概要
先日、業務上の理由によりECBAという資格を受験しました。
資格勉強中、ふと思い付きで生成AIとマインドパレス(※後ほど解説します)を組み合わせてみたところ、思いのほか良い効果が生まれたので、ここにまとめてみます。
ECBA
概略
ECBAとは、Entry Certificate in Business Analysis の略で、IIBA(International Institute of Business Analysis)が提供しているビジネスアナリシス領域の入門資格です。
IIBAのビジネスアナリシス資格は3段階に分かれており、ECBAはそのうち最も基礎的なレベルに位置づけられています。上位資格としては、ある程度の実務経験が必要な CCBA(Certification of Capability in Business Analysis)、高度な分析力とリーダーシップが問われる CBAP(Certified Business Analysis Professional)があります。
技術系というよりも、業務プロセスの見直しや関係者間の合意形成といった、上流工程に近い非技術系のスキルに重点が置かれています。
BABOK
ECBAを含むこれら3つの資格は、いずれもIIBAが策定したガイドライン「BABOK(A Guide to the Business Analysis Body of Knowledge)」に準拠しており、ビジネスアナリシスに関する体系的な知識と実践的なスキルを基盤としています。
そのため、試験内容もBABOKの知識が問われる構成となっています。
マインドパレス
マインドパレス(Mind Palace:記憶の宮殿)は、空間的なイメージと視覚記憶を活用して、情報を効率よく記憶・想起するための記憶術です。古代ギリシャの時代から用いられてきた手法で、「場所法」とも呼ばれています。
イギリスのBBCで放送されたドラマ『SHERLOCK』の主人公、シャーロック・ホームズがマインドパレスを使用する設定があるなど、この手法はさまざまな媒体やコンテンツにも登場することがあり、耳にしたことがある人もいるかもしれません。
詳細については他の専門的なサイトに任せますが、ポイントをかいつまんで説明すると、以下のような特徴があります。
概略
覚えたい情報を、自分の頭の中に思い描いた建物や街並みなどの“場所”に配置しておき、後からその場所を思い出すことで、記憶を引き出す。
基本原理
- よく知っている場所を選ぶ(例:自宅、通学路、通勤経路など)
- 場所の各ポイントを順番に想像する(玄関→リビング→寝室→浴室など)
- 覚えたい情報を、その場所に視覚的に結びつける(例:冷蔵庫の中に「ステークホルダー分析」)
特徴
- 語呂合わせや反復記憶と異なり、構造的な記憶ができる
- 情報の並び順や関係性を保ったまま記憶できる
- 記憶の“場所”にアクセスすることで、芋づる式に思い出せる
向いている用途
- 用語と定義のセットを多数覚える場面
- 順序や構造を重視する学習
- 暗記より「再現性」を重視したい場合
記憶術の専門家ではないので、もしかしたら間違った説明をしているかもしれません。
資格勉強のために作ったマインドパレスの例
生成AIの活用方法について触れる前に、今回ECBAを受験するにあたって、頭の中に構築したマインドパレスの一例を、手順と共に紹介します。
1. マインドパレスを選ぶ
情報を結びつけるために、頭の中で構築する建物や場所を選びます。一般的には、自宅などよく知っている場所を使うのが良いとされていますが、私は「記憶の宮殿」という名称をそのままイメージし、バッキンガム宮殿のような宮殿を選びました(行ったことないけど)。
2. マインドパレスに定着させる内容(暗記したい内容)を決める
BABOKには、ビジネスアナリシス・コア・コンセプト・モデル(下表参照)という、6つの要素を持つフレームワークが定義されています。詳細な説明は省きますが、今回はその6つの要素それぞれをマインドパレスへ定着させることにしました。
コア・コンセプト | 概要 |
---|---|
チェンジ | ニーズに対応して変える行為 |
ニーズ | 対処すべき問題または機会 |
ソリューション | あるコンテキストにおいて、1つ以上のニーズを満たす具体的な方法 |
ステークホルダー | チェンジ、ニーズ、ソリューションと関係を持つ個人またはグループ |
価値 | あるコンテキストにおける、ステークホルダーに対する値打ち、重要性、有用性 |
コンテキスト | チェンジに影響を及ぼし、チェンジから受ける状況 |
3. マインドパレス内での定着場所を決める
どこに定着させるかは、思い出しやすいように記憶する内容から連想できる方が良いと思います。私は以下の様な連想ゲームで「中庭」に決めました。
- 「ビジネスアナリシス・コア・コンセプト・モデル」からどうやって連想しよう?
- 「コア」に着目
- 「コア」って"中心"だよね
- 宮殿の中心ってどこ?
- とりあえず「中庭」ってことにしよう!
4. 決めた場所に定着させる
覚えたい内容と定着させる場所を決めたら、後は視覚的なイメージで強引に結びつけるだけです。今回は6つ要素があったので、舞台となる宮殿に合いそうなショートストーリー形式で定着させました。
以下がその内容です。
女が中庭で紅茶を嗜んでいた。
「わたくしもっと美味しいお紅茶が飲みたいですわ!」
それを聞きとめた使用人が新しい紅茶を持ってきて、女が飲んでいたものと交換した。
「あらまあ! こちらの方が美味しいですわね!」
ゆっくり味わうように時間をかけて飲んでいたら、紅茶は冷めてしまった。
なんのこっちゃ、と思うかもしれませんが、このストーリーの中にある各要素(青文字の部分)が、ビジネスアナリシス・コア・コンセプト・モデルの6つの用語と、それぞれ結びついています。
ストーリー内の要素 | 結びつけたコア・コンセプト |
---|---|
もっと美味しいお紅茶が飲みたい | ニーズ |
使用人 | ステークホルダー |
新しい紅茶を持ってきて | ソリューション |
交換 | チェンジ |
こちらの方が美味しい | 価値 |
紅茶は冷めてしまった | コンテキスト |
要するに、この場合もストーリー内の要素を使用した連想ゲームです。
なお実際には、この文章そのものを暗記するのではなく、中庭で紅茶を嗜む場面を映像としてマインドパレスに定着させます。
5. 再生して思い出す
後は試験などでビジネスアナリシス・コア・コンセプト・モデルという単語が出てきたら、「コア」から中庭を連想し、紅茶を嗜む場面の映像を頭の中で再生して、結び付けた内容を引き出すだけです。
マインドパレスのメリットとデメリット
このような抽象的なフレームワークであっても、映像として記憶しておくことで、思い出す負荷を軽減できます。
ただし、この映像の設計と構成にそれなりの労力がかかるのも事実です。
私自身、マインドパレスは以前から知っており、実践を試みたこともありました。しかし、設計・構成の作業に思いのほか時間がかかったうえ、「どこに何を定着させるか」の選定も大変だったりで、うまく利用できずに挫折してしまった過去があります。
生成AIの利用法
そんな過去の経緯があったのですが、資格勉強中にふと生成AIがマインドパレスに利用できないかと思いつきました。結論から言うと、マインドパレスの設計・構成において非常に強力な支援ツールとして利用できました。
具体的な利用手順は次の通りです。
- BABOKのPDFをChatGPTに読み込ませる
- BABOKの内容をもとに、マインドパレスへ定着させる内容やストーリーをChatGPTに作ってもらう
- 出力結果を、自分が定着させやすい内容に適宜修正
このやり方で、ビジネスアナリシス・コア・コンセプト・モデルを例にとると、以下のような感じになります。
もちろん、最初から完璧な回答が得られる訳ではありませんが、体感として内容の6~7割程度はそのまま使えるものが出てきました。足りなかったり、気に入らない部分は、自分でちょこちょこっと修正すればよいのです。
実際に使ってみて感じた効果
6つのうち5つまではすぐに思い出せるのに、最後の1つだけがどうしても出てこない……。従来の記憶法では、そんな場面に心当たりのある人も多いのではないでしょうか。
試験中に「あと1つなんだっけ……」と指を折りながら悩む、あのもどかしさです。
マインドパレスを使うと、ひとつの要素を思い出した瞬間に、関連する他の要素が芋づる式に引きずり出される感覚があります。記憶の「入り口」さえ見つけられれば、あとはその場所を歩くように次々と思い出せるので、引き出す際の労力が段違いに小さく感じます。一度この感覚を味わうと、結構クセになります。
まとめ
課題
- 資格勉強をするにあたって、専門的・抽象的な用語や内容がなかなか頭に入らない
- 加齢による記憶力の低下(´;ω;`)
対処
- 一般的な勉強法や暗記方法ではなく、より効果的な記憶術の導入
- 生成AIによる記憶術の活用サポート
効果
- ひとつの要素を思い出すと他の要素も芋づる式に連想され、記憶の再現性が向上
- 単語単体の暗記ではなく、ストーリーや映像として記憶することで、引き出しがスムーズに
- 生成AIの活用により、マインドパレスの設計負荷が軽減され、継続しやすい記憶法として機能
記憶術×生成AI、意外と効果的でした。