VersionOne 社が毎年出している "State Of Agile" レポートが今年で 10 年目だそうです。
簡単に内容を紹介します。ちなみに、この調査は基本的にアジャイル実践者が回答していることが多いこと、またアジャイルツールのベンダーの調査ですので、母集団や見せ方には多少のバイアスはあります。また、データの解釈については、私の私見も入っていますので、注意してください。
母集団とAgileの成長について
- 回答母数は3,880。===> 10年前(2006)の3倍。
- 回答者が属するソフトウェア開発組織として100名以上の会社が2/3、1,000名以上が1/3。 ===> 10年前は100名以下が2/3。
- 組織のアジャイル採用率95%。1/3以上が採用始めてから5年以上。
- 回答者は北米56%, 欧州26%, アジア11%, 南米6%, オセアニア2%, アフリカ1%
以下のレポートでは、上記のこと(大組織からの回答者が増えていること)が、今年の結果に影響してきています。以前は回答者がアジャイル擁護派多数だったのですが、最近ではそうでもない派も混じって来て、より冷静な曲面が見えてきました。(このレポートを書いていて気づきました)
アジャイルを採用する企業
- 組織内の半分以上のチームがアジャイル採用している、と答えたのは 34%。半分以下と答えたのが 53%。(採用ゼロが4%, 全て採用が9%)
なるほど。アジャイルが大きな組織に浸透している様子がわかります。ただ、「すべてアジャイルだ」というのは案外少ない10%に満たないのですね。私の理解は、
アジャイル開発がうまくいく場面がわかってきた。その場面がここ10年で拡大して来ている。大きな組織もそれに気づいている。
ということです。
それに、
- 分散開発は82%以上の組織で行われている。(3年前までは35%なので、急激に増えている)
- 回答者の70%は開発をアウトソースしており、その中でのアジャイルの採用率は20%
という結果も。
回答者の組織では70%がオフショア開発をやっていて、その中での採用率はまだまだ。オフショアでのアジャイルの難しさを物語っています。このあたりは、経済原理と組織のコミュニケーション構造のせめぎ合いです。
アジャイルよりもオフショアの伸び率の方が激しく、そこでのアジャイルはまだうまく行っていない。
と理解しました。
- アジャイル採用理由は、
- 製品のデリバリ速度の加速(62%)
- 優先順位の変更可能性(56%)
- 生産性向上(55%)。
このトップ3は3年間変わっていないとのこと。逆に、相変わらず「コスト削減」を採用理由にしている組織は少ないようです(23%)。
アジャイルは成功に貢献してることは間違いないようですが、逆に、
- 採用後にアジャイルの利点として実際に「よくなった」と回答しているのは、
- 優先順位の変更可能性(87%)
- 生産性向上(85%)
- プロジェクトの可視性(84%)
です。4番目にプロジェクトのモラル(士気)が来ています。
アジャイルを入れて製品のデリバリ速度を上げ、優先順位の変更をしやすくしている。採用理由を「コスト削減」にしているのは少ない。
手法とプラクティス
- 採用している手法としては、
- Scrum(58%)
- Scrum XP ハイブリッド(10%)
- カスタムハイブリッド(8%)
- Scrumban(7%)
- Kanban(5%)
と続きます。ピュアにXPと答えているのは1%です(ちょっと寂しい)。また、Kanbanはもっと使われていいのに、と私は思っています。また、ハイブリッドを足すと、約7割がスクラム採用ということになっちゃっています。
- プラクティスとして使われているトップ5は、
- デイリースタンドアップ(朝会)
- 順序付けされたバックログ
- 短いイテレーション
- ふりかえり
- イテレーション計画
の順。
朝会重要、ふりかえり重要。
アジャイルの成功/失敗と障害
- ジャイルの失敗理由として上げられているのは、
- 企業文化とアジャイルの価値観が合わない(46%)
- アジャイルの経験不足(41%)
がトップ1で、これは、ここ数年変わっていません。
- アジャイル採用の障害として上げているのが、
- 組織文化の変革(55%)
- 組織の変化への抵抗(42%)
- 既存のウォーターフォール手法(40%)
です。これはおそらく、万国共通でしょう。さらに、今年の調査では大きな企業に属している人の参加が増えているので、このあたりが顕著に見えて来たのだと思います。
アジャイル採用の障害は、ほとんどが組織文化と変化の課題。
「Fearless Change 」 を読もう。
もう一つ大事なのは、アジャイルの成功をどう測るか、ということ。よりビジネスよりの成功基準が必要だと思います。
-アジャイル成功のどうやって計測するか?
- 期限を守ったデリバリ(58%)
- 製品の品質(48%)
- 顧客/ユーザの満足(46%)
案外、イノベーション側の回答が少ないのが意外です。私見では、大企業に多くアジャイルが入って行って、あらためてこのあたりが言われているのかなぁ。。。
アジャイルのスケール
- 採用されているスケール手法は、
- Scrum, Scrum of Scrum(72%)
- SAFe(27%) ==> 今回一番の伸び
- 自分たちの手法(17%)
- リーンマネジメント(17%)
- Enterprise Agile(9%)
- Enterprise Scrum(9%)
- Agile Portfolio Management(APM)(9%)
- LeSS(Large-Scale Scrum)(6%)
- DAD(Disciplined Agile Delivery)(4%)
- RAGE(Recipes for Agile Governance in the Enterprise) (1%)
の順。思ったよりLeSSやDADが認知されていない。RAGEというのは初めて知りました。Nexus は入っていません(アンケート取得時未発表と思われます)。
Enterprise Agile Framework と呼ばれる SAFe/DAD/LeSS/ は案外浸透していない。(来年は変わると思われる)
- アジャイルをスケールさせるために重要なTips Top 5は、
- 一環したプロセスとプラクティス(43%)
- 共通ツールの導入(40%)
- コンサルタントとトレーナー(40%)
- 経営からの支援(37%)
- 内部のアジャイルサポートチーム(35%)
ということです。私の考えでは、5が一番重要だと思います。5+3+4 でチームを作る。これが日本的でしょう。私見では、
内部にアジャイル支援チーム(現場かけもち)を組織し、コンサルとトレーナーを入れて、経営からの支援で取組む
のがよい。その中で、2の共通ツールや1の共通プロセスはあれば括りだせばよいけど、やはり現場で獲得していくのがいいと思っています。特にツールは村ごとに分かれることがあるのはしょうがないのではないか、選択をチームにまかせた方が、よいチームになるのではないか、思っています。
ツール
− 使われている一般的なツールとして、
- タスクボード(82%)
- バグトラッカー(80%)
- スプレッドシート(74%)
- Wiki(68%)
- ユニットテストツール(66%)
- 自動ビルドツール(66%)
と続きます。私としては自動ビルドやユニットテストがなぜこんな低いか不明。これら無しにアジャイルできるのだろうか。。。また、このアンケートの後には個別のツール名が出てきます。Microsoft, Atlassian, VersionOne, Pivotal Tracker, HP Quality Center, Google Docs... それはオリジナルを見てみてください。
まとめ
「アジャイルすごい」、「もっとアジャイルを」という論調を想定して読み始めたのですが、より、今のソフトウェア開発現場(スタートアップ寄り、イノベーション寄りでなく)を反映している内容で、びっくりしました。これは完全にアジャイルがキャズムを超えて、普及期に入ったことを示している、と解釈しています。オフショアなどの経済原理主導の流れ、大企業での既存文化や手法とのぶつかり、などがより見えてきました。
このあたりのこともあり、日本での事例をもっと発表したい。という想いで、アジャイルジャパンやっています。日本流のやり方、もっと話していきましょう。今年もやります!
- 「アジャイルジャパン2016」今年のテーマは、"あなたとつくるアジャイル" ぜひ、見に来てください。会話しましょう。
P.S.
「アジャイル+オフショア」カンファレンス、とかもやりたくなりました。(先日ベトナムに行った影響もあります)
参考ブログ: