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アルミ電解コンデンサの寿命の検討

Last updated at Posted at 2022-03-30

1. はじめに

往々にして、作成した電子回路の寿命を予測する必要が生じます。

リレーやモータ、スイッチなどの可動部品の無い電子回路では、摩耗する部分はありません。
このような場合、寿命を決める大きな要因は、アルミ電解コンデンサではないかと思います。

回路上のアルミ電解コンデンサに、経年劣化による変化が起きると、機器に寿命が訪れます。

・キャパシター性能劣化で、回路が正常動作しなくなる
・液漏れにより周囲のパターンや部品を破損させる

弱点であるアルミ電解コンデンサに、どれくらいの寿命が期待できるのか、
資料から検討してみます。
使用頻度を考慮して、表面実装タイプの汎用(非固体)電解コンデンサと、
固体電解コンデンサについて調べます。

アルミ電解コンデンサよりも使用数が多い、積層セラミックコンデンサの寿命も、
おまけに追記しておきました。

タンタルコンデンサは... 今となっては、あえて使う必要は無い品種かと思います。

2. 読む資料

JIS C5101-1「電子機器用固定コンデンサ-第1部:品目別通則」
JIS C5101-18「表面実装用固定アルミニウム非固体電解コンデンサ-評価水準EZ」

※JIS 規格は、下記から無料で閲覧できます(要ユーザー登録)
 JIS検索

OS-CON テクニカルガイド (パナソニック株式会社) (ダウンロードには登録が必要)
アルミ電解コンデンサ テクニカルガイド (パナソニック株式会社) (ダウンロードには登録が必要)

アルミニウム電解コンデンサ テクニカルノート(ニチコン株式会社)
アルミニウム電解コンデンサ テクニカルノート(日本ケミコン株式会社)
アルミニウム電解コンデンサ テクニカルノート(ルビコン株式会社)
アルミニウム電解コンデンサ テクニカルノート(エルナー株式会社)
アルミ電解コンデンサの寿命(日本ケミコン株式会社)

3. アルミ電解コンデンサの寿命

上記の各資料の情報を総合すると、アルミ電解コンデンサでは、
下記の状態変化を "故障" と判断して、寿命に達したと判定します。

・静電容量変化率、損失角の正接(tanδ)、漏れ電流、のどれかが規定の値を超えたとき
・外観に著しい異常が発生したとき

この状態変化が起こらない、最小の時間数の目安を、部品の定格( 耐久性 )として表示します。
1000 時間とか 2000 時間が一般的ですが、長寿命タイプでは 5000 時間のものもあります。

※ 耐久性 = 動作状態で、規定の性能が維持される時間数(hours)

アルミ電解コンデンサは、電解液を内部に含んでおり、温度が高いほど蒸発が進みます。
そのため、 耐久性には 周囲温度の条件 も付与されています。
これを、カテゴリ温度と呼んでいます。

電解液以外の条件 (樹脂や材料の耐温度性能) もあるため、
必ずカテゴリ温度より低い温度で、使用する決まりになっています。

カテゴリ温度は +85℃ や +105℃ が一般的ですが、高温環境向けに +125℃ もあります。

という訳で、アルミ電解コンデンサの定格(耐久性)として、必ず カテゴリ温度と時間数
が示されています。
実際にこの条件で試験を行い、性能が規定値を下回らないこと(耐久性)を確認されたものが、
製品として販売されています。

4. 耐久性試験の定義

試験方法の大枠は、
JIS C5101-1「電子機器用固定コンデンサ-第1部:品目別通則」、
4.23 耐久性 で決められています。

試験の詳細条件については、コンデンサの種類毎に基準が設定され、
JIS C5101-xx の下位規格で決められています。

表面実装型の電解コンデンサでは、
JIS C5101-18「表面実装用固定アルミニウム非固体電解コンデンサ-評価水準EZ」の、
4.15 耐久性 に規定があります。

5. 耐久性試験の概要

下記の試験を行います。

JIS C5101-18
定義: 4.15 耐久性 (p.20)
要求事項: 表3 の 群3.4 (p.12)
試験する資料数: 20pcs (表2 の 3.4)

4.15.1 (一般事項)
4.15.2 初期検査(初期性能の確認)
4.15.3 通電試験(カテゴリ上限温度で、規定時間の間、直流定格電圧を印加)
4.15.4 後処理(16時間以上)
1.15.5 最終検査

試験期間として、2000 時間品なら 83.3日、5000 時間品なら 208日かかります。
かなりの長丁場です。

試験後に性能評価(最終検査)を行い、下記条件をクリアしていれば、合格となります。
(JIS C5101-18 表3 )

・静電容量、損失角の正接(tanδ)または等価直列抵抗(ESR)、漏れ電流、
 インピーダンスが規定値を超えない
・外観に異常が発生しない(表示の不明瞭化、液もれ、膨張、破裂など)

例えば +85℃/2000 時間カテゴリの電解コンデンサなら、
85℃ の恒温層で通電し続けて、84 日後に性能が確認できれば、合格となります。

6. 実使用環境での寿命の推定

実際の機器では、電解コンデンサはカテゴリ温度よりもずっと低い温度で使用されます。
(+85℃ カテゴリのコンデンサを、+80℃ の環境で使用することは通常ありません)

カテゴリ温度よりも低い温度で使用すると、コンデンサの寿命は延びます。
使用温度が 10℃ 下がる毎に、寿命は 2 倍になると言われています。
(アレニウスの法則)

+85℃/2000 時間のコンデンサを +45℃ で使用するとき、40℃ 分の寿命延長効果により、
2000 時間 x 2^4 = 32000 時間 が期待できます。
( 32000 時間 ≒ 1333 日 ≒ 3.65年)

しかし、この数字の根拠を要求されたとき、現物を 3.6 年間試験するのは非現実的です。

コンデンサメーカーは、その温度(+45℃)で使用したときに、十分に安全と思われる寿命を、
推定して示すしかありません。
出荷した製品の実績から、各メーカー毎にそれぞれ計算方法を、定めているようです。
(JIS では推定寿命の計算方法までは示されていない)

⇒ 同じカテゴリ(例えば +85℃/2000 時間)の電解コンデンサでも、
  +45℃ で使用する場合の推定寿命は、メーカー毎・品種毎に違うかもしれない

7. 固体電解コンデンサの推定寿命 (Panasonic OS-CON)

オーディオ機器や電源回路でおなじみの、固体電解コンデンサ(Panasonic OS-CON)の
推定寿命を検討してみます。
OS-CON テクニカルガイドに、推定寿命の計算式が書いてあります。

OSコン テクニカルガイド (ダウンロードには登録が必要)
https://industrial.panasonic.com/jp/ds/library/OS-CON_TechnicalGuide

OSコン テクニカルガイド 4-3. 推定寿命について (p.7)
1.png

表面実装形 OS-CON のカテゴリ温度/時間
・105℃/1000 時間 (SVPB)
・105℃/2000 時間 (SVP, SVPA, SVPC, SVPE)
・105℃/5000 時間 (SVPG, SVPF, SVPS)
・125℃/1000 時間 (SVF, SVPK, SXV, SVQP)
・125℃/2000 時間 (SVT, SVPT, SVPD)

計算結果は、下記のようになりました。

表面実装型 標準品 SVP シリーズ(105℃/2000 時間)
45℃での推定寿命 = 228年
55℃ での推定寿命 = 72.2 年

表面実装型 高信頼性品 SVPD シリーズ(125℃/2000 時間)
45℃での推定寿命 = 2283年
55℃ での推定寿命 = 722 年

45℃環境なら、標準品 SVP シリーズでも 228 年持つ計算ですが、ちょっと想像できません。
推定寿命の計算値が長大になってしまった場合の扱いを、下記から問い合わせてみました。

⇒ 計算結果によらず、推定寿命は最大で 15 年としてください、と回答がありました。
  最大15年縛りで温度を逆算してみると、85℃品で 68.6℃、105℃品で 88.6℃ までの
  温度環境で、寿命までの性能維持が期待できそうです。

なお、テクニカルガイドに、下記記載があります。
3.png
周囲温度20℃減で寿命が10倍 ⇒ めっちゃ長持ち

8. 非固体電解コンデンサの推定寿命 (一般のアルミ電解コンデンサ)

筆者の使用実績から、ニチコン製品の寿命を検討してみます。

アルミニウム電解コンデンサの概要(ニチコン)
https://www.nichicon.co.jp/series_items/catalog_pdf/ja/pdf/xja043/aluminum.pdf

図2-15 寿命推定早見表 (p.20) が示されています。
リプル電流、印加電圧による発熱を考慮せず、周囲温度のみから、
簡単に寿命を推定する図となっています。
2.png

excel でだいたい同じグラフが描けるように式を検討したところ、

Lx = Lo x 10^((To-Tx)/33)

となりました。
また、推定寿命は 15 年程度が上限になることが、別途記述されています。
4.png

計算結果は、下記のようになりました。

チップ 5.5mmL 標準品 WX シリーズ(+85℃/2000 時間)
45℃ での推定寿命 = 3.7 年
55℃ での推定寿命 = 1.85 年

チップ 広温度範囲品 UT シリーズ(+105℃/2000 時間)
45℃ での推定寿命 = 15 年
55℃ での推定寿命 = 7.5 年

推定寿命早見表は、周囲温度のみでの推定となっています。
実際にはリップル電流や漏れ電流による自己発熱があるため、
寿命はこれより短くなります。
⇒ +85℃/2000時間 標準品の寿命は、めちゃくちゃ短い!

PC などの発熱体の多い機器の内部は、室温+10℃以上になる事もあります。
夏はコンデンサの寿命が大きく削られ、冬は逆に伸びるようなイメージでよさそうです。

また、通電状態での時間数だけを考えていますが、電解液の特性を考えると、
実装前の保管時の温度も重要な気がします。

夏に冷房のない倉庫や車に保管すると、+50℃を超える事もあると思いますので、
寿命に影響が出そうです。

9. まとめ

・非固体アルミ電解コンデンサは生もの。標準品の寿命は数年。
・コンデンサ周囲温度を10℃下げれば、寿命を 2~3 倍伸ばせる。
・同じ使用温度では、105℃品は、85℃品より実寿命が 4~10 倍長くなる
・固体アルミ電解コンデンサは、非固体アルミ電解コンデンサよりもかなり寿命が長い
 (同温度なら推定寿命は 4~20 倍)
・コンデンサ製造メーカーが保証できる寿命は最大で 15 年。
 それ以上の長期間の使用で壊れても、製造メーカーに責任は問えない。
 (機器の使用期間に応じて、保守・更新することが必要)

24時間動作が要求される機器では、長寿命のアルミ電解コンデンサを使うべきですし、
一日に数時間しか動作させない機器では、通常のアルミ電解コンデンサでもよいでしょう。

一般に、部品の性能は価格に比例します。
使用用途や使用環境に合わせて、ちょうどよい物を選択するのが、賢い設計と思います。

※コンデンサの性能がメーカーの規定以下になったとしても、
 動作上の変化は電源のリップルが増えて、電圧ブレが大きくなるだけかもしれません。
 マージンがありますので、コンデンサ寿命到来で即座に故障する訳ではありません。
 コンデンサ寿命到来により、故障までのカウントダウンが始まるぐらいの感覚でしょうか。

10. おまけ1 - 積層セラミックコンデンサの寿命

村田製作所で計算例が示されています。
https://www.murata.com/ja-jp/support/faqs/capacitor/ceramiccapacitor/qlty/0010

+85℃ 1000 時間の耐圧 20V 品を、+65℃ で DC 5V で使用した場合で、41 年になるそうです。
一般向け用途では、積層セラミックコンデンサの寿命は、ほぼ考慮する必要が無さそうです。

耐久性の試験方法は、下記で定義されています。
JIS C5101-21(IEC 60384-21):表面実装用固定積層磁器コンデンサ種類1
JIS C5101-22(IEC 60384-22):表面実装用固定積層磁器コンデンサ種類2

11. おまけ2 - 四級塩問題

レトロ機器を扱う方で、アルミ電解コンデンサ由来の故障を見ると、
「昔の電解コンデンサは四級塩が使われてたから」等言われる方がおられますが、
私はこの説には懐疑的です。

顧客に量産採用されている電子部品の材料や製造方法を変えるのは、かなり困難を伴います。
(上記のように、耐久性 2000 時間のコンデンサでも変更検証に83日かかりますし、
仕様変更の ECN を出して全顧客にいちいち確認をとらないといけません)

採用側でも、変更部品での評価作業が発生してしまいます。
数年後の不確定な寿命を云々するよりは、現行部品をそのまま供給してくれる方がよいです。

もし材料を変更する場合は、型番を変えて別製品として発売するのではないかと思います。

中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(41)
アルミ電解コンデンサー(8)―― 市場不良と四級塩問題
https://edn.itmedia.co.jp/edn/articles/2003/18/news113.html

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