はじめに
最近謎のブームを巻き起こしているけものフレンズを、組織マネジメントという観点から分析してみる。
2017/3/17 追記
かばさんのシーンの分析に「自立」に関する記載を追加
2017/8/8 追記
「最後に」を追記
社歌
まずは彼女ら、ジャパリパーク株式会社の社歌でありジャパリパークのテーマソングである「ようこそジャパリパークへ」から分析していこう。
始まりはこうだ
「Welcome to ようこそ ジャパリパーク 今日もどったんばったんおおさわぎ!」
英語の「Welcome to」はそのまま訳せば「ようこそ」となる。つまりこの歌を聴いた人(すなわちジャパリパークへ来た人)を非常に歓迎していることが伺える。
では具体的には誰なのか。
社歌を歌うのは社員と考えれば、ジャパリパークで働くすべての人に対してだろう。
つまりこの歌詞に込められた意味は「わが社は社員皆さんを非常に歓迎しています」となる。
マネジメントの権威であるP.Fドラッカーの様々な著書で言われているように、組織にとって最も大切なものは「人材」である。社歌の一番最初にそれを持ってくることによってそのことを強くアピールしているのだろう。わが社は人材を一番大切な資源と考えていると。
後半の歌詞も見てみよう。
「今日もどったんばったんおおさわぎ!」
とある。
今日"も"と言うことはこれが一時的なものではなく日常的なことを表している。
次におおさわぎである。そのまま考えればトラブルが起きたことを想像させる。
一見すると非常にマイナスなイメージを与える。特に前半の「人材を大切にする」という意図と相反するようにも見える。
なぜ敢えてこのような歌詞にしたのだろうか。
この答えはいったん保留しておこう。
次の歌詞は、
「高らかに笑い笑えばフレンズ」
"フレンズ"という単語は彼女らの働くジャパリパークで頻繁に聞かれる言葉だ。意味はそのまま「友達」と考えていいだろう。
では誰と誰が"高らかに笑い笑えば"友達となるのだろうか。次の歌詞を見てみよう。
「喧嘩してすっちゃかめっちゃかしても仲良し」
「けものはいても のけものはいない」
ジャパリパークで働く従業員たちは皆動物である。と、すればおのずと答えは見えてくる。
すなわち、喧嘩するのは従業員たちであり、"高らかに笑い笑う"のも従業員を指す。
序盤の「おおさわぎ」のくだりと合わせて考えると、「トラブルが起きてもみんなで笑い合いながら解決を目指そう」という意図を感じる。
そして「けものはいても のけものはいない」と続く。これは自分たちが動物(けもの)であることに掛けたジョークではあるが、のけものはいない、と言っている。
彼女らは本能的に知っているのかもしれない、大きなことを成し遂げるには人的資源こそが生産性向上の主たる機会であることを、それらを損ねれば事業はたちまち崩壊の一途をたどるということを。
次は以下の歌詞に注目していただきたい。
「姿形も十人十色だから惹かれ合うの」
人材の多様性を謳っていることは明らかだろう。さらに特筆すべきは「だから惹かれ合うの」という部分だ。
我々人類の組織には多様性を認めるといいつつもその実、差別や迫害、それに伴う無関心といった問題が常に付きまとう。
私たちは自分と異なる人を恐れてしまう。
しかしジャパリパークで働く彼女らは違う。自分とは違う、"それゆえに"惹かれ合うとはっきり言っているのだ。他者を尊重しつつ、お互いに歩み寄れると。
スクラムガイド2016の「スクラムの価値基準」という章にはスクラムを活用するための5つの価値基準が書かれている。そのうちの一つに尊敬がある。そこには、
「スクラムチームのメンバーは、お互いを能力ある独立した個人として尊重しなければならない」
と書かれている。まさに彼女たちが社歌に込めた思いそのものである。
これに続く歌詞も興味深い。
「夕暮れ空に 指をそっと重ねたら」
「はじめまして 君をもっと知りたいな」
夕暮れ空は1日の終わりを指すのだろう。そこで指を重ねるという動作はすでに他人の距離感ではない。友人かそれ以上に近しい存在だ。そして続くのは「はじめまして 君をもっと知りたいな」という歌詞だ。
一緒に働く仲間に対して「はじめまして、君をもっと知りたい」と言っている。以下は私の推測だ。
大きな組織になればなるほど知らない人が増えてくる。そのような人同士でも、一緒に1日働けば指をそっと重ねられるほど近しい仲間だよ、でも初対面だから「はじめまして」、そして一緒に働いた戦友に対して「君のことをもっと知りたい」と。
好きの反対は無関心とはよく言われる。「君のことをもっと知りたい」という文はその真逆だ、すなわち君を好きになりたい、ということだろう。
さて、おおよそ社歌で気になる点は分析で来たのでまとめようと思う。
彼女らの働くジャパリパークの社歌では、徹底して多様性を認め合い、たとえトラブルが起きても共に力を合わせ働くことを謳っている。それも陰鬱とした雰囲気ではなく、明るく、笑い合いながら。そして何より個々人を尊重し、我々は仲間どうし、無関心ではいられないのだ、と高らかに誇っている。
組織マネジメントという観点から最も基本で最も大切なこと、すなわち他人を尊重し、同じ組織で働く仲間だと認め合い、助け合うということ。これらに対して非常に真摯に取り組み、そしてそれを成しえている彼女らのジャパリパークに学ぶことは多いだろう。
第1話
ここからはアニメ第1話を分析していこう。第一話は人事部のサーバルちゃんと、新入社員のカバンちゃんの出会いだ。
(全部を追っていくととてもではないが終わらないのでシーンごとに)
Aパート
###「あっ!ちょっと元気になった?」
©けものフレンズプロジェクト/KFPA
これはサーバルちゃんがカバンちゃんを押し倒した後のシーンで、さっきまで暗かったカバンちゃんが、サーバルちゃんの耳に興味を覚え少し暗さが消えたときのセリフだ。
言葉は表せない、非常に細かな機微についてよく見ていることが伺える。これだけ見てもサーバルちゃんの人を見る目という、人事部としての能力が非常に高いことが分かる。
P.Fドラッカーのドラッカー 365の金言から引用すれば、『正しい人事のために4時間をかけなければあとで400時間とられる』とある。ジャパリパークでは個々人の持つ能力を最大限に生かせる人事配置を行っているのだろう。
現に彼女の人事としての能力の高さは随所に現れる。次の例を見てみよう。
###「へーきへーき、フレンズによって得意なことが違うから!」
©けものフレンズプロジェクト/KFPA
これはカバンちゃんが飛び石を渡り切れず、川に落ちてしまったときのセリフだ。サーバルちゃんは崖の飛び降りもできず、川も満足に渡れないカバンちゃんを一切批判することなく、この言葉を言ってのけた。
しかし我々の組織でこの言葉をかけられる人が一体何人いるだろう。失敗すればそれを肴に笑い、出来なければなぜできないんだと叱責する。
これらはすべて人の弱みに集中した結果生み出される。
**『強みに集中せよ』**とは経営者の条件にも書かれている組織経営の基本であり原則だ。
その原則を思い出させてくれる彼女の言葉に、いい加減我々は目を覚ますべきだ。
「大丈夫だよ!...中略...カバンちゃんはすっごい頑張りやだからきっとすぐ何が得意かわかるよ!」
これはセルリアンに襲われて何もできず、自分は相当ダメなけものなんだ、と落ち込んだカバンちゃんにサーバルちゃんがかけた励ましの言葉だ。少々長いが一見の価値があるのでぜひ見てほしい。
内容ももちろんだが、ここでは彼女の話し方に着目してほしい。
彼女の話し方は、D.カーネギーが話し方入門で上げている手法をいくつも取り入れていることが伺える。詳しく見ていこう。
まずは「大丈夫だよ!」と言っている、それも自信満々に。これに対しカバンちゃんは思うはずだ、「なぜそれほど自信満々にいうのだろう?と」これは先の本の第8章に書かれている『スピーチの始め方』が参考になる。相手に疑問を起こさせる問いをまず発することで好奇心を誘い、加えて相手が最も知りたいことを端的に表している。
たった一言で相手を引き込むその手腕は鮮やかというほかないだろう。
そして彼女は「私だって~」と続いて自分の失敗談を語っている。これも同じ『スピーチの始め方』に書かれている、「具体的な例を用いて始める」に当てはる。しかも自身の体験という非常に確かで具体的な例だ。
その後、「それにカバンちゃんはすっごい頑張り屋だから~」と続く。注目していただきたいのは「それに」という接続詞だ。これは「添加」の接続詞だ。自分との対比と考えるなら「しかし」という「逆接」なるはずが、「それに」となっている。
つまり、自分との対比になっていないのだ。
これは同じD.カーネギーの著書である人を動かすの、「遠回しに注意を与える」の応用と見受けられる。
仮に逆接でつないだ場合、「大丈夫だよ!私だってダメなけものだ。でもあなたはすっごい頑張り屋だから~」となる。これは明確な対比となり自分(この場合はサーバルちゃん)を卑下している。
つまりLose-Winの関係にある言い回しだ。
これでは励まされたカバンちゃんも心から喜べない。こうなってしまったら単なる傷のなめ合いになってしまう。
一方、添加でつないだ場合、「大丈夫だよ!私だってダメなけものだ。それにあなたはすっごい頑張り屋だから~」となる。どうだろうか、印象がガラリと変わったのではないだろうか。
添加の接続でつなぐことで、直前のダメなけものだ、という部分が強調されず、あくまでただの一例に過ぎない、という立ち位置になる。これは、「すっごい頑張り屋だから~」の文が「大丈夫だよ!」に対しての添加になるためである。
こうなること強調されるのは後半の頑張り屋であるという点になり、誰も傷つくことがなく、カバンちゃんもすんなりとその励ましを受け入れられる。すなわちWin-Winの関係にある言い回しになったのだ。
彼女はこのたった10秒程度のやりとりの中に数多くの技法を盛り込み、カバンちゃんの不安を一瞬で取り除き、信頼を勝ち取ったのだ。その証拠にカバンちゃんが初めてさし伸ばされたサーバルちゃんの手を取っている。
「私、あなたの強いところ、だんだんわかってきたよ!」
これは木陰で休んでいるとき、カバンちゃんが思いのほか早く体力を回復したことに驚き、サーバルちゃんが言った言葉だ。
ここは非常に直接的だ。『強みに集中する』を実践しているシーンだ。
また、そのことをカバンちゃんに伝えつつも、具体的に何が強みなのかは敢えて言及していないところもポイントだ。
これはカバンちゃん自分自身で自分の強みに気づいて欲しいという意図が込められているのだろう。つまり、カバンちゃんの成長を促しているのだ。それを示唆する行動は次の事例でも見受けられる。
Bパート
水辺に向かう途中、カバンちゃんが足を滑らせたが、あえて見守るサーバルちゃん
セリフこそないが、このシーンは言葉以上に多くを語っている。
このシーンには3つの意味が込められている。
1つ目は失敗してもいい、ということだ。足を滑らせるというヘマをしても叱らず、じっと見守っている。それだけで何度もチャレンジしていいよ、ということを暗に伝えている。
2つ目は成長を見守る、という点だ。組織がさらに多くを成し遂げるには組織に働く人の成長が必要だ、とドラッカーは言っている。また、スクラム開発の観点からも、チームの成長を促進することはスクラムマスターの責務であり、効率化の唯一の手段である。
3つ目は信頼だ。ここに至るまで何度も失敗し、そのたびに手を差し伸べてきたが、今回はそれをしていない。その理由はカバンちゃんの強みを見つけ、彼女がそれを伸ばせると信頼したからに他ならない。
サーバルちゃんはそのことを考え、あえて何も言わず、また手を差し伸べることをせずそっと見守ったのだろう。
「ただ、ジャパリパークの掟はじぶんのちからで生きること。自分の身は自分で守るんですのよ。サーバルに頼ってばかりではだめですのよ」
これはかばさんが言ったセリフだ。厳しい言葉だ。
これは、こう言い換えられる。「自分の為したことは自分で責任を取るべきだ」と。
掟という以上、例外はない。たとえどんな上位の存在であっても、自分の責任は自分のものだ、他人に擦り付けるものではないと。
我々がついやってしまう、他人のせいにする、という過ちを指摘しているのだろう。
加えて、もう一つ学ぶべき点がある。それは、サーバルちゃんに依存してはいけないよ、と部分だ。裏を返せば、あなたにはあなたの得意な方法で生きることができるはずだ、ということを遠回しに言っているのだ。ここでも強みに集中するという原則を垣間見ることができる。
もう一つ別の視点から見てみよう。「自立」という視点だ。自立とは「自ら立つ」と書く通り、他者に依存せず自分の力で生きて行くということだ。かばさんの指摘そのものと言える。
ところで、「嫌われる勇気」「幸せになる勇気」で有名な心理学者のアルフレッド・アドラーは「自立すること」は人生の目標の一つだと言っている。彼の言う自立とは、経済的な面よりもむしろ精神的な面を指摘している。すなわち、自分の人生を自分で選ぶこと、自分の前に立ちはだかる自身の課題を自ら乗り越えること、そういった心のあり方を指している。
かばさんの指摘は表面的にはおそらく経済的な面(この場合はそのままの意味で生きる方法)を指摘していただろう。しかし、かばんちゃんにはきちんと裏に隠された思いも伝わっていた。その証拠に第10話では今後の方針、それこそ人生を決めるような選択をかばんちゃん自ら決定し、サーバルちゃんに伝えている(具体的なシーンはネタバレになるのでここでは控える)。
我々は自分の人生を自分で選べているだろうか、他者の声に自分の選択を任せていないだろうか。例えば、親が言ったから〜、上司が言ったから〜、友達がやっているから〜、そういった選択をしていないだろうか。
あるいは自分たちの課題を自分たちで乗り越えようとしているだろうか、尤もらしい理由をつけて他人や環境のせいにしていないだろうか。例えばこれは部下のやったことなので〜、これは上司が対応すべき問題なので〜、会社の制度や環境がXXXなので〜、そう言って課題を避けていないだろうか。
彼女を見習い、我々は本当の意味での自立を果たすべきだろう。
まとめ
社歌と第1話は徹底して強みに集中する、そして仲間を尊重し合う、という二つがテーマになっていたように思える。これは組織を構成するうえで最も基本的であり、最も大切にすべき原則である。
それはドラッカーが様々な著書で何度も強調して述べていることからも納得していただけるだろう。
しかし残念ながら、我々の社会ではこれらがないがしろにされているのが現実だ。
強みに目を向けず人数合わせのように配置される人材、一緒に働く人をただの道具のように扱う長時間残業やいじめなどなど、これらはまさに現代の象徴たる社会問題の数々だ。
それらと比べれば彼女らの働くジャパリパークは一種の理想郷にすら思える。
我々の組織はジャパリパークのようにはなれないのだろうか。
私は否と言いたい。
ところで、彼女らのセリフである**「すごーい!君は〇〇が得意なフレンズなんだね!」という言葉を見たり聞いたりした人も多いのではないだろうか。
これは、その人の得意なこと(強み)に集中し、さらにその人をフレンズ(仲間)と呼び、「すごーい!」と相手に敬意と尊敬を払っている**言葉だ。
この言葉が多くの人に使われ、浸透すれば自然と仲間の強みに集中し、尊重し合うこともできるはずだ。
この記事を最後まで見てくれたあなたやあなたと共に働く仲間は何が得意なフレンズだろうか。
もし明日、誰かと顔を合わせたらその人に心を込めてぜひ言ってあげてほしい、「すごーい!君は〇〇が得意なフレンズなんだね!」と。それだけで社会は少しだけ良い方向に向かうのだから。
最後に
本章では組織マネジメントに関しての分析を行ったが、以下の記事で、第5話「こはん」をスクラム開発という観点で分析してみた。
もし興味のある方がいれば、ぜひご覧いただきたい。
「続・すごーい!きみはスクラムが得意なフレンズなんだね!(けものフレンズ5話をスクラムの観点から分析する)」