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「知識実践の新しいモデル」としてQiita を使ってみること

Last updated at Posted at 2020-12-23

はじめに

Global Mobility Serviceというスタートアップでセキュリティと社内ITをやっているkurahashiです。
アドベントカレンダーも残り、2日です。

いきなり私的なことで恐縮ですが、2ヶ月前に弊社の技術チームでもQiitaーTEAMを使うようになって、わたしも参加するようになったのですが、まったくもって何も書けていません。自分なりにどういう風に使っていこうか、模索をしていたのですが、今回、見えてきたものがあったのでやっと最初のハードルを超えた気がしています。自分の経験を言葉として表出する手がかりを見つけた気がしたのです。
ほんとうに大げさで自分の無知を晒すような気がして申し訳ありません(先に謝っておきます)。

これまでは、わたしにはQiitaに書くための文体や言葉や「知恵」がなかったのですが、今回、アドベントカレンダーで書けると思ったのは、たまたま読んだ野中郁次郎氏の『ワイズカンパニー』を読んで触発されたからです。(偉そうな話に聞こえたらすみません。)

いささか大げさな事を言うと、読んでいる時に、書けない私を半ば強制的に書かせる「場」が「Qiita」であり、そのための手法が『ナレッジマネジメント(知識経営)』の一部なのかもしれないと気がついたからです。たんにそれだけです。
それまでのわたしはことによると相当おバカだったのか、斜に構えていたのかも知れません。

そのため表題は、野中郁次郎氏の近著である『ワイズカンパニー知識創造から知識実践への新しいモデル』を意識させていただきました。くどいようですが、「言葉が見つからないところ」で困っていた私に書くための言葉を与えてくれたという意味でとても感謝しています。それだけでは何も書けませんので今回は、自分なりに理解したものと自分の経験に照らして、触発された内容を書いてみる事にします。

暗黙知と形式知の対比

こうして最初に振り返ってみるとまず「暗黙知」と「形式知」を分ける事が重要なことに気が付きます。言葉が「暗黙知の次元」に置かれほとんど仲間のなかでしか通用しないか、阿吽の呼吸か、沈黙のなかで生活している時、そこから言葉を編み出し、創造し、パブリックな空間のなかで語る事は非常に難しいです。非常に個人的な体験を書いても仕方ないですし、読み手の共感を得る事はもちろん、そもそもそれを理解する事が非常に難しいからです。また、言い換えると個人的な仕事や体験など月並み過ぎて仕方ないということではないでしょうか。

こうした月並みにも見える日々の暗黙知や暗黙の了解のなかでおかれている仲間内の「仕事」や「経験」、つまり「暗黙知の次元」を外に向けて語る時にどうしても外せないのが「形式知」であり、知のフレームワークだと言う事ができると思います。野中氏の整理にならって概念的に書いておくと以下のようになります。暗黙知は、主観的な知(個人的な知)として客観的な知(組織的な知)に対立するものであり、「いまここ」の経験に根ざし、実務的な世界のなかで培われているものです。そのためQiitaのようにパブリックな空間を前提とした文脈のなかでいきなり語り出すことは難しいものです。それを人は「馴れていないからだ」と言う事ができるかも知れません。

一方で、形式知は、客観的な知として、理性的であり、時間の中のストーリーで表現されるものであり、理論的な知のことです。ある意味で、自分の日々の生活とQiitaで語る事のギャップを言葉にする時に、使えるものが今回の場合、暗黙知と形式知の対比であり、体験と知のフレームワークの区別であると言えると考えています。これは比喩的に理解していただければ良いと思います。

しかし、誤解をしてはならないのは、暗黙知は、それ自体で否定されるものではなく、極めて、実践的な日常の知の形式です。よく使われる自転車や自動車の運転の例で言えば、意識して体を動かすわけではなく運転できるようになってはじめて、つまり、内面化され暗黙知になってはじめて運転できるのだ、と言えます。教習所の座学で習う運転方法は、形式知そのものですが、それは内面化のプロセスを得て学習し、暗黙知として実践的なものとなるわけです。そして最後に免許証を手にすることができます。

SECIモデル

こうした形式知と暗黙知の世界の二項対立ベースに「ナレッジマネジメント」を図式化したものが「SECI」モデルと言われるものです。このモデルは、実践のなかで「知恵」となって初めて生きてくるものです。この図式は、以下のようにSocialization(共同化)、Externalization(表出化)、Conbination(連結化)、Internalization(内面化)のキーワードから構成されており、その頭文字をとって作られたのが「SECI」と言うわけです。

スクリーンショット 2020-12-23 23.32.37.png
野中郁次郎著、『知識創造企業』(東洋経済新聞社)より引用

それぞれの意味は、今回の分脈では以下の文脈とします。
Socialization(共同化) :バーチャルを含めた時間と場所を共有する複数の個人からなる暗黙知を伴う共同の実践
Externalization(表出化):暗黙知を言葉として対話のなかで表出したり、明確にコンセプトとして形式化する実践
Conbination(連結化)  :コンセプトを組み合わせて、新しい知のシステムを作り出す実践
Internalization(内面化):形式知を学習を通じて内面的な暗黙知へと変換する実践

この「SECIモデル」は、知識が相互に、矢印の向きに沿って、時間のなかでクルクルとコマのようにまわって、变化していく事が重要です。エンジニアリングの作業のほとんどは、上記の実践の繰り返しからなっている事が理解できると思います。これは、さらに、以下の図のように渦巻状に表現されます。

スクリーンショット 2020-12-24 1.44.01.png
野中郁次郎著、『知識創造企業』(東洋経済新聞社)より引用
※個人的にはこの渦巻が大好きです。

私たちは、上記のように、知のダイナミックな螺旋的な運動をエンジニアリングの現場で見ることができるというわけです。内面化されたバーチャルを含めたオフィスの共同の実践を通じて様々な深みを持った暗黙知は、対話によって表出された明確なコンセプトになり、コンセプトは、外部の知識とぶつかりながら、強く鍛えられ体系化され、そして、また、組織やチームの共同作業の中に学習を通じて戻っていくわけです。このプロセスは、渦巻で表現されるものですが、何度も繰り返されるスクラム開発の設計、実施、評価、改善のプロセスに似ています。というか、スクラム開発こそ、野中氏がインスピレーションを与えた結果、生まれたという意味で先祖のような考え方です。

この螺旋の運動はぐるぐると回っていくだけなのでしょうか。つまり、螺旋の運動は、回転速度を早め大きくなってくると遠心力がついてきますし、深い暗黙知の中で得られた知は、それ自体が独立した形式知と言う重みを持って外にはみ出していく可能性も持っています。強い組織や強いチームは、なぜ強く成長し進化・発展し続ける事ができるのか?内外の摩擦で有りていにいって空中分解しないのか。この疑問に答えたのが、野中氏の近著、『ワイズカンパニー』(東洋経済新聞社)です。

SECIのスパイラル運動を導くフロネシス

彼は、こうした問に答えるために知の実践的な経験の只中で、貫く「理念」として、アリストテレスの「フロネシス(賢慮)」という概念を持ってきます。ここでは哲学史の話はどうでも良いのですが、いわば、「SECI」という知のダイナミックなスパイラル運動を貫く、統整的な理念として、経験の只中で個々の存在がそれぞれ知の実践を支える「フロネシス」を見出したのは面白いところです。この理念のおかかげで、 「SECI」は重力のように未来の時間から導かれ企業や個々人は進化・成長できるというわけです。

スクリーンショット 2020-12-24 1.20.59.png
野中郁次郎著、『ワイズカンパニー』(東洋経済新聞社)より引用

素朴に言って、このスパイラル運動を貫く理念は、働く意味そのものにかかわる社会貢献やSDGsとか、貧困を無くそうとか、経営理念そのものだ、と言うわけです。企組織やチームの活動、そして、企業が企業であるには、暗黙知と形式知の対立の四角形のロジカルな運動だけではなく、それを中心で貫く、「実践的な理念」があってこそ、知識が知恵として輝きを放つのです。

ここまで来て私が今回、この短い記事を書いた理由を書く事ができます。「SECI」であり、このスパイラル運動は、わたしたちエンジニアたちの日々の生活そのものを表現しており、まさに、暗黙知のなかの覆い隠された組織人としての「生活」からQiitaというパブリックな空間のなかで、自己を表現することを可能にしてくれた知のモデルであり、強力な理論的ツールだというわけです。そして、これこそが、知識創造の場の実践であり、知識実践に他なりません。

参考文献

『ワイズカンパニー知識創造から知識実践への新しいモデル』(東洋経済新聞社)
『知識創造企業』(東洋経済新聞社)
『アジャイル開発とスクラム』翔泳社
及川卓也著、『情報共有から始めるチーム開発とキャリア戦略』
https://www.slideshare.net/takoratta/ss-59111661

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