はじめに
LITALICOの亀田 ( @kamesennin ) です。執行役員VPoEとして様々なことを行っています。
※ LITALICO Engineers Advent Calendar 2021 カレンダー1 の24日目の記事です。
今年のアドベントカレンダーでは2記事目です。1記事目の「M&A成立後、初めの3ヶ月で使えるリバースエンジニアリングの心得」は6時間くらいかけて頑張って書いたので、是非こちらもご覧ください。報われます。
また、毎年アドベントカレンダーは「今年自分が力を入れたことの集大成」と意識して書いていまして、今年は「PMIの成功」と「採用力向上」が自分のメインミッションだったなと改めて思います。
前提
採用について
2021年5月に公開されたLITALICO IR資料の事業方針の中に「エンジニアリング力」や「データ分析力やプロダクト開発力」とあるように、"エンジニアやデザイナー組織の強化"が経営戦略の中心の1つとして掲げられています。
画像引用元:株式会社LITALICO 2021年3月期決算説明資料
ビジョンに向けて"つくるべきプロダクト"や"IT化/DX化を推進すべきポイント"を考えると、現状の5倍-10倍の生産力が必要なことは明確でした。
「人数」は1つの変数でしかないので、増やせばいいって話ではないですが、案件数が増える上では重要な変数のため、昨期(2020年4月-2021年3月)までは年間10名ほどのエンジニア/デザイナー正社員採用を、今期(2021年4月-2022年3月)どこまで高められるかに挑戦してきました。
すると、社長は勢いよく「今年100名の採用を目指そう!」と言っていました。(いつも想像を超えるハイボールありがとうございます。)
(もうちょっと穏やかな成長を検討していたのですが)、非連続な成長は今までの延長線上にない目線感で戦略を見直した時に起きると考えるため、「100名を達成するためには何をすべきか」で考え直すことにしました。
本記事ではそのプロセスと結果について、まとめます。
10Xとは
- 10名の採用 → 100名の採用(10X!)
- 10Xの参考:目標にゼロを1つ足すだけで成果が10倍になるGoogle 式10X(テンエックス)思考法
ちなみに、なぜ正社員なのか
業務委託契約の方やパートナー企業の方々にも助けて頂いています。その上で正社員採用100名を進めています。正社員だからこその役割を補足すると
- LITALICOが関わる領域(障害福祉/児童福祉、学校教育や介護福祉)は複雑性が高いです
- 法令理解/変化、ステークホルダーの多さ(福祉/介護事業、自治体、学校、病院、家庭、企業)、グローバルで見ても前例の少なさ、ライフステージ(子ども~成人~老後)ごとの連続性を見ながら各ポイントで何が課題か知る必要あり、などから、課題設定~ソリューション設計まで一筋縄にいかないです
- よって職種限らず日々手足を動かし、あるべき状態の議論をし、日々鮮明にすることが重要です
- その上で、業務委託契約やパートナー企業の方々はドメインと一定切り離し、短期で生産性を高めたい時を主に組ませて頂いています
- 市況も事業も変化は激しいので、どうしても短期で生産力を上げたくなるタイミングはきます。しかし正社員雇用となると組織とのカルチャーマッチや希望されるキャリアや働き方とフィットする仕事を継続的に提供出来るのか?など丁寧にお互いのマッチングをみる必要もあり、短期での拡大が難しい場合があります
- そんな時に多様な組織の案件に携われたことから、「技術力や課題解決力、短期でのキャッチアップ力の高さや組織に馴染む力」があり、1社ずつに長く滞在することで身につかない面での専門性を有されていて、非常に心強いです。
と、今は考えていますが、ベストとは思っておらず、LITALICOとして世の中にどういった関わり方で、どうやって組織拡大をすべきか、は日々考えて改善に努めています。
記事の目的とゴール
DX化をキーワードにする背景
- 今年は採用力が大きく向上したのですが、振り返るとその要因に「DX化」というキーワードがあったなぁと感じたので、この度DXという言葉を利用しています。
記事の目的
- 採用力強化に向けて様々なことを行ってきた中で「何が良かったか、何がまだある課題か」を棚卸し、再現性ある学びにつなげる。更には来年の戦略策定に向けての現状把握の材料にする
記事のゴール
- 採用×DX化を進める中での学びが公開され、社内外限らず世の中の採用活動がもっと素晴らしくなることへ貢献すること(しかし自社の競争優位性はうまいこと隠します)
前提整理
DXについて
経済産業省によるとDXの定義は
参考元:DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~
とのことです。これらを踏まえて、僕の今の解釈は
- デジタル技術を軸に今までのビジネスやサービスや業務のそもそものあり方が変わること
としています。(既存の業務プロセスがITで効率化されたりちょっと便利になったりするのはIT化)
今年の採用の流れを時系列
2021年3月(DX化など改善に踏み込む前)
- 例年通り、年間10名程度の採用で着地をする(割と全力でやってきました)
2021年4月
- 100名採用の目線で考えてみようという意志を持つ
2021年5-6月
- 短期の採用を動かしながら、100名採用のイメージがわかないので、リサーチやヒアリングを行う
2021年7月
- 経営全体の様子を見て、リアリティあるゴールを"今期100名採用"ではなく、"年間100名の採用ペース(月7-8名)の実現と手法の確立"とする
- 戦略策定 & 経営陣への提案と予算獲得
2021年7-8月
- DX化を中心に、採用プロセスの大幅改善を一気に推進する
2021年9月~2021年12月
- 採用数が月5-6名ほどにまで拡大(年60~72名ペース、かつ継続性あり)
戦略策定の前情報を整理
現状把握
- 採用数値
- 10名採用に対して、各面接数/面談数、通過率、書類やスカウト数などを整理
- 採用体制
- 採用担当はほぼ2名
- エンジニア/デザイナーは多くの方が積極的関与(ありがたい...)
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採用運用
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組織図(社内資料より)
100名採用達成時の状態像
-
組織図(社内資料より)
-
採用数値
- 役割ごとの数を↓のように算出(ex. TechLead、バックエンドエンジニア、SRE、QA、データサイエンス)
- 書類/スカウト○名 → 通過率○% → 初回面談数○名 → 面接接続率○% → N次面接数○名 → N次面接通過率○% → 内定数○名 → 承諾率○% → 承諾数X名
状態像を精緻化させるため、他社を調査
- 同規模の採用をし、組織人数を有している企業様の事例等をいろんな方法で調査
- 友人と話したり、インターネットで調べたり、etc...
結論、解決すべき課題は何か
1.採用力の課題
- 1-1.母集団が足りない
- そもそも出会えないと話にならない
- 1-2.内定承諾率が悪い
- 最後の最後で選んで頂けない場合が多発、現在の率だとマーケットサイズ的に母集団形成が不可能な状態
- 1-3.オペレーションコストが爆発しそう
- 人の依存性が高い運用で、複雑性も高いので、抜け漏れ発生/コスト増加などが非常に懸念
- 1-4.情報統制が心配
- 業務フローも複雑だが、少人数だから成り立っているだけで、アクセスへの権限管理が激しく不安
- 1-5.社内体制の不足
- 年間採用数が6-7倍となると、オペレーション面/施策推進面/選考面など、あらゆる部分での不足が想定
2.組織力の課題
- 2-1.生産性を上げられるか
- 単純作業ではない仕事において、人数が増えるほど1人辺りの生産性が落ちるのが世の常
- 2-2.働きやすさを上げられるか
- コミュニケーションや情報流通のミスやロス、役割や目標設定/評価などのばらつく値
課題を踏まえて、戦略策定時の注意点
まったくもって単純計算は出来ないですが、仮に以下のように整理をしてみます
- 人数:100人 × 1人あたりの生産量:1.0 = 組織の生産量:100
- 人数:200人 × 1人あたりの生産量:0.9 = 組織の生産量:180
- 人数:180人 × 1人あたりの生産量:1.0 = 組織の生産量:180
- 人数:100人 × 1人あたりの生産量:1.8 = 組織の生産量:180
今現在100名ほどの組織なので、
- 組織全体の生産量を1%あげること/1%下げないことは1名採用をすることと同等の価値
- 1名の方が楽しく&生産的に働けることで、継続勤務することは1人採用する以上の価値
と見て、採用数に盲目的にならないよう、むしろ組織の生産性や働きやすさ向上を、より先に先に改善すべきと考えます。(振り返ると、採用数に気を取られてバランス悪くなっていた自分がいたなと大きく反省です。変えます。)
しかし、本記事では「採用力をどう高めたか」にフォーカスを当てます。(組織改善はまた書きます、集大成として来年のアドベントカレンダーでどれだけ進化したかを自信持って発信します)
戦略策定
採用観点での、課題解決の方法を検討
上記の課題から「採用力」のみ取り出して、何をすべきか整理します
- 1-1.母集団が足りない → 母集団を増やす
- エージェント、スカウト、媒体、広報、などのいろんな方法をどう組み合わせるかを検討
- 1-2.内定承諾率が悪い → 内定承諾率をあげる
- 候補者の方の意向を上げるコミュニケーション設計を検討
- 1-3.オペレーションコストが爆発しそう&1-4.情報統制が心配 → オペレーション改善、データの安全で正しい利活用
- オペレーションの再設計
- 1-5.社内体制の不足 → 体制を強化する
- 必要人員・予算の獲得
これらを俯瞰して整理します
するとオペレーション改善がまず重要であり、結果として「より少ない予算・人」「より多くの施策」が打てるように見えます。
よって、まずはそこから考え出すことにしました。(同時に、効果ある攻めの施策は何か?を確かめるためにいろいろやりました。)
では、改めて改善前の運用を見てみます。
現状のツールを用いた運用最適化もありそうですが、「そもそも劇的に改善する方法がないのか?」の視点にたって、いわゆるDX化をキーワードに「採用活動のベースにシステムがあって、データが自然と貯まり、その上で運用が効率的に成立」はどう実現されるのか?で考えました。
当時の仮説は、ATS(採用管理システム)がキーワードになりそう、でした。
ATSもHRMOS、HERP、SONAR、hubspot、i-web、ジョブカンなどを調べました。
それぞれのツールに良い点があり、採用人数/ポジション/採用活動の進め方などで向き不向きがあると気付き、LITALICOのエンジニア/デザイナー採用活動は「エンジニア/デザイナーも採用部とかなり一緒に動き、一人ひとりの候補者へ個別最適な対応を行い、一定長期に渡って採用をする」が特徴と整理しました。
それにより HERP というツールがベストと行き着きました。(2021年6月時点)
※ちなみに他の職種では別のツールを利用しています(エンジニア/デザイナーと他職種では、採用運用もデータも疎結合で、この使い分けはベストだなと今でも思います)
細部は割愛しますが、全体の運用としては以下のようになっています。
時系列の概念を省いていますが、ほぼ意識しなくてよくなったことを表しています。
やり取りも情報もすべてHERPに集約されたので、選考官が意識するのはslack通知/HERPのみです。
一言でいうと、採用の業務プロセスは大きく変わったが、煩雑さは一気になくなり、ストレスも大きく軽減し、データを活用したPDCA/候補者の方々との丁寧なコミュニケーションが実現された、といったことで
- デジタル技術を軸に今までのビジネスやサービスや業務のそもそものあり方が変わること
まさにDXに近しい状態ではないかと思いました。
上記図にある各論の概要
HERPを中心に、以下各論の積み重ねによって、オペレーション改善とプロセスの品質向上が実現されたので一部紹介します。
業務効率化
-
採用目線の言語化と評価入力へのテンプレ化
- 採用目線の言語化
- 言語化した内容を評価入力項目としてテンプレ化
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選考中の情報収集のテンプレ化
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オファーレター作成と1to1の業務効率化
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情報発信
-
面談/面接調整の自動化
-
タレントプールの運用と自動化
- HERP内にあるタレントプール用のツールに面談や面接の結果を自動でデータベース化
- 半年や1年先でのアクションをリマインダーとセットでtodo化
-
選考状況のリアルタイム把握
-
選考フローのオンライン化
- 全選考フロー(応募~入社まで)オンライン完結可能に
- 採用部の方のイケてるアイディアでオンラインオフィスツアーなども実施
データ活用
- HERPにテキスト情報(評価、作戦会議などのやり取り)/選考の各ファネル(数・率)の全ログを保存
- HERPと連携されたダッシュボードへの自動更新、一元管理の実現(職種ごとの全ファネルの情報が一発で見れる)
情報統制
- 権限の付与(候補者ごとに社員の見れる権限を簡単につけ外しができる)
振り返り
成果はどうなったか
- 関わる採用部は6名と3.0倍、面接官は1.5倍ほどに拡大
- 今年の冬は月5-6名採用と60-72名/年ペースまで拡大(6-7倍成長)
- 関わる人数が4.5倍になって採用数(力)が6倍という、量を上げて質があがる悪くない結果へ
振り返って、何が良かったか
- まず土台となるオペレーション、データ管理、情報統制を整備したこと
- 初めの2-3ヶ月はここに時間を取られたが、結局強固な土台の上に安心と安定の大きな改善がある
- 増やしてもクオリティが大きく乱れず、自然と拡張に向かえた点が良い
- 一人ひとりに(今までと比較したら遥かに)丁寧なコミュニケーションを取りながら、多くの方に会えたこと
- スカウト通数やクオリティ向上による返信数の圧倒的向上、エージェントの皆さんとのブリーフィングによる紹介数向上
- ※スカウトを中心に ポテンシャライト さんから多大なるアドバイスとお力添えを頂きました(本当にありがとうございます。)
- 一人一人の困りや希望を深く聞き、リアルタイムに最適な情報や、マッチングを確かめるための面談設定が可能になり、内定承諾率も倍以上へ改善(元々が低いのもある)
- オファー面談前に面接参加者全員による作戦会議(誰が、どういった情報を、どうお伝えすれば魅力を伝えられるかなど)
- 採用部の皆さんの実行力の圧倒的な高さがあったこと
- 僕の「やってみよう」に対して、すごい速度で運用に反映される機動力の高さ、問題が起きた時に個々人の判断でオペレーションが改善されるパワーに感動
もっと進化できる所は何か
- 面談/面接が一定非同期で行えるようにお互いビデオ録画で伝えるなどの検討
- 採用目線はじめ、テンプレ周辺の振り返り
- 採用広報(自然と応募がくる認知向上 or pushした時にピンとくる状態を目指す)
- カレンダーとHERPの自動連携、などより細部の業務を自動化推進したい
- などなど
学びや気付きは何か
- DXは「トップダウン」と「最適なシステム」と「実行力」
- トップダウン:すでに導入されそうなATSをひっくり返して(ごめんなさい)、HERPの導入を力技で行う
- 全社最適ではなく、エンジニア/デザイナー採用の規模感と速度感と動き方にあった最適なツールを、オペレーションの根源のためゼロベースで考えたかった(採用プロセスや中身で最適なツールは異なる。本記事にも記載)
- リサーチ、投資獲得、導入判断、運用設計なども採用部の皆さんの力を大いに借りて短期間で決定と導入推進
- 最適なシステム:HERPって素晴らしいツールと出会えたこと
- 自社開発では達成するのがかなり時間がかかるクオリティの高さ
- これは単純に運が良かったです
- 実行力:採用部の皆さんの圧倒的な実行力と対応力の高さ
- 上記にも書きましたが組織の強さに感動と感謝です
- トップダウン:すでに導入されそうなATSをひっくり返して(ごめんなさい)、HERPの導入を力技で行う
- 属人化と組織化の繰り返しの上に最強の組織あり
- 属人化:まず自分で手足を動かす、極端なほどにやりきる、他がやらないまでやりきる、勝ち方を見つける。オファーレターも情報収集も評価項目も全部僕主導で決めきりました。
- 組織化:勝ち方が見えたら組織へ渡して当たり前のオペレーションへ
- 過去の実績を大いに無視した高い「目標」とによる10Xの実現
- 10名程度の目線でやっていたら全力投球して10名でした、数年それを繰り返していました。せいぜい10%の改善
- 100名目線でやったら、根本のやり方を変えて、10Xの実現が見えてきた。大きな学びです。
最後
結論12月時点では6-7倍成長だったのですが、10Xは成し遂げられそうです(タイトルどおり)
成し遂げたらタイトルと中身を「成し遂げた」に更新します。
振り返るとメインはただ「HERPを導入し、他社もやってる細かな施策をHERPと接続しながら積み重ねたこと」が大半ですが。その積み重ねの先に偉大な成果や競合優位性の土台があるなと強く実感です。DX化とは、かっこいい技術を使ったり見栄えの良さそうなことばかりに逃げない、戦略とあるべき状態をシャープにし、それにまっすぐ向かうことが大切だと改めて学びました。
採用プロセスにおいては、成果を見ても、世の中のテックカンパニーと比較して恥ずかしくない水準が見えてきた気がします、次はグローバル最先端を目指して独自性ある面白く成果でる採用プロセスを来年は構築したく思っています。
来期を見据えると引き続き同等の採用力を持てる進化は持たねばとひりついているので、更にがんばります!
では、明日最終日は我らがCTOの @yuyaichihashi さんです。
ものすごく読み応えのある最高傑作です。(CTOというお仕事 〜2021年 LITALICO CTOの場合〜)
アドベントカレンダーも明日でいよいよ最終日!
少し早いですが来年度のLITALICOもよろしくお願いいたします^^