はじめに
第4回計算社会科学会大会(CSSJ2025)に聴講者として参加してきました。
※この記事は1日目(2025/2/16)のみ紹介になります。
「計算社会学」を深く知る機会がなかったのですが、どんな学問なのかについて最先端の研究事例を交え学ぶことが出来たので、簡単に紹介になります。
本学会がどういうものかは以下公式HPに詳細が載っていますので、そちらをご確認ください。
本学会大会は,日本での計算社会科学の普及と発展を目指し,社会学や社会心理学,経済学やマーケティング,情報学や情報工学,物理学やネットワーク科学などの様々な分野の研究者により活発に情報共有・議論を行う場を提供することを目的としています.計算社会科学にご興味をお持ちの方であれば,どなたでもご参加いただけます.
プログラム
1日目の各プログラムを聴講しました。
数も多いため、今回は招待講演の部分だけ概要をお伝えします。
招待講演1:ブロードリスニング実践編: 報道番組制作等での実例を元に
東京都知事選にも出馬されていた安野貴博氏による講演でした。
元AIエンジニアのご経歴をもとに選挙や政策におけるAI活用とその展望についてお話されていました。
選挙におけるブロードリスニング・AI活用
ブロードリスニングとは、ブロードキャストの逆(一人の声を多数に発信ではなく、多くの声のダイジェストを一人に届ける)ことを指し、AIの登場によって多くの声の集約・市民の意見を取り入れていくという考え方。
これまでは多くの人の意見を取り入れることは物理的に難しかったが、LLMによる意見集約・ベクトル解析による意見クラスターの分析で政策反映に生かすことが出来るとのこと。
大きく「民意の取入れ」→「政策への反映」というアプローチの紹介をされていました。
出展:https://note.com/nishiohirokazu/n/n15a60978113d
- 意見データが増える、データの質が向上する
- これまで一方通行(都や国⇒市民)の意思疎通から双方向(都や国⇔市民)の意見交換ができるように
- これにより、従来では若手支援=教育政策と掲げていたものが教育領域から出た人はスコープ外になっていることに気が付き、その人たちも含めた全体支援が可能に。
- 通常のアンケート調査等では回答者が50,60代がメインになりがちなところ、一般コメントから吸い上げることで10,20代の意見も情報ソースとして利活用できる
- 参考までに、台湾では行政プラットフォーム「JOIN」という仕組みがあり、有権者が実施してほしい政策を掲示板に投稿し、5000件の賛同(いいね)が集まるとその提案に対して必ず政府は検討・回答をしなければならない仕組みがあるそう。
- 参考:https://www.dlri.co.jp/report/ld/159658.html
- これまで一方通行(都や国⇒市民)の意思疎通から双方向(都や国⇔市民)の意見交換ができるように
- 集まった意見を効率的に分析ができる
- 従来は意見の分析・要約がかなり大変だったが、LLMを活用することで全体としてどのような意見クラスターが出来ているか可視化し、分析することができる。
- 全体意見を可視化をすることでエコーチェンバー・フィルターバブルといった特定意見のクラスターがどのように形成・分布しているか把握することが出来る。
- (LLMとは別観点だが)政策検討時にgithub等のツールを活用し、特定関係者だけでなく、多くのメンバーが政策に対する変更提案を提出(pullリクエスト)することで、多角的な意見取り込みができるように
- エンジニア文化(顔を見なくてもプロダクトが作れる)を取り入れる
今後の課題
- 意見集約・分析時にLLMによるバイアスをどのように対処するか
- 例:deepseekは中国、ckchat-gptはアメリカ意見に寄ってしまう等、学習ソースに依存してしまう。
- 多数派工作への対応
- コメントは複製できるので、単純に意見数だけで判断すると危険。
- 意見毎の意味空間を多角的な視点でパーティショニング、カテゴライズし、ある程度分析・除去することが必要。
計算社会学的に、SNSにおけるエコーチェンバー・フィルターバブルは大きな社会的課題らしく、この課題解消はなかなか難しそうです。
その他プログラム
1日目は以下個別プログラムで構成されていました。
それぞれ15分なのでダイジェストでの紹介という形でしたが、どれも多角的な研究アプローチで分析されていて、学びとなるテーマが多かったです。
- 15:00-16:00 オーラル1(データ駆動型アプローチ)(座長:浅谷公威)
- O1-1 日本プロ野球における守備シフトが得点能力に与える影響について (小笠原侑平,五島圭一)
- O1-2 データ制約下における小売店舗内顧客動線生成:粗い動線データの高解像度化 (堀込泰三,水野貴之)
- O1-3 高次元行列値時系列データにおけるテンソル分解と行列分解を用いた次元削減手法の有効性比較 (長谷川弘貴)
- O1-4 カスケードグラフ埋め込みのカスケード分類における有効性に関する一考察 (柴尾直紀, 津川翔)
- 16:15-17:15 オーラル2(オンラインサービスにおけるユーザ受容と行動)(座長:佐野幸恵)
- O2-1 推薦システムにおける悪意のある誘導に対する視線動作に関する心理学実験 (高雄里音,湊 小楽,濱崎雅弘,後藤真孝,土方嘉徳)
- O2-2 推薦エンジンの切り替え機能が信頼形成に与える影響を明らかにするための心理学実験 (天井里咲,德山陽祐,佃 洸摂,濱崎雅弘,後藤真孝,土方嘉徳)
- O2-3 KTOを用いた幸福度指向型のPOI推薦モデル (牛尾 貴志, 小西 宏樹, 加藤 博司, 原 祐輔)
- O2-4 Solicited PWYW donations on social live streaming services through reciprocal actions between streamers and viewers (Hisayuki Kunigita, Amna Javed, Youji Kohda)
- 17:30-18:30 オーラル3(社会・コミュニケーション・法制度)(座長:清水仁)
- O3-1 民事裁判における思考様式──民事裁判情報データベース化に備えて── (山下 瞬)
- O3-2 政治関連ツイートにおける感情表出の文化間比較 (有元美紀,吉田光男,風間一洋,土方嘉徳)
- O3-3 Exploring YouTube’s Role in Shaping Political Discourse: A Case Study of the 2024 Tokyo Gubernatorial Election (Hibiki Nakamura)
- O3-4 Comparison of Linguistic Differences Between Real News and AI-generated Fake News (Piyush Ghasiya, Kazutoshi Sasahara)
まとめ
当学会は初参加でしたが、今年は3日間開催されており、ひとまず日曜日だった1日だけ聴講してみました。
申込者はアーカイブ視聴が可能(3月末まで)のようなので、また時間ある時に見たいと思います。(アーカイブ視聴だけでなく、今回の投稿資料・論文もみることが出来るので、詳細に見返すことが出来そうです)
個人的にかなり学びが多く・意外と実務に関連ありそうな部分も多々あったので、次年度も余裕があれば聴講参加してみようと思います!