💡 はじめに

「自分の考えをまとめようとしても、話があちこちに飛んでしまう…」
「報告書や企画書を書いたけど、読んだ人から『結局何が言いたいの？』と聞かれてしまった…」
「もっと論理的で、説得力のある文章が書けるようになりたい…」

ビジネスシーンでは、自分の考えを整理し、それを分かりやすく、かつ論理的に相手に伝える能力が不可欠です。頭の中では理解しているつもりでも、それを構造化された明快な文章に落とし込むのは、意外と難しいものですよね。

今回ご紹介するバーバラ・ミント氏の世界的名著のエッセンスを日本人向けに解説した『入門考える技術・書く技術―日本人のロジカルシンキング実践法』（山崎康司氏訳）は、まさにその 「構造的に考え、分かりやすく書く」ための普遍的な技術を、基礎から丁寧に教えてくれる一冊です。

「ロジカルシンキングを基礎から学びたい」「説得力のあるビジネス文書を作成できるようになりたい」「自分の考えを整理する力を高めたい」――そう願うすべてのビジネスパーソンにとって、思考とコミュニケーションの質を向上させるための強力な武器となる内容だと感じました。

📚 書籍の概要

本書の中心的なメッセージは、相手に考えを効果的に伝え、理解と納得を得るためには、まず自分自身の思考を論理的に構造化し、その構造に沿って文章を組み立てることが不可欠である、ということです。

そのための具体的な方法論として、本書ではコンサルティングファームのマッキンゼー・アンド・カンパニーで開発され、世界標準となっている思考・コミュニケーションの技術 「ピラミッド原則（Pyramid Principle）」 が紹介されています。この原則に基づき、

考えをどのように整理・構造化するか（考える技術）
構造化された考えを、いかに分かりやすい文章に落とし込むか（書く技術）
という二つの側面から、実践的なノウハウが解説されています。

原著である『考える技術・書く技術』は、その内容の深さから難解とされることもありますが、本書はその核心的なエッセンスを抽出し、日本人学習者が理解しやすいように、平易な言葉遣いと具体的な事例を用いて丁寧に解説されているため、ロジカルシンキングとライティングの入門書として最適です。著者のバーバラ・ミント氏は、マッキンゼーにおいて長年ライティング指導に携わってきた、まさにこの分野の第一人者です。

✨ 重要なポイント/学び

本書の中核をなす「ピラミッド原則」とその関連要素について、特に重要だと感じたポイントを3つご紹介します。これらは、あなたの思考と文章を劇的に変える可能性を秘めています。

1. 思考と文章の設計図：「ピラミッド原則」の基本構造

相手に何かを伝える際に、最も分かりやすく、説得力のある構造とはどのようなものでしょうか？本書が提唱するピラミッド原則によれば、それは以下の要素から成るピラミッド型の構造です。

頂点（レベル1）: あなたが伝えたい最も重要なメッセージ（結論、主張、提案など） を一つだけ置く。
中間（レベル2）: 頂点のメッセージを直接的に支える複数の主要な根拠や理由を、論理的なグループに分けて配置する。
土台（レベル3以降）: 中間の根拠や理由を、さらに具体的な事実、データ、事例などで補強・証明する。

文章を書いたり、プレゼンを構成したりする前に、まず自分の考えをこのピラミッド構造に当てはめて整理することが、分かりやすいコミュニケーションの第一歩となります。

なぜこれが重要か？
この構造を用いることで、話の全体像と、結論に至るまでの論理的な道筋が非常に明確になります。聞き手や読み手は、まず頂点のメインメッセージを把握し、次にそれを支える根拠へとスムーズに理解を進めることができます。書き手にとっても、思考のヌケモレや論理の飛躍を防ぎ、一貫性のある構成を組み立てるのに役立ちます。まさに、論理的な思考とコミュニケーションの「設計図」 と言えるでしょう。

あなたならどう考えますか？：レポートや企画書のアウトラインを作成するとき、まず「一番伝えたい結論（メインメッセージ）」を決め、次に「それを支える主な理由やポイント」をいくつか考える、という手順を踏んでいますか？

2. ピラミッドを強固にする：「縦」と「横」の論理ルール

単にピラミッドの形に並べるだけでは、論理的な構造とは言えません。本書では、ピラミッドを構成する要素間に、明確な論理関係が存在する必要があると説いています。

縦の関係（上位と下位の関係）:
- 上位のメッセージに対して、下位の根拠群は 「Why So?（なぜそう言えるのか？）」 という問いに答えるものでなければならない。
- 逆に、下位の根拠群から、上位のメッセージは 「So What?（だから何が言えるのか？）」 という問いに対する答えとして導き出されなければならない。
横の関係（同じ階層の要素間の関係）:
- 同じ階層にある複数の根拠や理由は、MECE（ミーシー：Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive、つまり「漏れなく、ダブりなく」） であるべき。
- かつ、それらの要素は、論理的な順序（例：時系列順、重要度順、構造順など） で並べられているべき。（演繹的な論証か、帰納的なグルーピングか）

なぜこれが重要か？
これらのルールを守ることで、ピラミッド全体の論理的な整合性と妥当性が担保されます。「縦」の関係は主張と根拠の直接的な繋がりを保証し、「横」の関係は根拠の網羅性と分かりやすい構造を保証します。これにより、読者は論理の迷子になることなく、スムーズに書き手の思考を追体験し、深い納得感を得ることができるのです。

あなたならどう考えますか？：自分の主張（結論）に対して、「その根拠は何ですか？」と問われたときに、明確に答えることができますか？また、複数の理由を挙げるとき、それらが論理的に整理され、ヌケモレがないか意識していますか？

3. 読者を引き込む導入部：「SCQA」によるストーリーテリング

どんなに論理的な本文でも、読者が「読む気」になってくれなければ意味がありません。本書では、文章の導入部（序文）において、読者の関心を引きつけ、続きを読む動機を与えるための効果的な構成としてSCQAというフレームワークを紹介しています。

S (Situation - 状況): 読者が知っている（あるいは同意するであろう）客観的な状況や背景を示す。
C (Complication - 複雑化): その状況の中で発生した変化や問題点（読者が「え？」と思うようなこと）を提示する。
Q (Question - 疑問): その変化や問題点から自然に生じる疑問（読者が抱くであろう問い）を明確にする。
A (Answer - 答え): その疑問に対する書き手からの答え（＝文章全体のメインメッセージ/ピラミッドの頂点） を提示する。

このSCQAの流れで導入部を構成することで、読者は 「なぜこの文章を読む必要があるのか」「これから何について書かれるのか」 を明確に理解し、スムーズに本論へと読み進めることができます。

なぜこれが重要か？
導入部は、読者と書き手の間の「架け橋」です。SCQAは、読者の思考プロセスに寄り添いながら、自然な形で本題へと導くためのストーリーテリングの型とも言えます。単に結論を提示するだけでなく、その背景や文脈を示すことで、読者の問題意識を高め、メッセージの重要性を効果的に伝えることができます。

あなたならどう考えますか？：報告書やメールの書き出しで、いきなり本題に入るのではなく、「（状況）現在〇〇の状況ですが、（複雑化）最近△△という課題が出てきました。（疑問）そこで、どう対応すべきか検討した結果、（答え）□□という方針が良いと考えます」のように、読み手が背景を理解しやすいような導入を心がけていますか？

🚀 具体的アクションプラン

本書で学んだ「考える技術・書く技術」を、日々の仕事で実践するための具体的なアクションプランを3つ提案します。まずは簡単なことから試して、論理思考と表現力を磨いていきましょう。

【ピラミッドの骨子を作る】
次に少し長めの報告書や企画メモなどを作成する際に、いきなり本文を書き始めるのではなく、まず「一番伝えたい結論」を1文で書き出し、それを頂点に置きます。 次に、その結論を支える主な理由やポイントを3つ程度箇条書きにし、ピラミッドの基本的な骨子を作ってみましょう。
【「縦」と「横」をセルフチェック】
上記で作ったピラミッドの骨子や、あるいは自分が書いた文章の構成を見直して、 「本当に『なぜなら（Why So?）』と『だから（So What?）』で繋がっているか？（縦の論理）」、 「根拠や理由はMECE（漏れなくダブりなく）になっているか？順番は適切か？（横の論理）」 を自分でチェックしてみましょう。論理の弱い部分を補強する訓練になります。
【導入部をSCQAで書いてみる】
次回のプレゼンテーションの冒頭や、提案メールの書き出しなどで、SCQA（状況→複雑化→疑問→答え）の流れを意識して、導入部分を構成してみましょう。 相手が話の背景と目的をスムーズに理解し、本題に興味を持ってもらえるような「掴み」を作る練習です。

✅ まとめ

バーバラ・ミント氏の教えを基にした『入門考える技術・書く技術』は、ロジカルシンキングとライティングスキルを基礎から学びたいと考えるビジネスパーソンにとって、まさに必携の入門書と言えるでしょう。

本書の中核である 「ピラミッド原則」 は、単なる文章作成テクニックではなく、複雑な情報を整理し、論理的に思考し、そしてそれを相手に明快に伝えるための普遍的な「OS（オペレーティングシステム）」 のようなものです。

ピラミッド構造で思考を組み立て、縦横の論理を検証し、SCQAで読者を引き込む――これらの技術を習得することで、あなたの書く文章、そしてプレゼンテーションは、格段に分かりやすく、説得力のあるものへと変わっていくはずです。

「分かりやすいね」「論理的だね」と言われるコミュニケーションを目指して、ぜひ本書で紹介されている「考える技術・書く技術」を実践してみてはいかがでしょうか。

この記事が、皆さんの思考力と表現力を磨くための一助となれば幸いです。

あなたの職場では、どのような場面で「論理的に考え、書く技術」が特に求められますか？また、本書で紹介されているピラミッド原則やSCQAを、どのように日々の業務に取り入れていけそうでしょうか？ぜひ、皆さんのご意見や実践アイデアなどをコメントで共有していただけると嬉しいです。

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