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メモリー効果解消! ニッケル水素充電池 自動リフレッシャ 兼 非常用 LED 照明の製作

Last updated at Posted at 2024-03-13

1. はじめに

便利に使えるニッケル水素充電池 (代表例: Eneloop)ですが、メモリー効果があることが知られています。

充電式電池のメモリー効果とは?(メモリー現象とは?) PZ18111 / Panasonic
https://jpn.faq.panasonic.com/app/answers/detail/p/1844,1848,1849/a_id/18111

Eneloop では、"メモリー効果はごくわずか" とされていますが、実際に複数本を運用していると、これメモリー効果かな?と疑いたくなる性能低下を感じることがあります。

もし、メモリー効果のような症状が現れた場合は、リフレッシュ(充電池を最後(終止電圧)まで放電し、再び充電する方法) を行えば回復します。

2. メモリー効果の解消方法 (自動放電器)

メモリー効果解消のための放電器ですぐに思い付くのは、電池に抵抗器を接続して、強制放電させる方法です。

放電中に時々テスターで電圧を見ながら、そろそろいいかな? とやるのですが、ずっと見ているわけにもいきません。ちょっと目を離しているうちに電圧が下がり過ぎて、過放電で電池にダメージを与えてしまいがちです。

そこで、自動で放電が終了する、自動放電器 を製作することにしました。

放電した電力を抵抗で熱にしてしまうと、無駄に地球を暖めるだけなので SDG 的によろしくありません。LED を光らせて、何かの役に立てたいと思います。

3. 放電終止電圧の検討

メモリー効果解消のため放電させるとして、どこまで放電するのが正しいのでしょうか。

Eneloop を三洋から引き継いだ FDK 社のデータシートでは、放電終止電圧(End Voltage)は 1.0V となっています。
1.png
単3: https://www.fdk.co.jp/battery/nimh/tech_info/HR-3UTG.pdf
単4: https://www.fdk.co.jp/battery/nimh/tech_info/HR-4UTG.pdf

1.0V 以下まで放電を続けると過放電となり、充電池の寿命を縮めてしまいます。

・1.0V まで、きっちり放電する
・1.0V に達したら、放電を終了する

ような放電器を作ることにします。

4. 光らせる LED の選定

赤や緑や青の LED を光らせても、放電中を示すインジケータにしかなりません。

折角なので、照明として使える白色 LED を光らせたいと思います。できるだけ高効率で、明るく光るものがよいです。

秋月電子で、白色大出力チップ LED 日亜 NSSW157T が安価に売られていますので、これを採用したいと思います。テレビのバックライト照明に使われているそうです。在庫も超多量にあるようですので、供給面でも安心です。

https://akizukidenshi.com/catalog/g/gI-16884/
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定格電流 If : 80mA
順方向電圧 Vf : 3.1V (If = 80mA 時)
光強度 : 8.5 cd

仕様の中で、定格 3.1V 80mA という数字が、重要です。

5. 1.0V の電池で、3.1V の LED を光らせる

NSSW157T を光らせるため、1.0V まで下がる電池の出力を、3.1V 以上に昇圧しないといけません。

昇圧タイプの DC/DC コンバータのうち、低電圧でも動作するものを選択します。電圧が下がったら放電を停止させるため、Enable/Disable 機能があることが必須です。

昇圧 DC/DC コンバータは、TI 製が品種豊富ですが、半導体不足の影響で入手性がよくないものが多いです。そこで、安価に入手できて流通もそこそこよい、中華半導体にチャレンジしてみることにします。

出力電圧は、NSSW157T の順方向電圧 3.1V ちょうどの物を選ぶと効率がよいですが、見つかりませんでした。出力可変タイプを 3.1V に設定するか、3.1V よりも大きい固定出力タイプで抵抗を介して、LED を駆動する必要があります。今回は、他の回路にも流用しやすい 3.3V 固定出力の物から選定します。

入手できる部品で、基板を試作して何品種か試してみて、素性の良かった QX Micro Devices 社の QX2304L33F を採用することにしました。
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http://www.qxmd.com.cn/productmores/86/3/14.html

6. 終止電圧で放電を終了する

電池の出力電圧を常時モニタしておき、終止電圧 1.0V を下回ったら昇圧動作を停止させて、放電を終了したいです。マイコンで ADC しながらモニタする方法がありますが、1.0V で動作できるマイコンは滅多にありません。

そこで、IC のリセット回路などで使用されるボルテージディテクタを使用してみます。指定の電圧を境に、出力が変化するコンパレータで、様々な種類のものが販売されています。1.0V 未満の低電圧を検出できる製品もあります。

今回は、ローム社のボルテージディテクタ BU4210F を採用します。
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https://www.rohm.co.jp/products/power-management/voltage-detectors/adjustable-delay-time/bu4210f-product

この出力で DC/DC コンバータの Enable 端子を制御して、放電を終了させます。

7. 非常用照明

単純な昇圧回路ですので、ニッケル水素電池だけでなく、通常の乾電池でも LED を光らせることができます。乾電池としての利用寿命を終えた後でも、1V 以上の余力があるので、照明に使えると災害時に役に立ちます。

北海道地震で丸2日間の停電を体験しました。夜に真っ暗闇になってしまうと、何もやることがなくなります。当初はスマホのライトも使いましたが、バッテリーを温存するため、蝋燭などの無電源照明が欲しくなりました。災害用電池を準備していなくても、部屋に転がっているテレビやエアコンのリモコンから電池を抜いて光源に使用できると、とても役に立ちます。

充電池の放電動作では、1.0V で制御信号を操作して昇圧回路を停止させています。制御信号を使わないようにすれば、電池の限界まで、光らせることができます。制御信号を切断して、電池の最後の一滴まで絞り取り、非常用照明として利用します。

1P3T スライドスイッチを使用して、スイッチ一つで 3 つのモード(電源 OFF・1.0V リミットつき放電 ON・リミットなし放電 ON)を操作することとしました。

なお、同様のコンセプトの懐中電灯が、商品として販売されています。
https://panasonic.jp/battery/contents/safety/light.html#flashlight

電池がどっちかライト Panasonic BF-BM01 を購入してみました。懐中電灯ですので照射範囲が限定されますが、センタースポットは非常に明るいです。電池一本で光るので便利です。
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8. 回路の設計

キーデバイスは前述のとおりです。
ほか、抵抗やコンデンサ、インダクタなど適当に選定します。

回路図は下記のようになりました。
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SW1 は、右端が OFF、中間が 1.0V リミットつき ON、左端がリミットなし ON になっています。

9. 基板の設計

電池は、Eneloop でよく使われる 単3 と 単4 に対応することにしました。基板実装用の電池ケースは種類が少ないのですが、秋月電子で入手できるものを選びます。

単3用 https://akizukidenshi.com/catalog/g/gP-00308/
単4用 https://akizukidenshi.com/catalog/g/gP-02670/

当初、2種類の電池ケースを使える共用基板で設計しましたが、単3サイズ基板に単4電池ケースでは、基板がはみ出てしまい不便でした。改版して、単3、単4 それぞれ専用の基板としました。単4 用を設計して、基板の周囲を拡大するだけで 単3 用が作れます。

表面実装部品は容易に手実装が可能な 1608 までとし、あまり密集させずに配置します。アートワークは Quadcept で行い、Elecrow で基板製造しました。
component.png component.jpg
solder.png solder.jpg

10. 部品実装と動作確認

届いたプリント基板に部品を実装して、動作を確認します。なんだかんだで、5回の改版を経て、最終基板となりました。
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電源装置で電圧特性を確認してみます。1.0V 制限つき放電モードでは、確かに 1.0V 付近を境にして、LED が消灯します。

最後の一滴まで搾り取るモードでは、点灯した状態から電圧を下げてゆき、0.6V 程度までそれなりの光量で発光を維持できました。テレビのリモコンが反応しなくなるまで使った古電池でも、それなりの明るさで光らせる事ができます。

NSSW157T はほぼ 180 度の照射角があり、一つで部屋全体をそれなりに照らすことができます。スマホのライトと同程度の光量があり、発熱はほとんどありません。

使い勝手の面では、電池ケースの底面を使って自立できますので、簡易ろうそくになります。試しに部屋を真っ暗にして、机状に3本立てて、読書ができることを確認しました。
(とはいえ、暗いところで本を読むと目が悪くなりそう)
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11. 注意点

電源オフは、電池の切り離しではなく Enable 制御端子によるスリープ状態となるため、微弱に電流が流れます。デバイス仕様から、QX2304 の静止電流 最大 1uA + BU4209F の静止電流 最大 1.4uA が、常時流れます。

長期間、電池を入れたままにすると、完全に放電されてしまいます。終止電圧モードでも、LED が消灯したら速やかに電池を抜かないといけません。

つぎ足し充電は可能ですか? PZ18112 / Panasonic
https://jpn.faq.panasonic.com/app/answers/detail/a_id/18112/~/%E3%81%A4%E3%81%8E%E8%B6%B3%E3%81%97%E5%85%85%E9%9B%BB%E3%81%AF%E5%8F%AF%E8%83%BD%E3%81%A7%E3%81%99%E3%81%8B%3F-pz18112

メモリー効果を気にしすぎて、頻繁に全放電を行うと、過放電がちになってしまいます。
リフレッシュは、容量が気になってきた頃に、たまに実施する程度でよいかと思います。

12. まとめ

ニッケル水素充電池 自動リフレッシャ 兼 非常用 LED 照明」が完成しました。組立キットとして販売したいと思いますので、よろしくお願いします。目指せひとり秋月電子!
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(単3用・単4用 各1本づつセットのキットです)

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