はじめに
理工学部の学生にとって、フーリエ変換、ラプラス変換は必須の科目であろう。しかし、フーリエ変換については物理的な意味がわかりやすく、変換もきれいなので受け入れられる学生さんも多いのだが、ラプラス変換については「逆変換の積分がなぜ複素平面を「縦」に、しかも軸がずれて走るのかわからない」とか「微分をラプラス変換するとゴミがでるのが気持ち悪い」など、「フーリエ変換に比べると美しくない」と感じる人がいるようだ。
しかし、ラプラス変換とフーリエ変換はきってもきれない仲である。本稿では、あまり話題にされないラプラス変換とフーリエ変換の関係についてまとめておく。
フーリエ変換
まず、フーリエ変換を定義しておこう。変換前の変数を$x$、変換後は$k$としよう。これは実空間と波数空間に対応する。関数$f(x)$のフーリエ変換は以下のように定義する。
$$
\mathcal{F}[f] \equiv \tilde{f}(k) = \int_{-\infty}^\infty dx f(x) \mathrm{e}^{-ikx}
$$
フーリエ変換後の関数には「ハット」をつけることが多いが、後でラプラス変換と区別するために「チルダ」をつけて$\tilde{f}$と表記していることに注意。
フーリエ逆変換は以下のように定義する。
$$
\mathcal{F^{-1}}[\tilde{f}] \equiv \frac{1}{2 \pi} \int_{-\infty}^\infty dk \tilde{f}(k) \mathrm{e}^{ikx}
$$
ここまでは単に定義の確認である。
ラプラス変換
さて、フーリエ変換ができる条件は、関数$f$が絶対可積分であることなどはご存知であろう。この条件はかなり厳しい。そこで、こんな変換により、関数$f(x)$から新たな関数$g(x)$を定義する。
g(x) =
\left\{
\begin{matrix}
0 & x < 0 \\
f(x) \mathrm{e}^{-ax}& x \geq 0
\end{matrix}
\right.
つまり、$x<0$ならゼロとし、$x\geq 0$なら$\mathrm{e}^{-ax}$をかける、という変換である。ただし$a$は実数である。これにより、関数がだいぶ「おとなしく」なることが想像できると思う。
さて、この関数$g(x)$をフーリエ変換してみよう。
\begin{align}
\mathcal{F}[g(x)] &= \int_{-\infty}^\infty dx g(x) \mathrm{e}^{-ikx}\\
&= \int_0^\infty dx f(x) \mathrm{e}^{-(a+ik)x}
\end{align}
ここで、$s = a + i k$と定義すると、
\begin{align}
\int_0^\infty dx f(x) \mathrm{e}^{-(a+ik)x} &=
\int_0^\infty dx f(x) \mathrm{e}^{-sx} \\
&= \mathcal{L}[f]
\end{align}
これは$f(x)$のラプラス変換の定義にほかならない。簡単のため$\mathcal{L}[f]=\hat{f}$と表記することにしておこう。つまり、
$$
\mathcal{F}[g] = \tilde{g} = \mathcal{L}[f] = \hat{f}
$$
である。
$f(x)$がフーリエ変換が不可能な関数であったとしても、$a$を十分に大きく取れば$g(x)$がフーリエ変換可能になる場合がある。これがラプラス変換がフーリエ変換より「広い」範囲の関数を受け入れる理由である。
さて、$f(x)$のラプラス変換とは、$g(x)$のフーリエ変換$\mathcal{F}[g]$であった。これをフーリエ逆変換すれば、$g(x)$に戻るはずである。そのままフーリエ逆変換の定義に突っ込んでみよう。
$$
\begin{aligned}
g(x) &= \mathcal{F^{-1}}[\mathcal{F}[g]] \
&= \frac{1}{2\pi}\int_{-\infty}^{\infty} dk \hat{f}(s) \mathrm{e}^{ikx}
\end{aligned}
$$
さて、$x>0$なら、$g(x) = \mathrm{e}^{-ax} f(x)$であるから、
$$
\mathrm{e}^{-ax} f(x) = \frac{1}{2\pi}\int_{-\infty}^{\infty} dk \hat{f}(s) \mathrm{e}^{ikx} \
$$
よって、
$$
f(x) = \frac{1}{2\pi}\int_{-\infty}^{\infty} dk \hat{f}(s) \mathrm{e}^{(a+ik)x} \
$$
ここで、$s= a + ik$であったから、$ds = idk$に注意して積分変数を$k$から$s$に取り直すと
$$
f(x) = \frac{1}{2 \pi i} \int_{a -i\infty}^{a + i\infty} ds \hat{f}(s) \mathrm{e}^{sx}
$$
これはラプラス変換逆変換に他ならない。変数変換により、積分が縦に、つまり虚数軸に並行に、しかも$a$の分だけずれた場所を走ることがわかるであろう。
ここで、$a$は、積分
$$
\int_0^{\infty} dx \mathrm{e}^{-ax} |f(x)|
$$
が収束するように選ばなければならない。これは$g(x)$がフーリエ変換可能であることからくる要請であり、$a$が$f(x)$のすべての極より右側にくることを意味する(ここでは詳細に立ち入らないので教科書を参照せよ)。
まとめ
関数$f(x)$にたいして、$x<0$ならゼロに、$x\geq 0$なら$\mathrm{e}^{-ax}$をかけて、「より収束しやすく」した上でフーリエ変換したものがラプラス変換である。ラプラス変換が、軸の中途半端なところを「縦に」積分しなければならない理由も、フーリエ逆変換と$k$から$s$への変数変換から理解できるであろう。
フーリエ変換もラプラス変換も線形微分方程式を解くのに極めて重要であるが、特に工学応用上では初期値問題、つまり「時刻$0$での状態と、その後の時間発展を記述する微分方程式が既知である時に、時刻$t$での振る舞いを知りたい」というニーズが多いことから、ラプラス変換の方がよく使う気がする。
本稿が少しでも「ラプラス変換気持ち悪い」と思ってる人の役に立てば幸いである。