一言で
デジタル庁が指揮して作ってるシステムがひどい
最初に
今現在、デジタル庁は「地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化」というわけのわからないことを行っています。
このプロジェクトではリンクのページで仕様書が公開されているのですが、皆さんは目を通したことはありますか?
私は仕様書に目を通して絶望しました。
本題
このページにある「003 戸籍」の最新版仕様書(現時点で第4.0版)をダウンロードして展開し、中にある「003_戸籍_基本データリスト【第4.0版】_20240430.xlsx」を開いてください。
これは恐らくテーブル設計について書かれているものなのですが、7609行目をご覧ください。以下のようになっています。
カラム名が「入るべき戸籍の父氏名_振り仮名」となっています。
ツッコミどころはたくさんありますが一旦すべてスルーして、7621行目を見てみましょう。想像通り、以下のようになっています。
このカラムは両方「届書_出生」テーブルにあり、子供は父と母の間から生まれることが前提となっています。しかし、子供が必ず父と母の間に生まれてくるという前提は誤りです。何らかの形で精子の提供があれば、父がおらずとも母から子供は生まれてきます。日本の法律には嫡出子の推定が規定されており(民法第七百七十二条)、父という存在は法律によって定義されたものであって、その定義は将来的に変わる可能性があります。
昨今では同性婚の法制化に向けた議論が活発になっており、それは自民党から民主党に政権交代すれば必ず実現するでしょう。個人的には岸田政権の間に実現する可能性さえあると思っています。同性婚が実現すれば、女性同士のカップルは子を産むことが可能です(再三になりますが、精子提供を受ければ母だけで子を産めます)。そして生まれた子は母が二人いることになりますが、現状のテーブル設計だと登録のしようがありません(実際に生んだほうを母のカラムに入れて父のカラムは空欄にすればよいと思った方は戸籍とは何のためにあるのかを改めて調べてください)。
なので、日本で同性婚が法制化されるとデジタル庁が進めている地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化は、少なくとも戸籍のシステムは一から作り直しです。あるいはこのプロジェクトを言い訳にして同性婚の法制化を先送りにするかもしれません。
補足
なおこのシステムがジェンダー問題に疎いのかといえばそうでもなくて、住民基本台帳のテーブル設計では性別を真偽値ではなくコード値で扱っており、将来的に「男」と「女」以外の性別が設定される可能性を考慮しています。もっとも考えられるのは、男に生まれながら性適合手術を受けずに戸籍上の性別を女に変更した人を区別することでしょう。行政としても、いくら性自認が女でも身体的性別が男の人に子宮頸がんワクチンを接種させるわけにはいきませんから。
最後に
本当に伝えたいことは別にあります。それはデジタル庁が進めているプロジェクトがあまりに稚拙で税金の無駄遣いだろうという話です。興味を持った方はぜひ他の要件定義書やテーブル設計書に目を通してください。すでにお分かりの方もおられるでしょうが、ひどいの一言に尽きます。日本のSIerのレベルの低さが端的に表れていると思います。批判をするならすべて言語化しろ、とおっしゃる方もいるかと思いますが、そういう方こそぜひ仕様書を読んでください。批判を言語化するより自分で設計しなおしたくなるはずです。私にはこのひどさをうまく言語化することができず今回のような記事になってしまいました。この記事は私より言語化の得意な方がよりクリティカルな記事を書いてくれるまでの繋ぎです。