Ateam Hikkoshi Samurai Inc. Advent Calendar 2017 24日目です。
本日はエイチーム引越し侍 おじさんエンジニアの@keki(37)が担当します。
この年齢になってくると、人の気持ちとか感情、考え方というところに興味がわいてくるんですね。
そんな中、数年前に出会ったのが今回のタイトルにもある『アドラー心理学』です。
エンジニアはプログラミングという専門的な業務に専念することもあり、人とのコミュニケーションが苦手だ、チームの輪に加わるのが下手だと言われることがあると思います。
また、人間関係に悩んだり、うつ病を煩ってしまったり...というケースも多い職種だと思います。
『アドラー心理学』は、そんな人間関係の悩みを解決する為の考え方、思想そのものだと、私自身感じています。
今回、そんな『アドラー心理学』を、実際現場でエンジニアをやってる私が、エンジニアの目線で解釈すると、どういうことになるのかを記事にしたいと思います。
ちなみにかなりの長文となります。
ちょっとした書籍を読むつもりで見てもらえると嬉しいです。
参考書籍
今回、参考にさせてもらった書籍がこちらの2冊です。
「嫌われる勇気 ― 自己啓発の源流「アドラー」の教え」については当時の大ヒット作で、ドラマ化もされた作品ですので、ご存知の方も多いかとは思います。
嫌われる勇気 ― 自己啓発の源流「アドラー」の教え
岸見 一郎,古賀 史健 ダイヤモンド社 2013-12-13
アルフレッド・アドラー 一瞬で自分が変わる100の言葉
小倉 広 ダイヤモンド社 2017-08-31
前提
まず前提として、アドラー心理学は、他者を変える為の心理学では無く、あくまで自分自身が変わる為の心理学です。
人間関係に悩んでいる人が、周りを変えることで改善しよう、何とかしてもらおうという発想ではなく、自分自身の考え方をどのように変えていけばいいのかを問うものとなります。
1. 人は変われる
問題は世界がどうあるかではなく、あなたがどうであるか。
人はひとりの例外も無く、変われます。
のみならず、幸福になることもできます。
人は必ず変わることが出来る。
年齢や、これまでの経験は関係ない。というのがアドラー心理学の考え方です。
ただ、自分を変える為には、考え方を変える必要があるかもしれません。
では、どのように考え方を変えるのか、どのような考え方に変えるのかを説明したいと思います。
1-1. トラウマは存在しない
いかなる経験も、それ自体では成功の原因でも失敗の原因ではない。
自分の経験によって決定されるのではなく、経験に与える意味によって自らを決定するのである。
「自分は小さい頃からパソコンばかり触っていたからコミュ障になった」
「自分はこれまでゲームばかりやってきた。だから外に出るのは好きではない」
アドラー心理学でこの考え方は、コミュニケーションをとりたくない理由、外に出たくない理由を、過去の経験から作り出していると考えます。
幼い頃からパソコンばかり触っていることは悪いことではないです。
その経験があるからこそ、「技術的な探究心が強い」「コーディング能力が高い」という方も多くお見えだと思います。
そこに自分自身の強みがあり、その強みを活かせているのであればそこを変える必要は全くありません。
しかし、本当はもっとうまくコミュニケーションをとりたい、ゲームばかりやっている自分が好きではないという気持ちがある状態の中で、過去の経験を出来ない理由にすることは誤りです。
原因結果論で物事を考えていても、人は一歩も前に進むことは出来ないです。
人間の性格や考え方、スタイルは、先天的に与えられたものではありません。自分自身で選んできたものです。
であれば、今から再び選び直すことも出来るというのがアドラー心理学の考え方です。
1-2. 傷つくことを恐れてはいけない
短所ばかり見つめてしまうのは、他者から嫌われ、対人関係のなかで傷つくことを過剰に恐れているからなのです。
あなたの「目的」は、「他者との関係の中で傷つかないこと」なのです。
自分はコミュニケーションが苦手だという短所に目が向き、周囲との関係を避けてしまうのは、裏を返すと、対人関係で傷つくことを恐れているからだと言われています。
また、コミュニケーションに限らず、
「自分の技術力はまだまだ弱い」
「自分はこのインフラのスキルが弱い」
「この言語は触ったことが無いからわからない」
といったことを理由に、周囲との関係を避けることも同様です。
エンジニアは、自分の専門外の分野に関しては苦手意識を持ちがちです。
ある程度自分に知識があり、自信を持って会話できるレベルに達してからコミュニティに加わるという考えの方もおみえではないでしょうか。
しかしながら、自分の知識量の少なさを理由に周囲との関係を避け、学ぶチャンスを逃してしまうことは良くありません。
自分の非を認めることは、負けではないです。
他者との関係を築くなかで、自分の知識不足が原因で傷つくことは何もないのです。
自分の技術力が弱い、その分野の知識が少ないからこそ、そこを補う為にどうするべきかを考えて行動することが、健全な考え方ですね。
1-3. 劣等感が強くなりすぎると生まれる弊害
劣等感が強すぎると、その反動で、必要以上に優越を追求する。
その結果として、コンプレックスが発生する。
先程も述べた通り、知識や能力が足りないことは恥ずべきことではありません。
また、知識や能力が足りないことで劣等感を感じ、改善や生長を追求することは、成功へのエネルギーとなります。
ただ、その意識が強すぎてしまうと、また違った形の心理状態に発展していくことがあります。
あなたの周りに、過去の経験を必要以上に自慢する人はいませんか?
権力者と懇意にしていることをアピールする人はいませんか?
また、あなた自身がそういった発言やアピールをしていませんか?
アドラー心理学では、
あたかも自分が優れているかのように振る舞い、優越感に浸ることを、
「優越コンプレックス」と呼びます。
自分自身が行った仕事を、事実として報告することは悪いことではありません。
今回のシステムの設計担当は自分が受け持った。
このシステムの、この機能は自分が開発した。
という報告をすることは、会社として成果を把握し、正確な評価を行う上でも必要です。
ただ、それが「自慢」につながってしまうと問題です。
「ここの機能作るのほんとに大変だったんだよね」
「あいつはこれを作るのに1人月かかったけど、俺なら0.5人月で出来るよ」
「ここの仕様を把握してるのは俺しかいないから、俺をメンバーに入れないとプロジェクトが崩壊するよ」
このように自慢すること、傲慢な発言は「自分自身が周囲から認められていない」「認めてもらう為には強い言葉で相手を説得するしか無い」と考えているからこそ生まれる発言であり、劣等感の裏返しだと言われています。
本当に自信がある人は自慢などしません。
自信がある人は、言葉ではなく、日頃の行動に自信が現れます
劣等感をバネにして、成長のエネルギーに使うことはとても良いことです。
しかし、劣等感が強くなると、人間は自慢というごまかしに走ってしまいます。
ご自身の発言を一度見直してみてもよいのではないでしょうか。
1-4. 自己を受容する
「不完全である勇気」
「失敗する勇気」
「間違いが明らかになる勇気」を持て。
間違いを犯したことのない人はいません。
失敗したことが無い人もいません。
人間は誰しも、不完全な部分を持っています。
エンジニアであれば誰しも、不具合を出してしまって落ち込んだ経験はあると思います。
顧客との打ち合わせの場で失言をして、落ち込んだこともあると思います。
同僚と揉めてトラブルになったこともあるかもしれません。
そんなときにあなたは、どんな行動に出ましたか?
どんな考え方に至りましたか?
ここで、
「不具合を出したのはたまたま運が悪かった」
「本当の自分はこんなもんじゃない」
「顧客との打ち合わせはもう出ないようにしよう」
「あのとき揉めたのはあいつの考え方が悪いせいだ」
と考えてしまうと自分自身に進歩はありません。
アドラー心理学では、これを「自己肯定」と呼びます。
60点の自分に対して、自分を肯定し、無理矢理100点に仕立て上げる行為です。
100点満点の人間なんて誰もいません。
たとえ60点だったとしても、悲観する必要は全くないのです。
それよりも、60点の自分をそのまま60点として受け入れて、どうしたら100点に近づくのかを考えることが「自己受容」です。
自己肯定では無く、自己受容をすること。
ありのままの自分を受け入れ、間違っている自分を認める勇気を持つことは、人が変わる上で重要な要素です。
2. 課題の分離
ここまでは、自分自身を変えることが出来る。変わる為にはどういう考え方をすれば良いか。という話をしてきました。
ここからは、他者とどう関わるかについてを書いていきますが、その前に「課題の分離」についてお話ししたいと思います。
「これは誰の課題なのか?」という視点から、自分の課題と他者の課題とを分離していく必要があるのです。
「課題の分離」とは、他者が抱えている問題や課題に踏み込まず、自分の課題と他者の課題を切り分けることです。
まずはここを把握することが、対人関係を作る上でのスタート地点であり、周囲との良い人間関係を作る上で必要となります。
2-1. 他者の期待を満たす必要はない
われわれは「他者の期待を満たす為に生きているわけではない」
他者の期待など、満たす必要はないのです。
仕事をしていると、いろいろな「しがらみ」にとらわれるケースがあると思います。
例えば、好きでもない人間とつきあわなければいけなかったり、嫌な上司の機嫌を取らなければいけなかったり。
エンジニアの皆さんは特に「そこに労力をかけるくらいなら、開発に時間を使いたい」と感じたことは一度や二度ではないと思います。
このような対人関係による「しがらみ」から解放されるにはどうしたら良いのでしょうか?
冒頭に申し上げた通り、アドラー心理学は、「他者を変える為の心理学では無く、あくまで自分自身が変わる為の心理学」です。
ここで、どれだけ他者に対して、「自分から距離を置いてくれ」「嫌な誘いは控えてくれ」と願っても、何も変わりません。
もしかしたら一時的にそういった機会は減るかもしれませんが、環境が変わればまた同じような機会が生まれるだけで、問題の根本は解決されないのです。
ではどうしたら良いのか?
その答えが、「他者の期待を満たそうとしないこと」です。
○○さんにはこういうスキルを身につけてほしい。
○○さんには対人能力を身につけてほしい。
○○さんはもっと周囲のメンバーと関わりを持つべきだ。
こういった他者の期待を満たす為だけに行動していると、結果他者からの「こんな人であってほしい」という期待をなぞった生き方を選択することになります。
あくまで他者は他者です。
他者がどう感じるかを行動の基準にするのではなく、その行動をすることによって、自分自身にどういう結末がおとずれるか。を基準にすることが重要です。
少し極端な話に感じるかもしれませんが、あなたは、あなただけの人生を生きています。
そして、その人生はあなたの為のものです。
他者の期待を満たす為に生きる必要はありません。
あくまで自分の課題を基準にすることで、しがらみを断ち切ることができ、さらには他者との良い関係を築く為の第一歩を踏み出すことが出来るのです
2-2. 他者の課題に土足で踏み込まない
他者の課題には介入ぜず、自分の課題には誰ひとりとして介入させない。
他人の課題に介入することこそ、自己中心的な発想なのです。
先程、他者の期待に応える必要はないと言いましたが、逆に言うと、他者もまたあなたの期待を満たすために生きているのではありません。
例えば、新入社員が入ってきたが、スキル的にまだまだで、もっと自己学習に励まないと、これから先エンジニアとしてやっていくのは辛いという状況を想像してみてください。
例えばこの後輩に、
「まだまだ勉強が足りない」
「もっと本を読みなさい」
「家に帰ってからも何かしらコードを書きなさい」
などと伝えたとします。
その言葉を聞いて、実際に行動に移す後輩もいるでしょう。
ただ、全ての人間が、期待通りの行動に出ることはないでしょう。
どれだけ言っても問題が直らない後輩の指導に悩む方は多いと思います。
ただ、ここで思い出してください。
その後輩も、あなたの期待を満たすために生きているのではないのです。
たとえ上司と部下の関係だったとしても、あなたの意見をそのまま取り入れて行動する義務はどこにも存在しないのです。
勉強が足りない後輩が、勉強をするかしないかはあくまでその後輩の問題。つまり、「他者の課題」であり、そこに必要以上に踏み込むことはできないのです。
本人の意向を無視して、無理やり変えようとしても、反発を受けるだけです。
では、どうしたら良いのか?
今の話だけを聞くと「放っておけということか?」と感じたかもしれませんが、アドラー心理学は放任主義を主張するものではありません。
その後輩が何をしようと、どんな行動に出ようと完全に無視をしろということではないのです。
ここでやるべきことは、その後輩が成長ができるように見守ることです。
勉強するかしないかは本人の課題であること、勉強しないことによるリスクを説明した上で、
後輩が勉強したい、成長したいと思った時にいつでも支援できるように準備をしておくことです。
あくまで我々が他者にできることは「支援」です。
後輩が勉強するかしないかは、上司であるあなたの課題ではありません。
あくまで後輩本人の課題です。
アドラー心理学では有名な言葉をご存知の方であれば、一度は聞いたことがあるフレーズかもしれませんが、「馬を水辺に連れて行くことは出来るが、水を飲ませることは出来ない」のです。
自分を変えることは、自分しかできないのです
2-3. 課題の分離について
課題の分離は、対人関係の最終目標ではありません。むしろ入り口なのです。
この章の冒頭に「課題の分離は、対人関係を作る上でのスタート地点である」と書きました。
また、自分の課題と他者の課題を切り分けることが必要と説明をしてきました。
ではなぜ課題の分離が「対人関係を作る上でのスタート地点」なのでしょうか?
みなさんは、他者との関係が深くなりすぎてトラブルになったことはありませんか?
相手のことを深くしれば知るほど、相手の嫌な部分が見えてきて、
「あいつのここが気にくわない」
「なんでこんなこと言ってくるのだろう?」
「ちょっと馴れ馴れしすぎないか?」
と感じて、その相手のことを嫌ってしまった経験はありませんか?
例えばパソコンの画面を見る時に、顔を近づけすぎると何も見えなくなりますよね?
人間関係も同じで、親密になりすぎて距離が近くなると、相手の本来の姿が見えなくなってしまうものなのです。
良好な人間関係を築く上では、ある程度の距離が必要です。
そのために、自分の課題と他者の課題を切り分ける。つまり「課題の分離」が必要なのです。
逆に距離が遠くなりすぎると、その相手のことが何もわからなくなり、必要な支援ができなくなってしまいます。
必要なのは、適切な支援ができる、でも相手の課題に踏み込まないという適切な距離を保つことです。
この「課題の分離」を意識すると、複雑だと感じていた人間関係もシンプルに考えることができると思います。
3. 他者との関わり方
先ほども申し上げた通り、課題の分離は対人関係を作る上でのスタート地点です。
そこを理解した上で、他者とどう関わるかかが重要です。
では、ここからは、課題の分離を行った上で、どのように他者と関わるべきかを説明していきます。
3-1. 他者との競争はしない
対人関係の軸に「競争」があると、人は対人関係の悩みから逃れられず、不幸から逃れることができません。
人間は誰しも、より優れた人間でありたいと願う生き物です。
それは普遍的な欲求であり、間違った感情ではありません。
では、自分が優れた人間であるという判断は、何を基準に行うのでしょうか?
ここで、他者との競争という考え方を前提にして優れている or 劣っていると考えてしまうと、人間関係は複雑になっていきます。
「あいつは上司とうまくコミュニケーションを取れるのに、自分はできない」
「あいつは重要な開発を任されているのに、自分はこんな簡単な機能しか作らせてもらえない」
「あいつは評価されているのに、自分は全く評価されない」
このように、他者との競争を優越の基準にするとどのような感情に行き着くでしょうか?
ここで相手のことをライバルとしてみなし、
自分自身の成長につなげようと考ることが出来れば問題はありません。
しかし、裏で出来ない自分のことをバカにしているのではないか?
隙を見せたら出来ないことを指摘されるのではないか?
自分を陥れようとしているのではないか?
という考え方に至ってしまうと問題です。
これは、他者全般のことを「敵」としてみなしていることになります。
さらに良くないのは、他者に対して「復讐」という考え方が生まれてしまった場合です。
「あいつは前回こんなことしてきたから、今度は自分がやり返してやろう」という考え方に至ってしまうと、良い人間関係を築くどころか、悪循環に陥ってしまいます。
劣等感は悪い感情ではありません。
ただ、健全な劣等感は、他者との比較で生むべきものではなく「理想の自分」との比較で生まれるべきものです。
そうすることで、他者を敵ではなく「味方」だと感じることができるはずです。
また、「人々は自分の味方なんだ」と実感できていれば、今いる場所を危険な場所、緊張する場所と思うこともなく、安全で快適な場所だと感じることができるでしょう。
他者を敵としてみなすのではなく、味方だと思うこと。
これが、健全な人間関係を築くためには、絶対に必要な考え方です。
緊張する場面、恐怖を感じる場面に出くわしたら、「この人は味方だ」と考えるだけで、人間関係はずいぶん楽なものになります。
3-2. 非を認める=負けではない
誤りを認めること、謝罪の言葉を述べること、権力争いから降りること
これらはいずれも「負け」ではありません。
他者を味方と感じることで、人間関係は楽になると言いました。
ただ、そうは言っても、自分自身に対してキツく当たる人もいれば、人格を批判してくるような相手と出くわすケースもあると思います。
そういった相手にはどう対処すれば良いのでしょうか?
いくつかのパターンに分かれると思うのですが、たいていの方は「我慢する」か「反論する」という選択肢を選ぶのではないでしょうか。
ここで「我慢」という選択肢を選んでしまうと、相手に自分の意図や意思は伝わりません。
そして何より、自分自身がストレスを溜める結果となり、その場にいることが苦痛になってしまいます。
では「反論」するという選択をとった場合はどうでしょうか。
恐らく、お互いに自分の意見をぶつけ合い、下手をすると喧嘩に発展してしまうかもしれません。
エンジニアは自分の考えや意見に自信を持っている場合が多いです。
自分の意見に自信がある場合、他者を自分の意見で屈服させようとするあまり、自分の誤りを認めることを「負け」と考えてしまうことがあります。
しかし、それは誤りです。
負けたくないという一心で自らの誤りを認めようとせず、相手の意見を受け入れられなくなると、相手もこちらの意見を受け入れてはくれません。
コミュニケーションに勝ち負けはありません。
こちらの非を認め、謝罪をすることは「負け」ではないのです
そこを理解すれば、たとえ相手がキツく当たってこようが、冷静に会話ができるはずです。
4. 人を育てることについて
ここまで、他者との関わり方について説明しましたが、自分の方が職務上立場が上の場合、後輩や部下に対して、どのように接しどのように育てるべきなのでしょうか。
ここからは、人を育てるということについて説明していきます。
4-1 叱ってはいけない、ほめてもいけない
アドラー心理学では、他者とのコミュニケーション全般について、「褒めてはいけない」という立場をとります。また、叱ることも認めません。
褒めてもいけないし、叱ってもいけない。それが、アドラー心理学の立場です。
皆さんは、後輩に対して指導や育成を行う際、どのように接していますか?
一般的には大きく分けて、「褒めて伸ばす」パターンと、「叱って伸ばす」パターンに分かれると思います。
しかし、アドラー心理学では、褒めることも、叱ることもしてはいけないと言われています。
叱ることで発生するデメリットはイメージが湧きやすいと思います。
叱られるからやる。というモチベーションよりも、褒められたくてやるというモチベーションの方が大きなモチベーションになります。
また、叱っているだけでは相手が萎縮してしまい、本来育つべき人材も育たないという考え方は一般的だと思います。
では、なぜ褒めてはいけないのでしょうか?
例えば、
納期よりも早く開発を終わらせてくれた後輩に対して「やるじゃん!」と言うこと
厄介な顧客への対応をトラブルなく収束させた後輩に「すごいね!」と言うこと
これらは一見、後輩のモチベーションをあげるのに良い効果を生むと思われますが、
褒められ続けた後輩がその後どうなっていくか、考えてみてください。
恐らくその後輩は、「また褒められたい」と考え、褒められるための行動に出るでしょう。
その結果、「この人の期待に応えよう」という心理状態になっていきます。
しかし、先ほども説明した通り、
人は「他者の期待を満たす為に生きているわけではない」のです。
褒め続けることによって、相手に対して自分の考え方ややり方に沿った人生を歩ませる結果になってしまいます。
また、褒められ続けることによって、また次も褒めてもらいたい!と考えている後輩は、
いざ褒められないケースに遭遇した場合に、劣等感が生まれる結果になってしまします。
劣等感とは「縦の関係」の中から生じてくる意識です。
そこで、アドラー心理学では、あらゆる「縦の関係」を否定し、全ての関係を「横の関係」とすることを提唱しています。
叱るという行為、褒めるという行為には、「能力のある人が、能力のない人に対して評価を下す」という側面があるのです。
社会に出ると、上司部下の関係、先輩後輩の関係は存在します。
そういった職務上の上下はあるのは当然ですが、あくまで職務上の関係の中の話です。
お互いを一人の人間として見たとき、そこに上下関係はないというのがアドラー心理学の考え方です。
4-2 評価ではなく、感謝をする
必要なことは、他者を「評価」しない、ということです。
もしも横の関係を築けているのなら、もっと素直な感謝や尊敬、喜びの言葉が出てくるでしょう。
先ほど、褒めてはいけない。叱ってもいけない。と述べました。
では、後輩に対してどのように接すれば良いのでしょうか?
先ほども申し上げた通り、相手が部下であれ後輩であれ、「横の関係」を築くことが必要です。
もし、あなたに「縦の関係」の意識があるとしたら、後輩の成果に対して、「良くやった」「良い出来だ」という考えが生まれるでしょう。
これは完全に相手を「評価」している証拠です。
そうではなく、「横の関係」を意識できていたら、「○○をしてくれてありがとう」という考え方になるはずです。
先ほどの例でいくと、
納期よりも早く開発を終わらせてくれた後輩に対して「やるじゃん!」では無く、「早く開発してくれたおかげで納期が短縮できた!ありがとう!」という言葉になります。
また、厄介な顧客への対応をトラブルなく収束させた後輩に対しては「すごいね!」で無く、「柔軟な対応をしてくれたおかげでトラブルが収束できた。助かったよ!」という言葉になります。
人間は、感謝の言葉や気持ちを伝えてもらうことで、「自分は他者に貢献できた」と実感することが出来ます。また、それにより、「自分はこの組織にとって価値のある存在だ」と感じることが出来ます。
周囲から必要とされていないと感じてしまったら、どんなに優秀で将来有望な部下・後輩でも成長はしません。
この組織に存在している理由があると感じられたときに始めて、人間は成長するのです。
他者の行為を「評価」するのではなく「感謝」をする。
そこに、上司・部下、先輩・後輩といった職務上の立場は関係ありません。
人を育てる基本は、貢献出来ていると感じてもらうこと。だからこそ「感謝」が必要です。
5. 共同体感覚
他者を仲間だと見なし、そこに「自分の居場所がある」と感じられることを、共同体感覚と言います。
そして人は、「わたしは共同体にとって有益なのだ」と思えた時に、自らの価値を実感できるのです。
ここまで読んでいただいた方はお分かりかもしれません。
人間関係の悩みを解決する方法は、
「他者を仲間とみなすこと」、そして「今いる場所が自分の居場所だと実感」することです。
これを、アドラー心理学では「共同体感覚」と言います。
共同体感覚を得るためには、「自己受容」を行い、
自分自身が他者に対して何ができるかを考え、行動し、「貢献」していると実感することです。
皆さんは人前でスピーチすることは得意ですか?
エンジニアにとっては特に苦手な分野で、「緊張する」「やりたくない」
そう感じる人も多いのではないでしょうか。
私自身の話になってしまうのですが、
正直自分も、お世辞にも人前で話すことは得意とは言えませんでした。
人前に立つと緊張して言いたいことが言えないということも多々ありました。
私が所属しているエイチームでは社員全体の前で登壇してスピーチする機会を頂くことがあります。
先日私も全社員の前でスピーチさせて頂く機会がありました。
お話いただいた時、まず真っ先に思い浮かんだのは「緊張」の2文字です。
緊張して言いたいこと言えなくなるのでは...という不安がありました。
ただ、実際登壇してスピーチをすると、不思議と緊張しなかったのです。
それどころか、もともと準備していたことが話しては浮かんで、また話して...という形で、
言いたかったことがスムーズに言えたのではないかなと思っています。
今までの人生の中で、大勢の前で話すと緊張して言いたいことが言えなかった私ですが、
何が変わったのだろう?と振り返った時に思い出したのは、アドラー心理学の「共同感覚体」という言葉でした。
同じ会社で働く人たち、上役の方々を「仲間」だと思えているか。
あの人をアッと言わせてやろう、
あの人に認めさせてやろう。
そういう考え方で臨んでいたら、逆に緊張していたと思います。
そうではなく、
自分のスピーチを聞いてくれた人が、この話をどう活かしてくれるのかな?
何か次のアクションに繋げるきっかけを作ることができるだろうか?
自分の発言が何かしら役に立つかな?
それによって、何かしら会社に貢献できるかな?
そう考えてスピーチに臨んだことが、緊張を生まなかった理由だと考えています。
そこに「共同感覚体があった」と少しだけ実感しましたし、考え方の前提に「この会社の人たちは自分の仲間だ」という意識があったからこそ、生まれた感覚だと感じています。
これは、スピーチに限った話ではありません。
社内打ち合わせの時
チームで開発する時
外部の勉強会に参加した時
取引先との打ち合わせに参加した時
社長や上長と話すとき
相手を「仲間」だと意識するだけで、発言も議論も前向きになります。
ビジネスの世界に生きる我々ですので、時には相手と敵対してしまうこともあるか思います。
が、100%敵だという人間は、この世の中存在しないと思います。
さらに、自分が相手のことを仲間だと意識すると、相手に安心感を与えることができ、相手も自分を仲間だと感じてくれるものです。
相手を仲間だと思うこと。
そして、相手に貢献しようと努力すること。
貢献できたと実感すること。
これが「共同感覚体」が生まれる第一歩だと私自身感じています。
人間関係で悩んでいるエンジニアの皆さんに是非、意識してもらいたいです。
きっと、良い関係が築けるようになると思います。
最後に
Ateam Hikkoshi Samurai Inc. Advent Calendar 2017 24日目いかがでしたでしょうか。
執筆が本業では無いエンジニアが書いた文章なので、至らない部分も多々あったかと思います。
もし、『アドラー心理学』についての解釈誤りや語弊を生む文脈等ございましたら、コメントにてご指摘頂けると幸いです。
また、今回ご紹介させていただいた内容は、アドラー心理学のごく一部です。
アドラー心理学をもっと深く知りたい、理解したいという方は、ぜひ書籍を手にとって読んで頂きたいです。
どちらもアドラー心理学について的確にまとめられた良書だと思います。
・ 嫌われる勇気 ― 自己啓発の源流「アドラー」の教え
・ アルフレッド・アドラー 一瞬で自分が変わる100の言葉
明日のAdvent Calender最終日はエイチーム引越し侍期待の新卒お騒がせフロントエンドエンジニア@diaさんがgulpに関する記事を書いてくれます。お楽しみに!
追伸
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