💡 はじめに

「今年こそ、新しいスキルを身につけようと決意したのに、結局続かなかった…」
「チームの会議をもっと活発にしたいのに、なかなか発言が増えない…」
「自分でも、このままではいけないと分かっているのに、どうしても古いやり方を変えられない…」

私たちは、個人としても、組織の一員としても、常に「より良くなりたい」「変化・成長したい」という願いを持っています。しかし、その一方で、「頭では分かっているのに、なぜか行動できない」「変えようとしても、元に戻ってしまう」――そんな 「変わりたいのに、変われない」というジレンマに、誰もが一度は直面したことがあるのではないでしょうか？

意志が弱いから？やる気の問題？

今回ご紹介する、ロバート・キーガン氏とリサ・ラスコウ・レイヒー氏による著書『なぜ人と組織は変われないのか ― ハーバード流自己変革の理論と実践』は、その 「変われない」原因は、単なる個人の資質の問題ではなく、むしろ私たち自身が無意識のうちに作り上げている、変化に対する巧妙な「抵抗システム」＝「心の免疫」にある、という画期的な視点を提示します。

本書は、なぜ私たちは変化を恐れ、それに抵抗してしまうのか、その深層心理にあるメカニズムを解き明かし、そしてその「免疫」を乗り越え、個人や組織が本当に望む変化を実現するための、具体的で実践的なアプローチを教えてくれます。「自分自身を変えたい」「チームや組織の変革を成功させたい」「『変われない』壁を打ち破りたい」と願うすべての人にとって、深い自己理解と持続的な変化をもたらすための、強力なツールとなる一冊だと感じました。

📚 書籍の概要

本書の中心的なメッセージは、個人や組織が、本心では望んでいるはずの重要な変化（＝改善目標、コミットメント）を達成できない最大の理由は、その変化を達成することと相反するような、本人も気づいていない「裏の目標（＝隠れたコミットメント）」や、それを支える「強力な固定観念（＝裏の思い込み）」が存在し、それらが現状維持のための強力な「免疫システム」として働いているからである、ということです。

例えるなら、私たちの心の中には、変化という「異物」から自分を守ろうとする、非常に巧妙な防衛システムが備わっているようなものです。この免疫システムは、変化に伴うかもしれない「痛み」や「喪失」から私たちを守ろうとする、ある意味では合理的な働きなのですが、それが本当に望む成長や変革をも阻んでしまう、というジレンマを生み出します。

本書の画期的な点は、この目に見えない「変化を阻む免疫システム」の構造を、「免疫マップ」という独自のフレームワークを用いて可視化し、客観的に理解・分析する方法を提示していることです。そして、その免疫のメカニズムを自覚し、その根底にある 「強力な固定観念」の妥当性を、現実世界での小さな実験を通じて検証していくことで、免疫システムを徐々に書き換え、持続的な変革を可能にする道筋を示しています。

著者のロバート・キーガン氏とリサ・ラスコウ・レイヒー氏は、ハーバード大学教育大学院を拠点に、成人発達理論や組織変革に関する研究と実践を長年行ってきた専門家です。本書で紹介される理論と手法は、その長年の研究と、数多くの個人や組織へのコンサルティング経験に基づいており、深層心理にアプローチする、非常にパワフルで効果的な変革アプローチとして、世界的に注目されています。

✨ 重要なポイント/学び

本書の中核をなす「変化を阻む免疫」の考え方と、それを乗り越えるためのアプローチについて、特に重要だと感じたポイントを3つご紹介します。

1. 「変われない」のは意志の弱さではない？：変化への「抵抗」に隠された合理性

私たちが「変わりたい」と思いながらも、つい逆の行動（阻害行動）をとってしまう――例えば、「もっと部下に仕事を任せたい（改善目標）」のに、「結局自分で抱え込んでしまう（阻害行動）」――のはなぜでしょうか？

本書によれば、それは単に意志が弱いからではありません。その阻害行動の裏には、多くの場合、本人も意識していない、しかし非常に強い「裏の目標（隠れたコミットメント）」 が存在します。そして、その裏の目標は、変化することによって失われるかもしれない何か（例：失敗を避けたい、自分の有能さを示したい、コントロールを失いたくない、人間関係を壊したくない等）を守ろうとする、自己防衛的な欲求に基づいているのです。

つまり、「変われない」という状態は、実は「変わりたい」という気持ちと、「変わりたくない（何かを守りたい）」という気持ちが、綱引きをしている状態であり、後者の「守りたい」気持ちが強力な「免疫」として働いている結果なのです。

なぜこれが重要か？
この視点は、「変われない自分」を責めたり、自己嫌悪に陥ったりすることから私たちを解放してくれます。「変われない」ことには、自分なりに（たとえ無意識であっても）合理的な理由があるのだ、と理解できるからです。問題の所在を「意志」から「無意識の心理システム」へと移すことで、より客観的かつ建設的に、変化への抵抗と向き合うことが可能になります。

あなたならどう考えますか？：あなたが「変えたいけれど、なかなか変えられない」と思っている習慣や行動パターンについて、少し立ち止まって考えてみてください。その「変えられない行動」を続けることによって、あなたは無意識のうちに「何を得ている」あるいは「何を避けようとしている」のでしょうか？そこに「裏の目標」が隠れているかもしれません。

2. 抵抗の正体を暴く羅針盤：「免疫マップ」による自己分析

では、自分の中にある「変化を阻む免疫システム」の具体的な構造を、どうすれば知ることができるのでしょうか？そのための強力なツールとして、本書では**「免疫マップ」**の作成が提案されています。

免疫マップは、以下の4つの要素を書き出すことで、変化への抵抗メカニズムを可視化します。

改善目標 (Commitment): あなたが心から達成したいと思っている、具体的で重要な改善目標。（例：「会議でもっと積極的に発言できるようになりたい」）
阻害行動 (Doing / Not Doing): 改善目標の達成を妨げている、具体的な行動（や、やっていない行動）。（例：「発言しようと思っても、結局黙ってしまう」「意見を言うのをためらう」）
裏の目標 (Hidden Commitment / Competing Commitment): あなたが阻害行動をとってしまう背景にある、無意識の「隠れた目標」や「恐れ」。（例：「馬鹿だと思われたくない」「反対意見を言って、場の空気を悪くしたくない」「失敗して恥をかきたくない」）
強力な固定観念 (Big Assumption): 裏の目標を支えている、あなた自身や世界に対する、疑うことのない根本的な「思い込み」。（例：「私の意見は、どうせ価値がない」「波風を立てることは、人間関係において致命的だ」「一度失敗したら、もう立ち直れない」）

なぜこれが重要か？
この4つのステップに従って書き出していくことで、漠然としていた「変われない」という悩みが、具体的な要素とその関係性として、客観的に目の前に現れます。特に、普段は意識することのない 「裏の目標」や「強力な固定観念」 に光を当てることで、なぜ自分が変化に抵抗してしまうのか、その根本的な理由に気づくことができます。これは、深いレベルでの自己理解を促し、変革への糸口を見つけるための、非常にパワフルな自己分析ツールです。

あなたならどう考えますか？：もし、あなた自身の「免疫マップ」を作成してみるとしたら、ステップ3の「裏の目標」やステップ4の「強力な固定観念」には、どのようなことが思い浮かびますか？自分でも気づいていなかったような、意外な恐れや思い込みが見つかるかもしれません。

3. 思い込みを打ち破る「小さな実験」：行動による免疫システムの書き換え

免疫マップによって、自分を縛っている「強力な固定観念（Big Assumption）」が明らかになったら、次はその固定観念の「妥当性」を、現実の世界で検証していくステップに進みます。

本書が提案するのは、その固定観念が「本当に常に正しいのか？」を確かめるための、安全で実行可能な「小さな実験（テスト）」 をデザインし、実行することです。

例えば、「私の意見は、どうせ価値がない（固定観念）」と思っているなら、「次のチームミーティングで、まずは事実確認に関する質問を一つだけしてみる（小さな実験）」といった具合です。

そして、その実験の結果（実際に質問してみて、周りの反応はどうだったか、自分の気持ちはどう変化したかなど）を客観的に観察し、記録し、振り返る。この 「実験→観察→振り返り」のサイクルを通じて、固定観念が必ずしも現実と一致しないことを体験的に学び、徐々にその思い込みの影響力を弱め、新しい行動パターン（＝改善目標に沿った行動）を取りやすくしていくのです。

なぜこれが重要か？
これは、変化が「頭での理解」だけでは起こらないことを示しています。実際の「行動」と「経験」を通じて、古い信念体系に揺さぶりをかけ、新しい現実を体感することで、初めて私たちの「免疫システム」は書き換えられ、持続的な変化が可能になります。重要なのは、最初から大きな変化を目指すのではなく、リスクの低い「小さな実験」から始め、失敗からも学びながら、少しずつ変化の範囲を広げていくという、現実的で安全なアプローチです。

あなたならどう考えますか？：あなたが持っているかもしれない「強力な固定観念」について、それが「100%絶対に正しい」と言い切れますか？その固定観念を少しだけ疑ってみて、それが本当に事実かどうかを確かめるための、「もし～してみたら、どうなるだろう？」という安全な「小さな実験」を計画するとしたら、どんなことができますか？

🚀 具体的アクションプラン

本書で学んだ「変化を阻む免疫」を乗り越えるためのアプローチを、あなたの自己変革やチームの課題解決に活かすための具体的なアクションプランを3つ提案します。

【「変わりたいのに変われない」ことを特定する】
まず、あなた自身（あるいはあなたのチーム）が、「改善したい」と心から思っているにも関わらず、なかなか実現できていない具体的な課題を一つ、明確に特定しましょう。（例：「もっと効率的に時間を使いたいのに、ついダラダラしてしまう」「新しい技術を学びたいのに、なかなか学習時間を確保できない」など）
【「免疫マップ」を書いてみる】
特定した課題について、本書のフレームワークに従って「免疫マップ」を作成してみましょう。①改善目標、②阻害行動、③裏の目標、④強力な固定観念を、正直に書き出します。一人で考えるのが難しければ、信頼できる同僚や友人に手伝ってもらうのも良い方法です。自分の内面にある抵抗の構造を客観視することが目的です。
【安全な「小さな実験」をデザインし、実行する】
免疫マップで見えてきた**「強力な固定観念」に対して、それが本当に正しいかどうかを検証するための、「安全」で「実行可能」な「小さな実験」**を計画しましょう。実験の目的、具体的な行動、期間、そして検証したい仮説を明確にします。そして、勇気を出してその実験を実行し、結果を客観的に記録・分析します。このサイクルを繰り返すことで、少しずつ変化を生み出していきます。

✅ まとめ

ロバート・キーガン氏とリサ・ラスコウ・レイヒー氏による『なぜ人と組織は変われないのか』は、私たちが抱える「変わりたいのに変われない」という普遍的なジレンマの根源に、「変化を阻む心理的な免疫システム」という画期的な視点から迫り、その克服への具体的かつ実践的な道筋を示してくれる、非常に示唆に富んだ一冊でした。

自分の中にある無意識の抵抗（裏の目標や固定観念）に「免疫マップ」を通じて気づき、それを「小さな実験」によって検証し、乗り越えていく――。このアプローチは、単なる精神論や一時的なモチベーションアップではなく、自己理解に基づいた、持続可能で本質的な変化（自己変革・組織変革） を可能にする可能性を秘めています。

自分自身の成長の壁を感じている方、チームや組織の変革をリードしようとしている方、そして「変わること」への恐れや抵抗と向き合い、より良く生きたいと願うすべての人にとって、本書は、深い内省と具体的な行動変容を促すための、強力なガイドとなるでしょう。

この記事が、皆さんが「変われない」という壁を乗り越え、望む未来を実現していくための一助となれば幸いです。

あなたは、「変化を阻む免疫」という考え方について、どのように感じましたか？また、ご自身の経験の中で、「免疫マップ」で分析できそうな「変われない」課題は思い浮かびますか？ぜひ、皆さんのご意見やご経験などをコメントで共有していただけると嬉しいです。

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