概要
10年以上、SESエンジニアとして現場で設計やコーディングに没頭し、フリーランスとしても技術力・コミュニケーション能力の向上に励んできた。
そんな自分が、いよいよチームリーダーという新たな役割に挑むことになった。個人の技術者から、複数人を率いる立場へ。今までコードを深く追い、技術課題を解決し、自分自身を磨くだけだった日々から、他者へ教え、スケジュールを管理し、案件全体を俯瞰する――そんな新たな責務が生まれる。
この転換点で、自分がこれまで培ってきたエンジニアリングスキルだけでは補いきれない、新たな「マインドセット」が必要になることを強く感じた。技術は引き続き重要だが、リーダーとして果たすべきは「チームを前進させる」ことであり、そのためにはエンジニア個人の視点から一段高い場所へと意識を引き上げる必要がある。
この記事では、初めてリーダーになるエンジニアが意識しておくとよい「マインド的なポイント」をまとめる。私自身が学びつつある、そしてこれからも学び続けていく心構えが、少しでも参考になれば幸いだ。
1. 「自分が動く」から「他人を動かす」への意識転換
個人としてプログラミングに没頭していた頃は、自分のスキルを高め、担当タスクをより効率的に、より高品質に仕上げることが最重要だった。しかし、リーダーはそれだけでは不十分だ。リーダーの成果は「チーム全体のアウトプット」であり、その成否はメンバーが最大限の力を発揮できる状態を作れるかにかかっている。
権限より信頼を重視する:
リーダーになったからといって、権限で人を動かそうとしてはいけない。エンジニアは論理的思考が強く、無意味な指示に従うことを嫌う。むしろ、明確なビジョン提示や、丁寧なコミュニケーションで「この人についていきたい」と思わせる信頼関係を築くことが大事だ。
「自分でやった方が早い」を封じる:
手が早く、コードも書けるリーダーほど、自分で片付けたい衝動に駆られる。しかし、それではチームとしての生産性は伸びない。あえて任せ、フォローを入れ、育てることが重要。「任せる力」がチーム力を底上げする。
2. 個々の特性やモチベーションを理解する
リーダーになった途端、チームメンバーは「自分とは異なる多様な個性」を持つ人々であることを再認識する。経験年数、得意技術、コミュニケーションスタイル、価値観…。それらは多種多様で、その違いがチームの強みになる。
得意な領域を伸ばす戦略:
全員が全方位的にスキルを持つ必要はない。むしろ、各人の強みを把握し、それが活きるような役割分担を行うことで、チーム全体の生産性が上がる。
モチベーションの源泉を知る:
あるメンバーは新しい技術習得を喜び、別のメンバーは顧客への価値提供にやりがいを感じる。個々が何に熱中し、どこでパフォーマンスが最大化するかをリーダーが理解しておけば、適切なタスク割り当てや目標設定が可能になる。
3. 「聴く力」を鍛える
リーダーというと「話す力」を連想しがちだが、むしろ「聴く力」がより求められる。メンバーが何を考え、何に困り、何を望んでいるかを正しく把握しなければ、的外れな指示を出してしまう。
相槌と要約で理解を深める:
話を聴く時、単に「うん、うん」と相槌を打つだけでなく、時折「つまり〇〇ということだよね」と要約して確認することで、誤解を防ぎ、相手は「自分の話が正しく理解されている」という安心感を得る。
非言語的なサインにも注意:
声のトーンや表情から読み取れる情報もある。エンジニアは口数が少ないことも多いが、沈黙や微妙な反応にも耳を傾け、適宜フォローすることでコミュニケーションを円滑にする。
4. スケジュールと品質を両立させるための俯瞰視点
エンジニアとしては技術的な深掘りを好み、品質を極めたい気持ちが強いが、リーダーにはプロジェクト全体を完遂する責任がある。スケジュールを守り、品質とのトレードオフを最適化しなければならない。
優先順位を常に明確にする:
全てを最高品質で仕上げるのは理想だが、現実はリソースが限られている。顧客価値の高い部分から手をつけ、不確実性の高いタスクやリスク領域を先行して対処するなど、優先度を明確に伝える。
メンバーを巻き込んだ計画策定: スケジュールやタスク割り当ては、リーダーが独断で決めるよりも、メンバーとの対話を通じて決めた方がうまくいくことが多い。実際の作業者であるメンバーの意見を聞き、無理のない計画を一緒に作ることで、納期遵守と品質維持が可能になる。
5. 挑戦と失敗を許容する文化作り
リーダーになったからといって失敗を恐れすぎてしまうと、チーム全体が萎縮してしまう。イノベーションや改善は試行錯誤の中から生まれる。
自分自身も失敗をオープンに共有する:
リーダーが完璧である必要はない。むしろ、自分のミスや改善点を正直に共有することで、メンバーも「失敗しても良い」という心理的安全性を感じる。
学習サイクルを回す:
失敗そのものを咎めるのではなく、「なぜ失敗したか?次にどう改善するか?」というプロセスに注目する。ふりかえり(レトロスペクティブ)を定期的に行い、チームとしての改善サイクルを回すことが重要だ。
6. 可視化とフィードバックループ
リーダーとして、メンバーが自分の進捗や貢献度、学習成果を実感できるようにすることも大切だ。視覚的なタスクボード、目標と実績の比較、KPT(Keep, Problem, Try)のようなふりかえりツールを活用して、定期的なフィードバックループを回す。
進捗や課題をチームで共有する:
「あの人が今どんな作業をしているのか分からない」といった不透明さが、不信感やストレスの温床になる。タスク管理ツールや定例ミーティングを通じて、メンバー全員がチームの現状を把握できるようにする。
ポジティブなフィードバックを忘れない:
問題指摘だけでなく、「よくやった!」「この改善はとても助かった!」といった肯定的なフィードバックも重要だ。褒められれば誰しもモチベーションが上がる。
7. リーダー自身の成長マインドセット
リーダーは教える立場でありながら、同時に学び続ける存在でもある。技術トレンド、マネジメント手法、コミュニケーションスキルなど、学習するネタは尽きない。
他のリーダーから学ぶ: 経験豊富なマネージャーやリーダー、あるいは外部コミュニティでの知見共有から学ぶことは多い。ブログ記事や技術カンファレンス、勉強会などで情報収集をし、常に自分をアップデートする。
フィードバックを受ける姿勢: メンバーからリーダーへのフィードバック機会を設けることも有益だ。自分のリーダーシップスタイルがどう受け止められているか、改善点は何かを知ることで、より良いリーダー像に近づくことができる。
8. 「チームの成果=自分の成果」という考え方
エンジニア時代は「自分が何を成し遂げたか」にフォーカスしがちだったが、リーダーは「チーム全体の成功」に焦点を当てる。自分の手がけたコードが賞賛されるよりも、チームが納期通りに成果物をリリースし、顧客やユーザから良いフィードバックを得ることこそがリーダーの喜びとなる。
結果が出たらメンバーを前面に:
チームの成功はメンバーが頑張った結果である。顧客や経営層から好評を得たら、メンバーを称える。自分は一歩引いて、支え役に徹することで信頼感が増す。
トラブルが起こったらリーダーが矢面に:
逆に問題が発生した際には、責任を転嫁せず、リーダーが前に出て状況を説明し、改善策を提示する。この姿勢はメンバーに安心感を与え、チーム結束を強固にする。
まとめ
初めてリーダーになるエンジニアは、今まで個人プレーヤーとして培ってきた技術スキルや問題解決力を、新たな形で活かすステージへ移行する。そこでは、信頼関係の構築、聴く力、チームビルディング、スケジュール管理、フィードバック文化の醸成、そして自分自身の成長が求められる。
決して簡単な道ではないが、リーダーになることで得られる新たな学びや成長は大きい。自分一人で成し遂げる幸福感を超えて、チームが一丸となり前進する喜びを体験することで、エンジニアとして、そして人としても新たな境地に達するだろう。
これらの考え方が、これからリーダーになるエンジニアの皆さんにとって、少しでも参考になれば幸いである。