ポエム編
武蔵野のとある施設を保有する某巨大電気通信企業グループにおいて、中期経営計画にも記載があるデジタルトランスフォーメーションの推進に資するべく、アジャイル開発のマインドとプラクティスを普及させようと奮闘中である。
一方、当該企業グループはその出自から社風は総じて官僚主義的である。官僚主義とは辞書にはこうある。
官僚組織などをはじめとする大組織に特有の気風や態度・行動様式。規則に対する執着、権限の墨守、新奇なものに対する抵抗、創意の欠如、傲慢、秘密主義などの傾向を批判的にいう場合に用いられる。お役人風。お役所式。
(コトバンク 大辞林第三版の解説より)
まず規則に対する執着
という傾向、すなわち、失敗を恐れ、また仮に失敗してもその責任を規則の不備に転嫁したがる減点主義的なマインドというものがある。一方アジャイル開発においては、日々小さな失敗を積み重ねながらも絶え間なく改善を続けて大きな成功に向かってゆこうという加点主義的なマインドが求められる。
次に権限の墨守
という傾向、すなわち、ビジネスの現場に権限を委譲することなく、過去の成功体験に囚われて現実離れした経営判断を繰り返し、ビジネスを大きな失敗に導く企業体質というものがある。一方アジャイル開発においては、日々の改善を実行に移せる程度の裁量と権限を現場のチームに与えることで最大限のパフォーマンスを発揮できるようなサポートが経営幹部に求められる。
次に新奇なものに対する抵抗
や創意の欠如
という傾向、すなわち、前例のないビジネス・技術・社内手続きを嫌い、過去の経験上成功が保証されたビジネスや技術、確立されたワークフローのみを信頼するマインドというものがある。一方アジャイル開発においては、時々刻々と変化するビジネス要件への対応や、チームの生産性向上のための業務改善を進めるため、新しい技術やプラクティスを日々調査・検証・試行・採用しつづけることが求められる。
次に秘密主義
という傾向、すなわち、情報の流通や開示を嫌い、情報を独占することで組織間や個人間において優位な立場を獲得しようとするマインドというものがある。一方アジャイル開発においては、少なくともチーム内では、ビジネスや要件の背景から各メンバのタスクの進捗状況に至るまで積極的に情報を共有・開示し、役職や所属会社を問わず対等な人間関係を保つことが求められる。
このように比べてみると、アジャイル開発と官僚主義とは、まさに水と油、全く相容れないもののように思える。官僚主義の蔓延した企業の経営計画に「デジタルトランスフォーメーション」を掲げるとは、単なる絵に描いた餅なのではないのか。
フォロー編
上記のような企業体質をもつのは致し方ない面もある。国家的最重要インフラの一角を担うがために、小さな失敗も許されず、強力な法的・行政的・社会的規制を受ける立場に置かれているためである。
そういう会社がデジタルトランスフォーメーションの推進役を買って出るということは、非常に大胆なチャレンジであると言える。
先ず隗より始めよ。千里の道も一歩から。この道を行けば、どうなるものか。危ぶむなかれ。危ぶめば道はなし、踏み出せばその一足が道となり、その一足が道となる。迷わず行けよ。行けばわかるさ。