置換積分
1変数関数
$x=x(t)$ として変数変換を行い積分計算を簡単にする操作を、特に置換積分といい
$$
\int f(x)dx = \int f(x(t))x^\prime(t)dt
$$
で表される($x=\phi(t)$として表されることもある)。
ex.
$$
\int_{-1}^{1}\sqrt{1-x^2}~dx
$$
$x=\sin\theta$ と変数変換を行い($x\to\theta$)、積分範囲は $x:-1\to 1$ から $\theta:-\pi/2\to\pi/2$ になる。$dx=\cos\theta~d\theta$ を用いて
$$
\int_{-\pi/2}^{\pi/2}\sqrt{1-\sin^2\theta}~\cos\theta d\theta
= \int_{-\pi/2}^{\pi/2} \cos^2\theta~d\theta
= ... = \pi/2
$$
となる。
よくある例題も、$x\to x(\theta)$ の変数変換と理解できる。積分範囲の変換は $x$ の動く範囲から $\theta$ が動く範囲を求める、というように $x\to x(\theta)$ ではなく $x\to\theta$ のように見えてしまうことに混乱しないこと。
2変数関数(多重積分)
$x=x(u,v),~y=y(u,v)$ として$(x,y)\to (u,v)$ の変数変換の場合、変数変換後の積分計算は
$$
\int\int f(x,y)dxdy = \int\int f(x(u,v),y(u,v)) |J(u,v)| dudv
$$
で与えられる。
ヤコビアン
$(x,y)\to (u,v)$ の変数変換によって $dxdy$ を変形する必要がある。そのときに登場するのがヤコビ行列の行列式であるヤコビアンである。
ヤコビ行列は
J =
\begin{bmatrix}
\frac{\partial x}{\partial u} & \frac{\partial x}{\partial v} \\
\frac{\partial y}{\partial u} & \frac{\partial y}{\partial v}
\end{bmatrix}
である。このヤコビアンを用いることで
$$
dxdy \to |J|dudv
$$
として重積分の変数変換が可能になる。つまり、ヤコビアンは変数変換に伴うスケールの変化を調整するはたらきを担っている。
ヤコビアンを用いた変数変換の公式は $n$ 重積分でも成り立つ。${x_1,...,x_n}\to {x_1(u_1,u_2,...,u_n),...,x_n(u_1,u_2,...,u_n)}$ の変換の際、一般次元のヤコビ行列は
J =
\begin{bmatrix}
\frac{\partial x_1}{\partial u_1} & \frac{\partial x_1}{\partial u_2} & \dots & \frac{\partial x_1}{\partial u_n}\\
\vdots & \\
\frac{\partial x_n}{\partial u_1} & \frac{\partial x_n}{\partial u_2} & \dots & \frac{\partial x_n}{\partial u_n}\\
\end{bmatrix}
で $n\times n$ 行列として与えられる。
確率密度関数における変数変換
$X=(X_1,...,X_n)$ の $n$ 次元確率ベクトルが同時密度関数 $f_X(x)$ に従っているとする。変数変換 $Y=g(X)$ によって新しい確率ベクトル $Y$ を定義したときに、$Y$ の密度関数を求めたい。ここでは $X$ の密度関数 $f_X(x)$ から(これは既知であるとしている)、$Y$ の密度関数 $f_Y(y)$ をどのように求められるかという問題になる。
変数変換 $y=g(x)$ は1対1の関数であり、連続微分可能な逆関数 $x=g^{-1}(y)$ を持っているとする。
$Y,X$ の標本空間をそれぞれ $A,B$ としたとき(${y~|~y\in A}$、${x~|~x\in B}$)、変数変換は1対1の変換であることを仮定しているので、 $B=g^{-1}(A) = {x~|~g(x)\in A}$ とおけ、
$$
P(Y \in A) = P(X\in B)
$$
が成り立ち、重積分の変数変換の公式を用いると以上の議論と同様に
$$
P(X\in B) = \int_B f_X(x)dx = \int_A f_X(g^{-1}(y)) |J| dy = P(Y\in A)
$$
となる。よって、$Y$の密度関数は $f_X(\cdot)$ を用いると
$$
f_Y(y) = f_X(g^{-1}(y))|J|
$$
と求められる。
変数変換の方向?について
変数変換の方向(?)の発想が若干多重積分と異なると思っている。多重積分の場合は
$$
\int f(x)dx
$$
の計算が複雑であるため、$x=x(t)$ と変数変換を行うことで積分可能な(or 計算が簡単な)形にしている。密度関数を求める際は
$$
P(Y\in A) = \int_A f_Y(y)dy
$$
が計算できないから $y=g(x)$ の変数変換をしようという形ではない。あくまでも $f_Y(\cdot)$ はそもそも分からないので出発点は
$$
P(X \in B) = \int_B f_X(x)dx
$$
であり、「$Y=g(X)$と変換した確率変数の密度関数を求めたい」という目的に対して、逆関数を用いて $x=g^{-1}(y)$ と変数変換することに留意。
ヤコビアン
求めたいヤコビアンは
$$
x=g^{-1}(y)
$$
の変換に対するものであるので、(見やすさのために)$x=g^{-1}(y)=h(y)$ とすれば
J =
\begin{bmatrix}
\frac{\partial h_1(y)}{\partial y_1} & \frac{\partial h_1(y)}{\partial y_2} & \dots & \frac{\partial h_1(y)}{\partial y_n}\\
\vdots & \\
\frac{\partial h_n(y)}{\partial y_1} & \frac{\partial h_n(y)}{\partial y_2} & \dots & \frac{\partial h_n(y)}{\partial y_n}\\
\end{bmatrix}
で与えられる。
Reference
- 現代数理統計学の基礎, p.23
- 現代数理統計学, p.41