タイトルを変更して加筆・修正しました@2017-12-30
旧題:ディープラーニングも学べる名著「人工知能は人間を超えるか」がAmazonで300円を切ってるので宣伝します。
#どんな本?
書籍情報:
タイトル -- 人工知能は人間超えるか ~ディープラーニングの先にあるもの~
著者 -- 松尾豊(東京大学准教授)
出版年 -- 2015/3/10
紙の本の長さ -- 242 ページ
ファイルサイズ-- 14.5 MB
出版社 -- KADOKAWA / 中経出版
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想定読者:「人工知能に興味はあるが詳しいことは知らない人」
おおむね一般向けと言っていいと思います。
あとがきによれば、経済産業省のお役人さんに頼まれて
「素人にも人工知能のすごさがわかるように説明したプレゼン」
が元になっているそうです。
著者について
「日本トップクラスの研究者」(あらすじより)
東京大学 特任准教授
日本人工知能学会倫理委員長(2014/12~)
#おすすめ:☆5
人工知能に興味があるシロウトの入門書としては最適でしょう。
実績のある研究者が人工知能研究の歴史から将来予測までを平易な言葉で解説してくれています。
特に出版当時話題だったディープラーニングについては1章を割いてじっくり説明しています。
僕自身は初読時に「ディープラーニングって話題になってるけど、どういうことなのか全然わからん」という状態でしたが、読み終えた後は「大体こういうことらしいな」というところまでは行きました。最新技術の本って「何とか最後まで読んだけど結局何だったのか全然わからん」ってこともよくあるので、かなりよい本なのではないかと思います。
ただ、僕自身は知識こそなかったものの、人工知能というものにそれなりの興味があったため、ディープラーニングの解説が始まる第5章までそれなりに熱心に楽しく読めましたが、そこに至るまで100ページ以上はあるので、人によってはキツイのかもしれません。たとえ話をたくさん交えてくれたり、「ざっくり言うとこういうこと」のようなまとめを入れてくれたり、冒頭で「この章は大体こんな話」と述べてくれたりと、様々な工夫がこなされていますので、読みやすいとは思いますが。
##ディープラーニングのことはどのくらいわかった?
主成分分析についてある程度理解していたため、機械学習が大雑把には主成分分析に近いことをしていて、ディープラーニングは「主成分分析を非線形にし、多段にした上で、各主成分の頑健性を高める工夫をするもの」である、と言われれば、「はえーなるほど、そうなんか」ってなりました。わかった(わかったとは言ってない)くらいのもんで、実際にディープラーニング使って何かをする、みたいなことは遥か彼方にあるわけですが、、、
#面白かったところをピックアップ
##で、人工知能は人間を超えるの?
A. 超える(というか、一部ではすでに超えている)
本書でも将棋でコンピューターが名人を破った例が挙げられています。「人間そのもの」のような人工知能が出現するにはまだまだ相当な時間がかかるのでしょうが、知性とされるものの一分野においては既に追いつき、追い越していると言えるでしょう。
CPUの処理能力が一定水準を超えた現在、肉体疲労というバッドステータスが存在しないコンピューターに対し、人間が勝つのはもはや困難なのでは、と思います。2015年4月の電王戦のようにプログラムのバグをついて勝つ、というのも状況によってはありうるんでしょうけど、バグは克服されますし。
##人工知能ブームに乗り切れない人工知能研究者たち
現在のディープラーニングとビッグデータによる人工知能の流行は第三次AIブームと位置付けることができ、第一次(60年代)、第二次(80年代)のAIブームも存在しました。それぞれのブームの後には「やっぱり人工知能なんてできないじゃないか」となり、人工知能研究者はかなり冷遇されたため、それなりの年齢の研究者たちは今回のブームにおいても慎重に見定めようとしているそうです。
##AlphaGoについて
本書の出版年は2015年3月ですが、囲碁については「将棋よりもさらに盤面の組み合わせが膨大になるので、人工知能が人間に追いつくのはもうしばらく先になりそうだ」とあります。実際には二年後には世界チャンプを倒し、人類の理解できない領域に到達してしまったわけで、改めてAlphaGoについて興味がわいてきました。
##「人工知能が人類を支配するなんて滑稽」
全体を通して「人工知能研究の推移を予測するのは専門家でも困難」という慎重な論調なのに、人工知能脅威論に関してはかなり強く否定しています。これは筆者さんの立場(日本人工知能学会倫理委員会委員長)があるからじゃないかなーと想像します。倫理委員会の人が「まぁ、どうなるかはわかりませんけど、そんなことになったら面白いですよね」とは言えないでしょうし。
##人工知能は人類の知性とはかけ離れたものになるかも
人間の知性は肉体のセンサーによる入力(視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚)を元に形成されるわけで、異なるセンサーを持つコンピューターが形成する知性が人間と全く同じものになる方がおかしい、というようなことが述べられていました。これは言われてみれば尤もなことで、ますます人工知能の魅力が増すな、と感じました。人類のコピーではなく、全く異なる知性体を創り出せるというのは、とても興味深く価値のあることです。
「車より速く走れなくても、ウサイン・ボルトが偉大であるように、コンピューターが人間より賢くなろうとも、人間の知性の価値が損なわれることはない」というようなことをどこかで読んだ記憶がありますが、人工知能が進歩していった結果、単に人間の上位互換ではなく、異なるハードウェアに基づく異なる知性体系を持った隣人となり、お互いに尊重しあえるとしたら、それこそ人類史上最大の発明と言えるんだろうなーと