「スペクトル分解」は、「射影行列」※1 である。では、この射影行列を、AIに聞いてみると以下のように答えてくれます。
射影行列は、線形代数の様々な分野で利用されます。射影行列の主なメリットは、最小二乗法による回帰分析において、計算を簡略化することです。射影行列を用いることで、回帰分析の計算がより効率的に行えます。また、射影行列は、画像処理やコンピュータビジョンの分野でも利用されます。例えば、射影行列を用いることで、画像の歪みを補正することができます。
今回は、「スペクトル分解」が何であるかを探ります。まず、
\mathbf{A} = \
\begin{pmatrix}
5 & -2 \\
-2 & 2 \\
\end{pmatrix}
をスペクトル分解すると、2つの転置行列A1,A2が現れます。
$A= k_{1} A_{1} + k_{2} A_{2} $
k1,k2には、整数が入る。この計算は、後に「問題2」で行います。
・また、スペクトル分解の特徴として、以下の式が成り立ちます。
\begin{align}
\mathbf{A}_{1} \mathbf{A}_{2}&= O(零行列)\\
\end{align}
この式については、後ほど述べます。
次のステップとして、対角化させます。その際に、U(ユニタリ行列)を使います。ユニタリ行列は、随伴行列(共役かつ転置)でもあります。
U^{*}U=UU^{*}
「随伴行列」は、①「転置行列」の各成分を②「複素共役」にしたものです。
①転置
②共役な複素数
(例 複素数1 + 2i の共役は、1 - 2i で、虚数の係数の前の符号が逆転します。
・また、U(ユニタリ行列)は、直交行列でもあるので、次の式が成り立ちます。
U^{*}U=UU^{*}=E
この式が成り立つのが、正規行列であり、ユニタリ行列の特徴です。
この式を変形して、次の式が得られます。この式で対角化が容易になります。
U^{*}=U^{-1}
このユニタリ行列が、物理、量子力学で頻出します!以下のように「*」(アスタリスク)が、「刀(ダガー)」の形になります。
U^{*}=U^{\dagger}
以下の問題を解いて、スペクトル分解を体感しよう!
問題2)
\mathbf{A} = \
\begin{pmatrix}
5 & -2 \\
-2 & 2 \\
\end{pmatrix}
をスペクトル分解せよ。
初めに、固有方程式を解く。
|A-\lambda E|=
\begin{pmatrix}
5-\lambda & -2 \\
-2 & 2-\lambda \\
\end{pmatrix}
= (5 - λ)(2 - λ) - 4 = (λ - 1)(λ - 6) = 0 ∴λ = 1, 6
λ = 1に属する固有空間W(1)の正規直交基底を
\mathbf{<u>} \
λ = 6に属する固有空間W(6)の正規直交基底を
\mathbf{<v>} \
とする。それぞれ
\mathbf{A - E} = \
\begin{pmatrix}
4 & -2 \\
-2 & 1 \\
\end{pmatrix}
→
\begin{pmatrix}
2 & -1 \\
0 & 0 \\
\end{pmatrix}
この式を解くと、固有ベクトルの1つは
\begin{pmatrix}
1 \\
2 \\
\end{pmatrix}
である。また、
\mathbf{A - 6E} = \
\begin{pmatrix}
-1 & -2 \\
-2 & -4 \\
\end{pmatrix}
→
\begin{pmatrix}
1 & 2 \\
0 & 0 \\
\end{pmatrix}
固有ベクトルの1つは
\begin{pmatrix}
-2 \\
1 \\
\end{pmatrix}
である。よって、2つの固有値を正規化して
\mathbf{u} = 1/\sqrt{5}\
\begin{pmatrix}
1 \\
2 \\
\end{pmatrix}
,
\mathbf{v} = 1/\sqrt{5}\
\begin{pmatrix}
-2 \\
1 \\
\end{pmatrix}
として、
\mathbf{U} =
\begin{pmatrix}
u & v\\
\end{pmatrix}
=
1\sqrt{5}\
\begin{pmatrix}
1 &-2 \\
2 & 1\\
\end{pmatrix}
とおく。
行列Aのスペクトル分解を
\mathbf{A = A_1 + 6A_2 } \\\
とすると
\mathbf{A_1 u= u,\qquad A_2 v = o(零ベクトル) } \\\
から
\mathbf{A_1 U= A_1}
\begin{pmatrix}
u\\
v\\\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
A_1 u\\
A_1 v\\
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
u\\
o\\
\end{pmatrix}
同様に
\mathbf{A_2 u= o(零ベクトル),\qquad A_2 v = v} \\\
\mathbf{A_2 U= }\\\
\begin{pmatrix}
o \\
v\\
\end{pmatrix}
よって、両辺に右から「Uの逆行列」をかけて、
\mathbf{A_1} = \
\begin{pmatrix}
u \\
0 \\
\end{pmatrix}
U^{-1}= 1/\sqrt{5}
\begin{pmatrix}
1 & 0 \\
2 & 0 \\
\end{pmatrix}
1/\sqrt{5}
\begin{pmatrix}
1 & 2 \\
-2& 1 \\
\end{pmatrix}
= 1/5
\begin{pmatrix}
1 & 2 \\
2& 4 \\
\end{pmatrix}
\mathbf{A_2} = \
\begin{pmatrix}
0 \\
v \\
\end{pmatrix}
U^{-1}= 1/\sqrt{5}
\begin{pmatrix}
0 & -2 \\
0 & 1 \\
\end{pmatrix}
1/\sqrt{5}
\begin{pmatrix}
1 & 2 \\
-2& 1 \\
\end{pmatrix}
= 1/5
\begin{pmatrix}
4 & -2 \\
-2& 1 \\
\end{pmatrix}
よって、求めるAのスペクトル分解は
A= A_1 + 6A_2 =
\begin{pmatrix}
1/5 & 2/5 \\
2/5 & 4/5 \\
\end{pmatrix}
+ 6
\begin{pmatrix}
4/5 & -2/5 \\
-2/5& 1/5 \\
\end{pmatrix}
以上。これで「スペクトル分解」できました! ※1(図あり!)
<考察>
以下の3つを満たすので、「スペクトル分解」※2といえます。
①2つの行列A1、A2の和を計算すると
A_1 + A_2 = E (単位行列)
②2つの行列A1、A2の積を計算すると
A_1 × A_2 = O (零行列)
③ $A= A_{1} + 6 A_{2} $
この式から、スペクトル分解の行列A1とA2の係数から、
A1は射影して1倍、A2は射影して6倍と分かります。
(ちなみに、A1,A2行列は転置行列です!)
A1行列、A2行列とも射影行列です。よって、射影の性質より、次の式が成り立ちます。
$A^n=(\lambda_1P_1+\lambda_2P_2)^n=\lambda_1^n P_1+\lambda_2^n P_2$
このように、Aのn乗の計算が大変楽になります。
<考察2>
「スペクトル分解」の
メリットの1つとして、スペクトル分解は射影行列でもあるので、回帰分析の計算がより効率的に行えます。射影行列は、
最小二乗法による回帰分析において、計算を簡略化することができます。
自己共役でなければスペクトル定理が適用できないです。
では、自己共役行列は何なのか?これは「エルミート行列」※3と呼ばれ、次の式が成り立ちます。
AA^{*} = A^{*}A
「対称行列」は「直交行列」で対角化できるのに対して、
この「エルミート行列」は「ユニタリ行列」で対角化できます。
このことを、自分の「ユニタリ行列」のページで紹介しています。
参考文献とリンク先)
「数学検定1級1次 線形代数」 江川博康 著
※1
「高校数学の美しい物語」射影行列 ・図付きで解説有り。
https://manabitimes.jp/math/2486
※2
「コペンハーゲン解釈」 エルミート行列のスペクトル分解
http://chanelkant.blog.fc2.com/blog-entry-178.html
※3
「数学の景色」 エルミート行列の定義と性質4つとその証明
https://mathlandscape.com/hermitian-matrix/