今日は何の日?
今日はどうやらクリスマスとかいうヤツらしいですね。一日を楽しく過ごす言い訳にはもってこいですが、私含めキリスト教徒でない人々が祝ったり(何を?)騒いだり(何で?)する権利はあるのでしょうか?真面目にイエス・キリストの生誕を祝っているキリスト教徒の方々に対する申し訳なさ・恥ずかしさ・罪悪感。渦を巻く心の呵責でとても楽しめそうにありません。
そんなあなたがキリスト教に入信せずとも12月25日に大騒ぎする方法が一つだけあります。それは物理学徒になることです。
というのも、本日12月25日は近代科学の礎となる業績を多数残した彼のアイザックニュートンの誕生日です1。我々物理学徒にはニュートン、及び理学の偉業を讃えるために祝い騒ぐもっともな理由があるのです。
ニュートン祭
さて、どうせ年末に予定もなく正当に12月25日を祝う理由がない我々を思ってか、弊学科(東京大学理学部物理学科)では毎年年末に、ニュートンの誕生日にちなんで「理学の偉業を讃える」という言い訳目的のもと、ニュートン祭という学年や教職員・学生の垣根を超えた忘年会交流会が開かれています。今年は第140回ニュートン祭が12月22日218:00-20:00に開かれ、大盛況のうちに終わりました。
申し遅れましたが、私は今年度のニュートン祭委員長というモノを務めさせていただきました。(最初の挨拶でガチガチに緊張してた人が私です。)
ニュートン祭の翌日にTwitter (X)で参加者の皆さんの様子を伺った限りでは多くの皆さんにお楽しみいただけたようで、ニュートン祭成功のために色々と苦労・奔走させていただいた身としてはこの上ない安心・喜びを感じております。
本記事では、意外と知られていないニュートン祭についての色々を紹介できたらと思います。
ニュートン祭について私が見つけられた資料・文献は少なく、信頼に足らないものもあります。そのため本記事の内容には誤りが含まれる可能性があります。
何か間違いと思われる箇所があれば指摘してくださると助かります。また、ニュートン祭について記された文献を知っている方がいらっしゃればぜひご一報ください。
ニュートン祭の歴史
すでに言った通り、ニュートン祭は今年で第140回目の開催となります。ちなみにあの五月祭と駒場祭ですら今年でそれぞれ第96回、第74回です。とんでもない歴史ですね。
ではニュートン祭はいつ始まったのかというと、これは記録が残っていて3、1879年(明治12年)に田中館愛橘先生の発案によるものが最初のようです。第133回ニュートン祭にて上村洸名誉教授からいただいたお便りには、ニュートン祭の始まりについて以下のように記されています。
ニュートン祭は、明治12年(1879年)12月25日に、当時東京大学理科物理学科第1期生の田中館愛橘先生の発案で始まったと言われています。実験に使う寒暖計を破損した学生が罰金を払い、その罰金が溜まったので、12月25日にクリスマスをやろうという先生の提案で、この会が始まったようです。たまたま当日が、ニュートンの誕生日ということで、「ニュートン祭」と名付け、当時の寄宿舎の数星物(数学、天文、物理のこと)の部屋にニュートンの祭壇を設け、リンゴで振り子を作って飾り付け、また破損した寒暖計も飾った由、私が学生時代に読んだ本に書いてありました。二年生が主人役で、教授、助教授、学生を問わず失策の場合を似顔の幻燈にして映し出して一年の失敗を清算し、全員でニュートン祭を楽しんだ由です。
当時は数学科・天文学科も合同でニュートン祭を行っていたようです。ニュートンは数学・天文学にも多大な貢献をもたらしているわけで、個人的には数学科・天文学科の方も一緒にニュートンを祝う方が望ましいと思います。(物理学科内でニュートン祭委員を選出しているので現実的には難しそうですが...。)
また、学科長から、「ニュートン祭が冬に開かれるのは「ニュートン→にうとん→煮うどん」が美味しい季節だからだ」という、なぞなぞが大流行している理物B3界隈4も震撼する最高の言葉遊びで場を盛り上げてくださいましたが、残念ながら史実は異なるようです。
さて、第1回が1879年で第140回が2023年であることを踏まえると、現在に至るまでニュートン祭は5年を除いて毎年開催されていることになります。コロナ禍で中止された2020年、2022年5以外で、記録から発見できた限りでは少なくとも東大闘争のあった1968年、1969年に中止されています。逆にいうと、東大闘争とコロナ禍以外で一年しか中止された年がないということで67、なかなかすごいことです。
ちなみに、ニュートン祭は東大だけでなく、そのほかの旧帝国大学をはじめとしてさまざまな大学で行われている(または行われていた)8ようですが、これほど長く絶えず続いているのはおそらく弊学科のみのようです。
ニュートン祭の歌
さて、ニュートン祭では、宴の終わりに皆で石原純作詞、田丸卓郎作曲の「ニュートン祭の歌」を歌うという伝統があります。
歌の存在が発覚した当初はその存在自体が歌詞・メロディーも相まって「あまりにも変だ」としてゲラゲラ笑うという反応が多かったと記憶していますが、なんだかそのうち「みんな大好きニュートン祭の歌」に変貌していったのが委員長をやっていて最も感慨深い事象の一つでした。
石原先生及び田丸先生はどちらも物理学者としてご立派な業績を残されているようですが、
作詞者の石原先生は(人物としての評価はともかく9)物理学者としてのみならず、歌人としてもかなり活躍されたようです。なかなかに豪華です。
ニュートン祭の歌がいつ作られたのかはわかりませんが、石原先生および田丸先生が同時に東京帝国大学に所属していた時期を考えると、1905年あたりだと推測されます。こちらもなんと100年以上の歴史があるんですね。(正直、驚きです。)
さて、「ニュートン祭の歌の楽譜がネットのどこにも落ちていない」という声をチラッと聞いたので、この機会に歌詞と楽譜を置いていきましょうか。ちなみに筆者は文学センス、音楽の素養ともに微塵も持ち合わせておりませんので、ニュートン祭の歌について特に評価できることはありません。「まあ、個人的にはけっこう好きよ。」くらいの感想しかでてきませんのでご容赦を。
ニュートン祭の歌詞10
- 地軸傾く冬の夜を 興ぜずや君
木枯らし吹くを他所にして 興ぜずや君
今宵暖かき此のまどひ 理学の偉業讃ふべく
開かれぬニュートン祭 理学の偉業讃ふべく- 節面白く足踏みして 興ぜずや君
赤き林檎のまろぶ迄に 興ぜずや君
全ての分子斯くし揺らぎ 理学の偉業讃ふべく
開かれぬニュートン祭 t理学の偉業讃ふべく
最後に
私がニュートン祭委員長を務めることになった理由は実はかなり消極的なもので、「他にやってくれる人がいなかったから」でした。やるからには全力でやるぞ、とは思ったものの、社会性皆無、心配性、おまけに超人見知りだった私にとってはさまざまな苦痛が伴うものでした。そんな中でも、私自身が少しずつ成長ながら、数年ぶりの開催にも関わらずなんとか参加者の方に楽しんでいただくという理想的な形でニュートン祭の成功までありつくことができました。
多大なるご支援やご応援を賜った教職員の方々、実務上の協力をいただいたのみならず、予算の確保が不透明な中、私の相談に乗り貴重なアドバイスを下さった前ニュートン祭委員長を中心とするB4の先輩方、前回までのニュートン祭の状況が分からず困っていたときに迅速かつ丁寧に質問に答えてくださった元ニュートン祭委員の方、そして、私が迷走する中でなんとかついてきてくださったニュートン祭委員のみなさん、及び、私が苦手な分野でとことん尽力し寄り添ってくれた友人と、理物というコミュニティが大好きだと思わせてくれた同期の諸君。さまざまな方に支えられての数ヶ月でした。
僭越ながら、ニュートン祭開催にあたり大体のことにおいて最も苦心したのは私だろうと、そう断言できるほどのことはしました。しかし、皆様の支えの一つでも欠ければ、この無能な長の下で数年ぶりのニュートン祭の成功は怪しかったでしょう。本当にありがとうございました。
なんだか、やっと物理に集中できそうだという開放感半分、終わってしまったという虚無感半分(いや、もっと多いな...)。そんな感傷に似た気分の中でこの記事を書かせていただきました。
最後に。来年はぜひ一参加者として楽しみたいですね。B2のニュートン祭委員の皆さん、期待しています。(引き継ぎはもうちょっと待ってね。)
来年以降のニュートン祭の成功を祈って。
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ただし、ユリウス暦で、です。グレゴリウス暦に従うならニュートンの誕生日は1月4日です。なので、「"本日"12月25日」という表現は厳密にはウソとなります。でも騒ぐ理由が欲しいだけなので不誠実ですがこういうのはこじつけていきましょう。 ↩
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12月25日ではなく12月22日に開いたのは、この日に予定があるであろう方々に配慮してのこと...ではなく、単にその日に学生実験がある人がいるからです。しかし、実験がない日でも5限に選択授業をとると18:35までは拘束されてしまうため、参加できない人が出てしまいました。来年以降、再考の余地がありますね。 ↩
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上村洸名誉教授からいただいたお便り以外にも、たとえば「日本数学会のあゆみ」(https://www.mathsoc.jp/overview/history/history003/)になぜか第1回ニュートン祭について載っています。ちなみに上村名誉教授のお便りは東大理学部4号館の1220教室前の展示スペースで見ることができます。 ↩
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@661nos Physics Lab. Advent Calendar 2023 21日目
https://qiita.com/661nos/items/d390ae12c02d8e46bee1
参照 ↩ -
2021年(第139回)はオンライン開催でした。 ↩
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実は第131回(2012年開催)ニュートン祭で配布された資料には1879年「以来、東大紛争で2年間中止された以外は毎年開催されてい」ると記されていますが、それ以外にも一年中止されていないと計算が合わないので誤りであると思われます。 ↩
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おそらく戦時中に中止されたのではないか、とは推測できますが、記録は見つかりませんでした。上村名誉教授のお便り及び水野幸雄先生が書かれた記事(http://myki.my.coocan.jp/kihara/newtonsai.htm)からは、中止となったのは1950年以前だと読み取ることができます。 ↩
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例えば九州大学や筑波大学、奈良女子大学などでは今年も行われたようです。また、東北大学でも過去に行われていたようです。 ↩
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特に言及はしませんが気になる人はWikipediaでも参照してみたらいいんじゃないでしょうか。 ↩
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ニュートン祭で例年歌われているのはここで挙げた1,2番のみですが、どうやらニュートン祭の歌には以下の「幻の3番,4番」もあるようです。ただし、これらはYokota Hidehiro さんのブログhttps://hidehiroyokota.wordpress.com/2011/08/11/newton-festival-song/で見つけたのみで、他にまともな文献は見つけられませんでした。Yokota Hidehiro さんのブログでは、岩波からでている月刊誌「科学」の記事を参考にしたとありますが、正確な引用元は見つかりませんでした。ちなみに雑誌「科学」の創刊者には石原純がおり、そこの記事に載るのはもっともらしくはあります。この雑誌は1931年創刊の月刊誌で、そしてかなり分厚いのでさすがに頑張って探すのは諦めたというわけです。3,4番の存在が確かなら、来年以降余裕があればぜひ3,4番の音源も作って欲しいところです。
3.
言のをかしく響きなば 興ぜずやきみ
をかしく影の映りなば 興ぜずやきみ
幾への波動をただよはし 理学の偉業讃ふべく
開かれぬニュートン祭 理学の偉業讃ふべく
4.
こよひ宴の闌けゆくを 興ぜずやきみ
流るる時の継々に 興ぜずやきみ
我がなつかしき冬の夜は 理学の偉業讃ふべく
開かれぬニュートン祭 理学の偉業讃ふべく