💡 はじめに

「細かい部分ばかり気になって、全体像が見えなくなってしまう…」
「理屈は分かるんだけど、具体的に何をすればいいのか分からない…」
「会議で、『総論は賛成だけど、各論になると話が噛み合わない』なんてことはありませんか？」

こうした悩みや状況は、もしかしたら物事を 「具体的」に見る視点と 「抽象的」に見る視点、そしてその両者を自在に行き来する思考力が関係しているのかもしれません。

今回ご紹介する細谷功さんの著書『「具体⇔抽象」トレーニング思考力が飛躍的にアップする29問』は、まさにこの 「具体」と「抽象」の世界を往復する思考力の重要性を解き明かし、それを鍛えるための具体的なトレーニング方法を示してくれる一冊です。

「もっと視野を広げたい」「物事の本質を見抜く力をつけたい」「学んだことを応用できるようになりたい」と感じているすべてのビジネスパーソンにとって、思考のOSをアップデートするような、大きな気づきを与えてくれる内容だと感じました。

📚 書籍の概要

本書の中心的なメッセージは、デキる人、思考力が高いと言われる人は、「具体」（＝個別の事象、事実、目の前の現象）と「抽象」（＝パターン、法則、概念、本質）という異なる次元を、意識的あるいは無意識的に、自由に行き来する能力が高い、ということです。

そして、この 「具体⇔抽象」の思考の往復運動能力は、才能ではなく、後天的にトレーニングによって鍛えることができる、と著者は主張します。本書は、身近なテーマ（例：「『整理整頓』を具体的に言うと？」「『犬』と『猫』の共通点は？」など）に関する29の「問い」が用意されており、読者が実際に手を動かしながら、この「具体⇔抽象」トレーニングを体験できるユニークな構成になっています。

著者の細谷功さんは、ビジネスコンサルタントとして活躍されており、複雑な物事をシンプルに捉え、本質を見抜く視点に定評があります。本書も、難しくなりがちな「思考法」というテーマを、非常に分かりやすく、かつ実践的に解説しています。

✨ 重要なポイント/学び

本書はトレーニングを通じて学ぶ形式ですが、その根底にある「具体⇔抽象」思考の重要性について、特にビジネスパーソンにとって価値があると感じたポイントを3つご紹介します。

1. 「具体化」と「抽象化」それぞれの役割とバランスの重要性

まず基本として、 「具体化」 と 「抽象化」 はそれぞれ異なる役割を持っています。

具体化（抽象→具体）:
- 役割：抽象的な概念や計画を、目に見える形や実行可能なアクションに落とし込むこと。
- 例：「売上向上」という目標（抽象）を、「新規顧客へのアプローチを増やす」「既存顧客へのクロスセル提案を行う」といった行動（具体）に分解する。アイデア（抽象）をプロトタイプ（具体）にする。
- メリット： 実行力が高まる、現実味が増す、共有・共感しやすくなる。
抽象化（具体→抽象）:
- 役割：個別具体的な事象や経験から、共通のパターン、法則、本質を見抜き、概念として捉えること。
- 例：いくつかの成功事例（具体）から、「顧客ニーズへの迅速な対応が鍵」という成功要因（抽象）を抽出する。様々な事象（具体）を「リスク」「チャンス」などに分類（抽象化）する。
- メリット： 本質理解が深まる、応用力が高まる、全体像を把握できる。

本書では、この「具体化」と「抽象化」の両方の能力をバランス良く、状況に応じて使い分けること、そして両者をスムーズに行き来（往復）することが、高い思考力の鍵であると述べられています。具体に偏ると「木を見て森を見ず」になり、抽象に偏ると「絵に描いた餅」になりがちです。

あなたならどう考えますか？：普段の仕事や思考において、「具体的に考える」ことと「抽象的に（本質や全体像を）考える」こと、どちらの比重が大きいと感じますか？そのバランスは適切だと思いますか？

2. 「抽象化」が生み出す応用力とアナロジー思考

なぜ「抽象化」の能力が重要なのでしょうか？本書によれば、その最大の理由は 「応用力」を高めるためです。

ある具体的な経験（事例A）から、その背景にある法則や本質（概念X）を抽出（抽象化）することができれば、その法則（X）を、まったく別の具体的な状況（事例B）に適用（再具体化）することが可能になります。これがアナロジー（類推）思考の基本的なメカニズムです。

例えば、

将棋の定石（具体A）から駆け引きの原則（抽象X）を学び、ビジネス交渉（具体B）に応用する。
あるプロジェクトの失敗（具体A）から原因（抽象X）を分析し、次のプロジェクト計画（具体B）に活かす。

このように、抽象度を上げることで、一見無関係に見える事象同士を結びつけ、知識や経験を横展開することが可能になります。

なぜこれが重要か？
変化が激しく、予測困難な現代において、過去の経験や既存の知識を新しい状況にいかに応用できるかは、極めて重要な能力です。抽象化能力は、未知の問題に対する解決策を見出したり、新しいアイデアを創出したりするための源泉となります。

あなたならどう考えますか？：これまでの仕事や人生で得た「教訓」（抽象化された学び）を、別の新しい状況で活かせた経験はありますか？

3. 「具体化」がもたらす実行力と共感力

一方で、「具体化」の能力も同様に重要です。どんなに素晴らしいアイデアや計画（抽象）も、具体的な行動に落とし込まれなければ、現実を変えることはできません。

実行力を高める: 「顧客満足度を高める」（抽象）という目標を、「〇〇の問い合わせに△分以内に返信する」「□□の機能を改善する」（具体）といった具体的なアクションプランに分解することで、何をすべきかが明確になり、実行に移しやすくなります。
共感を呼ぶ: 人に何かを伝える際、抽象的な理念やデータだけでは、なかなか相手の心に響きません。具体的なエピソード、ストーリー、事例を交えて話すことで、相手は内容をイメージしやすくなり、「自分ごと」として捉え、共感してくれる可能性が高まります。

なぜこれが重要か？
具体化は、アイデアを形にし、計画を実行に移すための「推進力」 となります。また、コミュニケーションにおいては、相手の理解を助け、感情に訴えかけ、行動を促すための「架け橋」 としての役割を果たします。企画を通したり、チームを動かしたりする上で欠かせない能力です。

あなたならどう考えますか？：誰かに何かを説明したり、説得したりする際に、「具体例を挙げる」ことをどの程度意識していますか？それによって、相手の理解度や反応に変化はありますか？

🚀 具体的アクションプラン

本書で提唱されている「具体⇔抽象」の往復思考を、日々の仕事や生活の中で鍛えるための具体的なアクションプランを3つ提案します。思考の「筋トレ」として、ぜひ試してみてください。

【「要するに？」「例えば？」で思考の往復運動】
日常的に目にする情報や会話に対して、 「要するに、これはどういうことだろう？（抽象化）」 と 「例えば、具体的にはどういうことだろう？（具体化）」 という問いを自分に投げかける習慣をつけてみましょう。
- ニュース記事の要点を一行でまとめてみる（抽象化）。
- 会議で出た抽象的なキーワードについて、具体的な事例を考えてみる（具体化）。
【思考の「ズームイン・ズームアウト」】
何か問題やテーマについて考えるとき、意図的に視点の「抽象度」を上げ下げすることを意識してみましょう。
- まず、関連する具体的な事実やデータをできるだけ書き出す（ズームイン：具体）。
- 次に、それらに共通するパターンや本質、全体像を探る（ズームアウト：抽象化）。
- そして、見えてきた本質から、具体的な解決策やアクションを複数案出してみる（再度ズームイン：再具体化）。
【説明に「具体と抽象」を盛り込む】
プレゼンテーション、報告、提案など、人に何かを伝える際には、 「具体的なエピソードや事例」 と、 「それらをまとめる抽象的なメッセージ（要点や結論）」 の両方をバランス良く含めることを意識しましょう。PREP法などを活用し、具体と抽象を行き来しながら説明することで、分かりやすさと説得力が高まります。

✅ まとめ

細谷功さんの『「具体⇔抽象」トレーニング』は、私たちの「考える力」の根幹をなす**「具体と抽象の往復運動」**という思考プロセスを、非常に明快に解説し、かつ実践的なトレーニングを通じて体得させてくれる、まさに「思考のトレーニングジム」のような一冊でした。

この「具体⇔抽象」思考を自在に使いこなせるようになれば、

物事の本質を見抜く洞察力
知識や経験を応用する力
複雑な問題を解決する力
相手に分かりやすく伝えるコミュニケーション力
といった、ビジネスパーソンにとって不可欠な能力を、飛躍的に高めることができるでしょう。

本書で紹介されている29のトレーニング問題に実際に取り組んでみることも、凝り固まった思考をほぐし、新たな視点を得るための良いきっかけになるはずです。

この記事が、皆さんの思考力を一段階引き上げるための一助となれば幸いです。

皆さんの現場では、この「具体⇔抽象」の思考は、どのような場面で特に重要だと感じますか？また、どのように意識して活用していけそうでしょうか？ぜひ、皆さんのご意見や経験をコメントで共有していただけると嬉しいです。

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