会社の偉い人(例:社長、事業部長)から
- AIを使って何かできないのかという依頼や相談
- (挙句の果てには、)会社の宣伝のためにAIを使って何かしろという業務命令
を受けた方は、エンジニアや研究者の中にいらっしゃると思います。
そのような状況で、参考にして頂ければと思う注意点を幾つか纏めました。
AIの定義を明確化する
世の中には AI = ディープラーニング(深層学習)
と思い込んでいる人達がいます。
例えば、AIを作る側の人が説明のしやすさという観点から決定木などのルールベースのアルゴリズムを選択しても、会社の偉い人から「そんなものはAIとは言わない」「ディープラーニングを使わないと会社の宣伝にならない」と言われる事があります。
そのような事態を避けるために、まずは関係者でAIの定義を明確化しましょう。
AIの定義や歴史については、東大の松尾先生の『人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの』という本に詳しく書かれています。
AI以外の手段がないのか検討する
AIを使う事はあくまでも手段であって目的ではありません。
そのため、AI以外の手段がないのか検討し、もしAI以外の手段があればそちらを使いましょう。
その方が開発コストだけでなく運用コストも安く済む場合が多いです。
例えば、スーパーのレジ打ちの場合を考えてみましょう。
AI、この場合は画像認識を使って買い物カゴの中に入っている商品を認識しレジ打ちを自動化しようと言う人がいますが、商品に事前に電子チップを埋め込んでおき、レジでその電子チップを読み込めば買い物カゴの中の商品は認識できます。さらに、電子チップであれば、画像認識のように認識誤りが発生する事はほぼあり得ません。
もちろん電子チップを埋め込むコストを考慮しなければなりませんが、このようにAIを使わずに単純なシステム化だけでも十分に解決できる事例は数多く存在します。
AIの費用対効果を意識する
AIの機能を自社で開発するにしろ外部ベンダーに依頼して開発するにしろ、多くの費用と時間が掛かります。
例えば、AIを使ったレコメンドエンジンを開発する場合、
- ビジネス要件定義
- アルゴリズム開発
- データ取得
- データ前処理
- 各種アルゴリズムの比較検討
- 既存システムへの組み込み
といったタスクが少なくとも必要です。
これらを全て一人で対応することはまず無理で、複数のプロジェクトメンバーが数ヶ月掛けて作ることが多いです。
1人月100万円で見積もっても、最低でも数百万円の費用になります。
レコメンドエンジンを開発することで売上げがこれ以上に伸びるのであれば問題ありませんが、売上げアップがあまり見込めない場合はレコメンドエンジンの開発そのものを諦める方がビジネス上は正しい判断となります。
また、最近ではBRP(Business Process Re-engineering)の中でAIを使って業務改善ができないか?という事例も多く見聞します。
その場合、AIによる業務改善の恩恵を受ける人が数万人、もしくは数千人であれば効果が費用を上回る可能性が高いですが、恩恵を受ける人が数十人であれば効果が費用を上回る可能性は低くなります。
レコメンドエンジンの開発と同様、何もしない方がビジネス上は正しい判断となる事があります。
AIが誤ることを許容するサービス設計にする
AIは間違うことが必ずあります。100%の精度はあり得ません。
例えば、画像認識では丸まった猫をクッションと判断したり、翻訳でも正反対の意味の文章に訳してしまう事があります。
そのため、最初からAIが誤ることを許容するサービス設計にすることが重要です。
よく採り入れられる対応策の一つとして、完全自動にはせずに半自動にするという方法があります。
例えば、HRTechでの新卒採用やキャリア採用におけるAIを使った書類審査では、
- AIが優秀と思われる候補者を抽出し、抽出した候補者だけを人がチェックする
- 本当に優秀な人を取りこぼさないように、絞り込み過ぎないことが大切
- AIは全然ダメな候補者を弾くのに使うイメージ
- AIが各候補者をスコア付けし、人がチェックする際の参考情報とする
- 100点満点で付けるのではなく、三段階評価ぐらいで十分
という方法がよく採られます。
前者は人がチェックするレジュメの数を減らすことでコスト削減、後者は人がチェックするレジュメの数は減りませんが候補者一人当たりに掛かる審査時間の軽減に加えて審査結果の公平性の担保に寄与します。