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マサカリの起源について

Last updated at Posted at 2017-03-22

はじめに

技術的な指摘をすることを「マサカリを投げる」と呼ぶ。ネットスラングにありがちだが、この言葉の意味は常に変動しており、地域、人によっても定義が異なる。現在では、何か自分で詰めが甘いことを書く時に「修正、批判コメント歓迎」の意味で「マサカリをお願いします」と言ったり、誰かが適当なことを書いてコメントやブコメで炎上している時に「さっそくマサカリ投げられてて草」というような使われ方をしているようだ。

この「マサカリ」という言葉がいつ、どのような形で使われるようになったのか、できる範囲で調べてみた。

2006年以前

僕は1990年代の後半から2000年の前半にかけて、Niftyのフォーラムや、いくつかの技術系メーリングリストに登録していたが、当時この意味での「マサカリ」という言葉を目にした覚えがない。とりあえず当時所属していて、現在過去ログが見られるDelphiやBCB-MLの[過去ログ]
(http://www2.big.or.jp/~osamu/Delphi/)で検索してみたがヒットしなかった。少なくとも2006年くらいまでは、「マサカリ」は技術的な指摘や批判という意味では使われていなかったと思われる。

Qiitaでの検索

まず、Qiitaで検索してみる。Qiitaで「マサカリ」を含む最古の記事はおそらくこれだと思われる。

マサカリ,「それ○○で出来るよ」コメント,覚悟してます.

この用例から、「マサカリ」とは技術的なコメント、特に「覚悟してます」という言葉からわかるように、「かなり強い口調による批判に近いニュアンス」を見ることができる。

追記:この「マサカリを覚悟」という表現の真意については、本記事のコメント欄に当該記事の筆者によるコメントがあるので、そちらをを参照のこと。

Twitterでの検索から「モヒカン」へ

次に、Twitterで検索してみる。2010年以前より遡ると、「マサカリ」は、ほぼ金太郎か村田兆治。それ以外の用例もあったのかもしれないが、S/N比が悪くて発見が極めて困難だった。今のところ遡ることができた「技術的なコメントという意味でのマサカリ」は以下が最古1

  • 2009年2月14日

「マサカリ」が「モヒカン」という言葉と一緒に使われている。「モヒカン」もネットスラングで、初出はotsuneという人の以下のブログのようだ。

  • 2005年06月14日

「ネットのお宅くんたちの理屈は気持ち悪いので聞き入れるつもりは有りません」というありがちな遮断 @ void GraphicWizardsLair( void ); //

彼らは大関東地獄地震が起こったことを知らずに目立つ行動をしてしまって、駆けつけたモヒカンで手斧を持ったプロテクター姿のシステム管理者やプログラマやネットジャンキーたちに原理主義攻撃でボロボロにされちゃう。

この「モヒカン」あるいは「モヒカン族」というネットスラングは2006年頃からしばらく流行ったらしい。

漫画『北斗の拳』の悪役雑魚は平和な村に出没し、村民を斧で殺戮する。一方、ネット上の「モヒカン族」のイメージは、「誤字脱字の指摘は人格否定とは思わない」「ネット上の場の空気が読めない」「殺伐とした議論を求む」「理系の淡々としたノリ」「詭弁と例え話と断言を使いこなす」などだ。
「正しいけれど、シラケる発言」をするので、イラつく。また、古くからネットに接しプログラムやシステムに強い人が多いようで、単なる「荒らし」ではなく、「ぶっきらぼうなのでぎょっとするが、実は単なる天然で悪意が無く、淡々と指摘をしている学者肌の人」が真の正体だとotsuneさんは見る。

この時点では「モヒカン」の武器は「斧」「手斧」であり、「マサカリ」ではない。

さて、Twitter上での2010年5月16日から18日のこの一連の会話を見つけた。

ここでは「モヒカン」が「マサカリもって走り回る人」と定義されており、いつのまにか武器が「手斧」から「マサカリ」になっている。少なくとも2009年から2010年にかけて、「モヒカンの武器=マサカリ」という図式が出来上がったと考えられる。

Twitterでは2011年頃から「技術的な指摘」という意味での「マサカリ」が急増するが、この時期ではあくまで「モヒカン」が主であり、「マサカリ」はその武器にすぎない。

  • 2011年6月27日
  • 2011年12月25日

Googleで「モヒカン マサカリ」の検索結果

さて、どうやら「マサカリ」は「モヒカン」と関係がありそうだということがわかった。Googleで「マサカリ」を検索するとS/N比が悪いので「モヒカン マサカリ」で検索することにしよう。

2011年まではあまり発見できなかったが、2012年頃から急に出現が増える。

モヒカンを怖がってちゃダメだ!!やつらと同じ切れ味のマサカリを一刻も早く手に入れるんだ。

でも気づけばモヒカンが多数集まることで有名?なHadoopソースコードリーディングで発表することになりました。
いやー、緊張したわー。モヒカンからマサカリとか椅子投げられたらどうしよーとか思ってました。

  • 2012年 6月20日

僕が社内ライブラリを OSS 化すべきだと思う3つの理由 @ 鳩舎

マサカリなんてたってても飛んできますし、僻地で種籾を大事にしていてもモヒカンは突如やってくるものだと思います。

  • 2012年6月28日
    (java-ja の例外とロギング勉強会で発表してきました)[http://tanakh.jp/posts/2012-06-28-java-ja.html] @ 純粋関数空間

今回は java-ja さんの勉強会という事で、 なにやらモヒカンとかマサカリとかが飛んでくるらしい、 とんでもないところに来てしまったとビクビクしていましたが、 この難局も何とか乗り切りました。はい。

  • 2012年8月6日

モヒカンから誠意という名のマサカリが飛んできたときのライフ八苦 @ 虎塚

(ただ最近は自分をモヒカンと勘違いしてるアレな人もたまにいるので、批判を真に受ける前に、その人のコードを見に行くというライフ八苦もありうる。もちろん本人の審美眼が問われるけれども)

なお、カリー化と部分適用は別ものであるので、うっかり混同するとモヒカンがマサカリを放り投げてくる。

2012年頃までで特徴的なのは、「勉強会」における「モヒカン」や「マサカリ」の用例が多いこと。「あまりそっち方面の知識が無い自分が、プロ(≒モヒカン)ばかりいる場所で話すとマサカリが飛んでくるのではないかと不安」といった用例が多い。

また、改めてQiitaで「モヒカン」を検索してみると、こんな記事が見つかる。

最初のソーシャルコーディングで周囲のテーブルと打ち解けて、そこから、少しずつレベルをあがっていく感じで、初心者からモヒカンまでいい構成だったので素晴らしかったです。

ここでの「モヒカン」は、おそらく単に「専門的知識が豊富な人」として使われており、あまりネガティブには使われていない。

2013年以降

2012年ぐらいまでは「モヒカン=空気は読めないが、専門的知識はある人」みたいな捉え方だが、2013年以降から「どうやってモヒカンに備えるか」といった話題が多くなる。以下のブログでは、「モヒカン」をかなり否定的にとらえている。

モヒカンとは、技術的に優れている風を装い、勉強会などの会合で新参者に技術的に 正論と思われる論理を武器にして制裁を与える人種である。と、まぁここではそうしよう。 よくあるべんきょーかい、いべんとではマサカリを投げる、椅子を、斧を投げると言われる、 なんとも恐ろしい人たちである。

初めてあった 人たちが本当にただの腐れクソ内輪で、バカみたいなマサカリごっこをしてるようだったら 俺はコミュニティに絶望していたことと思う。

2013年頃からその傾向はあったが、2015年くらいになると、だんだん「モヒカン」が消え、「マサカリ」だけが生き残る。以下は2015年の江添さんのブログの記事。

  • 2015年4月28日

ビッグデータツールチェインのセキュリティはビッグリスク、あるいは、誰もHadoopをスクラッチからビルドする方法を知らない件について
@ 本の虫

もし、マサカリかついだ経験豊富なシステム管理者が近くに板ならば、ここまでひどくなることはないだろう。

原文は

It wouldn't be so bad if we had some experienced sysadmins with a cluebat around.

であり、ここでは「cluebat (棍棒)」を「マサカリ」と訳している。「cluebat」は一種のネットスラングで、Wiktionaryによれば

(computing slang) A bat (club) with which someone clueless is (figuratively or in one's imagination) struck.

と定義されている。こちらはかなりネガティブな意味。この「cluelessな人が振るう棍棒」を「マサカリ」と訳すということは、当時すでに「わりと困った人による(例えば揚げ足取りに近い)困った指摘やコメント」を「マサカリ」と呼ぶ雰囲気があったのだと思われる。
コメ欄の指摘の通り、受動態なので「clueless、すなわち無知な人 振るわれる棍棒」が正しいですね。なので「マサカリ」とほぼおなじ用法だと思われる。

まとめ

以上、調べたことを時系列でまとめるとこうなる。

  • 2005年 「技術モヒカン」という言葉が生まれる
  • 2009年〜 「モヒカン」の武器として「マサカリ」が使われるようになる。
  • 2011年〜2012年頃 勉強会における「厳しい質問/指摘」の意味で「マサカリ」が使われるようになる。
  • 2013年〜 「モヒカン」が消え、「マサカリ」だけで使われ始める
  • 2015年〜 「マサカリ」の意味がかなり広くなる。もともとは「空気の読めない人による正論」という意味だったが、だんだん「単に対応に困るコメントや批判」という意味でも使われ始める。

「マサカリ」が「技術モヒカン」由来なのはほぼ間違い無いと思われる。しかし、2005年の「技術モヒカン」の誕生から、2009年から「モヒカンの武器」として「マサカリ」が使われ始めるまでしばらく空白があり、どういう経緯で「マサカリ」が誕生したのかはまだよくわからない。このミッシング・リンクが発見された時、「マサカリ」の歴史が完成すると思われる。

本ポエムに対するマサカリを歓迎します。

追記:ハンドアックスについて

コメ欄にて、「モヒカンの原始の武器はハンドアックスであった」という情報をいただいたので調べてみた。

まず、そう言われてみると「マサカリ=ハンドアックス起源説」を採る人は結構見つかる。

あらためて「モヒカン ハンドアックス」でぐぐると、いろいろ興味深い記事が見つかる。

「モヒカン的な態度でいたい」と思っている人は、モヒカン族を語る前にハンドアックスを投げる。

もともと「モヒカン」という概念がはてなグループで発展した言葉なので、そこでいろいろ付随する言葉が生まれていったようだ。

こちらはRubyistマガジンのインタビュー記事から。

arton 高橋さんが書いてたよね。温厚な人に見えるけど、あれで言語のことになると、ハンドアックス投げまくって、とんでもないやつなんだと。
(笑)
ささだ モヒカンってやつね。

モヒカンの武器としてハンドアックスという言葉が定着している。おそらく用法も現在の「マサカリ」とほぼおなじ。

ちょっとでも隙があれば斧が飛んでくる。隙がなくても意見の相違があれば飛んでくる。ハンドアックスの応酬は はてな村では珍しい景色ではありませんでした。いろいろ言われますが、はてな村の魅力はここにあったと思います。みんなが玄関先によく切れるハンドアックスを常備していた、そして切れ味を磨くための努力に余念がなかった――そんなふうに思います。

ここでは「ハンドアックス」は「モヒカン同士の鋭い指摘」のメタファーとして使われている。調べてみると現在でも「モヒカン」や「ハンドアックス」という言葉は使われてはいるんだけど、このブログ記事の雰囲気から感じ取れるように、「モヒカン」という概念そのものがあまり普遍的に共有されなくなっていて、それにともなって「ハンドアックス」という言葉も使われなくなっていったようだ。

以上を踏まえてもう一度まとめると、

  • 2005年 「技術モヒカン」という言葉が生まれる。この時の武器は「手斧」。
  • 2006年頃 すぐに「モヒカン」の武器として「ハンドアックス」が使われるようになる。
  • 2008年頃 モヒカンの武器として「ハンドアックス」が定着。用法も「ハンドアックスを投げる」など、現在の「マサカリ」とほぼ同様。
  • 2009年〜 「モヒカン」の武器として「ハンドアックス」のかわりに「マサカリ」が使われるようになる。
  • 2013年〜 「モヒカン」という言葉が衰退しはじめ、「マサカリ」だけで使われ始める。「モヒカン」と強く結びついていた「ハンドアックス」という言葉もこの時期に衰退。
  • 2015年〜 「マサカリ」という言葉が生き残る。

という感じ?

さらにマサカリ(or ハンドアックス)を歓迎します。

さらに追記:マサカリの由来について

現在のところ、いつ頃「ハンドアックス」から「マサカリ」になったかわからないのだが、この記事への反応で「マサカリ」の起源として興味深い情報があったので追記。

「斧鉞を加える」由来説

まずはこのツィート。

上記のつぶやき経由でkinabaさんのこのつぶやき2

つまり、古くから「斧正(ふせい)を請う」「斧鉞(ふえつ)を加える」という言葉があった。特に後者の「斧鉞を加える」とは、もともと伐採のために「斧」や「鉞(マサカリ)」を振るうという意味から転じて、詩文などに大きく手を加えることを指す。

たとえば徳田秋声全集にはこんな文章が出てくる(歴史的仮名遣いを適当に直した)。

悪く云えば、つぎはぎにいろいろな文句を寄せ集めたのであつて、そこに真の整頓と云ふ斧鉞が加えられていないのである。そのままで斧鉞を加える段になると、おそらくその全部を抹殺しなければならぬことになるかも知れぬが。

これは1918年に出版された「小品文作法」の一部であり、ある人が書いた文章を添削するという文脈で使われている。ここで「斧鉞を加える」とは、「遠慮のない添削をする」という意味で使われていて、どことなく現在の「マサカリ」に近い印象がある。

また、ウィクショナリーの斧鉞の項目には

  1. 斧(おの)と鉞(まさかり)。
  2. 文章の推敲、校正。比喩表現として「~を加える」などと用いる。
  3. 征伐。
  4. 重大な刑罰。中国で斧と鉞が刑罰の道具として用いられたことに由来する。

と、4番目に気になる項目がある。ほとんどの場合2番目の意味で用いられていたと思われるが、どちらかというと4番目の意味に引きずられて、「容赦ない批評を加える」という意味で使われた可能性が高い。

ただし、ここでの(マサカリでなく)鉞は、投げるというよりは、振るうイメージだと思われる。

パタリロ由来説

あと面白かったのがコレ。

いま手元に「パタリロ!」が無いので確認できないのだが、たしかに「マサカリ」が飛んでたり、パタリロだかタマネギだかの頭にマサカリが刺さってたりした記憶がある。そこから「ハンドアックス→マサカリ」と変化した可能性もある。ただし、「パタリロ!」の最初の連載は1978年から1990年であるから、時期としてはリアルタイムでは無い。

本ポエムでは引き続きマサカリを歓迎いたします。

  1. TAKANOさんによると、マサカリの出現はWassrやIRCの方が早かったのでは?とのこと。このツィート参照。

  2. なお、kinabaさんは「マサカリ」が「斧鉞」に由来するとは思っていないとのこと。このツィート参照。

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