エンジニアの健康管理、プロジェクトの健康管理で、管理図が有効活用できる可能性がある。
健康管理での管理図の活用事例をもとに、見解を述べる。
はじめに
私がデータ分析に関して「教えていただいたこと」と「大切だと実感したこと」
- アクションに結びつく分析を行う
- まずは、横の比較ではなく、縦の比較をする
- データ分析をする対象に中に入る
- 測定行為が測定結果に影響を与える
管理図の活用は、「まずは、横の比較ではなく、縦の比較をする」というノウハウと関連する。
まずは、横の比較ではなく、縦の比較をする
小池利和さんからは、「横の比較ではなく、縦の比較をしなさい」と教えられました。
横の比較とは、別の組織との比較・別のプロジェクトとの比較・別の人との比較などです。
縦の比較とは、過去と現在の比較です。
つまり、横の比較は他者との比較、縦の比較は自分との比較です。
前提が違うデータを比較し良い悪いなどを判断するのは難しいため、まずは過去と比較しどう変化したかを見なさいということだと理解しています。
検査の基準値
医療における検査では、基準値との比較をすることが多いです。
この基準値との比較というのは、横の比較といえるのではないかと考えています。
金町中央病院の記事で、基準値の考え方がわかりやすく説明されています。
「基準値」とは「正常な人の95%に当てはまる値」という定義で定められた値です。正常な人でも、その5%は「基準値」に当てはまらないのです。これは、私たちの体型や顔のつくりが一人一人異なるように、体質も異なるからです。
大切なのは、「基準値とどれくらい違うか」ではなく、「普段の値とどれくらい違うのか」ということです。
日本衛生検査所協会のサイトで、基準値範囲の考え方が図でわかりやすく示されています。
第一種過誤と第二種過誤
- 第一種過誤(あわてものの誤り)
第一種過誤(α過誤、偽陽性)は、帰無仮説が実際には真であるのに棄却してしまう過誤である。つまり、偽がヒットすることによるエラーである。「個人は病気ではない」のにもかかわらず「個人が病気である」と判断してしまうことに相当する。
- 第二種過誤(ぼんやりものの誤り)
第二種過誤(β過誤、偽陰性)は、対立仮説が実際には真であるのに帰無仮説を採用してしまう過誤である。つまり、真が抜け落ちることによるエラーである。 対立仮説が正しい時に対立仮説を採択しない誤りのこと。「個人が病気である」のに「個人は病気でない」と判断してしまう事に相当する。
検査結果の基準値は、複数人の検査結果の分布を合成することで、算出されているようです。
個人のデータの分布は、全体のデータの分布より、範囲が狭くなると考えられます。
このため、個人の検査結果と基準値との比較(横の比較)では、第二種過誤(あわてものの誤り)が起きやすくなると考えています。
管理図
管理図は、プロセス実績を時系列に表示した折れ線グラフに、中心線、上限、下限などを表す横線を入れたものである。プロセスが安定的に実施されるよう制御するために用いる。上限、下限の横線は管理限界とも呼ばれる。プロセスの実績値が管理限界を超えるような「異常」が発生したときに、その原因を特定し、プロセスを改善していくのが最も基本的な使い方である。
管理図での異常判定ルール
管理図の種類
XmR管理図
・XmR管理図は、計量値、計数値どちらにも用いられる。
・XmR管理図は、群間の変化を表す図(X図)と群内のバラツキを表す図(mR図)の2種類から構成されている。
・群内のばらつきデータから母標準偏差を推定し、管理限界を決める。
・XmR管理図では、隣り合う2つのデータを1つの群としてまとめて、群内のばらつきとして2件のデータの絶対値をとる。
・上方管理限界線(UCL: Upper Control Limit)と下方管理限界線(LCL: Lower Control Limit)は以下の式で求める。
UCL: xの平均 + 2.66 * mRの平均
LCL : xの平均 - 2.66 * mRの平均
XmR管理図のRでの描き方
パッケージ「qicharts」
パッケージ「qcc」
事例
腫瘍マーカー検査と尿酸検査への管理図の適用事例を示す。
事例1:腫瘍マーカー検査
腫瘍マーカーのCEAの説明
CEAの一般的な基準値は0.0~5.0 ng/ml
腫瘍マーカー検査への管理図の適用
合計8回の検査結果
t1 | t2 | t3 | t4 | t5 | t6 | t7 | t8 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
X | 0.6 | 0.6 | 1.2 | 0.4 | 0.4 | 0.4 | 0.4 | 0.4 |
mR(移動幅) | 0.0 | 0.6 | 0.8 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
CL(平均):0.6
UCL(上方管理限界):1.1
LCL(下方管理限界):0.0
mR-CL(移動幅平均):0.2
CEAの一般的な基準値は0.0~5.0 ng/mlである。
全8回の検査結果で、CEAが基準値の範囲外になっていることはない。
ただし、管理図では、3回目の検査結果が異常値と判断される。
実際、3回目の検査の時点で、大腸癌があり手術をしている。
手術後の4回目の検査ではCEAの値が大幅に下がっている。
事例2:尿酸検査
尿酸検査の説明
基準値:2.1~7.0 mg/dl
血清尿酸値が7.0mg/dlを超えるものを高尿酸血症と定義する。性年齢は問わない。
尿酸検査への管理図の適用
t1 | t2 | t3 | t4 | t5 | t6 | t7 | t8 | t9 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
X | 7.6 | 6.7 | 8.2 | 7.4 | 7.1 | 7.0 | 7.1 | 7.8 | 6.0 |
mR(移動幅) | 0.9 | 1.5 | 0.8 | 0.3 | 0.1 | 0.1 | 0.7 | 1.8 |
CL(平均):7.2
UCL(上方管理限界):9.3
LCL(下方管理限界):5.1
mR-CL(移動幅平均):0.8
尿酸の一般的な基準値は2.1~7.0 mg/dlである。
全9回の検査結果で、尿酸が基準値の範囲外になったことは6回あり。
ただし、管理図では、一度も検査結果が異常値と判断されない。
今のところ、痛風にはなっていない。
ただ、禁酒日を増やしたら明らかに尿酸が下がる結果は得られた。
あわてものにならなくていいかは、わからない。
考察
基準値に対しての比較では、見逃してしまう異常を、変動を確認する管理図では検知することができた。
エンジニアの健康管理、プロジェクトの健康管理で、管理図が有効活用できる可能性がある。
以下の記事で、炎上の兆候を検出するメトリクスが示されている。これらのメトリクスに対して、管理図が有効活用できる可能性がある。
まとめ
- 横の比較(他者との比較)ではなく、縦の比較(自分の過去との比較)のほうが、第二種過誤(ぼんやりものの誤り)を防ぐ可能性が高そう。
- 縦の比較(自分の過去との比較)で異常を検知するために、管理図(XmR管理図)は有効。
- エンジニアの健康管理、プロジェクトの健康管理で、管理図が活用できる場面は多そう。