はじめに
チーム開発における振り返り(レトロスペクティブ)は、継続的な改善を行う上で欠かせない活動です。多くのチームがKPT(Keep, Problem, Try)を採用していますが、実際に運用してみると「お腹が痛かった」「寝坊した」といった個人的な問題まで挙がってしまい、本質的な改善に繋がらないケースが頻発していました。
そこで私たちのチームでは、KPTからStarfish(スターフィッシュ)に振り返り手法を変更したところ、生産性が大幅に向上しました。本記事では、その経験と具体的な改善効果について詳しくお伝えします。
KPTの問題点
なぜ生産性の低い振り返りになってしまうのかを考えてみました
Problem(問題)の範囲が曖昧すぎる
KPTにおける「Problem」は非常に広範囲な概念です。これにより以下のような課題が発生していました
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個人的な体調不良や私生活の問題
- 「お腹が痛くて集中できなかった」
- 「寝坊してしまった」
- 「家族の都合で早退した」
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解決困難な環境的要因
- 「オフィスが寒かった」
- 「隣の工事音がうるさかった」
- 「エアコンの調子が悪かった」
これらの問題は確かに業務に影響を与えますが、チーム全体の生産性向上に直結する改善アクションを導き出すのは困難です
Try(挑戦)が具体的なアクションに繋がらない
Problemが曖昧だと、必然的にTryも抽象的になりがちです
- 「体調管理に気をつける」
- 「早寝早起きを心がける」
- 「集中できる環境を作る」
これらのTryは個人の努力に依存する部分が大きく、チームとしての組織的な改善に繋がりにくいという課題がありました
Starfish振り返り手法とは
Starfish(スターフィッシュ)は、星の形(5つの角)を模した振り返り手法で、以下の5つのカテゴリで構成されます
1. Keep Doing(継続すること)
チームが現在行っていて、今後も継続すべき良い取り組み
2. More of(もっと増やすこと)
現在も行っているが、より頻度や強度を増やすべき取り組み
3. Start Doing(新しく始めること)
まだ実施していないが、新たに取り組むべき活動
4. Less of(減らすこと)
現在行っているが、頻度や強度を減らすべき取り組み
5. Stop Doing(やめること)
現在行っているが、完全に停止すべき活動や習慣
Starfish導入による具体的な改善効果
1. 問題の焦点が明確になった
KPTの「Problem」では「お腹が痛かった」といった個人的な問題も挙がっていましたが、Starfishでは以下のような建設的な議論に変化しました
Less of(減らすこと)の例
- 長時間の会議(3時間→1.5時間に短縮)
- 毎日の進捗確認メール(週2回に削減)
- 詳細すぎるドキュメント作成
Stop Doing(やめること)の例
- 毎朝の全員参加の定例会議
- 形式的なエクセル報告書の作成
- 重複したチェック工程
2. アクションがより戦略的になった
Start Doing(新しく始めること)の具体例
- ペアプログラミングの導入(週2回)
- 技術的負債の定期的な整理(月1回)
- 外部勉強会の参加推奨制度
More of(もっと増やすこと)の具体例
- コードレビューの頻度向上(1日1回→随時)
- 非同期コミュニケーションの活用
- 自動化ツールの導入拡大
3. 定量的な改善効果
Starfish導入から3ヶ月後の測定結果
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開発速度
- 20%向上(ストーリーポイント/スプリント)
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バグ発生率
- 35%削減
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会議時間
- 40%短縮
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チーム満足度
- 8.5/10(従来7.2/10)
Starfish運用のベストプラクティス
1. 事前準備
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時間設定
- 90分程度を確保
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ファシリテーター
- 毎回異なるメンバーが担当
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ツール
- MiroやFigJamなどのオンラインホワイトボード
2. 進行方法
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個人作業(15分)
- 各自で付箋に意見を記入
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共有・分類(30分)
- 全員で付箋を共有し、類似項目をグループ化
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優先順位付け(20分)
- 投票により重要度をランク付け
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アクション決定(20分)
- 上位3-5項目について具体的なアクションを決定
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振り返り(5分)
- 今回の振り返り自体について短時間で振り返り
3. 継続のコツ
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定期開催
- 2週間に1回の頻度で実施
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アクション追跡
- 前回決めたアクションの進捗を必ず確認
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可視化
- チーム全員が見える場所に結果を掲示
導入時の注意点とトラブルシューティング
よくある課題と対処法
課題1: 「Less of」と「Stop Doing」の区別が曖昧
→ 判断基準を事前に明確化(完全廃止 vs 頻度削減)
課題2: 個人攻撃になってしまう
→ 「誰が」ではなく「何を」に焦点を当てるルールを徹底
課題3: アクションが多すぎて実行できない
→ 1回の振り返りで実行するアクションは最大3つまでに限定
まとめ
なぜStarfishが効果的なのか
Starfish振り返りが生産性向上に繋がる理由は以下の通りです
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具体性の向上
- 5つのカテゴリが明確で、それぞれに適した改善アクションを考えやすい
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バランスの取れた視点
- 追加と削減の両方を検討することで、リソース配分を最適化
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実行可能性
- 「やめる」「減らす」というオプションがあることで、現実的な改善が可能
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継続性
- 段階的な変化を促すため、チームの負担が少なく継続しやすい
KPTで生産性の低い振り返りに悩んでいるチームは、ぜひStarfish手法を試してみることをお勧めします。最初は慣れないかもしれませんが、3-4回実施すれば確実にその効果を実感できるはずです。