をとすると、粒子に働く光圧は次のようになります。

\begin{align}
\frac{1}{2}\text{Re}\int d\boldsymbol{r}[(\nabla \boldsymbol{E^*}(\boldsymbol{r},\boldsymbol{k}))\cdot \boldsymbol{P}(\boldsymbol{r},\boldsymbol{k})]
&=\frac{1}{2}\text{Re}[\nabla\boldsymbol{E^*}(\boldsymbol{r}, \boldsymbol{k})\cdot \boldsymbol{p}(\boldsymbol{r}, \boldsymbol{k})]\\
&=\frac{1}{2}\text{Re}[\nabla\boldsymbol{E^*}(\boldsymbol{r}, \boldsymbol{k})\cdot \alpha\boldsymbol{E}(\boldsymbol{r}, \boldsymbol{k})]\tag{1}
\end{align}

さらに、入射光の電場および磁束密度は入射光の進行方向に振動しているとします。

\boldsymbol{E}(\boldsymbol{r},\boldsymbol{k})=\boldsymbol{E}_0(\boldsymbol{r})\exp(i\boldsymbol{k}\cdot \boldsymbol{r})\tag{2}
\boldsymbol{B}(\boldsymbol{r},\boldsymbol{k})=\boldsymbol{B}_0(\boldsymbol{r})\exp(i\boldsymbol{k}\cdot \boldsymbol{r})\tag{3}

この仮定は前回の記事で設けてもよかったのですが、ごちゃごちゃしそうだったのでこちらの記事で設けました。
$\boldsymbol{E}_0$は電場の複素振幅、$\boldsymbol{B}_0$は磁束密度の複素振幅、$\exp(i\boldsymbol{k\cdot \boldsymbol{r}})$は電場および磁束密度の空間振動に対応する部分です。

(2)および(3)式を(1)式に代入します。

\begin{align}
\frac{1}{2}\text{Re}[\nabla\boldsymbol{E^*}(\boldsymbol{r}, \boldsymbol{k})\cdot \alpha\boldsymbol{E}(\boldsymbol{r}, \boldsymbol{k})]
&=\frac{1}{2}\text{Re}[\nabla([\boldsymbol{E}_0(\boldsymbol{r})\exp(i\boldsymbol{k}\cdot \boldsymbol{r})]^*)\cdot \alpha\boldsymbol{E}_0(\boldsymbol{r})\exp(i\boldsymbol{k}\cdot \boldsymbol{r})]\\
&=\frac{1}{2}\text{Re}[\nabla(\boldsymbol{E}^*_0(\boldsymbol{r})\exp(-i\boldsymbol{k}\cdot \boldsymbol{r}))\cdot \alpha\boldsymbol{E}_0(\boldsymbol{r})\exp(i\boldsymbol{k}\cdot \boldsymbol{r})]\tag{4}
\end{align}

そして、これから(4)式をひたすら変形していきます。
ただ、愚直に変形しようとするとその計算過程は混乱を招きます。
ここで、(4)式の中には、あるベクトル量を$\boldsymbol{A}$とすると、$\nabla \boldsymbol{A}$のように階数が2以上の部分がある事実に着目します。
階数が2以上の物理量を含んだ式変形は成分として計算する方が楽なので、成分表示で計算していきます。
(4)式を成分表示して変形すると次のようになります。

\begin{align}
\frac{1}{2}\text{Re}[(\frac{\partial}{\partial x_i}{E_0}^*_j\exp(-i\boldsymbol{k}\cdot \boldsymbol{r}))  \alpha{E_0}_j\exp(i\boldsymbol{k}\cdot \boldsymbol{r})]
&=\frac{1}{2}\text{Re}[[(\exp(-i\boldsymbol{k}\cdot \boldsymbol{r})(\frac{\partial}{\partial x_i}{E_0}^*_j)+{E_0}^*_j\frac{\partial}{\partial x_i}(\exp(-i\boldsymbol{k}\cdot \boldsymbol{r}))]\alpha{E_0}_j\exp(i\boldsymbol{k}\cdot \boldsymbol{r})]\\
&=\frac{1}{2}\text{Re}[[(\exp(-i\boldsymbol{k}\cdot \boldsymbol{r})(\frac{\partial}{\partial x_i}{E_0}^*_j)-ik_i{E_0}^*_j\exp(-i\boldsymbol{k}\cdot \boldsymbol{r})]\alpha{E_0}_j\exp(i\boldsymbol{k}\cdot \boldsymbol{r})]\\
&=\frac{1}{2}\text{Re}[\alpha(\frac{\partial}{\partial x_i}{E_0}^*_j){E_0}_j-ik_i\alpha{E_0}_j{E_0}^*_j]\tag{5}
\end{align}

ただし、アインシュタインの縮約表記を使用しました。
アインシュタインの縮約表記について触れます。
厳密ではないですが、簡略的な解釈としては、同一項に同種の添字が二つ以上含まれる場合、その添字に対して$\sum$がかかるというルールです。
例えば、ベクトル同士の内積の計算で登場する型の

\sum_i x_i y_i

は、同一項に添字$i$を含む量が複数(2つ)存在するので

x_i y_i

と表記します。
ちょっとすっきりしますね。

この表記法は物理量の階数が上がるにつれてご利益度が上昇します。
例えば、ベクトルの線形変換の計算で登場する型の

\sum_j\sum_k A_{ij}B_{jk} x_k

は、同一項に添字$j$を含む量が複数(2つ)存在し、かつ添字$k$を含む量が複数(2つ)存在するので

A_{ij}B_{jk} x_k

と表記します。
こちらも、ちょっとすっきりしますね。
(※気にすることではないと思いますが、話を直交座標系に限定するため反変成分と共変成分は同一視しています)

話が脱線したので戻します。

(5)式を慎重に扱うために、2つの項を別々に変形していきますが、
その前に、複素分極率および電場の複素振幅を次のように表しておきます。

\alpha = \alpha_{\text{_Re}} + i\alpha_{\text{_Im}}
{E_0}_j = {E_0}_{j\text{_Re}} + i{E_0}_{j\text{_Im}}

複素表示の物理量を実部と虚部に分解して表しただけです。

この複素表示を用いて、まずは(5)式の第1項を変形していきます。

\begin{align}
\frac{1}{2}\text{Re}[\alpha(\frac{\partial}{\partial x_i}{E_0}^*_j){E_0}_j]
&=\frac{1}{2}\text{Re}[(\alpha(\frac{\partial}{\partial x_i}({E_0}_{j\text{_Re}} + i{E_0}_{j\text{_Im}})^*)({E_0}_{j\text{_Re}} + i{E_0}_{j\text{_Im}})]\\
&=\frac{1}{2}\text{Re}[(\alpha(\frac{\partial}{\partial x_i}({E_0}_{j\text{_Re}} - i{E_0}_{j\text{_Im}}))({E_0}_{j\text{_Re}} + i{E_0}_{j\text{_Im}})]\\
&=\frac{1}{2}\text{Re}[(\alpha[(\frac{\partial}{\partial x_i}{E_0}_{j\text{_Re}}){E_0}_{j\text{_Re}}+(\frac{\partial}{\partial x_i}{E_0}_{j\text{_Im}}){E_0}_{j\text{_Im}}] + i[(\frac{\partial}{\partial x_i}{E_0}_{j\text{_Re}}){E_0}_{j\text{_Im}}-(\frac{\partial}{\partial x_i}{E_0}_{j\text{_Im}}){E_0}_{j\text{_Re}}]]\tag{6}
\end{align}

(6)式は複素電場を実数部と虚数部に分けて$(\frac{\partial}{\partial x_i}{E_0}^*z_j){E_0}_j$の部分を展開しただけです。

当たり前ですが、その$(\frac{\partial}{\partial x_i} {E_0}^*_j){E_0}_j$という部分は$(\nabla \boldsymbol{E}^*_0)\boldsymbol{E}_0$という物理量のi成分に対応するので、

\begin{align}
(\frac{\partial}{\partial x_i}{E_0}^*_j){E_0}_j
&=(\frac{\partial}{\partial x_i}{E_0}_{j\text{_Re}}){E_0}_{j\text{_Re}}+(\frac{\partial}{\partial x_i}{E_0}_{j\text{_Im}}){E_0}_{j\text{_Im}} + i[(\frac{\partial}{\partial x_i}{E_0}_{j\text{_Re}}){E_0}_{j\text{_Im}}-(\frac{\partial}{\partial x_i}{E_0}_{j\text{_Im}}){E_0}_{j\text{_Re}}]]\\
&=[(\nabla \boldsymbol{E}^*_0)\boldsymbol{E}_0]_i
\end{align}\tag{7}

となりますね。
最後の$[...]_i$は$[]$内の物理量の$i$成分という意味です。

ここで、(6)式の

(\frac{\partial}{\partial x_i}{E_0}_{j\text{_Re}}){E_0}_{j\text{_Re}}+(\frac{\partial}{\partial x_i}{E_0}_{j\text{_Im}}){E_0}_{j\text{_Im}}

というパーツにのみ着目します。

これは、同一項に特定の物理量とその物理量の微分があるので変形できますよね。
変形していくと

\begin{align}

(\frac{\partial}{\partial x_i}{E_0}_{j\text{_Re}}){E_0}_{j\text{_Re}}+(\frac{\partial}{\partial x_i}{E_0}_{j\text{_Im}}){E_0}_{j\text{_Im}}
&=\frac{1}{2}{(\frac{\partial}{\partial x_i}({E_0}_{j\text{_Re}}{E_0}_{j\text{_Re}}))+(\frac{\partial}{\partial x_i}({E_0}_{j\text{_Im}}{E_0}_{j\text{_Im}}))}\\
&=\frac{1}{2}{(\frac{\partial}{\partial x_i}({E_0}_{j\text{_Re}}{E_0}_{j\text{_Re}}+{E_0}_{j\text{_Im}}{E_0}_{j\text{_Im}})}\\
&=\frac{1}{2}(\frac{\partial}{\partial x_i}({{E_0}_j{E_0}^*_j}))\\
&=\frac{1}{2}[\nabla \boldsymbol{E}^2_0]_i\tag{8}
\end{align}

となります。
3番目の等式で、物理量を複素表示に戻しました。
ごちゃごちゃしていたものが、ちょっときれいになりましたね。

次に、(6)式の

(\frac{\partial}{\partial x_i}{E_0}_{j\text{_Re}}){E_0}_{j\text{_Im}}-(\frac{\partial}{\partial x_i}{E_0}_{j\text{_Im}}){E_0}_{j\text{_Re}}

というパーツにのみ着目します。
(7)式より、このパーツは$[(\nabla \boldsymbol{E}^*_0)\boldsymbol{E}_0]_i$の虚部ですね。
したがって、次のようになります。

(\frac{\partial}{\partial x_i}{E_0}_{j\text{_Re}}){E_0}_{j\text{_Im}}-(\frac{\partial}{\partial x_i}{E_0}_{j\text{_Im}}){E_0}_{j\text{_Re}}
= \text{Im}[[(\nabla \boldsymbol{E}^*_0)\boldsymbol{E}_0]_i]\tag{9}

(8)式と(9)式(6)式に代入すると次のようになります。

\begin{align}

\frac{1}{2}\text{Re}[\alpha(\frac{\partial}{\partial x_i}{E_0}^*_j){E_0}_j]
&=\frac{1}{2}\text{Re}[(\alpha[(\frac{\partial}{\partial x_i}{E_0}_{j\text{_Re}}){E_0}_{j\text{_Re}}+(\frac{\partial}{\partial x_i}{E_0}_{j\text{_Im}}){E_0}_{j\text{_Im}}] + i[(\frac{\partial}{\partial x_i}{E_0}_{j\text{_Re}}){E_0}_{j\text{_Im}}-(\frac{\partial}{\partial x_i}{E_0}_{j\text{_Im}}){E_0}_{j\text{_Re}}]]\\
&= \frac{1}{2}\text{Re}[\alpha(\frac{1}{2}[\nabla \boldsymbol{E}^2_0]_i + i\text{Im}[(\nabla \boldsymbol{E}^*_0)\boldsymbol{E}_0]_i)]\\
&= \frac{1}{2}\text{Re}[(\alpha_{\text{_Re}} + i\alpha_{\text{_Im}})(\frac{1}{2}[\nabla \boldsymbol{E}^2_0]_i + i\text{Im}[(\nabla \boldsymbol{E}^*_0)\boldsymbol{E}_0]_i)]\\
&= \frac{1}{4}\text{Re}[\alpha][\nabla \boldsymbol{E}^2_0]_i - \frac{1}{2}\text{Im}[\alpha]\text{Im}[[(\nabla \boldsymbol{E}^*_0)\boldsymbol{E}_0]_i]\tag{10}

\end{align}

これにて(5)式の第1項の変形は終わります。
なかなか、変形過程がヘビーですね。

次に(5)式の第2項を変形していきます。
こちらは、第1項と比べてライトな式変形になります。

\begin{align}
-\frac{1}{2}\text{Re}[ik_i\alpha{E_0}_j{E_0}^*_j]
&= -\frac{1}{2}\text{Re}[ik_i(\alpha_{\text{_Re}} + i\alpha_{\text{_Im}}){E_0}_j{E_0}^*_j]\\
&= \frac{1}{2}k_i\text{Im}[\alpha]{E_0}_j{E_0}^*_j\\
&= \frac{1}{2}k_i\text{Im}[\alpha]{E_0}^2_j\tag{11}
\end{align}

これにて(5)式の第2項の変形は終わりです。

(10)式および(11)式を(5)式に代入すると次のようになります。

\begin{align}
\frac{1}{2}\text{Re}[\alpha(\frac{\partial}{\partial x_i}{E_0}^*_j){E_0}_j-ik_i\alpha{E_0}_j{E_0}^*_j]
&= \frac{1}{4}\text{Re}[\alpha][\nabla \boldsymbol{E}^2_0]_i - \frac{1}{2}\text{Im}[\alpha]\text{Im}[[(\nabla \boldsymbol{E}^*_0)\boldsymbol{E}_0]_i] +  \frac{1}{2}k_i\text{Im}[\alpha]{E_0}^2_j\tag{12}
\end{align}

最後に(12)式を成分表示からもとにもどすと、次のようになります。

\begin{align}
\frac{1}{2}\text{Re}[\nabla\boldsymbol{E^*}(\boldsymbol{r}, \boldsymbol{k})\cdot \alpha\boldsymbol{E}(\boldsymbol{r}, \boldsymbol{k})]
&= \frac{1}{4}\text{Re}[\alpha]\nabla \boldsymbol{E}^2_0(\boldsymbol{r}) - \frac{1}{2}\text{Im}[\alpha]\text{Im}[(\nabla \boldsymbol{E}^*_0(\boldsymbol{r}))\boldsymbol{E}_0(\boldsymbol{r})] +  \frac{1}{2}\boldsymbol{k}\text{Im}[\alpha]\boldsymbol{E}^2_0(\boldsymbol{r})\tag{13}
\end{align}

(13)式が双極子近似を行った粒子に働く光圧の近似式になります。

4. 算出した光圧の近似式の解釈

双極子近似を行った粒子に働く光圧を$\boldsymbol{F}(\boldsymbol{r})$とすると、

\boldsymbol{F}(\boldsymbol{r}) = \frac{1}{4}\text{Re}[\alpha]\nabla \boldsymbol{E}^2_0(\boldsymbol{r}) - \frac{1}{2}\text{Im}[\alpha]\text{Im}[(\nabla \boldsymbol{E}^*_0(\boldsymbol{r}))\boldsymbol{E}_0(\boldsymbol{r})] +  \frac{1}{2}\boldsymbol{k}\text{Im}[\alpha]\boldsymbol{E}^2_0(\boldsymbol{r})\tag{14}

になることが前章で分かりました。
この式中の各項の解釈について軽く触れていきます。

・第1項の解釈
電場が大きい空間方向に力が働き($=\nabla \boldsymbol{E}^2_0(\boldsymbol{r})$)、実際に粒子が感受する力の度合いは分極率の実部($=\text{Re}[\alpha]$)に比例するということがわかります。
前記事「光圧について:その1」の光ピンセットの章で説明したように、集光レーザーの光圧により、粒子が捕捉されようとする現象の直接的なソースはこの項に相当します。

・第2項の解釈
電場の実部は$\boldsymbol{E}(\boldsymbol{r},t) = \text{Re}[\boldsymbol{E}_0(\boldsymbol{r})\exp(i(\boldsymbol{k}\cdot \boldsymbol{r} - \omega t))]$で、$\boldsymbol{E}_0(\boldsymbol{r})$は電場の振幅です。
第2項に電場の振幅の複素共役$\boldsymbol{E}^*_0(\boldsymbol{r})$がありますが、光が伝搬方向を有している場合、$\boldsymbol{E}^*_0$は実数です。
したがって、$\text{Im}[(\nabla \boldsymbol{E}^*_0(\boldsymbol{r}))\boldsymbol{E}_0(\boldsymbol{r})]$は0になります。
この記事では光を集光レーザー光に仮定し、その場合光の伝搬方向は一定なので、この項は無視できます。

・第3項の解釈
波数ベクトルの方向、すなわち光の伝番方向に働く力ということはわかります。
この項はさらに変形できますが変形する場合、粒子の分極率の虚部の関数形について考える必要があります。
その場合、実は散乱理論の話をする必要があります。
ただし、この記事で散乱理論の話を持ち出すと記事としての統一感を損なうため、最終的な理論式だけを明示して導出過程は省略します。
導出すると、第3項は最終的に次のようになります。

\begin{align}
\frac{1}{2}\boldsymbol{k}\text{Im}[\alpha]\boldsymbol{E}^2_0(\boldsymbol{r})
= \frac{\boldsymbol{E}^2_0}{8\pi}(\sigma_{\text{abs}} +\sigma_{\text{scatt}} )\frac{\boldsymbol{k}}{k}
\end{align}

粒子の散乱断面積を$\sigma_{\text{scatt}}$、吸収断面積を$\sigma_{\text{abs}}$としました。
${k}$は波数ベクトルの大きさです。

以上が双極子近似を行った粒子に働く、光圧の理論式の各項についての簡単な解釈になります。

5. さいごに

いかかでしたでしょうか?
対象物質 (粒子)に対して双極子近似を行うことで、光圧の理論式は「光圧について:その1」で導出した光圧の一般的な表式から(14)式として近似的に書き直されることがわかりました。
次回以降の記事で、集光レーザーのビームプロファイルを具体的に定義した上で、(14)式をさらに変形していき、最終的には光圧により粒子が捕捉されるようなシミュレーションを行っていきます。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

0
0
0

Register as a new user and use Qiita more conveniently

  1. You get articles that match your needs
  2. You can efficiently read back useful information
  3. You can use dark theme
What you can do with signing up
0
0

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?