はじめに
SSDの寿命を示す指標のひとつとして、各メーカーはTera (Total) Byte Written (TBW)を製品仕様に記載しています。
たまたま4年前(2019年)に主要メーカーのコンシューマSSDのTBWを調べた資料が発掘されたので、2023年4月現在の同メーカーの最新製品のTBWと比較することで、顕著な変化があるのかどうか調べてみました。
TBWは、通常はJEDECが定めた方法[1]にしたがい同じワークロード(クライアントワークロード)のもとで算出されます(カタログに算出方法について記載があります)。SSDの実使用環境がこのワークロードと同じとは限りません(同じであることはほとんどない)ので、TBWは値そのもの(絶対値)の比較よりも「傾向」の比較に有用な値です。
まとめ
- SSDメーカーが公表するTBW値は特定ワークロードでの値であり使いかたに依存する
- 一方でその「ワークロード」は変わらないので「傾向」の比較には有用である
- 4年前との比較によりQLC NAND登場による変化などが観測された
調査と比較の方法
調査は各社のWebサイトに記載されている数値(いわゆるカタログスペック)を拾う方法で行いました。比較対象の4年前(2019年)のデータも同様にして調査したものです。
この比較は、例えると、
最新のマシン(車両)で、4年前と同じサーキット(コース)を、4年前と同じ条件(天候など)で、自車のみ(1台だけ)でタイムアタックした結果を比較したもの
と言えるものです。同じメーカーの製品がどのように進化したのか、他社とどのような傾向の違いがあるのか、などが比較可能です。一方でその車両がそのサーキットでの走行に適したものかどうかなどは全く考慮されない(わからない)ものですので、ご注意ください。
A社
このメーカーは、同一容量帯の製品のTBW値に4年前から変化がありません。TBWは「メーカーの保証値」であり「実力」とは限りませんので、実力はこの値より大きいもののあえてこの値に抑えて表記している、という可能性もあります。
4年の間にはNANDフラッシュメモリの世代が3世代ほど進んでいてもおかしくなく、同じワークロードで算出するTBW値を維持することは大変なのですが、「コンシューマ向けSSDのTBWはこの程度あれば十分だ」という確固たる意思のもとでその値を達成できるように製品開発を進めているように見受けられます。
表1:A社コンシューマ向けSSD TBW比較
250 GB | 500 GB | 1 TB | 2 TB | |
---|---|---|---|---|
2019年 | 150 | 300 | 600 | |
2023年 | 150 | 300 | 600 | 1200 |
B社
このメーカーは、ハイエンドモデルでは4年前と比較してTBWが増えているものの、エントリモデルでは逆に減少しています。この減少の理由となり得る、4年という期間の間に起きた一番大きい出来事は、QLC NANDの搭載だと考えられます。
QLC NANDはその登場当初、書き換え回数はTLC NANDの1/5から1/10である300回から1,000回程度[2]もしくは1,250回程度[3]と考えられていました。各社の技術開発により現在ではその上限に近い書き換え回数を実現できているようです。
さらにコントローラ技術を駆使することで、TBWではTLC NANDを搭載したSSDの1/3を実現していることになります。これはすごいことです。
またSSDも普及するにつれてカテゴリ分けが進みました。従来の「エンタープライズ向け」と「コンシューマ(クライアント)向け」という分類に「データセンター向け」が加わり、コンシューマ向けはゲーミング機器向けのハイエンドモデルと普及帯PC向けのスタンダードモデルやエントリモデルなどに細分化されました。
これらのモデル間で違いが表れる指標のひとつがこのTBWです。
表2:B社コンシューマ向けSSD TBW比較
250 GB | 500 GB | 1 TB | 2 TB | ||
---|---|---|---|---|---|
2019年 | 120 | 240 | 400 | ||
2023年 | エントリモデル | 110 | 220 | 440 | |
ハイエンドモデル | 300 | 600 | 1200 |
C社
このメーカーは、4年前はかなり細かい値(それでも1 TBモデルの値は250 GBモデルの値の単純4倍ですが)をカタログに記載していましたが、2023年時点では綺麗に丸められた値を表記しています。これは他社に追随した可能性が高いです。また、エントリモデルでもハイエンドモデルでも同じ値です。
エントリモデルとハイエンドモデルで同容量モデルのTBWに同じ値を記載している要因のひとつは、両者ともにQLC NANDではなくTLC NANDを搭載しているためだと考えられます。
表3:C社コンシューマ向けSSD TBW比較
250 GB | 500 GB | 1 TB | 2 TB | ||
---|---|---|---|---|---|
2019年 | 148 | 592 | |||
2023年 | エントリモデル | 100 | 200 | 400 | |
ハイエンドモデル | 200 | 400 | 800 |
さいごに
この記事では、メーカー3社のコンシューマ向けSSDのTBWについて、4年前(2019年)と今(2023年)の比較を行いました。この比較の中だけでも、4年間に起きたNANDフラッシュメモリの世代交代やQLC NANDの搭載、モデルの細分化などを見て取ることができます。TBWは、このように使う場合には良い指標になり得ます。
特に「モデルの細分化」はSSDを選ぶ側としては比較が難しくなる要因のひとつですが、TBWの優劣に惑わされず、SSDの使いかた(ワークロードの内容)と求める寿命(使用期間)などから適した製品を選択していただければと思います。
Reference
[1] JEDEC, "Solid-State Drive (SSD) Requirements and Endurance Test Method", JESD218B.02, June 2016
[2] 福田、「QLC SSDがコスト低減を武器にニアライン/クライアントHDDを侵食」、PC Watch、2018年10月23日
[3] Radu S., et al., “Enabling 3D QLC NAND flash”, Flash Memory Summit 2019, Santa Clara, CA, Aug. 2019
ライセンス表記
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