1. はじめに
昨今の電子工作界隈では、表面実装部品のはんだ付けが必須になっています。
ピンが外周に出ているパッケージなら手実装できますが、QFN などの下面パッドのある部品は、手実装では対応できません。
(パッド下に大きいスルーホールを開けて、裏からはんだする方法もありますが...)
そういった用途では、ホットエアや、もっと手近なホットプレートが利用されています。
私も割と頻繁に、ホットプレートで表面実装部品のはんだ作業をしています。
作業机に常備して、こて作業の横で、必要に応じてホットプレートも使用します。
調理用のホットプレートは、温度調整が大雑把なものがほとんどです。
温度が上がり過ぎたり、温度スイッチが切れて回復するまで待ち時間が必要だったりで、作業性がよくありません。
温度調整の精度を上げるため、産業用の温度調節器を組み込むことにしました。
2. 改造するホットプレート
私がはんだづけに使用しているホットプレートは、
吉井電気株式会社 (Abitelax ブランド)
APN-16G(R) 600W (W)24.5×(D)20.0×(H)17.0 (cm) 1.16Kg
https://www.yoshii-e.co.jp/product/dtl.php?code=apn16g&maker=abitelax
です。
2018年に、2000 円ほどで amazon から購入しました。
直径 18cm の本体に把手がついていて、狭い作業机の上でも邪魔になりません。
深鍋形状の容器の中に、直径 12cm のアルミ製発熱プレートがあります。
基板を調理する時は、付属の鍋は使わず、発熱プレートに基板を置いて加熱します。
壁があるので、発熱プレートに直接触れる危険が少なく、中華な小型リフロープレートより安全に使えます。
付属のガラス蓋は、発熱プレート周囲の灰色部分(フランジ)より大きくて使いづらいです。
フランジにぴったりはまる、16㎝ のガラス蓋を別途購入して使っています。
発熱プレートの温度制御は、バイメタルを使ったサーモスタット(温度スイッチ)で、昔ながらのタイプです。
温度が上がっていって、ある程度までいくと「カチッ」となってオフになり、冷えるとまた「カチッ」といってオンになります。
発熱プレートに直接基板を置くと、ガラスエポキシが溶けてしまうほど、火力が強いです。
そのため、0.3mm アルミ版を細切りしてコの字に曲げたスペーサを用意し、その上に基板を置いて使用していました。
こうすると、両面実装にも対応できます。
(下面の部品を避けるように、コの字スペーサを置いて使う)
一応、火力調整のつまみはついていますが、うまく調節できないので、最大火力 + スペーサで使ってきました。
現在、APN-16G はモデルチェンジして APN-10G になっています。
見た目はそっくりで、定格 500W に下がったのが気になりますが、同様に使えそうです。
値段も少し上がっているようです。
3. 内部回路の調査
底面のケーブル蓋のネジ2本と、上面の灰色部(フランジ)のネジ3本を外すと、分解できます。
4. 用意した温度調節器とSSR
使えそうな温度調節器を探します。
下記仕様であれば、各社どれでも(※)使えます。
入力: AC 100V
センサ: K 型熱電対
出力: SSR 駆動用 電圧出力
ヤフオクで、Panasonic AKT4112100 を、3,000 円ほどで入手できました。
定値タイプの温度調節器で、設定した温度に保つよう、ヒーターを制御してくれます。
ヒーターをオンオフする SSR は、Panasonic AQA211VL を、1,000 円ほどで入手できました。
15A まで対応の SSR で、600W(6A) までなら放熱器無しで使えます。
※温度調節器に、定値タイプではなくプログラム可能な物を使えば、リフローの温度プロファイルも実現できます。(お高い)
5. 用意した配線材等
熱電対は、aliexpress で購入したノーブランド品を使います。
他は手持ち品だったり、近所のホームセンターで揃えたりしました。
- (Ali) K 型 熱電対 (-200 ~ +1370℃ が測定できるセンサ)
- (NB) VFF ビニル平形コード(赤黒) 0.75mm2 (ヒーターの配線材)
- (NB) VFF ビニル平形コード(赤黒) 0.3mm2 (ヒーター以外の配線材)
- ニチフ TMEX-1.25Y-4S-赤 絶縁付きY形圧着端子 (SSR の負荷出力用)
- ニチフ TMEX-1.25Y-3N-赤 絶縁付きY形圧着端子 (SSR の入力と、温度調節器の各端子用)
- エーモン 3313 平型端子オス (187型、温度スイッチの置換接続用)
- 3M 558 電力用 U エレメントコネクタ (AC 100V 電源の分岐接続用)
(写真省略)
6. 改造作業
改造は、下記3点になります。
- 温度ヒューズは安全のためそのまま残し、温度スイッチを外して SSR へ接続する
- 熱電対を適当に固定して、温度調節器のセンサ入力に接続する
- 主電源ケーブルから電源を分岐させて、温度調節器の電源へ接続する
下図の温度スイッチ部分を、SSR に入れ替えます。
内蔵するのは無理なので、配線を外に引き出して、SSR と温度調節器を外付けします。
温度調節器は、ホットプレートの把手の下面にネジ止めして、コンパクトにまとめました。
SSR を割り込ませる平型端子は、厚さが不足していたので、2枚重ねて厚みを稼ぎました。
(端子部だけ切ってきて、肩をはんだ付けして固定)
ビニール線は通常の85℃品ですが、ホットプレート外壁の温度は触れても火傷しない程度なので、気にせず使用しています。
熱電対は、圧着端子で延長すると温度誤差が増えそうなので、直接ネジ止めしました。
(延長するなら補償導線を使え、と書かれていることがある)
蓋を閉める前に、熱電対を固定します。
発熱プレートに直接触れるように、適当に固定しました。
熱電対の被覆の耐熱温度が分からないので、溶けるかもしれません。
少し使ったら分解して確認することにします。
AC100V ラインから U エレメントコネクタで電源を分岐して、温度調節器へ給電します。
発熱プレートを鍋に戻してねじ止めして、底の蓋を閉めたら完成です。
7. 動作確認
最初に、100℃ぐらいの温度設定で開始して、ヒーターが暖まることを確認します。
SSR の確認 LED と、ホットプレートの加熱中ランプも連動しています。
熱電対による現在温度の取得も問題なさそうです。
SSR の発熱は手で触れる程度で、放熱版無しで大丈夫そうです。
目標温度を230℃に設定し、ガラス蓋をした状態でオートチューニングを走らせて、PID パラメータを決定しました。
200℃に設定して共晶はんだの基板を直接乗せて、サーモカメラで基板表面の温度を測り、補正値(+10℃)を決めました。
基板の場所で温度がかなり変わるので、後で微調整します。
温度調節器の設定は下記としました。
SV上限設定 300℃ (温度設定の上限)
SV下限設定 30℃ (温度設定の下限)
センサ補正設定 +10℃ (現在温度表示 = 熱電対取得温度 +10℃)
ガラス蓋を取ると、現在温度がすぐに下がってきます。
発熱プレートに接する基板下面と、部品が載る上面の温度差を減らすためにも、蓋は必須と思います。
8. まとめ
リフロー用に、高精度な温度制御が可能なホットプレートができました。
LED表示は、上段(赤)が現在温度、下段(緑)が設定温度です。
加熱はイナーシャが大きく、一瞬だけオンでもオーバーシュートがけっこう出ます。
付属のテフロン鍋とガラス蓋はそのまま残してあるので、調理も適温でできます。
たぶん使わないけど。