この記事はエイチーム引越し侍 / エイチームコネクトの社員による、Ateam Hikkoshi samurai Inc.× Ateam Connect Inc. Advent Calendar 2021 13日目の記事です。
はじめに
皆さんは「技術の進化」と言われると、どんなイメージが湧きますか?
- 今までになかった新しい技術を生み出す
- それは、特別な能力を持った人が素晴らしいひらめきから生まれてくるものである
何となく、そんなイメージを持たれている方もいるのではないでしょうか。
でも、過去の技術進化の歴史をたどっていくと、もっとシンプルな課題の解決から技術は進化してきたと思うのです。
今回の記事では、現在筆者が主に携わっているコンタクトセンター業界の「電話の技術進化」の歴史から、これから私たちは、どう技術を進化させていくべきか、その考え方をお伝えできればと思います。
もちろん、現時点での技術トレンドを追うことは重要です。
が、過去の歴史を知り、技術がどう進化してきたかを知ることで、未来への進化のヒントを得ることができると考えています。
その前提で、本記事を読み進んでもらえると幸いです。
電話の歴史と進歩
皆さんが今、当たり前のように使っている電話も、歴史をたどっていくと昔の人たちが多くの工夫を行い、進化してきたことで今があるということが分かります。
ここでは「電話」というキーワードをテーマに、これまでにどんな進化を遂げてきたのか、説明していきます。
導入初期の電話(明治時代)
日本で電話機が初めて導入されたのは1890年(明治23年)まで遡ります。
当時は東京-横浜間で音声をつなぐ為のサービスで、加入者数はわずか197世帯。
通話料金は5分で15銭。当時の物価は現在の3,800分の1と言われていますので、現在の価格に換算すると、なんと5分あたり2,250円という高価格でした。
さらに驚きなのが、当時は**「電話交換手」**と呼ばれる職業が存在しており、オペレータの人が各世帯から依頼を受けて、都度手動で電話回線をつなげることで、初めて通話ができるという仕組みでした。
上記が当時の電話機です。
皆さんは、有名なジブリ映画「となりのトトロ」を見たことがありますか?
となりのトトロのワンシーンで、サツキ宛にお母さんが入院している病院から電報が届き、お父さんに電話をしている場面がありました。
その時、上記のような電話機を手に持ち、「もしもし。市外をお願いします。東京の〇〇局の△△△△番です」と言っているのですが、ここで話している相手が「電話交換手」です。
当時の電話交換手は、電話をしたいユーザーからの依頼を1件1件受けて、手動で電話をつなげていたので、ものすごい手間と労力がかかっていたことがが分かります。
また、電話交換に労力がかかるということは、それだけ人件費も必要となり、コストが上がります。5分2,250円という高価格も、こういった背景から必要なコストだったと考えられます。
電話交換機(PBX)の登場(昭和初期〜中期)
1920年代に入ると、これまで人が行ってきた電話交換作業を自動で行う「電話交換機(PBX)」が徐々に普及を始めます。この電話交換機の普及により、交換手が行ってきた作業が機械に置き換えられていきました。
電話交換機は、現在も使われている電話番号を基に自動で通話したい相手につなげるための機械です。03, 06, 052から始まる地域に紐ついた電話番号もこのタイミングで登場します。また、電話機に電話番号をダイヤルする機能が必要となったため、「黒電話」と呼ばれる電話機が生まれます。
黒電話は、番号の書いてある穴に指を入れて指止め位置まで時計回りに回し、電話番号をダイヤルするタイプの電話機です。最初の位置を起点に、時計回りに回った角度を基に番号を認識する仕組みになっているので、指どめ位置までしっかりとダイヤルしないと、誤った番号を認識してしまい、正しい相手に繋がらない仕組みとなります。
また、当時は固定番号を持つためには「電話加入権」と呼ばれる権利の購入が必須でした。電話加入権はNTT東日本、NTT西日本に施設設置負担金を支払うことで権利を得ることができますが、当時の価格で8万円程度の費用が必要でした。(現在でも36,000円の施設設置負担金を支払うことで電話加入権を得ることができますが、購入する人はほぼいないと思います)
電話交換機の普及により、これまでよりも安く電話が使えるようにはなったものの、まだまだ使い勝手は悪く、導入に費用がかかる、不便な時代でした。
IP電話の登場(平成以降)
「IP電話」と聞くと、イメージが湧きづらいかもしれませんが、いわゆる現在の「ひかり電話」のサービスはIP電話サービスの一つとなります。
IP電話の登場により、これまでアナログ回線で繋がっていた電話がデジタルに変わることで、インターネットの回線上を通話パケットを飛ばすことができるようになったのです。
これにより、高価な電話交換機を用意せずとも、VoIPルータやサーバ等機器にて通話が可能になり、低価格でサービスの提供ができるようになったことで、通話料も安くなりました。
また、デジタル化されたことで、音声だけではなく動画のやりとりも可能となり「テレビ電話」の普及にも繋がっています。
未来への技術進化の道
ここまで、電話の進化について説明してきましたが、こういった進化は何も電話に限った話ではありません。多くの分野で技術の進化が行われ、今に至っていると思います。
ただ、どんな分野でも共通しているのは、**「当たり前を疑う」**ことなのだと思います。
電話サービスが始まった当初、交換手の人が電話をつなげるのが当たり前だったはずです。当時の大多数の人は、それが当たり前で自動化なんていう発想は生まれていなかったのではないでしょうか。
でも、「これは本当に人がやらなければいけない作業なのか」「ここを自動化させることはできないだろうか?」と疑った人がいるからこそ、そこに改革が生まれ、現在への進化に繋がってきたのだと思います。
じゃあ、現在の当たり前はそのままで良いのでしょうか?
いえ、そんなことはないはずです。現在の当たり前が、50年後、100年後もそのまま当たり前かというと、そんなことはないはずです。
もしかしたら50年後、自分たちの孫世代が今のスマートフォンを見たら、「え?当時のスマホってこんなに分厚かったの?」というかもしれません。いや、もしかしたらスマホなんていう言葉も存在していないかもしれませんね。
今この時代の「当たり前」も、疑い改善することで、次の世代への進化に繋がっていくはずです。
当たり前を疑うためのフレームワーク
でも、疑うといっても何を疑えば良いのか。悩んでしまいますよね。
ここでは、上記電話進化の例も踏まえながら、当たり前を疑うための考え方、フレームワークをご説明します。
なお、この考え方は、何も大きな大改善につながるためのものだけではありません。
皆さんが日々行なっている業務や、開発においても同じように適用し、現状の打破、進化につなげることができると思いますので、ぜひ参考にしてみてください。
1. 人間が当たり前のように手で行なっていることを疑う
例えば、上記で挙げた電話交換手の話が良い例です。当時の電話交換手の職業は人気職種だったので、その業務がそもそも必要か?と疑う人は少なかったのではないかと思います。
また、よく似たケースで「駅員さんの切符切り」の話も挙げられます。
昔は駅の改札口には必ず駅員さんが立っていました。
乗る駅の改札で駅員さんが専用の器具で切符に切り込みを入れ、降りる駅の駅員さんに、切り込みの入った切符を渡す。これにより、不正乗車を防いでいたのです。
ただ、みなさんご存知の通り、現在駅員さんが切符を切るケースはまずないですよね。
自動改札機に切符を入れると読み込み、乗った駅降りた駅の判別を自動で行ってくれます。それどころか現在は電子マネーの普及に伴い、わざわざ切符を買わなくてもカードやスマートフォンをかざすだけで精算が可能です。
つまり、日々ルーチンで行なっている業務こそ、改善できるポイントです。
エンジニアであれば、そんなの当たり前じゃん。と思うかもしれませんが、意外と人間の思い込みは怖いもの。本当に自動化できる業務がないか、改めて見つめ直してみると、改善できるポイントはあるのではないでしょうか。
2. 「出来ない」を疑う
「そんなの無理じゃん」という考えも、進化の阻害になる部分。
IP電話のサービスが始まる前、大多数の方は電話回線をデジタルに乗せることなんて無理じゃん。混線したらどうするの?音声が盗聴されてしまうんじゃないの?セキュリティ観点では無理じゃないか。と考えられていました。
でも、同じデジタル回線を論理的にインターネット用、電話用と分離することで、これらの課題は解決され、今のIP電話サービスが生まれています。
他にも「自動運転」の分野が、よく似たケースとして挙げられます。
運転をすべて自動で行ってくれる自動運転は、現在技術が進歩し、実用化まであともう少し。と言われています。
ただ、話が出た当時は危険性の問題により、否定的な声が多かったはずです。
今でも、「自動運転は危険」「万が一事故があった時に誰が保証するのか」といった懸念や危惧は存在しますが、おそらく数年後〜数十年後には、自動運転が当たり前になっている未来が待っているのでは?と思います。
また、ここから話を拡張させていくと、例えば「船の自動運転」なんていう未来も存在しているかもしれません。
みなさんは、マグロ漁船のドキュメンタリーを見たことがありますか?
漁師が危険な荒波にのまれながら、板一枚下は地獄という環境の中でマグロを漁獲に行く。でも、自動運転技術が進めば、もしかしたら数十年後には人が乗っていない船が自動でマグロを取りに行く未来が待っているかもしれません。若しくは養殖の技術が進み、天然マグロと同じ品質の養殖マグロが生まれるという未来もあるかもしれませんね。
それも、馬鹿げたことだと一蹴するのではなく、便利になる未来をイメージしながら、その未来をどう実現していくかを考えることが進化に繋がっていくと考えられます。
3. 「なぜこんなにコストがかかるのか」を疑う
コストのかかる技術・サービスを、安価で実現できるようにすることも重要です。
そういうと、「技術を安売りするな」と言われてしまうかもしれませんが、サービス提供に費用(原価)が多くがかかってしまうと、実用化されることはありません。
上記で挙げた、電話サービス開始当初の通話料の高さ(5分2,250円)についても、交換手の人件費、機器設備の導入コスト、会社の利益を考えると妥当な金額だったと思われますが、一般家庭すべてに普及させるにはあまりにも高すぎるのは、大多数の方が感じることだと思います。
ただ、不必要な人件費を削り、機器設備の導入コストを減らしすことで現在の価格帯になり、普及率も圧倒的に伸びてきています。このように、無駄なコスト、必要以上に高いコストは、サービスの進化に悪影響を及ぼしてしまうため、「現状かかっているコスト」を疑うことも重要です。
その他の例として、スマート農業の話を挙げられます。
農家の方の高齢化が進み、後継も居なくて閉業する農家が増えていると耳にします。
それを打開するために最近登場したのが「スマート農業」という分野。
AIを使って農作物の成長を自動計測し、自動で必要な量の肥料をまく。
収穫時期になったら専用の機械が、農作物の自動収穫を行ってくれるという機械が登場しています。
ただ、これらの機械を導入・運用するには初期コスト、ランニングコストがかかり未だ現実的ではないと言われています。
ただ、これらもコストの最小化を行い、現実的に農家の方が導入できる価格にまで抑えることができれば、一気に導入が進む分野だと考えられます。
まとめ
いかがでしたでしょうか?上記のお話は大きく変化する未来をイメージしてもらうため、やや話を膨らませながら記載しましたが、みなさんの目の前にも多くの当たり前が存在しており、意外と気づけていないケースも多いのではないでしょうか。
そんな当たり前を疑い、改善するために日々の技術研鑽と改善を積み重ね、初めて技術は進化するものだと思います。
また、これらは技術に限った話ではなく、サービスそのものを進化、事業そのものの進化、はたまた個人の成長・進化にもつながるお話だと思います。
この記事を読んでくださった皆様にとて、参考になれば幸いです。