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現在志向バイアスとキャッシュレス社会

Last updated at Posted at 2018-12-07

この記事はリンク情報システムの2018年アドベントカレンダーのリレー記事です。
engineer.hanzomon のグループメンバーによってリレーされます。
(リンク情報システムのFacebookはこちらから)


8日目を担当しています。
プログラミングにはあまり詳しくないので、技術的なお話はできないのですが、
IT技術の発展に伴う問題の一つを、認知バイアスの話を添えて取り上げていきたいと思います。

はじめに

以下の報酬が貰える二つのアンケートが存在するとします。

  • 回答した直後に5千円分の商品券がもらえるアンケート
  • 回答した半年後に1万円分の商品券がもらえるアンケート

あなたなら、どちらのアンケート調査に協力したいと思うでしょうか。

5千円か1万円かと問われれば、当然、1万円が貰えるアンケートのほうが良いはずです。
しかし、いつ貰えるのかについても考えなければならないとき、物の価値は変わってきます。
5千円分の商品券を選んだ方でしたらもうお気づきかと思いますが、
「今」貰える5千円は「未来」に貰える1万円よりも魅力的に映ることがあるのです。
この認知バイアスは、IT分野においても無視できるものではありません。

##現在志向バイアスとは
未来の成果か、目先の欲求か。
そのどちらが優先されるのかについて調査した有名な実験として、マシュマロ・テストというものがあります。
4歳の子供を対象とした実験であり、マシュマロを1つだけ与えられた状態で、実験者が帰ってくるまでの20分間、食べずに待っていられたらマシュマロがもう1つ貰えるという内容です。この実験において、3分の2の参加者は、実験者が帰ってくる前にマシュマロを食べてしまいました。
目先の欲求を優先する理由は様々ですが、それらが物の価値を変化させているのは確かです。
現在志向バイアスとも呼ばれるこの心理傾向は、個においても社会においても、単純な利益の計算を妨げてきました。
(マシュマロ・テストの本来の目的は、幼少期の自制心の強さと将来的な成功の関係性を調査するものでしたが、ここでは現在志向バイアスを説明するものとして取り上げています。
この関係性については今年の再実験でまた新たな結果が得られたのだとか)

前置きが長くなってしまいました。本題はここからです。

新しい技術やシステムに対して、人は様々な抵抗感を抱きます。
現在志向バイアスもその内の一つと言えるでしょう。
将来的に大きな利益が得られることが分かっているシステムであっても、導入時の手間や損失を考えると導入に踏み切れず、結局既存のシステムに頼ってしまう。
そんな経験をしたことがある人は多いはずです。
将来的な利益を取るか、導入時の損失を避けるかの判断は、いつの時代でも人を悩ませてきましたが、現在志向バイアスの働きが強いと、判断において後者、つまりは導入時の損失のほうを問題視するようになるのです。

以下、例として、キャッシュレス化の動きについて見ていきます。

##■キャッスレス化が進まない日本
2020年の東京オリンピックに向けて、日本でもキャッスレス化が推進されていますが、未だ現金支払いが根強く残っているのが現状です。
その理由に関しては様々な記事で取り上げられていますが、現金支払い派のユーザの意見に絞ってまとめると次のようなものが多いことが分かります。

  • 電子決済の安全性への不安
  • 現金支払いへの不満のなさ
  • 使いすぎる可能性
  • 多様すぎる決済方法
  • バッテリー問題 など

これらの問題を全て解決するのは難しいでしょう。
日々の生活に密接に関わる問題ですから、キャッシュレス化の動きに対して多くの不安や疑問を抱くのは当然です。

しかし、何割かのユーザはキャッシュレス社会に対応するのが億劫なだけである可能性もあると考えています。
なにせ、カード決済を導入したからといって、明日からレジ締め作業がなくなるわけではありませんし、クレジットカードを作ったからといって、明日からカード一枚で生活できるわけでもありません。
現在志向バイアスを踏まえて話すのであれば、キャッスレス化による利益は未来にあり、「今」得する感が少ないために、何となく乗り気になれないのではないでしょうか。

というのも、自分がその手の現金支払い派ユーザだからなのですが。

導入時のお得感を求めるユーザの中には、新しい技術やシステムを導入しない理由を他に見出そうとする人もいるでしょう。
将来的に得をすることがわかっていても、今は導入する気分になれない、といった不合理さに理由を求めるからです。
そのため、安全性や、使い過ぎへの不安などを理由にしている可能性もあるのではないでしょうか。
(勿論、上述した問題点はキャッシュレス社会を実現する上で軽視はできません)

##■今何が得られるのか
新しい技術やシステムが明日の生活を劇的に変えるわけでないことは周知の事実でありますが、かといって、誰もが未来の利益を辛抱強く待てるかといえば、そうでないのもまた事実です。
将来的にどれだけの利益が見込めるかだけでなく、今何が得られるのかを提案していかないことには、現在志向バイアスの強い日本人たちの心を動かせないのかもしれません。

現金支払い派の自分にも、一枚だけ日々使っているカードがあります。
それはSuica。
Suicaの定期券は導入時のお得感を体現していたカードであったと思います。
半年分の交通費を切符で払うのと、Suicaで払うのとでは料金に雲泥の差がありますから、これには現金派の私もカード支払い一択となりました。
一度使い始めると手放せなくなりますし、クレジットカードも何かきっかけがあれば使い始めるのだと思います。

こうした心理というのは、自分に限った話ではないはずです。
「今」お得感を味わえる魅力的な「とっかかり」を与えていくことが、キャッスレス化の促進にも繋がるのではないのでしょうか。

##■まとめ
オンライン決済の多様化が進んでいると聞いて、今回はキャッシュレス化について取り上げましたが、現在志向バイアスを意識することは、IT分野のマーケティングにおいても重要であるように思います。
消費者としてはこのバイアスに惑わされることなく判断していきたいところですが、ここまで話しておいて今日も自分は現金支払いでお昼ご飯を買っているのですから不思議なものです。

認知バイアスって知る分には面白いけれど、扱うとなると厄介だなあ、という話でした。

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