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クリティカルシンキングについて

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クリティカルシンキング

はじめに

エンジニアとして働く中で、私たちは日々さまざまな課題に直面しています。
自身の生産性から、プロジェクト全体の品質まで、常に問題解決を行っている方がほとんどではないでしょうか。私はこれまでロジカルシンキングの研修を受けてきましたが、その先にあるクリティカルシンキングを学びたいと思い、この記事を書いています。

対象者

この記事は、以下のような方々を対象としています。

  • 仕事の生産性を上げたい方
  • 物事を正しい方法で、正しいレベルまで考えられるようになりたい方
  • 効率的・効果的にコミュニケーションを行いたい方

クリティカルシンキングとは

クリティカルシンキングは、日本語で「批判的な思考」と訳されます。
これは、単に間違いを指摘したり、否定したりすることではありません。
「健全な批判精神を持った客観的な思考」と表現されることが多く、心理学的な「思考の罠」を避ける側面も持ち合わせています。
この記事では、クリティカルシンキングを「論理的な思考方法と、正しく思考するための姿勢を組み合わせたもの」と定義します。

クリティカルシンキングとロジカルシンキングの関係性

クリティカルシンキングは、ロジカルシンキングを内包する上位概念です。
ロジカルシンキングは、物事を論理的に考えることで正しい結論にたどり着くための手法です。しかし、日々の問題解決において、答えが一つであることは珍しく、推論の前提が人によって異なることも少なくありません。

そこで重要になるのがクリティカルシンキングです。ロジカルシンキングで物事を考えた上で、常に多角的な視点を持ち、「客観的に見て、どの結論が最も妥当か」を意識することが、クリティカルシンキングの本質です。

現状把握:思考を始める前の基本動作

クリティカルシンキングで問題を解決する際、まず何よりも大切なのは「現状を正しく理解する」ことです。このフェーズを疎かにすると、どんなに優れた思考法を使っても、的外れな結論にたどり着いてしまいます。現状を正確に把握するために、以下の2つの基本動作を意識しましょう。

構成要素を分解する

複雑な問題や現象を、より小さな要素に分解することで、全体像を明確に把握できます。例えば、あるWebサービスのログイン率が低いという問題に直面したとします。

  • 問題全体:ログイン率の低下
  • 構成要素への分解:
    • 新規登録ページの離脱率
    • ログインページの離脱率
    • ログイン後のアクション率
    • 特定のブラウザやデバイスでのみ発生する問題

このように分解することで、問題のボトルネックがどこにあるのかを特定しやすくなります。

分析対象を多面的にとらえる

問題を分解した後は、それぞれの要素を多角的な視点から分析することが重要です。以下の4つの視点を活用して、分析対象の特徴を捉え、本質的な課題を見つけ出しましょう。

視点①:全体の構成と構成要素のばらつき度合いを把握する
ある事象を構成する要素をリストアップし、それぞれの割合や大きさがどうなっているかを把握します。例えば、ある製品の不具合報告を分析する際、不具合の種類を「UIバグ」「機能不全」「パフォーマンス問題」などに分け、それぞれの件数を集計します。これにより、どの種類の不具合が最も多く発生しているかを定量的に把握でき、対応の優先順位をつけられます。

視点②:インパクトの大きさを考える
「何が重要か」「何がより大きな影響を与えるか」という観点で現状を評価します。すべての問題に等しく対応していては、時間とリソースがいくらあっても足りません。**パレートの法則(80:20の法則)**のように、「問題全体の8割は、2割の原因から生じている」という視点を持ち、最もインパクトの大きい要素に焦点を当てることで、効率的に課題を解決できます。

視点③:比較して、差分を見つける
分析対象を過去のデータや、他の類似事例(競合サービスなど)と比較することで、現状の「強み」や「弱み」を浮き彫りにします。例えば、自社のサービスと競合他社のサービスを比較し、「なぜ競合の利用者は多いのか?」を深掘りすることで、自社が抱える潜在的な課題を発見できます。

視点④:法則性と特定の変曲点を見つける
時系列データを分析し、傾向やパターン(法則性)を見つけ出します。また、その傾向が大きく変化した「変曲点」に注目します。「なぜこのタイミングで売り上げが急増したのか?」「なぜこの日からユーザーの離脱が増加したのか?」といった問いを立てることで、その背後にある原因を特定できます。

クリティカルシンキングで重要な三要素

クリティカルシンキングの土台となる3つの要素です。

  1. 常にイシューを意識する
    論じるべき一番の目的、つまり イシュー(着地点) を明確にすることです。課題が難しければ難しいほど、議論が散漫になり、本質的でない部分に目が向いてしまいがちです。着地点を常に意識することで、思考や議論の方向性を保てます。

  2. 思考の癖を前提に考える
    自分や他者には、個人的な価値観や過去の経験から生まれる無意識的な思考の癖(バイアス)が存在します。
    例えば、あるプロジェクトリーダーがA案の結論に誘導したがっている場合、B案やC案を十分に検討せず、思考の癖で選択肢から外してしまっているかもしれません。自分の判断に「好き嫌いや思い込みはないか?」と常に自問することで、思考を客観視できます。

  3. 問い続ける
    ロジカルシンキングの「なぜなぜ分析」にあたるのが、この「問い続ける」という要素です。クリティカルシンキングでは、以下の3つの問いを繰り返し使います。

  • So what?(だから何?):問いの本質を引き出す
  • Why?(なぜ?):原因や前提を確認する
  • True?(本当に?):誤解がないかを確認する

これらの問いを続けることで、考える力と考える習慣が身につきます。

大きな論理構造

ビジネスにおいて考えや文章が「論理的である」とみなされるには、以下の3点が重要である。

  • イシューが正しく抑えられている
  • イシューに答えるために問うべき枠組みが、漏れなく抑えられている
  • イシュー、枠組みに明確に答え、的確な根拠で支えられている

これら3つは、クリティカルシンキングを実践する上で欠かせない骨組みです。特に2番目の「イシューに答えるために問うべき枠組み」は、クリティカルシンキングの真骨頂とも言えます。問題の全体像を捉え、考慮すべき要素を漏れなく洗い出すことで、結論の妥当性が格段に向上します。例えば、ある新製品を開発する際に、「市場のニーズ」「技術的な実現可能性」「コストと収益性」「競合他社の動向」といった複数の観点から検討することで、より精度の高い判断を下せるようになります。
エンジニアであれば、新しい技術スタックを選定する際に、「学習コスト」「コミュニティの成熟度」「将来性」「既存システムとの親和性」といった具合になります。

論理展開について

論理的な思考を進める上で、演繹法と帰納法 の2つの基本的な論理展開を理解することは不可欠です。

演繹法:論理を積み上げるアプローチ

演繹法は、一般的・普遍的なルールや前提から出発し、個別具体的な結論を導き出す思考法です。

大前提:すべての人間はいつか死ぬ。
小前提:ソクラテスは人間である。
結論:したがって、ソクラテスはいつか死ぬ。

演繹法は、前提が正しければ、導き出される結論も必然的に正しいという強固な論理構造を持っています。このため、企画書やレポートなどで、自らの主張の妥当性を示す際に非常に有効です。

帰納法:事実から法則を見つけるアプローチ

一方、帰納法は、複数の個別的な事実や事例から、共通するルールや法則を見つけ出し、一般的な結論を導き出す思考法です。

事実1:A社の開発チームでは、毎日朝会を実施している。
事実2:B社の開発チームでは、毎日朝会を実施している。
事実3:C社の開発チームでも、毎日朝会を実施している。

結論(仮説):毎日朝会を実施することは、開発チームの生産性を向上させる効果があるようだ。

帰納法は、新しい知識や仮説を生み出す力がある一方で、どれだけ多くの事例を集めても、結論はあくまで「蓋然性が高い」ものであり、100%正しいとは断言できないという特性があります。

演繹法と帰納法の関係性

クリティカルシンキングにおいて、演繹法と帰納法は相互に補完し合う関係にあります。
まず帰納法で多くの事実を分析して仮説を立て、次にその仮説の妥当性を演繹法で検証します。
両者を組み合わせることで、より深く、説得力のある思考が可能になります。

例えば、新しいプログラミング言語の導入を検討する際、まず帰納法で「最近成功しているプロジェクトは、なぜかこの言語を使っているケースが多い」という仮説を立てます。次に、その仮説を検証するために「この言語は〇〇という特性がある(大前提)」「我々のプロジェクトは〇〇を必要としている(小前提)」という演繹法の構造で検討を進め、「したがって、この言語は我々のプロジェクトに最適だ」という結論を導き出します。このように、両者を組み合わせることで、より深く、より説得力のある思考が可能になります。

因果関係の把握

ある結果(アウトプット)がなぜ生じたのか、その原因(インプット)を正確に理解することは、問題解決の要となります。しかし、ビジネスにおける因果関係の把握は、科学的な実験のように完全に証明することが難しいのが現実です。そのため、完璧を求めるよりも、推論や類推を効率的に用いて思考を進める必要があります。

因果関係を捉える際に、私たちが陥りがちな錯覚のパターンを理解しておきましょう。

  1. 直感による判断
    人はしばしば、直感的に「これが原因だ」と判断しがちです。しかし、直感は過去の経験や固定観念に強く影響されるため、必ずしも正しいとは限りません。例えば、「最近売り上げが伸び悩んでいるのは、競合の新サービスが原因だ」と直感的に考えるのではなく、「本当にそうか?」と問いかけ、データを基に検証することが重要です。

  2. 第三因子の見落とし
    AとBの間に因果関係があるように見えても、実際はCという第三の要因がAとBの両方に影響を与えている場合があります。

  • 例: 夏にアイスクリームの売り上げが伸びると、プールの事故件数も増える
  • 錯覚: 「アイスクリームを食べると、プールの事故に遭いやすくなる」
  • 真の原因: 暑さ(第三因子)が、アイスクリームの消費とプールの利用を両方とも増加させている

このように、見えている事象の裏に隠れた共通の原因がないかを探る視点が欠かせません。

  1. 因果の取り違え
    「ニワトリが先か、タマゴが先か」のように、原因と結果を逆に捉えてしまうこともあります。
  • 例: 「プログラミングのスキルが高いエンジニアは、残業が少ない。したがって、残業を減らせばスキルが上がる」
  • 錯覚: 残業を減らすことが、スキルアップの原因である
  • 真の原因: スキルが高いことが、効率的な仕事につながり、結果的に残業が少なくなる

このパターンを避けるためには、時系列で事象を捉え、どちらが先行しているかを慎重に検討する必要があります。

  1. 最後の藁
    「ある事象が起きた直前の出来事」を原因だと決めつけてしまうパターンです。
  • 例: 「Aさんがシステムに修正を加えた直後にバグが発生した。したがって、バグの原因はAさんの修正だ」
  • 錯覚: Aさんの修正が直接的な原因
  • 真の原因: Aさんの修正は、元々存在していた別の問題(最後の藁)を顕在化させただけで、根本的な原因は別の場所にあるかもしれません

このように、因果関係を正しく捉えるためには、安易な結論に飛びつかず、多角的な視点から「本当の原因は何か?」を問い続ける姿勢が不可欠です。

論理の飛躍を見抜く

論理的な思考を進める上で、最も注意すべき「思考の罠」の一つが論理の飛躍です。これは、前提から結論に至るまでの因果関係や根拠が曖昧であったり、欠落している状態を指します。

例1:「最近、Aチームの会議の議論が活発だ。したがって、Aチームの生産性は向上している。」
→ 議論の活発さと生産性の向上には、直接的な因果関係があるとは限りません。議論が長引いているだけかもしれませんし、活発な議論が必ずしも成果につながるとは限りません。

例2:「Bエンジニアは残業が多い。彼は仕事熱心だ。」
→ 残業の多さと仕事への熱心さも、必ずしも一致するわけではありません。仕事の効率が悪い、仕事量が多すぎる、などの可能性も考えられます。

論理の飛躍を避けるためには、「おかしい」と思ったら、1つひとつの論理を検証し、どれくらい確実な命題をもとに展開されているかを確認するべきです。

まとめ

クリティカルシンキングは、特定のスキルであると同時に、日々の実践によって磨かれる「思考の習慣」です。この記事で紹介した多くの要素を一度に実践しようとすると、難しく感じてしまうかもしれません。
まずは、明日からできる小さな一歩を踏み出してみましょう。例えば、次のチームミーティングで一つだけ、当たり前とされている前提に対して心の中で「それは本当に?」「なぜそう言えるのだろう?」と問いかけてみることから始めてみてください。
いきなりすべてを完璧にこなす必要はありません。まずは「現状を正しく捉える」こと、そして「問い続ける」ことを意識するだけでも、あなたの視点は大きく変わるはずです。
この思考の習慣は、単に問題解決能力を高めるだけでなく、物事の本質を見抜く洞察力を養い、より質の高い判断を下す力となります。それは、エンジニアとしてのあなたのキャリアをより豊かにし、仕事の生産性やチーム全体の成果を大きく向上させる、強力な武器となるでしょう。

参考書籍

グロービスMBAクリティカル・シンキング

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