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3Dプリントフードをバーで提供するまでのお話

Last updated at Posted at 2020-12-06

どうも、料理×工学をテーマに研究している人です🙋‍♀️
自分の研究で作っているような料理をもっといろんな人に食べてもらいたいと思っていたところ
ラボカフェのバー営業で料理を出せることになり、3Dプリントフードを実際に提供できたのでそのお話です🍸

3Dプリントフードってなにそれ美味しいの?

美味しいよっ

フード3Dプリンタで作ったクッキーでレーズンバター挟むと最高
IMG_7372.jpg

フード3Dプリンタって?

フード3Dプリンタはシリンジに入ったペースト状の食べ物を少しずつ押し出しながらプリントヘッドが動いてデザイン通りの形状に出力してくれる食べ物専用の3Dプリンタ

基本的な構造は普通の3Dプリンタと同じで、ホットエンド部分の代わりに
ペーストエクストルーダというシリンジを押し出す機構を取り付けたもの

byflow.jpeg

実はすでに市販されているものがいくつかあるんです

ペースト状のものならなんでもプリントできて
クッキー生地やメレンゲ、ピザ生地にアボカドのピューレまでいろんなものを出力することができる

...と思ったら意外に大変だった!

3Dプリントクッキーをお客さんに提供するまでの流れ

  1. プリントしたい3Dオブジェクトを設計する
  2. プリント時の動作経路データ(G-code)に変換する
  3. クッキー生地を準備してシリンジに詰める
  4. フード3Dプリンタでプリントする
  5. オーブンで焼いたら盛り付けて提供

1, 2はパラメータ調整する必要があるけど普段3Dプリンタを使ってる人なら多分大丈夫

一番難しいのは3のプリント可能なクッキー生地を作るところ!

1. プリントしたい3Dオブジェクトを設計する

今回は12月のイベントということでFusion360で雪の結晶みたいな形状をデザインした

スクリーンショット 2020-12-02 23.39.58.png

今回のフードプリンタはbyFlowのFocusというプリンタで、1.6mmのノズルを使用
(ちなみにノズル径は0.8mm, 1.2mm, 1.6mmの3種類ある)

パリッと割れるクッキーにしたかったので3Dオブジェクトの厚みは一層分の0.8mmに

スクリーンショット 2020-12-02 23.52.48.png

2. プリント時の動作経路データ(G-code)に変換する

この作業には普通の3Dプリンタと同じスライサーソフトを使うことができる
Prusaというソフトにフードプリンタ用の設定ファイルを読み込ませればOK

スクリーンショット 2020-12-02 23.50.06.png

プリント速度はデフォルトの30mm/sから5mm/sに変更すると遅いけど安心感ある
(クッキーの生地は硬めなのでシリンジを押し出す操作をしてから実際に出てくるまでに時間がかかる)

それに伴いプリンタで設定できるExtruding Rate(シリンジの押し出し量の割合)はデフォルトの100%から200%に変更

スクリーンショット 2020-12-02 23.49.57.png

3. クッキー生地を用意する

公式マニュアルを参考にまずは以下のレシピでプリントしてみた

  • バター 70g
  • 卵黄 1個
  • グラニュー糖 40g
  • 薄力粉 125g

バターと卵黄はちゃんと常温に戻して

  1. バターを泡立て器で混ぜる
  2. グラニュー糖を入れて泡立て器で混ぜる
  3. 卵黄をちょっとずつ入れて泡立て器で混ぜる
  4. 薄力粉をふるいながら入れてへらでさっくり混ぜる

この順番でクッキー生地を作っていく

でも薄力粉を半分入れたあたりであれ?結構硬くない?というわけで薄力粉は70gぐらいでストップ

完成した生地をシリンジに詰めてプリントを開始すると
何回やってもすぐにノズルが詰まってしまう...

IMG_3982.JPG

生地が硬すぎたのかもしれないと思ってとりあえず柔らかくするためにウイスキー投入
とりあえずこれでスムーズにプリントできるようになったけど
材料の配合を見直して後日再チャレンジすることに

科学でわかるお菓子の「なぜ?」という本を読んで生地を柔らかくするにはどうすればいいのか調べたところ

  • 卵は水分を与える役割
  • 砂糖は水分を保持する役割
  • 薄力粉からできたグルテンは骨組みとなって支える役割

(砂糖はただ甘いだけじゃない...!)

というのがわかったので卵黄を全卵(卵黄+卵白)にして薄力粉を減らせば
水分が増え骨組みが減って柔らかくなるのでは?と思い

  • バター 70g
  • 卵黄 全卵 1個
  • グラニュー糖 40g
  • 薄力粉 125g 40g

これで試してみることに

柔らかい生地になったので
プリント中にノズルが詰まることはなく、かといってどろどろっと広がってしまうこともなく形を保っていて完璧だった

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がしかし悲劇が起こる

オーブンに入れて160度で5分焼くと溶けてしまい、せっかく綺麗にプリントできた元の形がわからないぐらいになってしまった

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生地の配合を改めて見直してみるとクッキー生地というよりマドレーヌ生地のようになっていたみたい

フードプリンタでプリントしやすい程度に柔らかく、オーブンで焼いても形が崩れない程度に硬い配合を見つけないといけない

その後薄力粉をちょっと増やしてはオーブンで焼いて仕上がりをチェックするということを繰り返して当日のオープン2時間前になんとか成功!

  • バター 70g
  • 卵黄 全卵 1個
  • グラニュー糖 40g
  • 薄力粉 125g 40g 90g

4. フード3Dプリンタでプリントする

フードプリンタはこれだ!
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スーツケース?みたいなものの蓋を開けて...

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折り畳まれたところをガチャンと立てて
磁石でくっつくペーストエクストルーダを取り付けると...

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すごい!なんて美しい設計!

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ちなみに折りたたむ部分の根元はカムになっていて

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原節側と従節側はそれぞれ別のリニアブロックに固定されてリニアレール上を動くことができるようになっているが
この二つは磁石か何かで引き合っていて離れないようになっている

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このおかげで組み立てるときに綺麗にガチャンと固定されてそれがめちゃくちゃ気持ちいい

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勉強になります

というわけでオタク話を一旦終了すると、

  • プリント前のZ軸の調整は目分量だけどちょっと間違えても割と大丈夫だった
  • クッキー1個あたり2分半くらいでプリントできる
  • プリンタ側のWiFiに接続するとG-codeをアップロードできる

5. オーブンで焼いたら盛り付けて提供

オーブンに入れて160度5分
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ポークリエットという豚バラブロックを玉ねぎ、ニンニク、タイムと一緒に白ワインで1時間半煮込んだ料理に添えたら
お酒のすすむ料理の完成っ
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レストランの机の上に当たり前のようにフードプリンタが載っている光景いいよね

IMG_4039-2.jpg

使ってみて気づいたこと

シリンジ交換が面倒

30人分プリントするために数時間連続稼働してみてわかったのは
シリンジ交換方式はなかなかめんどくさい

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ペーストエクストルーダの直動機構にはラック・ピニオンが使われていて、
シリンジを最後まで押し出すと、ラック側の端に取り付けられたパーツが内部のリミットスイッチを押して
シリンジが空になったことを検知する仕組みになっているけど、

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「シリンジ空になったよ!じゃあ最初からやり直してね!」
というだけで中断したところから再開してくれないので
最後のプリント途中のクッキーが必ず無駄になってしまう

それに10個ぐらいプリントすると空になってしまうので結構頻繁にシリンジを取り換える必要があり
お客さんが来ていて忙しい時にその作業をやるのはなかなか厳しかった

気泡は大敵

生地をシリンジに詰めるときは気泡が入らないようにするのが重要

雑に詰めるとプリント時に気泡しか出ないタイミングがあって綺麗にプリントできない

めんどくさいけど小さなスプーンで少しずつぎゅっと押しながら詰めると気泡があまり入らないのでおすすめ

生地の配合が超重要

生地の配合を少しでも変えるとプリントに適した硬さじゃなくなったり、
オーブンで焼くのに適さない状態になったりする

ちょうどいい粘度・硬さに調整しつつ美味しい生地にするには配合の調整が超重要

そして見掛け倒しじゃなくてちゃんと美味しい料理をフード3Dプリンタを活用して作るには
料理の科学もしっかり勉強しないといけないなと実感した

卵黄か全卵かで味も変わってくるから好みの味にするにはまだまだ調整がいりそう
https://www.cotta.jp/special/article/?p=2662

これから

フード3Dプリンタでどんな料理を作れるようになると面白くなるのかまだまだわからないけど
いろんな人に食べてもらえる活動をゆるく続けていきながら模索していきたいです

こういうのやってみたい!コラボしたい!などあれば連絡くださいっ→ @kema1015

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