合同会社を1日で設立する方法について躓くポイントをカバーするための実体験に基づく解説記事です。
たまたま合同会社をつくる必要があり、日本のe-Govがどこまで進化しているのかをせっかくなので体験してみたいという動機で、完全に一人でオンラインだけで登記申請を行ってみました。
オンライン手続きがどこまでスムーズに進められるかを検証しつつ、エンジニア視点での課題を探ることも目的です。
e-Govとは
e-Govは、いわゆる電子政府を指し、日本では日本政府が提供する電子申請システムの総称としても使われています。法人設立や各種行政手続きがオンラインで可能になります。北欧やデンマークが進んでいて、日本は遅れている分野とされていますが、デジタル庁ができるなど積極的に改善が図られている分野です。
世界のe-Govの流れ
近年、世界中で電子政府(e-Government)の取り組みが進んでいます。その代表例として、以下の国々が挙げられます。
- エストニア:e-Residencyプログラムにより、世界中どこからでも企業設立が可能。電子署名や納税もオンラインで完結します。
- シンガポール:ビジネス手続きのワンストッププラットフォーム「BizFile+」を提供。効率的な企業設立が魅力です。
- デンマーク:行政手続きの100%オンライン化を達成し、完全なデジタル政府を実現。
日本のe-Govもこれらに追随し、着実に進化を遂げています。
一人合同会社をつくってみよう
結論から言うと、合同会社は1日で設立可能でした。ただし、いくつか注意点があり、そこに触れつつステップを紹介します。
前提条件
合同会社を設立するために必要な準備は以下の通りです。
- マイナンバーカード
- 銀行口座
- カードリーダーまたはスマートフォン
- (あたりまえですが)パソコン Mac/Windows
なんと、印鑑や印鑑証明書は不要でした。これだけですごい進歩を感じますね。
ステップ
1. 設立への決意と出資金の入金
最初に設立することを強く決意しましょう。そうしないと、1日で合同会社をつくる集中力がつくれません。数々のハードルに心が折れかけます。士業の方に依頼する逃げ道があるので、成し遂げるには強い決意が求められます。(士業のありがたみを感じます)
決意ができたら、出資金を銀行口座に入金してスタートです。(1円以上でokです)
合同会社の場合、個人の銀行口座で大丈夫ですが、生活口座と混ざると税務処理が難しくなるので、生活口座ではない銀行口座を推奨します。
私は5円しか入っていない楽天銀行の口座があったので、こちらに出資金2,000円を入金しました。
2. 必要書類の作成
以下の書類を準備します。
- 定款
- 代表社員、本店所在地及び資本金決定書
- 出資金の払込証明書
定款は、以下のサービスで効率的に作成できます。
代表社員、本店所在地及び資本金決定書
上記のサービスからも作れると思いますが、内容が簡単なのでワードで作ってPDFにするだけでも大丈夫です。
払込証明書
こちらも内容が簡単なので、ワードで作ってPDFでまとめて作りました。
表紙と、銀行口座(ネットバンク)のスクリーンショット(以下3点)を貼り付けるだけです。
- ログイン前の画面
- 名前、支店番号、口座番号、残高が写った画面
- 入出金明細の画面
※PDFは2.4MB以内に圧縮する必要があります。
3. マイナンバーカードで電子署名を付与
結論、ここが一番大変でした。。
準備するもの
- 「JPKI利用者ソフト」をインストール
- ICカードリーダーまたはスマートフォン
- マイナンバーカード
手順
- JPKI利用者ソフトを使い、マイナンバーカードの証明書にアクセスできる状態をつくる。
- Adobe Acrobat(有償版の7日間無料トライアルを利用可)を使用し、PDFに電子署名を付与します。
「JPKI利用者ソフト」で私はカードリーダーからやってしまいましたが、スマホでやる場合はBluetoothでつなぐそうです。Mac版もあります。
普段Macユーザーですが、色々躓いた結果Windowsを引っ張り出して作業してしまったので、最終的にはWindowsで署名を付けました。Macは操作が異なる可能性があります。
JPKI利用者ソフトをインストールしたら、まずは「ICカードリーダライタ設定」で、カードリーダーを選択してください。
その後JPKI利用者ソフトを立ち上げて、自分の証明書を閲覧できたら準備完了です。
次に、PDFに自己のマイナンバーカードの電子署名を付ける方法です。
基本的なやり方はAcrobatの有償版を用いたやり方です。7日間の無料期間でやるのがよいようです。(私が言っているのではなく行政のマニュアルに記載されていました)
行政からAcrobat向けのPDF署名プラグインなるものがでていますが、32bit版限定です。ちょうどよく環境がある方以外は沼るのでトライしないほうがいいです。
民間のソフトでこのようなものもありますが、使用は自己責任でお願いします。
https://aoiro.app/jpki/
4. 書類の提出
提出方法には以下の2つがあります。
-
登記・供託オンライン申請システム「申請用総合ソフト」
- Windows専用。
-
マイナポータル「法人設立ワンストップサービス」
- Webブラウザで操作可能。直感的な操作が魅力です。今回はこの方法を利用しました。
登記申請という手続きは、法務局に対する申請になるのですが、申請用総合ソフトは法務省が運営しています。法務局は法務省の地域組織なので、仲間です。それもあってか、法務局の方とは申請にあたって担当者と電話相談などもできるのですが、申請用総合ソフトのほうが案内しやすそうでした。
サポートセンターもあるようです。一方の、マイナポータルについて少しでも質問するとマイナポータルの方に確認してほしいとのことで、基本的にはゼロ回答になります。
ところが、申請用総合ソフトはWindows専用です。またUIがWindows95の頃を彷彿とさせるので、熟練エンジニア以外はとっつきにくいと思います。(私はこれはこれでありなUIでした)
今回最終的には「法人設立ワンストップサービス」のほうで申請を行いました。
記載内容も参考で書きたいところですが、法律的に詳しい方がいろいろなところで書いているので割愛します。
面白いと思ったのが、「別紙 登記すべき事項」に定款に書いてあるような内容と同じことを転記する形になることでした。おそらく昔の紙の様式が残っているので、このような重複する記載が必要になることもあるのだと思います。
もう1つが「役員に関する事項」が代表社員だけではなく、同じ人間でも業務執行社員として2つ記載する必要があることも注意が必要です。
最後の確認画面はすべてスクリーンショットを取っておきましょう。不備があって再提出の際に役立ちます。
最後に提出書類に対してマイナンバーカードで署名をつければ申請完了です。
5. 登記後の手続き
法務局への申請日が設立日になります。登記申請して、登録免許税(6万円)を振り込んだ後、不備がなければ数日で登記が完了します。
不備があった場合は差し戻しをされるのですが、自分の場合は法務局の担当者から電話で不備内容の説明がありました。早口ではありましたが、とても論理的でわかりやすく丁寧に教えていただけました。
いただいた指摘事項を直して再度提出したところ、1時間後に電話がかかってきて不備がなく完了した旨もお伝えいただけました。
申請時に印鑑届出をしなかった場合は、登記完了後に法務局へ行くことで印鑑を登録できます。(20ー30分程度の取引とのことでした)
やってみた感想
今回、e-Govを利用して合同会社を1日で設立するスピードチャレンジをしたくてやってしまいましたが、マネーフォワード会社設立やfreee会社設立の場合、上記の申請手続きを5,000円で司法書士にアウトソースできるので、正直言ってそちらのほうがおすすめです。ただし、申請までに5営業日ほどかかるようです。
株式会社の場合は公証役場による電子署名も必要です。最初に合同会社でも必要だと思って問い合わせてしまいましたが合同会社では不要と教えていただけました。その他の流れについても伺ったところ、驚くほど丁寧に教えていただけました。しかも県をまたぐと管轄が違うことすら知らず、管轄外の公証役場に連絡していたにも関わらずです。
国の方針として、登記の手続きは極力迅速にしようということらしく、皆様驚くほどクイックにかつ丁寧にご対応いただけました。
一方で、e-Govとしては大きな改善も見えますが、今ひとつな部分も残っていました。
1つは書面をそのままデジタル化しているので、わかりにくい。直感的に申請書をつくるのは難しいので、ハウツー系の記事を参照しながらつくるしかありません。その割に必要な情報に基づいてUIを作れば遥かに簡単になるでしょう。
もう一つはマイナンバーカードでpdfに署名を付ける方法がものすごく複雑です。Acrobatの有償版を案内されるのも正直公平性の面では微妙だと思いました。JPKI利用者ソフトでそのまま署名をつけれるようにするのが良いとおもいました(マイナポータルを見ても、署名できそうな雰囲気で書いてあってかなり迷いました)
とはいえ、スムーズに行けば1日で終るのはあっぱれです。
関係各所に拍手を送りたいです👏
司法書士に5,000円でアウトソースするのが圧倒的におすすめですが、稀有な方は本記事を参考にぜひチャレンジしてみてください!
※本記事では手続や内容についてはかなり省略して記載しているので、鵜呑みにしすぎず、関連する行政や士業の方に確認しつつ手続きを行うようにお願いします。