はじめに
こんにちは、株式会社LIFULLの神谷と申します。
プロダクトやサービスを開発・提供する最初の出発点として、【このプロダクト・サービスは、「誰の」「どんな課題を」「どんな手法をもってして」解決するか】というように、そのプロダクトを一言で説明した「プロダクトコンセプト」を考えるとき、
- 「どこから考え始めるのかわからない」
- 「企画してみたが自信がない」
- 「あやふやなまま開発を始めてしまったためプランナーとエンジニアにコンフリクトが生じてしまった」
といった悩みに直面する方も少なくないかと思います。
今回はプロダクト開発におけるコンセプトを作成する一つの手順として、弊チーム内で行ったコンセプト作成ワークショップの一般化した実践例を紹介したいと思います。
コンセプト作成ワークショップ全体の流れ
本ワークショップは1日1時間のワークを計4日間行います(事前課題を除く)。概要については以下の通りです。
- 事前課題: 過去のマーケット調査。事実ベースの議論材料なのか、個人の主観による考察なのかの整理。
- Day1: リーンキャンバスの仮埋め、顧客セグメントと課題の整理。
- Day2: 顧客セグメントごとのバリュー・プロポジションキャンバスの作成。
- Day3: 顧客のニーズと提供するプロダクトにずれがないかの確認。How Might Weによるアイディアの発散。
- Day4: 発散したアイディアの収束。リーンキャンバスの完成。
以下の章にて各フェーズで何を行ったかを具体的に紹介します。
ちなみにワークショップ参加者については、他職種混合でそのチーム内の4~5名ほどが望ましいです(これ以上多いと意見の集約が難しくなります)。弊チームにおいては、プロジェクトマネージャー1名、企画2名、エンジニア1名(私)、UXリサーチャー兼ファシリテーター1名で行いました。
事前課題
まずは参加者ごとの個人ワークとして、過去に実施した自社のプロダクトのUXリサーチの結果や市況・顧客の状況についてデスクワークを行い、
- 自社のサービスにどのような課題があるか
- それを解決するのはどのようなプロダクト・サービスなのか
- そのためにはどのような技術や手法が必要なのか
について、事実ベースに基づく議論材料と個人の主観に基づく考察を整理します。この作業を事前に行なっておく意味として、ワークショップ内で議論が炎上しかかった場合、チーム全体の方向性として事実ベースに基づく議論を優先するためです。
もちろん個人の主観に基づく考察を否定するものではありません。主観が妄想になっていないか、それとも事実に基づいた考察となっているかを判断するためにも、このような整理を必要としています。
Day1: リーンキャンバスの仮埋め、顧客セグメントと課題の整理
Day1では、とりあえず仮でも良いのでプロダクトのリーンキャンバスを埋めていく作業を行います。
リーンキャンバスは事業プランを9つの要素に分けて整理するフレームワークで、基本的には上部外側の「顧客セグメント」「課題」から記入していきます。これらの部分が曖昧だとリーンキャンバス全体が曖昧なまま造られてしまい、開発の際にコンフリクトが起きることは必至です。残念ながら、リーンキャンバスだけで「どんなユーザーのどんな課題に向き合うのか」を深ぼることはできないので、Day1では仮としてそれぞれの項目を埋めてしまい、Day2で顧客セグメントと課題を深ぼっていきます。
Day2: 顧客セグメントごとのバリュー・プロポジションキャンバスの作成
Day2ではDay1で出した仮の顧客セグメントに対して、バリュー・プロポジションキャンバス(Value Proposition Canvas: VPC)を作成します。
VPCは、提供する側のサービスと顧客のニーズのことを特に顧客目線で整理することができます。VPCの右側には、顧客が達成したいタスク(ジョブ)、顧客が望み期待する結果(ゲイン)、顧客の仕事の達成を妨げるもの(ペイン)を洗い出すことで、顧客プロフィールを作成します。VPCの左側には、実際に提供するプロダクト・サービス名、ゲインを作り出すことができるプロダクトの価値(ゲインクリエイター)、ペインを取り除くことができるプロダクトの価値(ペインリリーバー)を作成します。ここではDay1で決めた仮の顧客セグメントそれぞれに対してVPCを作成することで、顧客とのニーズのずれがないか、提供価値の選定や訴求ポイントを把握します。
Day3: 顧客のニーズと提供するプロダクトにずれがないかの確認・How Might Weによるアイディアの発散
Day3では、Day2で作成したVPCについて顧客にとって重要なことにフィットしているかを確認します。具体的には、
- ゲインクリエイターが顧客にとって欠かせないゲインに応えているか
- ペインリリーバーが顧客にとって深刻なペインに応えているか
といったような関係性を構築していきます。
この段階では顧客にとってそのジョブ・ペイン・ゲインが重要だというエビデンスはないので、実際にフィットしているかどうかはまだ証明されていません。次の段階として、実際にデザインした価値提案を顧客が気に入っているエビデンスを見つけ、気に入らなければ新しい価値提案をデザインし直すことになります。
関係性の構築が上手くいかなかった場合は現状考えているプロダクトにおいてそれらの観点が抜け落ちている証拠であり、ゲインクリエイター・ペインリリーバーについてアイディアを発散させていく必要があります。今回はアイディア発散のフォーマットとして、「How Might We」による課題定義と、「オズボーンのチェックリスト」によるアイディア発散を行なっています。
How Might Weは日本語で「私たちはどうすれば〇〇できるか」という問いを定義してブレーンストーミングを促します。課題を複数の着眼点で捉え直すことで、関わる人たちで共有できる旗印となり、好奇心を喚起することによって、多くの方向性のアイディア発散につながります。
オズボーンのチェックリストとは、問いに対してどのような解決方法が考えられるのか9つの視点からアイディアを生み出すためのフレームワークです。9つの視点は「転用」「応用」「変更」「拡大」「縮小」「代用」「再配置」「逆転」「結合」を指し、それぞれの観点で少々強引にでもアイディアを洗い出すことで、思いもよらないアイディアが生まれることもある改善検討法です。
Day4: 発散したアイディアの収束・リーンキャンバスの完成
Day4ではDay1で作成した仮リーンキャンバスを見直しながら修正を加えていきます。特に顧客セグメントや課題の深掘りに合わせて、「独自の価値提案」や「ソリューション」を清書していきます。Day1の仮のリーンキャンバスに比べてDay2~Day3の内容を振り返った上で考えると、ユーザーの課題の解像度が上がり提供する価値がフィットした状態で検討することができるので、リーンキャンバスそれぞれの項目の具体性が増した状態になっていると思います。
ワークショップのメリット・デメリット
このワークショップのメリットとして、常にユーザーの視点に立ったプロダクトの価値提供についてチーム内における合意をとりながら進められることが挙げられます。ユーザー視点での検討は基本的に仮説ベースで進めていくことになるのですが、「〇〇は事実で△△は仮説なので、仮説の部分はチームの合意として先に議論を進める」ことができ、普段では散らかり気味の議論をなめらかに進行することができます。
デメリットとしては、他職種混合のチーム内でのそれぞれの立場を理解する時間が必要不可欠であることが挙げられます。それぞれのメンバーの立場においては暗黙知であることを明確にしておかないと議論がすれ違うことが多々あるので、実際には上記の作業も4時間以上かかることが想定されます。それでも時間をかけてすれ違いを除去することはチームビルディングとしても有益であり、他職種への理解と意見の活性化を図ることができます。
終わりに
プロダクト開発の最初のとっかかりは非常に抽象的でどこから手につけていいか分かりづらいと思います。そのためのフレームワークとして、今回のようなチーム内ワークショップの開催は、意見の活性化・チームビルディング的な要素も含めて実践するのをおすすめします。
本文章は殴り書きに近いため、後日弊社のCreators Blogにて清書させていただきます。